子豚の血清遊離アミノ酸の動態に及ぼす自然哨育と人工哨育の比較

子豚の血清遊離アミノ酸の動態に及ぼす
自然H
甫育と人工晴育の比較
岩 津 季 之 ・ 楢 崎 昇 ・ 花j
畢修
酪農学園大学,江別市 0
69
(
1
9
9
4
.1
.1
8 受理)
キーワード:血清遊離アミノ酸,血清蛋白量, 自然晴育子豚,人工H甫育子豚
要
実験方法
事
句
自然日甫乳および初乳を全く給与せずに人工晴乳し
供試豚は, 2腹 2
4頭の一代雑種 LDを生後直ちに
た子豚を用い,血清遊離アミノ酸の動態を比較検討
二分して, 自然哨乳区と人工H甫乳区に配置して飼育
した.その結果,アミノ酸総量,必須,非必須およ
し,それらから無作為に抽出した各区 6頭,合計 1
2
び非蛋白構成の各アミノ酸総量は,出生後 1
2,2
4時
頭を用いた.自然晴乳区は 3週齢で離乳した.人工
間で人工哨乳区が自然晴乳区より有意に低かったが,
晴乳区は次のように晴育した.出生 1日目は,免疫
7
2時間になると人工哨乳区が自然晴乳区の値に近づ
抗体供給源として豚血清 γ
g
l
b粉末1.2gと育児用
き,それ以降は両区近似した値で推移した.しかし,
粉乳 6
.
3gに温湯を加えて 25mlとし, 2時間間隔で
2
個々のアミノ酸についてみると,人工晴乳区は, 7
1
2回晴乳した .2日目は, γ
g
l
b粉末1.8gと育児用
時間以降も Arg
,P
roおよび Glnなどが長期にわた
粉乳 1
0
.
2gに温湯を加えて 40mlとし, 3時間間隔
り低く推移し,一方,自然晴乳区は Tauや Hy-Pro
で 8回哨乳した. 3日目は,育児用粉乳 7
.
5gと市販
が時間の経過と共に著しく増加するなど,区によっ
の子豚用代用乳 7
.
5gに温湯を加えて 5
0mlとし, 4
て特異的な変化がみられた.
時間間隔で 6回晴乳した. 4日目は,子豚代用乳 2
0
gに温湯を加えて 8
0mlとし, 6時間間隔で 4回晴乳
緒 昌
した. 5日目は,子豚用代用乳 18gに温湯を加えて
初生子豚における血清蛋白質の動態については数
7
5mlとし, 4時間間隔で 4回目甫乳した. 6日目以降
多くの報告がみられる(古郡ら;1
9
7
3,木村ら;1
9
8
9,
は代用乳を粉状のまま自由採食させ, 1
0日齢で完全
斎藤;1
9
7
8
)
. この時期の蛋白質代謝は,摂取蛋白質
離乳した.供試豚は,本実験と並行して初乳無給与
の量や質,初期成長や更には免疫獲得などと深く関
の人工晴育子豚に対して豚血清由来の γ
g
l
bを経口
連するが,血清遊離アミノ酸の動態についての報告
投与し,免疫抗体獲得に及ぼす効果の検討に用いら
は殆ど見当たらない.血清中の遊離アミノ酸は摂取
れた(楢崎;1
9
9
0
)
. このことから,供試した市販の
蛋白質の影響を受けるだけでなく,様々な代謝経路
代用乳には γ
g
l
bが添加されていたので,その影響
と密接なつながりがある.従って,血清遊離アミノ
を避けるためパイノサイトーシスが作用する生後 2日
酸を指標とした子豚の栄養生理の把握は重要な意義
間は市販の代用乳を用いず,.γ
g
l
b粉末と育児用粉乳
を有するものと考えられる.
で,代用乳を調製した.代用乳の調製割合および給
そこで,本実験では自然晴乳と人工哨乳の子豚に
ついて血清遊離アミノ酸の動態を比較検討した.
1
9
5
1
) の初乳固形分率および吸乳量
与量は丹羽ら (
を参考に決定した.血液サンプルは出生後 1
2,2
4,
Comparisonbetweenn
a
t
u
r
a
l
l
yn
u
r
s
i
n
ganda
r
t
i
f
i
c
i
a
l
l
yn
u
r
s
i
n
gont
h
echangeso
fserumf
r
e
eamino
a
c
i
d
si
np
i
g
l
e
t
s
: ToshiyukiIWASAWA
,NoboruNARASAKIandTadashiHANASAWA (RakunoGakuen
U
n
i
v
e
r
s
i
t
yEbetsu0
6
9
)
北畜会報, 3
6
:3
7
4
0
- 37-
1
9
9
4
岩i
畢季之・楢崎昇・花津修
(
昨l/dl)
旧TNPAA
人 工 帆 区 図 TAA図 TEAA日 TNEAA
自然帆区日 TAA 図 TEAA~TNEAA 目 TNPAA
7
0
0
5
0
0
3
0
0
1
0
0
0
1
2時間後
2
4時間後
7
2時間後
2週齢
1週齢
3週齢
5週齢
9週齢
図 1.血清中における各アミノ酸総量の経時的変化
血清中の必須アミノ酸 (EAA) の経時的変化は図
7
2時間および 1
,2
'3
,
,5
,9週齢に前大静脈から採
2のとおりである.
