Part 2

質点系の運動
4
この節では、複数の質点が含まれる系の運動の取扱いについて説明する。このような場合、質点
系全体の運動と、系の内部の運動とを区別して取り扱うことが重要になる。系全体の運動は外力の
影響で決まり、その場合に重心がとりわけ重要な役割を果たす。
4.1
運動量の保存則
ある系に n 個の粒子が含まれるとし、それぞれの粒子の座標、及び速度、運動量ベクトルをそ
れぞれ以下のように定義する。
rj , v j , p j = m j v j ,
(j = 1, 2, · · · , n)
(4.1)
ただし、mj は j 番めの粒子の質量であるとする。この系に含まれる粒子の運動は、以下に示す微
分方程式によって記述される。
mj
∑ (i)
dvj
dpj
(e)
=
= Fj +
Fjk
dt
dt
(4.2)
k̸=j
(e)
ここで、j 番目の粒子に作用する外力を Fj
とし、系内の j, k 粒子間に働く (つまり相互作用に
(i)
内力を、Fjk
よる)
と置いた。この内力が、以下に示すような粒子間に働く相互作用のエネルギー
ϕ(rjk ) を用いて表される力である場合を考えてみる。
(
)
(
)
∂ϕ(rjk ) ∂ϕ(rjk ) ∂ϕ(rjk )
∂ϕ(rjk ) ∂rjk ∂rjk ∂rjk
(i)
Fjk = −∇j ϕ(rjk ) = −
,
,
=−
,
,
∂xj
∂yj
∂zj
∂rjk
∂xj ∂yj ∂zj
(4.3)
2
2
2
2
rjk = |rj − rk | = (xj − xk ) + (yj − yk ) + (zj − zk )2
上の式に現れる粒子間距離 rjk の、粒子 j の座標成分に関する偏微分は次のように求まる。
2rjk
∂rjk
∂rjk
= 2(xj − xk ), 2rjk
= 2(yj − yk ),
∂xj
∂yj
(
)
∂rjk ∂rjk ∂rjk
1
∴
,
,
=
(rj − rk )
∂xj ∂yj ∂zj
rjk
2rjk
∂rjk
= 2(zj − zk )
∂zj
(4.4)
粒子 j についての偏微分も同様に求めることができ、これらの粒子に関する偏微分の間に次の関
係が成り立つ。
(
∂rjk ∂rjk ∂rjk
,
,
∂xk ∂yk ∂zk
)
(
)
1
∂rjk ∂rjk ∂rjk
=
(rk − rj ) = −
,
,
rjk
∂xj ∂yj ∂zj
(4.5)
この結果は、内力に関して次の関係が成り立ち、これが作用反作用の力であることを意味する。
(i)
(i)
Fjk = −Fkj
(4.6)
したがってこれが成り立つ場合の (4.2) は、系に含まれるすべての粒子に関する和をとることに
よって次の結果が得られる。
∑ (e)
dP ∑ dpi
=
=
Fi
dt
dt
i=1
i
n
n
(4.7)
つまり系全体の運動量変化は、系全体に作用する外力の総和によって決まる。孤立系で外力が存在
せず、したがって Fi = 0 が成り立つ場合や、外力の和がゼロに等しい場合は系全体の運動量が保
存する。
23
4.2
角運動量の保存則
運動量の場合と同様に、それぞれの粒子についての角運動 Lj を定義すれば、内力だけが存在す
る場合に次の式が成り立つ。
∑
dLj
dpj
(e)
(i)
= rj ×
= r j × Fj +
rj × Fjk
dt
dt
(4.8)
k̸=j
これをすべての粒子についての和をとると、全角運動量の時間変化について次の式が得られる。
∑∑
∑
∑
dL ∑ dLj
dpj
(i)
(e)
rj × Fjk
(4.9)
=
=
rj ×
=
r j × Fj +
dt
dt
dt
j
j
j
j
k̸=j
上の式の最後の項の粒子 j と k に関する和には、j > k と j < k の2つの場合が含まれている。
そこで、その和を以下のように書き換えてみる。
∑∑
∑
∑
(i)
(i)
(i)
(i)
rj × Fjk =
(rj × Fjk + rk × Fkj ) =
(rj − rk ) × Fjk
j
k̸=j
j>k
(4.10)
j>k
ただしここで、内力に関して (4.6) が成り立つことを用いた。運動量の場合と同様に、粒子 j と k
間に働く内力が rj − rk に比例する場合、外積の性質から上の (4.10) の和はゼロベクトルとなる。
したがって、全角運動量の時間変化は、次の式で与えられる。
∑
dL
(e)
r j × Fj
= N, N =
dt
(4.11)
j
4.3
重心
系全体の平均的な位置を表す座標ベクトルとして、重心が定義されている。重心の速度や加速度
は、系全体の運動を表すものと考えられる。そこでまず系の全運動量の定義を用い、重心の速度
vG を次の関係を用いて定義する。
