通信方式 2.2 通信工学でよく用いるフーリエ変換の性質 ! 周波数移動性:任意の関数に、時間領域で各周波数 w0 である周期関数ejw0tをかけ算すると、対応す るスペクトルの中心が w0 にシフトする。 f (t) ´ F (w) ならば f (t) ejw0t ´ F (w-w0) , (2-12) 我々が対象とする信号 f(t )は実関数であるので、周期関数として cos および sin に対して周波数移 動性を書き下すと、以下のようになる。 f (t) cos w0t ´ l F (w - w 0) + F (w + w 0) 2 f (t) sin w 0t ´ 1 F (w - w 0) + F (w + w 0) 2j (2-13) F(w ) f(t) A t -d w d 0 2p - d 2p d 1 2 [F(w-w 0 ) + F(w+w 0 )] f(t) cosw 0 t A t -d d w -w 0 w 0 図3 フーリェ変換の周波数移動性。三角波とcosをかけ算することによって、そ のスペクトルが移動していることがわかる。 この性質は、振幅変調やキーイング法の基礎となる。 E 3. (2-12)、(2-13)式を確認せよ。 E 4. sin のときは、図の上ではどのように考えればよいか? " 時間移動性:周波数移動性と相対の関係である。時間領域での遅延は、周波数領域において位相因 子の変化として現れる。 f (t) ´ F (w) ならば f (t - t0) ´ F (w ) e-jwt0 , (2-14) この性質を用いて、伝送系が無歪みで信号を伝える条件を求めてみよう。図 4 に示すように、出力 波形が歪んでいないということは、対応する場所の振幅の比率がどこでも同じである(振幅歪みが 無い)こと、対応する場所の遅延がどこでも同じである(位相歪みがない)ことである。すなわち、 遅延時間を t0 = l/v (線路の長さ l 伝搬速度 v)とすれば、 4 通信方式 (2-15) g (t) = k f t- l , v となる。の両辺をフーリェ変換すると、 G (w ) = k exp -j w l v 無歪み伝送系 f(t ) H(w ) t F (w ) , (2-16) g(t ) t h(t ) 一定の遅延 ここで、四角で囲んだ部分が無歪み伝送系の 伝達関数になる。 H(w ) H(w) = k , –H( w ) = - l w , (2-17) v すなわち、振幅特性は周波数に関係なく一 定、位相特性は周波数に比例する系が、無歪 み伝送系の備えるべき条件となる。 k |H(w )| w 0 ∠H(w ) E 5. 無歪み伝送条件は他にどういう形で表さ れるか? 図4 伝送系の無歪み条件。歪みについては 「時間領域」で考えた方が直感的である。 # 時間微分:関数を時間領域で微分すると、その影響が周波数領域では位相変化(j)と、振幅変化(w) として現れる。 f (t) ´ F (w ) , (2-18) d f (t) ´ j w F (w ) dt F (w) ×j で表示 p f(t) = sin t 0 t w =-1 w0 = 1 -p j w F ( w) p df dt = cos t w t 0 =-1 w0 = 1 図4 信号の時間波形とスペクトル。 この関係は、周波数変調(FM)の復調を考えるときに用いる。 E 6. 積分器に通した出力のスペクトルはどうなるか? また、ラプラス変換における時間微分、時 間積分との対応を検討せよ(s = s + jw)。 $ 畳み込み(convolution)定理:この性質は頻繁に使われるのでよくマスターしておこう。2 つの関数、 f1、f2 について、それぞれ対応するスペクトルが以下で与えられるとする。 f1 (t) ´ F1 (w ) , f2 (t) ´ F2 (w ) . このとき、 畳み込み積分(*)を次の式で定義すれば、 5 通信方式 f1(t ) • f(t) * g(t) ∫ -• f2(t ) d(t +T ) f(t) g(t-t) dt . (2-19) d(t -T ) A -a t 0 t -T b 0 T このとき、時間畳み込み、 f1(t) * f2(t) ´ F1(w) F2(w) , (2-20) f1(t-t ) , f2(t ) t と、周波数畳み込み、 f1(t) f2(t) ´ 1 F1(w ) * F2(w ) , (2-21) 2p -T からなる。 0 f1(t) * f2(t) ∫ 図 5 は、畳み込み積分の概略を図の形で理解 する方法である。この方法によると、これか ら度々出てくるインパルス関数(デルタ関 数)との間の畳み込み積分の結果が非常に分 かり易い。 t T • -• f1(t-t) f2(t) dt 2A A -T 0 t T 図5 畳込み積分を図の上で実行するや り方をマスターすると便利である。 E 7. 畳み込み積分は、交換、分配、結合の法則 を満足することを確かめよ。 %通信方式で 重要な関数のフーリエ変換の具体例 1.直流信号(f(t) = A) F (w ) = • -• A e-jwt dt (→積分不可能) そこで、フーリェ積分可能な関数の極限として求める必要がある。ここでは、ゲート関数 Gt (t) を 用いて t →∞として求めてみよう。 F (w ) = lim • t Æ• t - -2 -• A Gt (t) e-jwt dt , (2-22) f(t ) = A Gt (t) f(t ) = A Gt (t) A A 0 t t -2 t - -2 0 f(t ) = A A t -2 t t 0 w F( ) w F( ) F( ) w 2p d(w ) 2p - t At 0 2p t w w 図 6 ゲート関数(単一矩形パルス)と、その極限としての直流信号。 6 w 通信方式 = lim A t Sa w t tÆ• 2 = 2p A d (w ) . • E 8. • Sa(x) dx = -• -• (2-23) sin x dx = p であることを使って、(2-23)式を求めよ。 x 2. 単位インパルス (d (t)) F (w ) = • d (t) e-jwt dt = 1 . -• (2-24) 2 f (t ) = e- t /2s 2 E 9. インパルス関数は、以下で示す標本化性、あ るいは移動性があることを確かめよ。 • -• f (t) d (t-t0) dt = f (t0) . 1 s=5 s=15 (2-25) 3. 正弦波 (f (t) = cos w 0t, sin w 0t) - 50 • F (w ) = 1 ejw0t+e-jw0t e-jwt dt 2 -• =1 2 • e-j(w-w0)t dt+ -• • t 50 0 2 2 F(w) = 2p s e- s w /2 1 e-j(w+w0)t dt s=1/15 s=1/5 -• = p d (w -w 0)+d (w + w 0) . (2-26) 2/2s2 4.ガウシャンパルス (f (t) = e-t F (w ) = • -• w ) 0 2/2s2 -jwt e-t e dt .(2-27)(→積分不可能) いろいろな巧妙な方法により、以下の様になる。 F (w ) = s 2p e-s 2w2/2 . 図 7 ガウシャンパルスとそのスペクトル。 (2-28) E10. (2-26)式を部分積分することによって、 dF = -s 2 w F の微分方程式が得られることを確かめ、 dw さらに、F(0) = s 2p であることを使って(2-28)式を導け。 E11.図 7 の結果と、量子力学における不確定性原理(DE Dt ≥ h、Dp Dx ≥ h)との関係は? • 5. 周期関数 (f(t) = f (t+T) =  n = -• F n ej nw 0t)のフーリェ変換。 7 通信方式 • -• • = •  F (w ) =  n = -• =2p n = -• F n e j n w 0 t e - jw t d t • e-j Fn w - nw 0 t dt -• •  F n d (w -n w 0 ) . n = -• (2-29) E12.図 8 に示すような(時間に対する)周期インパルス関数のフーリェ変換は、周波数領域でも周 期インパルス(離散スペクトル)となる(dT (t) ´ w 0 dw0(w ))。 D ( w ) = w0 dw0 (w) dT (t ) t -2w0 -w0 0 w0 w 2w0 T 図8 周期インパルス関数とそのスペクトル。 2.3 標本化定理 ここで扱うのは、等標本化定理(uniform sampling theory)で、染谷・Shannon の定理とも呼ばれる。 連続信号を時間に対して離散化するときに用いられ、パルス変調理論の基礎となる。 (定理)周波数 fm[Hz]以上のスペクトル成分をもたない「帯域制限信号」は、1/ 2 fm [sec]より短 い等間隔の標本によって、元の信号を一義的に表現できる。このとき、1/ 2 fm を、ナイキスト (Nyquist) 間隔と呼ぶ。 以下、この証明と、重要な性質について考える。まず、サンプリングされた信号の情報(離散化され た振幅値)を、 ・・・f -2, f -1, f 0, f 1, f 2, f 3, ・・・ { fn } : とすれば、標本化された信号は f (t) • fs(t) =  n = -• fn d (t-nT) = f(t) dT (t) , (2-30) f0 f1 f2 f3 t (2-30)式をフーリェ変換すれば、 T F s(w ) = 1 F(w ) * w 0d w 0(w ) 2p 図9 連続信号の離散化。 • = 1 F(w ) *  d (w -n w 0) n = -• T =1 T •  F (w -n w 0) . n = -• f4 (2-31) 8
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