論文要旨・審査の要旨

学位論文の内容の要旨
論文提出者氏名
論文審査担当者
論
文
題
目
野武
主
査
高瀬
浩造
副
査
三浦
雅彦、越野
亮一
和樹
Experimental evaluations of head scatter factor calculation by use
of a Gaussian function
(論文内容の要旨)
<要旨>
リニアックを用いた放射線治療ではリニアックの出力を正確に計算することが重要である。ヘ
ッドスキャッターファクター(Sh)は MU を計算する上で重要な係数の一つである。Sh は照射野
のサイズに依存して変化するが、不整形照射野の Sh を正確に計算することは難しい。Sh はモニ
タ線量計への後方散乱(Sb)と、フラットニングフィルタからの散乱の変化(SPR)に依存する。
我々は Sb を測定により求め、SPR をガウス関数を用いてモデル化した。モデル化にはクラーク
ソン積分の手法を用いた。この方法を用いることで、従来法では 3 %を超える誤差があるような
照射野の設定でも 1 %以下の誤差で計算することが可能だった。また、この方法では特殊な測定
器やソフトウエアを必要としない。
<緒言>
リニアックを用いた外部放射線治療において MU 値を正確に計算することは重要である。MU
値の誤差はそのまま投与線量の誤差となるからである。この MU 値を計算する際、Sh は重要なフ
ァクターの一つであり、Sh の誤差が投与線量の誤差となるため、正確に求める必要がある。しか
し、従来行われている MU 値の計算は等価正方形を用いた単純な計算式から Sh を求めている場
合が多い。この等価正方形を用いた計算式は、Sh の物理的特性を正確に考慮していない。このた
め極端な照射野設定では測定値に対する計算値の誤差が最大で約 5 %となり、投与線量に許容で
きない誤差を与える可能性がある。本研究の目的は物理的特性を考慮した Sh の計算法を導き出
し、その精度を現在用いられている方法と比較・検討し、その有用性を明らかにすることである。
本研究では、Sh を二つの独立した物理現象に分離した。一つは照射野サイズにより Sb が変化す
ることで Sh に与える影響である。Sb が Sh に与える影響は測定により明らかにした。もう一つは
フラットニングフィルタから発生する散乱光子がヘッド散乱係数に与える影響である。このフラ
ットニングフィルタからの散乱光子のエネルギーフルエンス分布をガウス分布で近似したヘッド
散乱係数の計算式を導き出した。これら二つの物理現象を考慮した計算式により計算した Sh を、
正方形・矩形・非対称・不整形照射野で測定値と比較した。
この結果、本研究で導き出した計算式で従来法より精度よく Sh を計算できることを明らかにし
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た。
<方法>
本研究には2種類のリニアック(シーメンス社製 ONCOR、バリアン社整
iX)、3種類の線
質について実験を行った。測定には検出器(PTW-TN30013)と電位計(KEITHLEY-35040)を
用いた。これらの機器を用いて照射野サイズの変化による Sb 変化と Sh を測定した。Sb を測定す
る際には照射野サイズによらず検出器への照射体積を一定にする必要があるため、低融点鉛合金
を用いて検出器外への放射線を遮蔽した。ここから求めた回帰係数と、測定より求めた正方形照
射野の Sh から SPR をモデル化した。このモデルは複数の正方形照射野の測定値と計算値の誤差
が最小になるよう Solver を用いて最適化した。モデル化により求められた係数を用いて長方形照
射野・非対称照射野・不整形照射野の Sh を計算し、測定値と比較した。
<結果>
本研究の計算方法により求められた Sh は最大誤差 1.6 %で計算値と一致した。
<考察>
我々は Sb を照射野サイズ 7-40 cm の範囲で測定し、回帰係数を求めた。照射野サイズが 5 cm
より小さくなると上段コリメーターが検出器の上に位置してしまう。本研究では、Sb は等価正方
形と回帰係数から精度よく計算できることが示された。回帰係数を求めることで、特殊な構造を
持つリニアックであっても同等の精度で計算できることが示唆された。本研究では Sh を精度よく
計算できた。測定値との誤差が 1 %を超える条件は Sb の計算誤差が 1 %を超える条件と同等であ
った。このため、Sh の計算誤差は Sb の系統的誤差によるものと考えられる。従来の方法は一部
の治療計画装置や MU 独立検証に用いられている。しかし、従来法は Sh を Sb と SPR に分離し
ていないため、極端な照射野設定では計算精度が劣るという欠点がある。本研究では従来の方法
では極端な照射野設定でも精度よく Sh を計算できる。また、フラットニングフィルタは円形であ
るため、本研究で用いた扇形照射野分割は実際の SPR とよく馴染み精度よく計算できたと考えら
れる。照射野の分割数は多いほど計算精度がよくなる可能性が示唆された。照射野分割数は可能
な限り大きくするべきである。この方法は実測値に計算値を合わせ込むモデル化を使用している
ため、モンテカルロ等のシミュレーションを用いて求めた SPR とは異なるかも知れない。この方
法はシミュレーションと異なり、リニアックヘッド構造物の正確な情報は必要ない。必要とする
のはリニアックヘッド構造物の配置距離だけである。
<結論>
我々は Sh の新たな計算法を示した。この方法は Sh を Sb と SPR に分離する。このため従来法
より精度よく Sh を計算することが可能である。この方法はリニアックヘッド構造の正確な情報、
特殊な測定器、特殊なソフトウエアを必要としない。
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論文審査の要旨および担当者
報 告 番 号 甲 第
論文審査担当者
野武
4 6 6 5 号
主
査
高瀬
浩造
副
査
三浦
雅彦、越野
亮一
和樹
(論文審査の要旨)
直線加速器を用いたγ線治療装置(LINAC)は実際の照射線量(投与線量)に対応したモニター
単位値(MU)により出力線量が管理されている。この MU はγ線発生装置の焦点から一次コリメー
ター、フラットニングフィルターを経て配置されるモニター用電離箱の線量測定により計測され
ている。しかし、モニター用線量計の計測値(すなわち MU)は種々のγ線の散乱により影響を受
けていることが知られている。一方、治療の効果と安全性を確保するためには、患者への投与線
量全不確定度は 5%未満であることが求められ、線量分布計算は 3%未満の誤差しか許容できないと
されている。
申請者らは、MU 測定に最も大きく影響するγ線発生装置の先端部分の散乱要素(ヘッドスキャ
ッターファクター)をモニター用線量計の前方を覆うコリメーターなどからの後方散乱の漏れこ
みによる影響と、フラットニングフィルターで発生する散乱光子が標的に到達する要素に分離し、
2種類の構造の異なるγ線発生装置で実際にファントムを用いて線量測定し MU の予測値を検討
した。その結果、前者は照射野サイズを変更するためのコリメーター開度から予測可能なこと、
後者は散乱光子の強度分布をフラットニングフィルターの中心を頂点とするガウス分布で近似し
て加算することにより高精度で予測可能なことを見出した。これにより、正方形のみならず従来
の等価正方形法では 3%を超える誤差が出てしまう不整形照射野であっても、1%以下の照射線量誤
差で MU を設定可能であった。
この MU 算定方法は新規性だけでなく実用性も高く、食道がんのような照射野が複雑な構造をと
る放射線治療においても十分応用可能であり、治癒率向上が期待される。
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