P(t) =
n
∑
mi vi (t) = M vG (t),
vG (t) =
i
n
1 ∑
mi vi (t),
M i
M=
n
∑
mi
(4.12)
i
つまり、系全体と同じ質量と運動量を有する質点の速度として、vG を定義する。座標と速度との
関係を考慮すれば、平均の座標ベクトル rG は次式を用いて定義すべきであることがわかる。
vG (t) =
4.3.1
drG (t)
,
dt
∴ rG (t) =
n
1 ∑
mi ri (t)
M i
(4.13)
重心系における運動
重心を座標の原点にとった系を重心系と呼ぶ。ある座標系における物体の位置座標を ri とおけ
ば、その座標系の原点からの系の重心の位置ベクトルを rG
ri = rG + ∆ri
(4.14)
このとき重心系における質点の位置ベクトルの平均値について、次の結果が成り立つ。
∑
∑
∑
m i ri = M rG +
mi ∆ri = M rG , ∴
mi ∆ri = 0
i
i
したがって、重心系における全運動量は常にゼロベクトルであることがわかる。
∑
∑ d∆ri
= 0, ∴ P = PG
∆P ≡
mi ∆vi =
mi
dt
i
(4.15)
i
i
系全体の運動量を P = PG + ∆P と置けば、P = PG が常に成り立つ。
24
(4.16)
4.3.2
重心系における角運動量
重心座標とその点からの変位を用い、全角運動量の定義を次式のように表すことができる。
∑
∑
L=
mi (rG + ∆ri ) × (vG + ∆vi ) = M rG × vG + LG , LG =
mi ∆ri × ∆vi
(4.17)
i
i
ここで LG は、重心座標において定義される角運動量である。上の式を時間で微分することによ
り、次の式が導かれる。
∑ (e) dLG
dvG
dLG
dL
= M rG ×
+
= rG ×
Fi +
dt
dt
dt
dt
i
(4.18)
一方で (4.11) を次の形に書き換えることができる。
dL ∑
(e)
=
(rG + ∆ri ) × Fj
dt
i
(4.19)
上の 2 式、(4.18) と (4.19) の比較から、重心座標における全角運動量に関する次の結果が得ら
れる。
∑
∑
dLG
(e)
=
∆ri × Fj =
∆Ni
dt
i
i
(4.20)
ここで、重心を原点とした場合の外力のモーメントとして、∆Ni を定義した。
地表における重力のように、一様で質点の質量 mi に比例する力の場合、力のモーメントは以下
にように表される。
N=
∑
ri × (mi geg ) = g(
∑
i
mi ri ) × eg = R × (M geg )
(4.21)
i
ただし、 g は重力加速度を表し、重力の方向の単位ベクトルを eg とした。つまり力のモーメント
は、重心にすべての質量 M が存在すると考えて求めた値と等しい。
4.4
質点系のエネルギー
次に、質点系全体のエネルギーの変化について考えてみる。これに関しても、系全体のエネル
ギーと内部運動のエネルギーに分けて考えることができるかどうかが問題となる。まず最初に、運
動エネルギーについて調べてみる。
4.4.1
全運動エネルギー
n 個の粒子が含まれる質点系全体の全運動エネルギーは、各質点の運動エネルギーの和として次
の式で与えられる。
K=
∑1
i
2
mi vi2
これを重心座標と相対座標を用いて次のように書き換えることができる。
∑1
∑1
∑
1
2
K=
mi (vG + ∆vi )2 = M vG
+
mi ∆vi2 + vG · (
mi ∆vi )
2
2
2
i
i
i
∑1
1
2
= M vG
+
mi ∆vi2
2
2
(4.22)
(4.23)
i
式 (4.16) が成り立つことから上の第 1 式の最後の項はゼロになる。したがって系全体の運動エネ
ルギーは、重心の運動量と重心系における各質点の運動エネルギーの和として表すことができる。
25
4.4.2
ポテンシャルエネルギー
系に含まれるそれぞれの質点が外力の影響を受け、その力がポテンシャルエネルギーを用いて表
される場合、系全体の外力によるポテンシャルエネルギーは次の式で与えられる。
V =
∑
Vi (ri ) =
∑
i
Vi (R + ∆ri )
(4.24)
i
つまり、それぞれの i 粒子に作用する外力ポテンシャルの総和で与えられる。
一方、粒子間に働く内力が存在し、その力がポテンシャルを用いて表される場合のエネルギーは
次の式で表される。
U=
1∑
Uij (|ri − rj |)
2
(4.25)
i̸=j
ただし、i, j 粒子間に働く内力のポテンシャル Uij を用いて表した。各粒子対に対して 1 個のポ
