2015 年 1 月 8 日 No.13 数学を学ぶ (微分積分2)・授業用アブストラクト §13. 重積分の変数変換公式 前節では、一次変換という特殊な座標変換について、重積分の変数変換公式を導いた。この 節では、一般の座標変換について、重積分の変数変換公式を導く。特に、極座標変換の場合に、 その使い方を説明する。 一次変換の重積分の変数変換公式には行列式が登場するが、一般の場合にそれに相当するの は、偏微分係数を並べた行列の行列式—ヤコビアン—である。そこで、まず、ヤコビアンの定 義とその幾何学的性質を説明することにしよう。 ● 13 - 1 : C 1 -級写像 R2 の部分集合 U の各点 (u, v) に対して、R2 の点を1つずつ定める対応規則 F のことを、 U から R2 への写像といい、これを F : U −→ R2 のように表わす。(u, v) ∈ U に対応づけら れている R2 の点 F (u, v) は、 (13 - 1 a) F (u, v) = (φ(u, v), ψ(u, v)) のように表わされる。ここで、φ(u, v), ψ(u, v) は U 上で定義された2つの関数である。 写像 F が C 1 -級であるとは、U が R2 の開集合であって、φ および ψ が C 1 -級であるとき をいう。ここで、U 上で定義された関数 f (u, v) が C 1 -級であるとは、u, v に関して偏微分可 ∂f ∂f ∂u , ∂v 能であって、偏導関数 が連続のときをいう。 例 13 - 1 - 1 (1) a, b, c, d ∈ R を定数とする。F : R2 −→ R2 , F (u, v) = (au + bv, cu + dv) は R2 から R2 への C 1 -級写像である。 (2) F : R2 −→ R2 , F (r, θ) = (r cos θ, r sin θ) は R2 から R2 への C 1 -級写像である。 ● 13 - 2 : ヤコビアン 開集合 U 上で定義された C 1 -級写像 (13 - 2 a) F : U −→ R2 , と点 (a, b) ∈ U に対して、2 次正方行列 ∂φ F (u, v) = (φ(u, v), ψ(u, v)) (a, b) ∂u ∂ψ (a, b) ∂u (13 - 2 b) ∂φ (a, b) ∂v ∂ψ (a, b) ∂v の行列式をヤコビアン (Jacobian) といい、JF (a, b) で表わす: (13 - 2 c) JF (a, b) = ∂φ ∂ψ ∂φ ∂ψ (a, b) (a, b) − (a, b) (a, b). ∂u ∂v ∂v ∂u – 73 – 例 13 - 2 - 1 (13 - 2 d) [例 13 - 1 - 1(1)] の写像 F について、点 (u, v) におけるヤコビアンは ( ) a b JF (u, v) = det = ad − bc. c d [例 13 - 1 - 1(2)] の写像 F について、点 (r, θ) におけるヤコビアンは ) ( cos θ −r sin θ = r(cos2 θ + sin2 θ) = r. (13 - 2 e) JF (r, θ) = det sin θ r cos θ ● 13 - 3 : ヤコビアンの幾何学的な意味 座標軸に平行な辺からなる、U に含まれる微小長方形 R とそれを F で写した像 F (R) との 面積比を求めよう。R の頂点を A1 (a, b), A2 (a + ∆u, b), A3 (a, b + ∆v), A4 (a + ∆u, b + ∆v) とおく (∆u, ∆v は R の1辺の長さ) と、 R = { (a + s∆u, b + t∆v) | 0 ≤ s, t ≤ 1 } (13 - 3 a) と表わせる。このとき、R を F で写した像 F (R) は ( ) F (R) = { φ(a + s∆u, b + t∆v), ψ(a + s∆u, b + t∆v) | 0 ≤ s, t ≤ 1 } となる。ここで、φ, ψ を (a, b) のまわりで第 1 次テイラー展開して、 であることを用いると、F (R) は ∂φ ∂φ ∂ψ ∂ψ , , , が連続 ∂u ∂v ∂u ∂v R′ = { F (A1 ) + sp + tq | 0 ≤ s, t ≤ 1 } で近似されることがわかる。但し、 ) ( ∂ψ ∂φ p = ∆u (a, b), ∆u (a, b) , ∂u ∂u である。 ( ∂φ ) ∂ψ q = ∆v (a, b), ∆v (a, b) ∂v ∂v y v A3 ∆v A1 A4 B1 k A2 p F(A1) F u O q F R ∆u B3 O F(A3) B4 F(A4) F(A2) R' B2 x p, q が平行でないときには、R′ は B1 = F (A1 ) = (φ(a, b), ψ(a, b)), B2 = (φ(a, b), ψ(a, b)) + p, B3 = (φ(a, b), ψ(a, b)) + q, B4 = (φ(a, b), ψ(a, b)) + p + q (13 - 3 b) を頂点とする平行四辺形であるから、(12 - 3 b) より、R′ の面積は ∂ψ ∂φ ∂ψ ∂φ (a, b) − ∆v (a, b) · ∆u (a, b) = |JF (a, b)|µ(R) µ(R′ ) = ∆u (a, b) · ∆v ∂u ∂v ∂v ∂u で与えられる。以上の考察から、p, q が平行でないとき、つまり、JF (a, b) ̸= 0 のとき、 (13 - 3 c) (F (R) の面積) ≒ |JF (a, b)| × (R の面積) となることがわかった。 – 74 – ● 13 - 4 : 座標変換 (変数変換) S を R2 の部分集合とする。(a, b) ∈ S が S の内点であるとは、ε > 0 を十分小さくとると、 (a, b) の ε-近傍 Uε (a, b) が S に含まれるときをいう。S の内点全体からなる集合を S の内部と いう。S から内部をとり除いた部分を S の境界と呼ぶ。 F : S −→ R2 を R2 の部分集合 S から R2 への写像とする。S の部分集合 E に対して F (E) を B A F (E) = { F (u, v) | (u, v) ∈ E } (13 - 4 a) S と定義し、F による E の像という。 E, D を R2 の面積確定有界閉集合とする。R2 の開集合 U 上で定義された C 1 -級写像 F : U −→ R2 が E から D への座標変換 (あるいは、変数変換) を定めるとは、以下の2条件が満 たされるときをいう。 ⃝ 1 F は E の内部の上では D の内部への単射である。すなわち、F は E の内点を D の 内点に写し、 E の相異なる2つの内点を D の相異なる内点に写す。 ⃝ 2 F (E) = D である。すなわち、D の任意の点 (x, y) に対して、F (u, v) = (x, y) となる E の点 (u, v) が存在する。 例 13 - 4 - 1 [例 13 - 1 - 1](2) の C 1 -級写像 (13 - 4 b) F (r, θ) = (r cos θ, r sin θ) ((r, θ) ∈ R2 ) は、E = { (r, θ) ∈ R2 | 1 ≤ r ≤ 2, 0 ≤ θ ≤ 2π } から D = { (x, y) ∈ R2 | 1 ≤ x2 + y 2 ≤ 4 } への座標変換を定める。 一般に、(13 - 4 b) で与えられる C 1 -級写像 F は、{ (r, θ) ∈ R2 | r ≥ 0, θ ∈ R } に含まれる 任意の面積確定有界閉集合 E を面積確定有界閉集合 F (E) に写す。(13 - 4 b) の C 1 -級写像 F によって与えられる座標変換のことを極座標変換という。 ● 13 - 5 : 重積分の変数変換公式 第 11 節で導いた変数変換公式 (12 - 4 c) と類似の公式が、より一般の C 1 -級写像 F に対して 成り立つ。すなわち、 定理 13 - 5 - 1 (変数変換公式) D を面積確定有界閉集合、f (x, y) を D 上で定義された連続関数とする。また、F : U −→ R2 を R2 のある開集合 U 上で定義された C 1 -級写像であって、U に含まれるある面積確定有界 閉集合 E から D への座標変換であるとする。E の任意の内点 (a, b) において JF (a, b) ̸= 0 であれば、次の公式が成り立つ: ∫ ∫ (13 - 5 a) f (x, y) dxdy = f (F (u, v))|JF (u, v)| dudv D E (証明の概略) E を座標軸に平行な直線によって分割する。但し、E と交わる小長方形領域 Rij はどれも U に 含まれるくらいに細かく分割しておく。すると、D はこのような小長方形領域の像 Dij = F (Rij ) により分割される。E, D のこのような分割をそれぞれ、∆, F (∆) とおく。 – 75 – F は E の内点を D の内点に写していて、E の相異なる内点を D の相異なる内点に写してい るので、Dij たちは境界以外で重なることはない。