ジョルダン標準形 K = R または K = C とする.行列の成分,ベクトルの成分,固有値はすべて K の元 とする.A は n 次行列で,その特性多項式 FA (t) は K において FA (t) = (t − λ1 )m1 (t − λ2 )m2 · · · (t − λr )mr (1) のように 1 次式の積に因数分解されるものとする.λ1 , λ2 , . . . , λr は異なる K の元であり, m1 + m2 + · · · + mr = n である. 補題 1 t を変数とする多項式 p1 (t), . . . , pk (t) の最大公約因子が 1 であれば, h1 (t)p1 (t) + · · · + hk (t)pk (t) = 1 を満たす多項式 h1 (t), . . . , hk (t) が存在する. 証明 h1 (t)p1 (t) + · · · + hk (t)pk (t) (hi (t) は t の多項式) の形の多項式全部の集合を X とおく.X に含まれる 0 でない多項式のうち,次数が最小のものを g(t) とおく.f (t) ∈ X をとり,f (t) を g(t) で割ったときの商を q(t), 余りを r(t) とする.f (t) = q(t)g(t) + r(t) で r(t) の次数は g(t) の次数より真に小さい.f (t), g(t) ∈ X だから,r(t) = f (t) − q(t)g(t) も X に含まれる.よって,g(t) のとり方により r(t) = 0 である.以上により,f (t) ∈ X であれば f (t) は g(t) で割り切れることがわかった. i = 1, . . . , k について pi (t) ∈ X だから,これらはすべて g(t) で割り切れるが,仮定に より p1 (t), . . . , pk (t) の最大公約因子が 1 なので g(t) は 0 以外の定数である.よって,補題 1 が証明された. A の特性多項式 FA (t) の因数分解 (1) から (t − λi )mi だけを取り除いて得られる多項式 を pi (t) とおく. FA (t) pi (t) = (t − λi )mi p1 (t), . . . , pr (t) の最大公約因子は 1 だから,補題 1 により h1 (t)p1 (t) + · · · + hr (t)pr (t) = 1 (2) を満たす多項式 h1 (t), . . . , hr (t) が存在する. hi (t)pi (t) の t に A を代入して得られる n 次行列を Pi とおく.Pi = hi (A)pi (A) 補題 2 P1 , . . . , Pr について,次のことが成り立つ. (i) P1 + P2 + · · · + Pr = En (ii) Pi 2 = Pi (iii) Pi Pj = O (i = 1, . . . , r) (i ̸= j) 証明 (2) において t に A を代入すると,(i) が得られる.i ̸= j ならば pi (t)pj (t) は A の特性多項式 FA (t) で割り切れる.pi (t)pj (t) = q(t)FA (t) とする.t に A を代入すると, Cayley–Hamilton の定理により FA (A) = O だから,pi (A)pj (A) = O となり (iii) が成り立 つ.(i) の両辺に Pi をかけて (iii) を用いると,(ii) が得られる. 1 Ui = {Pi x | x ∈ K n } (i = 1, . . . , r) とおく.補題 1 により,K n は U1 , . . . , Ur の直和で あることがわかる. K n = U1 ⊕ · · · ⊕ Ur (3) すなわち,任意の x ∈ K n は x = u1 + · · · + ur (ui ∈ Ui ) の形に一意的に表せる. 実際,補題 1 の (i) により x = En x = P1 x + · · · + Pr x である.また,x = u′1 + · · · + u′r (u′i ∈ Ui ) とも表せるとすると, (u1 − u′1 ) + · · · + (ur − u′r ) = 0 であるが,この両辺に左から Pi をかけると,補題 1 の (ii) と (iii) により ui − u′i = 0 とな るので,ui = u′i (i = 1, . . . , r) が成り立つ. K n = U1 ⊕ · · · ⊕ Ur なので,Ui (i = 1, . . . , r) の基底を構成するベクトルを合わせた ものは K n の基底になる.