暮らしの力学-KK9 力の釣り合い(4) -摩擦 いまある物体を床の上に置き、それをバネばかりで引張って、そのときの力を測定したとしよう(図 9-1(a)参照) 。その物体に関する自由物体図を描くと図 9-1(b)のようになる。摩擦力は(図では F )、 その物体を引張っている力 P の向きとは、逆向きの、床から物体に作用する力である。自由物体図 をもとに、釣り合い方程式をたてると、 F P であることがわかる。物体を引張る力 P を増大して いくと摩擦力 F も増加し、最終的には物体は動き始める。一旦動き始めると、摩擦力 F は動き始め たときよりも減少し、一定となる(これは理想化である)。この引張力 P と摩擦力 F の関係を模式的 に図示したものが図 9-2 である。 図 9-1 床上の物体を引っ張るときの自由物体図 クーロン(Coulomb)は接触面に作用する垂直力(垂直抗力)の大きさが N であるとき、摩擦力 F が次式で表されると仮定した。 F N (9.1) この式の比例係数 を摩擦係数という。この関係式をクーロンの法則と呼ぶ。このクーロンの法則は 平均的な意味で実験結果と良くあうが、実際には、摩擦係数は温度、運動速度や種々の条件の複雑な 関数である。ここでは(9.1)式が成り立つと言う前提で議論を進める。 図 9-2 に示されているように、物体は一度動 き出すと、静止しているときよりも小さな力で 動かすことができる。すなわち、動き出す直前 の抵抗力が最大の抵抗力である。この最大の抵 抗力を最大静止摩擦力 Fs と呼ぶ(単に、静止摩 擦力と呼ぶことも多い) 。この場合、クーロンの 法則は次にように記述できる。 Fs s N (9.2) 図 9-2 摩擦力のモデル化 ここで、 s を静(止)摩擦係数と呼ぶ。動き始めた後のクーロンの法則は次式となる。 Fm m N (9.3) Fm を動摩擦力、 m を動摩擦係数と呼ぶ。これまでの議論でわかるように、 s m であり、一般 的にその差は 20~25%である。 例題 9-1 図 9-3 に示されているように傾斜角20度の斜面に質量 m 50kg の物体がある。この物 体に水平方向に力 P をかけた。静止摩擦係数を s 0.40 としたときに、この物体がすべり上がらな い最大の力 Pmax を求めよ。 例題解答 9-1 まず自由物体図(図 9-4)を描いて、ただし、摩擦力 Fm は動かそうとする方向とは逆 向きに作用することに留意する。これをもとに釣り合い方程式をたてると、次式を得る。 Fx Pmax cos 340 W cos 250 Fm cos 180 0 Fy Pmax sin 340 W sin 250 N sin 90 0 この第2式を N について解くと、 N Pmax sin 340 W sin 250 一 方 、 Fm s N 0.40 N で あ る の で 、 こ れ ら を 第 1 式 に 代 入 し て Pmax に つ い て 解 く と 、 W 50(kg) 9.8(m/s 2 ) 490( N) と既にわかっているから、次のようになる。 W cos 250 Pmax cos 340 W cos 250 s Pmax sin 340 W sin 250 0 Pmax cos 340 s sin 340 Pmax W cos 250 s sin 250 cos 340 s sin 340 s sin 250 0 490 0.342 0.376 0.718 490 438N 440N 0.940 0.137 0.803 図 9-3 例題 9-2 <教科書例題 4.1 p57、4.2 p58、4.3 p60> KK 演習 10 図 9-4
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