したがって、Dij の中から一点 ξij = (xij , yij ) を選んで、和 (13 - 5 b) S(f, F (∆)) = ∑ f (xij , yij )µ(Dij ) i,j を作り、分割 ∆ を細かくしていくと (分割 F (∆) も細かくなるので)、和 (13 - 5 b) は ∫ (13 - 5 c) f (x, y) dxdy D に収束する。 Rij Dij y v F u x 一方、(xij , yij ) = F (uij , vij ) とおくと、(13 - 3 c) により、和 (13 - 5 b) は ∑ (13 - 5 d) S(f ◦ F, ∆) = f (F (uij , vij ))|JF (uij , vij )|µ(Rij ) i,j によって近似され、分割 ∆ を細かくすればするほど、近似の精度は高くなる。和 (13 - 5 d) は、 |∆| → 0 とすると、 ∫ (13 - 5 e) f (F (u, v))|JF (u, v)| dudv E □ に収束するから、等式 (13 - 5 a) が得られた。 ● 13 - 6 : 極座標変換による重積分の計算 (13 -4 b) によって定義される C 1 -級写像 F の任意の点 (r, θ) におけるヤコビアンは JF (r, θ) = r であった。したがって、[定理 13 - 5 - 1] より次を得る: 面積確定有界閉集合 E が面積確定有界閉集合 D に極座標変換により写されるとき、D 上で 定義された連続関数 f (x, y) に対して、 ∫ ∫ (13 - 6 a) f (x, y) dxdy = f (r cos θ, r sin θ)r drdθ. D 例 13 - 6 - 1 D = { (x, y) ∈ とするとき、重積分 ∫ E R2 | x2 + y2 y 2 ≤ 4, y ≥ 0 } x2 y dxdy の値は、 D D E = { (r, θ) ∈ R2 | 0 ≤ r ≤ 2, 0 ≤ θ ≤ π } -2 とおくと、極座標変換 x = r cos θ, y = r sin θ (r ≥ 0, θ ∈ R) によって、E は D に写されることから、 ∫ ∫ ∫ 2 2 x y dxdy = (r cos θ) · r sin θ · r drdθ = D E 0 – 76 – {∫ 2 r 4 π } cos θ sin θ dθ dr · · · = 2 0 O x 2 64 . 15 □ 2015 年 1 月 8 日 No.13 数学を学ぶ (微分積分2) 演習問題 13 13-1. 次の各写像の定義域内の点 (a, b) におけるヤコビアンを求めよ。 ( ( sin u sin v ) π π) (1) F (u, v) = , 0≤u< , 0≤v< cos v cos u 2 2 2 1 1 2 (2) F (u, v) = (u 3 v 3 , u 3 v 3 ) (u, v > 0) 13-2. 次の重積分の値を求めよ。 ∫ (1) xy 2 dxdy, D = { (x, y) ∈ R2 | x2 + y 2 ≤ 1, x ≥ 0, y ≥ x } D ∫ (2) (2x − y) dxdy, D = { (x, y) ∈ R2 | x2 + y 2 ≤ 1, x − D – 77 – √ √ 3y ≥ 0, 3x + y ≥ 0 } 数学を学ぶ (微分積分2) 通信 [No.13] 2015 年 1 月 8 日発行 ■ 演習 12-1 について 線分 L および三角形 ∆ を集合として正しく表わせなかった人が多かったです。 L は点 A(−2, 0) と B(0, 1) を端点とする線分ですから、L 上の点は (1−t)(−2, 0)+t(0, 1) (0 ≤ t ≤ 1) と表わされます。したがって、L を集合として表わすと、L = { (1−t)(−2, 0)+t(0, 1) | 0 ≤ t ≤ 1 } となります (これを { s(−2, 0) + t(0, 1) | 0 ≤ s, t ≤ 1 } と表現した人が多かったです)。 一次変換は内分比を保つので、F (L) = { (1 − t)F (−2, 0) + tF (0, 1) | 0 ≤ t ≤ 1 }, つまり、 F (L) は F (−2, 0) = (−2, −4) と F (0, 1) = (3, 5) を端点とする線分になります。 三角形 ∆ についても同様のミスが多かったです。点 C(1, 1) と C D(1, −1) とおくと、∆ 内の任意の点は sC + tD kC (0 ≤ s, 0 ≤ t, s::::::::: + t ≤ 1) のように表されます。