よって,次元の和について次が成り立つ. n = dim U1 + · · · + dim Ur (4) 注意 Pi を,K n から Ui への射影 (projection) という. 行列 A の固有値 λ に対する固有空間 V (λ) = {x ∈ K n | Ax = λx} は,(A − λEn )x = 0 を満たす x ∈ K n 全部の集合に等しい.V (λ) = {x ∈ K n | (A − λEn )x = 0}. 0 ̸= x ∈ K n について,(A − λEn )k x = 0 を満たす正の整数 k が存在するとき,x を固 有値 λ に属する広義固有ベクトル (generalized eigenvector) という.λ に属する広義固有ベ クトル全部の集合に零ベクトル 0 を付け加えた集合を Ve (λ) で表す.これは K n の部分空間 で,V (λ) ⊂ Ve (λ) である.Ve (λ) を,行列 A の固有値 λ に対する広義固有空間 (generalized eigenspace) という. (A − λEn )k x = 0 ならば,(A − λEn )k Ax = A(A − λEn )k x = 0 となる.よって, x ∈ Ve (λ) ならば Ax ∈ Ve (λ) であることに注意する. K n の部分空間 U が “ x ∈ U ならば Ax ∈ U である” という条件を満たすとき,U を A に関して不変な部分空間,あるいは A-不変な部分空間という.広義固有空間は A-不変 な部分空間である. U を r 次元の A-不変な部分空間とする.U の基底 {u1 , . . . , ur } に ur+1 , . . . , un ∈ K n を 付け加えて K n の基底 {u1 , . . . , un } を作る.第 j 列が uj である ∑r n 次行列を P = (u1 . . . un ) とする.U は A-不変だから,1 ≤ j ≤ r ならば Auj = i=1 bij u( i となる )bij ∈ K が存在 B C する.bij を (i, j) 成分とする r 次行列を B とおくと,AP = P となるような O D r × (n − r) 行列 C と n − r 次行列 D が存在する.左下の O は n − r 行 r 列の零行列であ ( ) B C る.左から P −1 をかけると P −1 AP = となる. O D 定理 (広義固有空間による直和分解) n 次行列 A の特性多項式が (1) の形に因数分解 されるとする.このとき,次が成り立つ. (i) K n = Ve (λ1 ) ⊕ · · · ⊕ Ve (λr ),すなわち K n は広義固有空間 Ve (λi ) (i = 1, . . . , r) の直 和である. (ii) Ve (λi ) = {x ∈ K n | (A − λi En )mi x = 0} (i = 1, . . . , r). (iii) Ve (λi ) = {Pi x | x ∈ K n } (i = 1, . . . , r). 2 (iv) dim Ve (λi ) = mi (i = 1, . . . , r),すなわち Ve (λi ) の次元は固有値 λi の重複度 mi に 一致する. 証明 Wi = {x ∈ K n | (A − λEn )mi x = 0} とおく.Ve (λi ) の定義から Wi ⊂ Ve (λi ) であ る.Ui = {Pi x | x ∈ K n } とおく.(t − λi )mi pi (t) = FA (t) であり,Cayley–Hamilton の定 理により FA (A) = O だから,t に A を代入すると (A − λi En )mi pi (A) = O となる.これ により,(A − λi En )mi Pi = O なので,Ui ⊂ Wi である. 次に,dim Ve (λi ) = mi であることを示す.i = 1 の場合を考えればよい.dim Ve (λ1 ) = s とおき,{v 1 , . . . , v s } を Ve (λ1 ) の基底とする.