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測度の完備化
一般に測度空間 (X, F, µ) において,A ∈ F, µ(A) = 0, B ⊂ A であっても B ∈ F と
は限らない.測度空間 (X, F, µ) が完備であるとは,条件
(µ.4) A ∈ F , µ(A) = 0, B ⊂ A =⇒ B ∈ F
を満たすことであった.測度の単調性により,µ(A) = 0, B ⊂ A, B ∈ F ならば µ(B) = 0
であることに注意する.
A, B ⊂ X に対して A△B = (A−B)∪(B−A) を A と B の対称差 (symmetric difference)
という.対称差は,X の部分集合 A と B の違いを表すものである.
問題 対称差について,次のことを示せ.
(1) A△∅ = A, A△A = ∅.
(2) A△B = B△A.
(3) (A△B)△C = A△(B△C).
補題 (X, F, µ) を測度空間とする.A ⊂ X に対して次の (a) と (b) は同値な条件で
ある.
(a) A△B ⊂ N , µ(N ) = 0 を満たす B, N ∈ F が存在する.
(b) B1 ⊂ A ⊂ B2 , µ(B2 − B1 ) = 0 を満たす B1 , B2 ∈ F が存在する.
証明 (a) の条件を満たす B, N ∈ F に対して B1 = B − N , B2 = B ∪ N とおくと,
B1 , B2 ∈ F で B1 ⊂ A ∩ B, B2 ⊃ A ∪ B, B2 − B1 = N となる.よって,B1 , B2 は (b) の
条件を満たす.
逆に,(b) の条件を満たす B1 , B2 ∈ F に対して,B = B1 , N = B2 − B1 とおくと,
B, N ∈ F で A△B = A − B1 ⊂ N となる.よって,B, N は (a) の条件を満たす.
条件 (a) と (b) はどちらも,A が F に属する X の部分集合で “近似できる” ことを意
味する.
記号 測度空間 (X, F, µ) に対して,X の部分集合 A で上記の同値な条件 (a), (b) を満
たすもの全部の集合を F で表す.
F = {A ⊂ X | A△B ⊂ N, µ(N ) = 0 を満たす B, N ∈ F が存在する }
= {A ⊂ X | B1 ⊂ A ⊂ B2 , µ(B2 − B1 ) = 0 を満たす B1 , B2 ∈ F が存在する }
A△B ⊂ N , µ(N ) = 0 を満たす B, N ∈ F が存在するとき,B ′ , N ′ ∈ F で A△B ′ ⊂ N ′ ,
µ(N ′ ) = 0 を満たすものに対して,
B△B ′ = (A△B)△(A△B ′ ) ⊂ N ∪ N ′
となる.したがって,µ(B − B ′ ) ≤ µ(B△B ′ ) ≤ µ(N ∪ N ′ ) ≤ µ(N ) + µ(N ′ ) = 0 より
µ(B) = µ(B ′ ) が成り立つことがわかる.よって A ∈ F に対して,条件 (a) を満たす B ∈ F
を用いて
µ(A) = µ(B)
1
として µ(A) を定義しても矛盾を生じない.条件 (b) の記号では,
µ(A) = µ(B1 ) = µ(B2 )
となる.
定理 測度空間 (X, F, µ) に対して,F と µ を上記のものとする.
(1) (X, F, µ) は完備な測度空間である.
(2) F ⊂ F で,µ(A) = µ(A) for all A ∈ F .
証明 (1): F の定義より,∅ ∈ F は明らか.B1 , B2 ∈ F が B1 ⊂ A ⊂ B2 , µ(B2 −B1 ) = 0
を満たせば,補集合について B1c , B2c ∈ F , B2c ⊂ Ac ⊂ B1c であり,また B1c − B2c =
B2 − B1 より µ(B1c − B2c ) = 0 である.よって,A ∈ F ならば Ac ∈ F である.
An ∈ F (n = 1, 2, . . .) に対して,Bn,1 ⊂ An ⊂ Bn,2 , µ(Bn,2 − Bn,1 ) = 0 を満たす
∞
Bn,1 , Bn,2 ∈ F を考える.Sp = ∪∞
n=1 Bn,p (p = 1, 2) とおくと,Sp ∈ F で S1 ⊂ ∪n=1 An ⊂ S2
である.さらに,
∞
S2 − S1 = ∪∞
n=1 (Bn,2 − S1 ) ⊂ ∪n=1 (Bn,2 − Bn,1 )
だから,測度の単調性と σ-劣加法性により
µ(S2 − S1 ) ≤ µ
(
∪∞
n=1
∞
) ∑
(Bn,2 − Bn,1 ) ≤
µ(Bn,2 − Bn,1 ) = 0
n=1
となるので,∪∞
n=1 An ∈ F である.よって,F は σ-加法族である.