平行四辺形と違い、波線部分の制限がつく O ことに注意してください。0 ≤ s, t を満たす同時には 0 でない s, t kD s t D に対して k = s + t とおくと、sC + tD = (kC) + (kD) と書き k k 換えられるので、sC + tD は 2 点 kC, kD を端点とする線分上にあります。この点が三角形 ∆ の内部および周上にあるための条件を求めると、k ≤ 1, すなわち、s + t ≤ 1 が得られます。 ■ 第 11 回学習内容チェックシート Q2 について 1 番目の問いに対する解答ができていない人が多かったです。この問題は、 R2 の有界な部分 ∫ 集合 D 上で定義された重積分可能な関数 f (x, y) について、重積分 f (x, y)dxdy とは何かを D 説明する問題でした。余計なことが沢山書かれたものが多かったです。ここで問われているの ∫ は、関数 f (x, y) が D 上で重積分可能であるときの f (x, y)dxdy の意味ですから、D 以外の D 部分では値を 0 と定めて f (x, y) を拡張して得られる R2 上の関数 f0 (x, y) の、D を含むある ∫ 長方形領域 R0 上での重積分の値 f0 (x, y)dxdy のことである、と解答すれば充分です。この R0 他、Q2 の冒頭に「D を R2 の有界な部分集合とする」と書かれているにもかかわらず、この文 を書いた人が何人もいました。問題文に書かれている設定の下で解答すべきなので、この文を 書くのは不適切です。逆に、設定されていない、新たに自分で用いる記号は説明が必要です。 ■ 「基礎からの数学2」のための濱本先生による動画教材について 濱本先生がご自身の授業で使われるために作成された動画を、関西大学 IT センターの e- Learning ライブラリーに載せておられます。この授業と重なる部分が多く、また、この授業で は説明していない題材も沢山含まれているので、理解の助けになると思います。視聴には専用 のパスワードが必要ですので、希望する人は学習支援室に行き、濱本先生を尋ねてください。 ■ 次回予告 次回は積分領域が有界閉集合でない場合や、関数が有界でない場合についての重積分、すな わち、広義重積分の定義と計算方法を学びます。 – 78 – 2015 年 1 月 8 日 数学を学ぶ(微分積分2)第 13 回・学習内容チェックシート 学籍番号 氏 名 Q1. 次の表を完成させてください。ページ欄にはその言葉の説明が書かれているアブストラク トのページを書いてください。 ページ 意味 関数 f (u, v) が C 1 -級 p. であるとは? C 1 -級写像 F (u, v) = (φ(u, v), ψ(u, v)) の 点 (a, b) におけるヤ p. コビアン JF (a, b) と は? Q2. 次の に適当な言葉や数式を入れてください。 • F : U −→ R2 を R2 の開集合 U 上で定義された C 1 -級写像とする。JF (a, b) ̸= 0 のと き、(a, b) を頂点の1つとする U に含まれる微小長方形 R を F で写したものの面積 µ(F (R)) は、 µ(F (R)) ≒ × µ(R) により近似的に求められる。 • 面積確定有界閉集合 E が面積確定有界閉集合 D に極座標変換により写されるとき、D 上で定義された連続関数 f (x, y) に対して、重積分の極座標変換公式 ∫ f (x, y) dxdy = D が成り立つ。 • 面積確定有界閉集合 D が D = { (x, y) ∈ R2 | x2 + y 2 ≤ 1, ax + by ≥ 0, cx + dy ≥ 0 } のような扇形をしているときには、上の変換公式を使って、 D 上で定義された連続関 ∫ 数 f (x, y) の重積分 f (x, y)dxdy を求めることができる。そのためには、極座標変換 D F (r, θ) = の下で F (E) = D となるような長方形領域 E を求めることができればよい。このような E を求めるには、まず、D を (x, y)-座標平面上に描き、次に、x = , y= とおいて、(x, y) が D 内を自由に動くとき、r と θ がどのような範囲 を動くのかを調べればよい。 Q3. 第 13 回の授業で学んだ事柄について、わかりにくかったことや考えたことなどがありまし たら、書いてください。
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