これに v s+1 , . . . , v n を付け加えて,{v 1 , . . . , v n } が K n の基底であるようにする.第 j 列が v j である n 次行列 Q = (v 1 . . . v n ) を考える. ∑ 1 ≤ j ≤ s については Av j ∈ Ve (λ1 ) だから,Av j = si=1 bij v i となる bij ∈ K が存在する. bij を (i, j) 成分とする s 次行列を B とおくと, ( ) B ∗ AQ = Q O C が成り立つような n − s 次行列 C が存在する.左下の O は n − s 行 s 列の零行列で,右上 の ∗ は s × (n − s) 行列である.Q−1 を左からかけると,次のようになる. ( ) B ∗ −1 Q AQ = (5) O C v j ∈ Ve (λ1 ) (j = 1, . . . , s) だから,(A−λ1 En )kj v j = 0 を満たす正の整数 kj が存在する. k1 , . . . , ks の中で最大のものを k とすれば,すべての v ∈ Ve (λ1 ) に対して (A−λ1 En )k v j = 0 となる.これは, ) ( O ∗ −1 k (6) Q (A − λ1 En ) Q = O ∗ であることを意味する.ただし,左上の O は s 次零行列で,左下の O は n − s 行 s 列の零 行列である. 一方 (5) より,Q−1 AQ − λ1 En の k 個の積は ( ) (B − λ1 Es )k ∗ −1 k (Q AQ − λ1 En ) = (7) O (C − λ1 En−s )k である.Q−1 (A − λ1 En )k Q = (Q−1 (A − λ1 En )Q)k と Q−1 (A − λ1 En )Q = Q−1 AQ − λ1 En より,(6) の左辺と (7) の左辺は一致する.よって,(6) と (7) の右辺を比較して, (B − λ1 Es )k = O がわかる.すなわち,B − λ1 Es はベキ零行列である.特に,B − λ1 Es の固有値は 0 だけ である.よって,B の固有値は λ1 だけで,B の特性多項式は FB (t) = (t − λ1 )s である. (5) により,特性多項式について FQ−1 AQ (t) = FB (t)FC (t) が成り立つことに注意する. FQ−1 AQ (t) = FA (t) だから,A の特性多項式が (1) の形であることから,s ≤ m1 がわかる. 以上により,dim Ve (λ1 ) ≤ m1 がわかった.この議論から,λ1 だけでなく i = 1, . . . , r に ついて dim Ve (λi ) ≤ mi であるであることがわかる. Ui ⊂ Wi ⊂ Ve (λi ) で m1 + · · · + mr = n なので,(3) と (4) から,Ui = Wi = Ve (λi ) で あること,および定理の (i), (ii), (iii), (iv) がすべてが成り立つことがわかる. 3 次の形の m 次行列をジョルダン・ブロック (Jordan block) という. λ 1 λ 1 .. . λ J(λ, m) = .. . 1 λ (8) 書いていない成分は 0 である.J(λ, m) の特性多項式は FJ(λ,m) (t) = (t − λ)m である. 補題 3 A を n 次ベキ零行列とし,Ak = O (零行列) かつ Ak−1 ̸= O となるように正の 整数 k を定める.Ak−1 v ̸= 0 となる v ∈ K n をひとつとる.このとき,次のことが成り 立つ. (i) v, Av, . . . , Ak−1 v は線型独立である. (ii) U = span{v, Av, . . . , Ak−1 v} とおくと,K n = U ⊕ W を満たす A-不変な部分空間 W が存在する. 証明 c0 v + c1 Av + · · · + ck−1 Ak−1 v = 0 (ci ∈ K) とする.Ak = O だから,この両辺 に左から Ak−1 をかけると c0 Ak−1 v = 0 となるので,Ak−1 v ̸= 0 より c0 = 0 である.次に 左から Ak−2 をかけると c1 = 0 がわかる.