µ の定義より,µ(A) ≥ 0 (A ∈ F) と µ(∅) は明らか.An ∈ F (n = 1, 2, . . .) および
Bn,1 , Bn,2 ∈ F, S1 , S2 を上記のものとする.An ∈ F (n = 1, 2, . . .) が互いに交わらない
ならば,Bn,1 (n = 1, 2, . . .) も互いに交わらないので,µ の定義より
µ
(
∪∞
n=1
)
An = µ(S1 ) =
∞
∑
n=1
µ(Bn,1 ) =
∞
∑
µ(An )
n=1
となる.よって,µ は F 上の測度である.
A ∈ F, µ(A) = 0, C ⊂ A とする.µ(A) = 0 だから,A ⊂ B2 , µ(B2 ) = 0 となる
B2 ∈ F が存在する.∅ ⊂ C ⊂ B2 で µ(B2 − ∅) = 0 だから,C ∈ F となる.よって,µ
は F 上で完備である.以上により (1) がわかった.
(2): A ∈ F ならば,B1 = B2 = A として条件 (b) が成り立つので F ⊂ F である.ま
たこのとき,µ の定義より µ(A) = µ(A) である.よって,(2) が成り立つ.
定義 (X, F, µ) を測度空間 (X, F, µ) の完備化 (completion) という.
注意 測度空間 (X, F, µ) に対して,F および A ⊂ N , µ(N ) = 0 となる N ∈ F が存
在するような X のすべての部分集合 A で生成される σ-加法族を E とおくと,E = F が
成り立つ.すなわち,完備な測度空間で (X, F, µ) の拡張であるもののうち最小のものが
(X, F, µ) である.特に,(X, F, µ) 自身が完備ならば F = F, µ = µ である.
実際,B ∈ F が µ(B) = 0 を満たすとする.このとき,B の任意の部分集合 A につ
いて ∅ ⊂ A ⊂ B で ∅ ∈ F, µ(B − ∅) = 0 だから,A ∈ F となる.上記の定理により,
F ⊂ F で F は σ-加法族だから,E ⊂ F である.
2
逆に,A ∈ F ならば A△B ⊂ N , µ(N ) = 0 を満たす B, N ∈ F が存在する.したがっ
て,A△B ∈ E, A ∩ B = B − (A△B) ∈ E, A − B = (A△B) − B ∈ E となるので,
A = (A − B) ∪ (A ∩ B) ∈ E が得られる.よって,E ⊃ F である.
定理 測度空間 (X, F, µ) が σ-有限ならば,A ⊂ X に対して
(∗)
Γ (A) = inf
∞
{∑
µ(Fn ); Fn ∈ F (n = 1, 2, . . .), A ⊂ ∪∞
n=1 Fn
}
n=1
として (X, F, µ) から定義される外測度 Γ と Γ -可測集合 MΓ により構成される測度空間
(X, MΓ , Γ ) は,(X, F, µ) の完備化 (X, F, µ) と一致する.すなわち,
(1) MΓ = F.
(2) Γ (A) = µ(A) for all A ∈ MΓ = F.
証明 (i): A ⊂ X に対して (∗) により外測度 Γ が定義されること,(X, MΓ , Γ ) は完備
な測度空間であること,および F ⊂ MΓ であることは既知である.さらに、µ は測度だ
から σ-加法的なので,すべての E ∈ F に対して Γ (E) = µ(E) が成り立つことも既知で
ある.すなわち,(X, MΓ , Γ ) は (X, F, µ) の拡張になっている.よって,上記の注意によ
り F ⊂ MΓ がわかる.実際,A ∈ F ならば,B1 ⊂ A ⊂ B2 , µ(B2 − B1 ) = 0 を満たす
B1 , B2 ∈ F が存在する.A − B1 ⊂ B2 − B1 ∈ F で Γ (B2 − B1 ) = µ(B2 − B1 ) = 0 だから,
(X, MΓ , Γ ) の完備性により A − B1 ∈ MΓ となる.よって,A = B1 ∪ (A − B1 ) ∈ MΓ で
ある.
