10月22日

最適化手法 講義資料(平成 26 年度冬学期)
対称行列の正定値性
対称行列 Q ∈ Rn×n の固有値 λi が全て 0 以上のとき,Q は半正定値であるといい,Q ⪰ O と書
く(不等式の右辺はゼロ行列).次の三つの条件は互いに等価である:
(i) Q ⪰ O(つまり,λi ≥ 0 (i = 1, 2, . . . , n)).
(ii) 任意の x ∈ Rn に対して x⊤ Qx ≥ 0.
(iii) Q = DD⊤ を満たす行列 D ∈ Rn×n が存在する.
例えば,ランクが 1 の行列 Q1 = aa⊤ (a ∈ Rn はベクトル)は,n × n 半正定値対称行列である.
m
∑
n
また,行列 Q2 =
bi b⊤
i (b1 , b2 , . . . , bm ∈ R は 1 次独立なベクトル)は,rank Q2 = m を満たす
i=1
n × n 半正定値対称行列である.
対称行列 Q ∈ Rn×n の固有値 λi が全て正のとき,Q は正定値であるといい,Q ≻ O と書く.次の
三つの条件は互いに等価である:
(a) Q ≻ O(つまり,λi > 0 (i = 1, 2, . . . , n)).
(b) 0 でない任意の x ∈ Rn に対して x⊤ Qx > 0.
(c) Q = DD⊤ かつ rank D = n を満たす行列 D ∈ Rn×n が存在する.
さらに,Q ≻ O ならば逆行列 Q−1 が存在する.
例として,2 × 2 対称行列の場合を考える.Q を
[
]
a b
Q=
b c
とおく.このとき,tr Q = a + c = λ1 + λ2 ,det Q = ac − b2 = λ1 λ2 である.従って,Q が正定値で
あるための必要十分条件は,a + c > 0 および ac − b2 > 0 が成り立つことである.
• 以下,科目『最適化手法』としては,厳密には試験の範囲外
(a), (b), (c) が等価であることを説明する.n × n 対称行列 Q の固有値 λ1 , λ2 , . . . , λn に対応する
正規直交な固有ベクトルを u1 , u2 , . . . , un ∈ Rn で表す.つまり λi および ui (i = 1, 2, . . . , n) は
Qui = λi ui ,
u⊤
i ui = 1,
u⊤
i uj = 0
1
(1)
(2)
(i ̸= j)
(3)
を満たす.対称行列の対角化より,Q は
Q = U diag(λ)U ⊤ ,

λ1


λ2

diag(λ) = 


(4)

..



 ∈ Rn×n ,


.




n×n

U =
 u1 u2 . . . un  ∈ R
(5)
λn
と書くことができる.
n 次元ベクトル x に対して,f (x) = x⊤ Qx を Q の 2 次形式と呼ぶ.(4) および (5) を用いると,
2 次形式は
f (x) =
n
∑
2
λi (u⊤
i x)
i=1
と表せる.従って,条件 λi > 0 (i = 1, 2, . . . , n) が成り立つための必要十分条件は,任意の x ̸= 0 に
対して f (x) > 0 が成り立つことである.つまり,(a) と (b) は等価である.
λi > 0 (i = 1, 2, . . . , n) のとき,(4) および (5) を

Q = DD⊤ ,


√
√
√
 ∈ Rn×n
D=
λ
u
λ
u
.
.
.
λ
u
1
1
2
2
n
n


と書き直せる.このとき,u1 , u2 , . . . , un の 1 次独立性より rank D = n である.つまり,“(a) ⇒ (c)”
ˆ = n を満たす n × n 行列 D
ˆ を用いて Q
ˆをQ
ˆ=D
ˆD
ˆ ⊤ で定義する.このと
が成り立つ.逆に,rank D
ˆ は n × n 対称行列である.また,任意の x ̸= 0 に対して x⊤ Qx
ˆ = (x⊤ D)(
ˆ D
ˆ ⊤ x) = ∥D
ˆ ⊤ x∥2 > 0
き,Q
が成り立つ.つまり,“(c) ⇒ (b)” が成り立つ.以上より,(a), (b), (c) は互いに等価である.
次に,Q ≻ O ならば Q−1 が存在することを示す.(2) および (3) より,U は直交行列(つまり,
U ⊤ U = I を満たす行列)である.このことから,λi > 0 (i = 1, 2, . . . , n) であれば


1/λ1




1/λ2

 ⊤
−1
Q =U
U
..


.


1/λn
(6)
と書ける((4) および (6) を用いて積 QQ−1 を計算するとすぐに確認できる).従って,Q が正定値
ならば Q の逆行列 Q−1 が存在する.
(October 22, 2014, 寒野)
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