同様にして c0 = c1 = · · · = ck−1 = 0 がわかる ので,(i) が成り立つ. (ii) は k に関する帰納法で証明する.k = 1 ならば A = O だから,(ii) は成り立つ.k −1 のとき (ii) が成り立つと仮定する.V1 = {Ax | x ∈ K n } とし,v 1 = Av ∈ V1 とおく.す べての x ∈ V1 に対して Ak−1 x = 0 であり,Ak−2 v 1 ̸= 0 である.U1 = {Au | u ∈ U } とす ると,U1 = span{v 1 , Av 1 , . . . , Ak−2 v 1 } だから,帰納法の仮定により V1 = U1 ⊕ W1 を満た す A-不変な部分空間 W1 が存在する.(i) により,{v, Av, . . . , Ak−1 v} は U の基底であり, {v 1 , Av 1 , . . . , Ak−2 v 1 } は U1 の基底である.Ak−1 v ̸= 0 だから v ̸∈ V1 なので,U ∩ V1 = U1 がわかる.特に,U ∩ W1 = {0} である. W0 = {x ∈ K n | Ax ∈ W1 } とおく.x ∈ K n ならば,Ax ∈ U1 ⊕ W1 だから,Ax = u1 + w1 (u1 ∈ U1 , w1 ∈ W1 ) と書くことができる.U1 = {Au | u ∈ U } だから,u1 に 対して u1 = Au となる u ∈ U が存在する.このとき,A(x − u) = w1 ∈ W1 だから, x − u ∈ W0 である.以上により,K n = U + W0 がわかった. U ∩W1 = {0} より (U ∩W0 )∩W1 = {0} なので,U ∩W0 と W1 の和は直和 (U ∩W0 )⊕W1 である.W1 は A-不変だから W1 ⊂ W0 である.(U ∩ W0 ) ⊕ W1 の基底にいくつかのベク トルを付け加えて W0 の基底を作る.このとき付け加えるベクトル全部で張られる部分空 間を W2 とすると,W0 = (U ∩ W0 ) ⊕ W1 ⊕ W2 となる. W = W1 ⊕ W2 とおくと,K n = U ⊕ W である.w ∈ W ならば Aw ∈ W1 ⊂ W とな るので,W は A-不変である.よって,(ii) が成り立つことがわかった. 補題 3 において W ̸= {0} の場合は,すべての x ∈ W に対して Al x = 0 となるような 正の整数 l のうち最小のものを考える.l のとり方により,Al−1 w ̸= 0 となる w ∈ W が存 在する.w, Aw, . . . , Al−1 w に対して補題 3 と同様の議論をする.これを繰り返して,次 の補題が得られる. 4 補題 4 n 次ベキ零行列 A に対して,v 1 , . . . , v s ∈ K n と正の整数 k1 , . . . , ks で, v 1 , Av 1 , v 2 , Av 2 , ··· v s , Av s , . . . , Ak1 −1 v 1 . . . , Ak2 −1 v 2 ··· . . . , Aks −1 v s (9) が K n の基底となるものが存在する.Akj v j = 0 (j = 1, . . . , s) で,k1 + · · · + ks = n であ る.(kj = 1 の可能性もあることに注意する.) 補題 5 n 次ベキ零行列 A に対して,Wi = {x ∈ K n | Ai x = 0} (i = 1, 2, . . .) とおき, Wi の次元を di とする.di = dim Wi .Wi ⊂ Wi+1 である.補題 4 の記号で,kj − i ≥ 0 を 満たす j = 1, . . . , s の個数を bi とおく (i = 1, . . . , l).ここで,l は k1 , . . . , ks のうち最大の ものを表す.したがって,Al = O, Al−1 ̸= O であり,dl = n である.このとき,次が成 り立つ. d 1 = b1 , d2 = b 1 + b 2 , . . . , d l = b 1 + b 2 + · · · + b l 実際,{Ak1 −1 v 1 , Ak2 −1 v 2 , . . . , Aks −1 v s } は W1 の基底なので,d1 = s である.一方 kj ≥ 1 はすべての j について成り立つので,b1 = s である.