テンシャルが存在するため、独立の i と j に関する和をとった場合、数え過ぎの影響を補正する
ために 2 で割ってある。
以上の結果をまとめると、質点系全体の運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの総和を下記
のように表すことができる。
E=
∑1
∑
1
1∑
2
Uij (|ri − rj |)
M vG
+
mi vi2 +
Vi (ri ) +
2
2
2
i
i
(4.26)
i̸=j
4.4.3
2 体問題
第 3 節で述べた太陽の周りの惑星の運動の取扱いでは、太陽が静止していると仮定した。実際に
はこの仮定は正しくないことから、太陽と惑星の両方が含まれ、そのどちらの座標ベクトルも変化
する可能性があるとした取扱いがなされるべきである。
ここでは簡単な問題として、質量が m1 と m2 の 2 個の質点が含まれる系について考えてみる。
それぞれの質点の位置ベクトルを r1 、r2 としたとき、運動エネルギーと相互作用のポテンシャル
V が以下のように与えられているものとする。
E=
1
1
m1 v12 + m2 v22 + V (|r1 − r2 |)
2
2
(4.27)
この系の重心座標と相対座標を以下のように定義することができる。
m1 r1 + m2 r2
, r = r1 − r2
m1 + m2
m2
m1
r1 = R +
r, r2 = R −
r
m1 + m2
m1 + m2
R=
(4.28)
それぞれの質点の運動は、以下に示す方程式を用いて記述することができる。
m1
r dV (r)
d2 r1
= −∇1 V (r) = −
,
2
dt
r dr
m2
d2 r2
r dV (r)
= −∇2 V (r) =
2
dt
r dr
(4.29)
以下に示すように、上の方程式を変数 R と r に関する方程式に書き換えることができる。
(
)
1
d2 r1
d2 r2
d2 R
m1 2 + m2 2 =
=0
m1 + m2
dt
dt
dt2
(4.30)
(
)
d2 (r1 − r2 )
d2 r
1
1
r dV (r)
=
=
−
+
dt2
dt2
m1
m2 r dr
26
つまり、重心は等速度運動であり、相対座標については次の式で定義される換算質量 (reduced mass)
が µ である質点の、中心力の場における運動となる。
1
1
1
+
,
=
µ
m1
m2
µ=
m1 m2
m1 + m2
(4.31)
(4.27) の全エネルギーも、重心座標と相対座標の自由度に分離した形に表すこともできる。
E=
1
˙ 2 + 1 µ˙r2 + V (r)
(m1 + m2 )R
2
2
(4.32)
同様に、(4.17) にしたがって重心系における各運動量を求めることができる。
˙ + m2 (r2 − R) × (˙r2 − R)
˙
LG = m1 (r1 − R) × (˙r1 − R)
(
(
)
)
m2
m2
m1
m1
= m1
r×
r˙ + m2
r×
r˙ = µr × r˙
(m1 + m2 )
m1 + m2
(m1 + m2 )
m1 + m2
(4.33)
次に、極座標 (r, θ, ϕ) を用いた場合について考えてみる。まず、相対座標 (r, θ, ϕ) は、次式を用
いて定義される。
x = r sin θ cos ϕ,
y = r sin θ sin ϕ, z = r cos θ
(4.34)
上の式の時間微分を求めることから、速度変数についての関係が導かれる。
˙ sin ϕ
x˙ = (r˙ sin θ + rθ˙ cos θ) cos ϕ − (r sin θϕ)
˙ cos ϕ
y˙ = (r˙ sin θ + rθ˙ cos θ) sin ϕ + (r sin θϕ)
(4.35)
z˙ = r˙ cos θ − rθ˙ sin θ
速度の 2 乗の値も次の式で表される。
˙ 2
x˙ 2 + y˙ 2 + z˙ 2 = (r˙ sin θ + rθ˙ cos θ)2 + (r˙ cos θ − rθ˙ sin θ)2 + (r sin θϕ)
= r˙ 2 + r2 θ˙2 + r2 sin2 θϕ˙ 2
(4.36)
この結果を (4.32) に代入すれば、相対運動に関するエネルギーを次のように表すことができる。
Eint =
1
µ(r˙ 2 + r2 θ˙2 + r2 sin2 θϕ˙ 2 ) + V (r)
2
(4.37)
次の節で問題となる剛体のように質点間の距離が一定に保たれる場合、上のエネルギーは実質的に
次の回転運動に関わるエネルギーの形に表される。
Erot =
1 ˙2
I(θ + sin2 θϕ˙ 2 ),
2
この式に現れる定数 I は、慣性モーメントに対応する。
27
I = µr2
(4.38)