(ii): 任意の A ⊂ X に対して
{
}
(∗∗)
Γ (A) = inf µ(F ); A ⊂ F, F ∈ F
{
}
が成り立つことを示す.Γ (A) の定義 (∗) より,Γ (A) ≤ inf µ(F ); A ⊂ F, F ∈ F は明ら
かなので,逆向きの不等式を示せばよい.Γ (A) = ∞ ならば逆向きの不等式は成り立つの
で,Γ (A) < ∞ とする.ε > 0 を任意にひとつとる.Γ (A) の定義より,
A⊂
∞
∑
∪∞
n=1 Fn ,
µ(Fn ) < Γ (A) + ε
n=1
を満たす Fn ∈ F が存在する.B = ∪∞
n=1 Fn とおくと,A ⊂ B ∈ F であり,測度の σ-劣加
法性により
∞
∑
µ(B) ≤
µ(Fn ) < Γ (A) + ε
n=1
となる.ε > 0 は任意だから,逆向きの不等式が成り立つことがわかる.
(iii): MΓ ⊂ F を示すために,A ∈ MΓ を任意にひとつとる.最初に Γ (A) < ∞ の場
合を考える.(∗∗) により,n = 1, 2, . . . に対して
A ⊂ Fn ,
µ(Fn ) < Γ (A) +
1
n
を満たす Fn ∈ F が存在する.B2 = ∩∞
n=1 Fn とおくと,A ⊂ B2 ∈ F で B2 は互いに交わ
らない B2 − A と A の和集合である.Γ (B2 ) = Γ (B2 − A) + Γ (A) において Γ (A) < ∞ で
あること,およびすべての n について Γ (B2 ) ≤ Γ (Fn ) = µ(Fn ) であることに注意すると,
Γ (B2 − A) = Γ (B2 ) − Γ (A) ≤ µ(Fn ) − Γ (A) <
3
1
n
がわかる.よって,Γ (B2 − A) = 0 である.したがって,(∗∗) により B2 − A ⊂ En ,
µ(En ) < n1 を満たす En ∈ F が存在する.C = ∩∞
n=1 En とおくと,B2 − A ⊂ C ∈ F と
1
なる.また,µ(C) ≤ µ(En ) < n がすべての n について成り立つので,µ(C) = 0 である.
B1 = B2 − C とおく.B1 ∈ F であり,B1 ⊂ A ⊂ B2 が成り立つ.さらに,B2 − B1 ⊂ C
だから µ(B2 − B1 ) = 0 となる.よって,A ∈ F である.
次に,Γ (A) = ∞ の場合を考える.仮定により (X, F, µ) は σ-有限だから,
X1 ⊂ X2 ⊂ · · · ,
µ(Xk ) < ∞ (k = 1, 2, . . .),
∪∞
k=1 Xk = X
を満たす Xk ∈ F (k = 1, 2, . . .) が存在する.Ak = A ∩ Xk とおくと,A = ∪∞
k=1 Ak である.
また,Ak ∈ MΓ で Γ (Ak ) ≤ Γ (Xk ) = µ(Xk ) < ∞ である.上記の結果より Ak ∈ F だから,
Bk,1 ⊂ Ak ⊂ Bk,2 , µ(Bk,2 − Bk,1 ) = 0 を満たす Bk,1 , Bk,2 ∈ F が存在する.Bp = ∪∞
k=1 Bk,p
∞
(p = 1, 2) とおくと,Bp ∈ F , B1 ⊂ A ⊂ B2 である.さらに,B2 − B1 ⊂ ∪k=1 (Bk,2 − Bk,1 )
だから,測度の単調性と σ-劣加法性により
∞
( ∞
) ∑
µ(B2 − B1 ) ≤ µ ∪k=1 (Bk,2 − Bk,1 ) ≤
µ(Bk,2 − Bk,1 ) = 0
k=1
となる.よって µ(B2 − B1 ) = 0 であり,A ∈ F となる.以上により,MΓ ⊂ F がわかった.
(i) と (iii) より MΓ = F である.
(iv): A ∈ MΓ = F とすると,B1 ⊂ A ⊂ B2 , µ(B2 − B1 ) = 0 を満たす B1 , B2 ∈ F が
存在する.このとき,µ(A) = µ(B1 ) = µ(B2 ) である.また,Γ (B1 ) ≤ Γ (A) ≤ Γ (B2 ) で
Γ (B1 ) = µ(B1 ), Γ (B2 ) = µ(B2 ) である.よって,Γ (A) = µ(A) が成り立つ.
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