よって,d1 = b1 がわかる.W2 の基 底は,W1 の基底に kj − 2 ≥ 0 を満たす j = 1, . . . , s についての Akj −2 v j をすべて付け加 えたものだから,d2 = b1 + b2 である.同様にして,di = b1 + · · · + bi が成り立つことが わかる. di = dim Wi (i = 1, . . . , l) はベキ零行列 A により定まるので,補題 5 により bi (i = 1, . . . , l) も A により定まる.bi の定義から,bi (i = 1, . . . , l) が定まれば kj (j = 1, . . . , s) の組 {k1 , . . . , ks } も定まる.n 次ベキ零行列 A に対して定まる正の整数の組 {k1 , . . . , ks } を,A の不変系という. s = 1 で k1 = n の場合は,{v, Av, . . . , An−1 v} が K n の基底になるようなベクトル v ∈ K が存在する.第 j 列が An−j v (j = 1, . . . , n) である n 次行列を P = (An−1 v, . . . , Av, v) とすると,AP = J(0, n)P が成り立つので,P −1 AP = J(0, n) となる. 一般の場合は,補題 4 の K n の基底 (9) を n Ak1 −1 v 1 , . . . , Ak2 −1 v 2 , . . . , ··· ks −1 A vs, . . . , Av 1 , v 1 Av 2 , v 2 ··· Av s , v s のように並べかえて,これらを列ベクトルとする n 次行列を P とおくと, J(0, k1 ) O ··· O O J(0, k2 ) · · · O −1 P AP = .. .. .. . . . . . . O O · · · J(0, ks ) (10) (11) となる.ベキ零行列に関する標準形は以上である. 次に,一般の n 次行列 A を考える.A の特性多項式 (1) で r = 1 の場合,すなわち (A − λEn )n = O となる場合は,N = A − λEn はベキ零行列だから,P −1 N P が (11) の形 5 になるような n 次正則行列 P が存在する.P −1 N P = P −1 AP − λEn だから,P −1 AP = P −1 N P + λEn は次の形である. J(λ, k1 ) O ··· O O J(λ, k2 ) · · · O −1 P AP = (12) .. .. .. . . . . . . O O · · · J(λ, ks ) A の特性多項式 FA (t) が (1) のように因数分解される場合は,広義固有空間による直和 分解 K n = Ve (λ1 ) ⊕ · · · ⊕ Ve (λr ) をもとにする.各広義固有空間 Ve (λj ) (j = 1, . . . , r) にお いて,上記の (10) ような Ve (λr ) の基底をとり,それらを合わせて K n 全体の基底を作る. その基底を構成するベクトルを列ベクトルとする n 次行列を P とすれば, B1 O · · · O O B2 · · · O P −1 AP = .. (13) .. . . .. . . . . O O · · · Br で,Bj (j = 1, . . . , r) は次の形である. J(λj , kj,1 ) O ··· O J(λj , kj,2 ) · · · Bj = .. .. ... . . O O ··· O O .. . J(λj , kj,sj ) (14) kj,1 + kj,2 + · · · + kj,sj = mj は固有値 λj の重複度である.この P −1 AP を,A の Jordan 標準形 (Jordan canonical form) という. 行列 A の Jordan 標準形は,(8) の形のジョルダン・ブロック J(λ, m) が対角線上に並 ぶが,正則行列 P の列ベクトルを並べ変えることで,ジョルダン・ブロックを並べる順序 は任意に変えることができる.A の Jordan 標準形を考える際には,ジョルダン・ブロッ クを並べる順序は問題にしない. n 次行列 A に対して,その特性多項式 FA (t) の因数分解 (1) は一意的であり,異なる固有 値 λ1 , λ2 , . . . , λr およびその重複度 mj (j = 1, . . . , r) は A により定まる.