最適化手法 講義資料(平成 26 年度冬学期) 対称行列の正定値性 対称行列 Q ∈ Rn×n の固有値 λi が全て 0 以上のとき,Q は半正定値であるといい,Q ⪰ O と書 く(不等式の右辺はゼロ行列).次の三つの条件は互いに等価である: (i) Q ⪰ O(つまり,λi ≥ 0 (i = 1, 2, . . . , n)). (ii) 任意の x ∈ Rn に対して x⊤ Qx ≥ 0. (iii) Q = DD⊤ を満たす行列 D ∈ Rn×n が存在する. 例えば,ランクが 1 の行列 Q1 = aa⊤ (a ∈ Rn はベクトル)は,n × n 半正定値対称行列である. m ∑ n また,行列 Q2 = bi b⊤ i (b1 , b2 , . . . , bm ∈ R は 1 次独立なベクトル)は,rank Q2 = m を満たす i=1 n × n 半正定値対称行列である. 対称行列 Q ∈ Rn×n の固有値 λi が全て正のとき,Q は正定値であるといい,Q ≻ O と書く.次の 三つの条件は互いに等価である: (a) Q ≻ O(つまり,λi > 0 (i = 1, 2, . . . , n)). (b) 0 でない任意の x ∈ Rn に対して x⊤ Qx > 0. (c) Q = DD⊤ かつ rank D = n を満たす行列 D ∈ Rn×n が存在する. さらに,Q ≻ O ならば逆行列 Q−1 が存在する. 例として,2 × 2 対称行列の場合を考える.Q を [ ] a b Q= b c とおく.このとき,tr Q = a + c = λ1 + λ2 ,det Q = ac − b2 = λ1 λ2 である.従って,Q が正定値で あるための必要十分条件は,a + c > 0 および ac − b2 > 0 が成り立つことである. • 以下,科目『最適化手法』としては,厳密には試験の範囲外 (a), (b), (c) が等価であることを説明する.n × n 対称行列 Q の固有値 λ1 , λ2 , . . . , λn に対応する 正規直交な固有ベクトルを u1 , u2 , . . . , un ∈ Rn で表す.つまり λi および ui (i = 1, 2, . . . , n) は Qui = λi ui , u⊤ i ui = 1, u⊤ i uj = 0 1 (1) (2) (i ̸= j) (3) を満たす.対称行列の対角化より,Q は Q = U diag(λ)U ⊤ , λ1 λ2 diag(λ) = (4) .. ∈ Rn×n , . n×n U = u1 u2 . . . un ∈ R (5) λn と書くことができる. n 次元ベクトル x に対して,f (x) = x⊤ Qx を Q の 2 次形式と呼ぶ.(4) および (5) を用いると, 2 次形式は f (x) = n ∑ 2 λi (u⊤ i x) i=1 と表せる.従って,条件 λi > 0 (i = 1, 2, . . . , n) が成り立つための必要十分条件は,任意の x ̸= 0 に 対して f (x) > 0 が成り立つことである.つまり,(a) と (b) は等価である. λi > 0 (i = 1, 2, . . . , n) のとき,(4) および (5) を Q = DD⊤ , √ √ √ ∈ Rn×n D= λ u λ u . . . λ u 1 1 2 2 n n と書き直せる.このとき,u1 , u2 , . . . , un の 1 次独立性より rank D = n である.つまり,“(a) ⇒ (c)” ˆ = n を満たす n × n 行列 D ˆ を用いて Q ˆをQ ˆ=D ˆD ˆ ⊤ で定義する.このと が成り立つ.逆に,rank D ˆ は n × n 対称行列である.また,任意の x ̸= 0 に対して x⊤ Qx ˆ = (x⊤ D)( ˆ D ˆ ⊤ x) = ∥D ˆ ⊤ x∥2 > 0 き,Q が成り立つ.つまり,“(c) ⇒ (b)” が成り立つ.以上より,(a), (b), (c) は互いに等価である. 次に,Q ≻ O ならば Q−1 が存在することを示す.(2) および (3) より,U は直交行列(つまり, U ⊤ U = I を満たす行列)である.このことから,λi > 0 (i = 1, 2, . . . , n) であれば 1/λ1 1/λ2 ⊤ −1 Q =U U .. . 1/λn (6) と書ける((4) および (6) を用いて積 QQ−1 を計算するとすぐに確認できる).従って,Q が正定値 ならば Q の逆行列 Q−1 が存在する. (October 22, 2014, 寒野) 2
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