よって,K n の広 義固有空間による直和分解 K n = Ve (λ1 ) ⊕ · · · ⊕ Ve (λr ) は A により定まる.各広義固有空間 Ve (λj ) (j = 1, . . . , r) において,mj 次ベキ零行列 Bj − λj Emj の不変系 {kj,1 , kj,2 , . . . , kj,sj } は Bj − λj Emj により定まる.{kj,1 , kj,2 , . . . , kj,sj } は,A − λj En の Ve (λj ) における不変系 に等しい.以上の議論をまとめると,次の定理が得られる. 定理 (Jordan 標準形) n 次行列 A の特性多項式 FA (t) が K において 1 次式の積に因 数分解されるとする.そのとき,P −1 AP が Jordan 標準形になるような n 次正則行列 P が存在する.ジョルダン・ブロックを並べる順序を除いて,A の Jordan 標準形は一意的 に定まる.(注意.正則行列 P は A に対して一意的には定まらない.) Jordan 標準形に関する参考書 松坂和夫「線型代数入門」(岩波書店) 川久保勝夫「線形代数学」(日本評論社) 長谷川浩司「線型代数」(日本評論社) 6 問題 λ は複素数とする.また,λ1 , λ2 , . . . は異なる複素数を表すものとする. 1. 2 次行列の Jordan 標準形は次の 3 通りのいずれかであることを示せ. ( ) ( ) ( ) λ 0 λ 1 λ1 0 , , 0 λ 0 λ 0 λ2 2. 3 次行列の Jordan 標準形は次の 6 通りのいずれかであることを示せ. λ 0 0 λ 0 0 λ 1 0 0 λ 0 , 0 λ 1 , 0 λ 1 , 0 0 λ 0 0 λ 0 0 λ λ1 0 0 0 λ1 0 , 0 0 λ2 λ1 1 0 0 λ1 0 , 0 0 λ2 λ1 0 0 0 λ2 0 0 0 λ3 3. 4 次行列の Jordan 標準形は 14 通りのいずれかであることを示せ. 4. 次の行列 A の Jordan 標準形を求めよ.また,P −1 AP が Jordan 標準形になるような 正則行列 P を求めよ. ( ) 1 2 1 4 −1 −2 0 1 2 4 0 (1) (2) 1 (3) 0 2 −1 −2 −1 −2 −3 2 −1 0 4 −1 1 (4) 3 −3 3 2 −5 5 −1 1 (5) 0 0 0 0 0 1 1 −4 0 −1 0 1 0 −3 2 −1 −2 2 9 −5 −5 5 (6) −2 0 1 1 7 −5 −2 4 ヒント. (i) A の特性多項式 FA (t) を本文中の (1) の形に因数分解する. (ii) λ を A の固有値とする.連立 1 次方程式 (A−λEn )x = 0 の 0 以外の解のひとつを v 1 とする.v 1 は固有値 λ に属する固有ベクトルである.次に,連立 1 次方程式 (A−λEn )x = v 1 の解のひとつを v 2 とする.以下これを繰り返して,連立 1 次方程式 (A − λEn )x = v k−1 の解のひとつを v k とする.連立 1 次方程式 (A − λEn )x = v k の解が存在しないとき, {v 1 , v 2 , . . . , v k } に対してジョルダン・ブロック J(λ, k) が対応する.A の固有値 λ に対す る固有空間の次元が 2 以上の場合は,v 1 と線型独立な固有ベクトル v ′1 に対しても,v 1 の ときと同様の連立 1 次方程式を満たすベクトルの列 v ′1 , v ′2 , . . . を求める.A のすべての固 有値に対してこのようなベクトルの列を作り,それらを列ベクトルとする n 次行列を P とすれば,P は求める性質を満たす. 5. 本文中の (8) のジョルダン・ブロック J(λ, m) について,その n 個の積 J(λ, m)n を 計算せよ.(ヒント.S = λEm , N = J(λ, m) − S とおく.Em は m 次単位行列である. J(λ, m) = S + N なので,SN = N S に注意して (S + N )n を計算する.) 7 解答とヒント 1. 2 次行列 A の特性多項式の因数分解は,FA (t) = (t − λ)2 と FA (t) = (t − λ1 )(t − λ2 ) の 2 通りある.FA (t) = (t − λ)2 のとき,固有値 λ に対する固有空間は 2 次元の場合と 1 次元 の場合がある.それらに対応して A の Jordan 標準形は全部で 3 通りある. 2. 3 次行列 A の特性多項式の因数分解の形で分けて考える. (i) FA (t) = (t − λ)3 のとき,固有値 λ に対する固有空間の次元は 3, 2, 1 のいずれかで, それに対応して Jordan 標準形は 3 通りある. (ii) FA (t) = (t − λ1 )2 (t − λ2 ) のとき,固有値 λ1 に対する固有空間の次元は 2 または 1 で,それに対応して Jordan 標準形は 2 通りある. (iii) FA (t) = (t − λ1 )(t − λ2 )(t − λ3 ) のとき,A は対角化可能で Jordan 標準形は1通 りである. 3. 4 次行列 A の特性多項式の因数分解の形で分けて考える. (i) FA (t) = (t − λ)4 のとき,Jordan 標準形は 5 通りある. (ii) FA (t) = (t − λ1 )3 (t − λ2 ) のとき,Jordan 標準形は 3 通りある. (iii) FA (t) = (t − λ1 )2 (t − λ2 )2 のとき,Jordan 標準形は 3 通りある. (iv) FA (t) = (t − λ1 )2 (t − λ2 )(t − λ3 ) のとき,Jordan 標準形は 2 通りある. (v) FA (t) = (t − λ1 )(t − λ2 )(t − λ3 )(t − λ4 ) のとき,Jordan 標準形は 1 通りである. 4. (1) P (2) P (3) P (4) P (5) P (6) P ) ) ( ) ( −1 1 2 1 1 −1 −1 −1 , P AP = , P = = 0 −1 1 1 −1 2 2 −1 0 1 1 1 0 1 0 = −1 2 −1, P −1 = 1 2 2, P −1 AP = 0 0 1 0 −1 1 1 2 3 0 0 0 1 −1 1 1 0 −1 2 0 0 = 2 0 1, P −1 = −2 1 1 , P −1 AP = 0 2 1 0 −1 1 −2 1 2 0 0 2 0 1 1 −1 2 −1 0 0 0 1 −1, P −1 AP = 0 3 1 = 1 0 1, P −1 = 0 1 −1 1 1 −1 1 0 0 3 1 0 0 −1 2 0 1 0 −1 0 0 2 1 0 0 0 0 1 −1 −1 0 −1 = −1 0 0 2 , P = 0 1 0 −2, P AP = 0 0 0 1 0 0 1 0 1 0 0 0 1 0 0 1 −1 1 1 −1 −1 1 1 0 2 1 −1 0 −1 −3 2 = , P −1 AP = 1 0 −1 −1, P = −3 2 0 1 −2 0 1 −1 0 2 −1 −1 1 0 ( 8 0 0 1 0 −1 1 0 −1 1 0 0 −1 0 0 0 2 1 0 0 2 5. S = λEm , N = J(λ, m) − S とおく.J(λ, m) = S + N である.SN = N S なので,二 項定理により n ( ) ∑ n n−k k n (S + N ) = S N k k=0 が成り立つ.N は (i, i + 1) 成分 (1 ≤ i ≤ n − 1) が 1 で,他の成分は 0 である.N k は, k = 0 のときは単位行列 Em で,k = 1, 2, . . . , m − 1 のときは (i, i + k) 成分 (1 ≤ i ≤ m − k) が 1 で,他の成分は 0 である.特に N m = O (零行列) だから,k ≥ m ならば S n−k N k = O である.S n−k = λn−k Em なので,0 ≤ k ≤ m − 1 の範囲では S n−k N k の (i, i + k) 成分 (1 ≤ i ≤ m − k) は λn−k で,他の成分は 0 である. 以上により,J(λ, m)n = (S + N )n がわかる. 9
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