取し,分離血清を前処理して,高速液体クロマトグ
1
2時間において, I
leを除く EAAは人工晴乳区が
ラフィーにより血清遊離アミノ酸を定量分析した(島
有意に低い値で (P<O.
0
0
1,P<O.Ol,P<0.05),
津製作所;1
9
9
0
)
.
なかでも Lysは自然晴乳区の 1
/
3弱の 2
1
.
1,Argは
結 果
約1
/
4の 6
.
2
0と低く,更に Metは検出できず,両区
子豚血清のアミノ酸総量 (TAA),必須アミノ酸総
に大きな聞きがみられた.2
4時間では自然晴乳区の
量 (TEAA),非必須アミノ酸総量 (TNEAA)およ
EAAは減少傾向を示したが,両区の差はあまり狭ま
び非蛋白構成アミノ酸総量 (TNPAA) の経時的変
らず, Leu
,Lys
,Arg
,H
isおよび Metに有意差が
/
化は図 1のとおりである.アミノ酸濃度はすべて μmol
みられた (P<O.Ol,P<0.05). 7
2時間になると,
自然晴乳区の V
al,Leu,Lys,Arg,His,Met,Phe
d
lで示した.
2時間では,人工哨乳区:自然哨乳区の順
出生後 1
は2
4時間の値から更に減少して人工晴乳区の値に近
に
, TAA3
2
1
.
0
9:9
0
5
.
3
9,TEAA1
1
7
.
3
7:2
7
0
.
0
1,
づいたため,区間に有意差はみられなくなった.し
TNEAA1
7
4
.
4
4:5
6
9
.
9
0,TNPAA2
9
.
2
9:6
5
.
4
9
か し な が ら , 人 工 哨 乳 区 の Argは 3週 齢 ま で
で,人工晴乳区の各アミノ酸総量はいずれも自然晴
5.66-9.83と自然哨乳区の 1/4-3/5と低<,更に 5
乳区よりも有意に低い値を示した (P<0.001).24時
週齢に至るまで自然晴乳区を下回り, 1
,2週齢でも
間では人工晴乳区は 1
2時間の値と殆ど変わらなかっ
有意差がみられた (P<O.Ol,P
<
0
.
.
0
5
)
. 一方,人工
た.自然哨乳区は 1
2時間に比べて減少したが, TEAA
H
甫乳区の
を除いて人工晴乳区との聞に有意差がみられた (P<
が
, 7
2時間以降は著しく増加し, 1週齢から 3週齢
0
.
0
1,P<0.05). 7
2時間になると人工晴乳区の各ア
にかけて, 1
3.35-16.84の範囲で推移したのに対し,
Metは 2
4時間まで微量で検出できなかった
ミノ酸総量は 2
4時間の値から大きく増加し,自然哨
自然晴乳区は 3.65-8.33と低く推移し, 2
,3週齢で
乳区の値に近づき,有意差はみられなくなった.そ
1
)
.
有意差がみられた (P<0.05,P<O.0
の後,両区は, TAA700-600,TEAA180-150,
各非必須アミノ酸は 2
4時間まで大部分が人工暗乳
TNEAA4
5
0-3
5
0の範囲で近似して推移し, 9週齢
区で、有意に低いが (P<0.001,P<0
.
0
1,P<O.0
5
),
に至るまで有意差がみられなかった. TNPAAは l
7
2時間以降では両区近似した値で推移した.しかし,
週齢と 2週齢で区間に有意差がみられた (P<O.Ol,
Glnは
, 1
2時間で自然哨乳区の 1
/
8の 4
.
8
4,2
4時間
P<0.05).
でも 1
/
7の 6
.
9
7に過ぎず,両区の値が近づいたのは
円
Hu
qtu
子豚の血清遊離アミノ酸の動態
(
μ即 l
/
dl
)
(
μI
l
l
Ol
/
dl
)
,
.
(
リ
ン
5
0
4
0
4
0
3
0
3
0
2
0
1
0
2
0
6
0
3
0
1
0
、
》
グ
スレオニン
J
1
3
ヒスチジン
(
μ即 l
/
dl
)
ロイシン
イソロイシン
1
5
1
0
.
.
・
5
リヲン
6
0
アルギニンC
2
5
4
5
1
5
1
5
5
2
0
1
8
フェニルアラニン
1
5
1
0
1
0
4
2
0
1
22
47
2
h1
1
2 3 5 9
く~八
1
7
2
h1 2 3 5 9
9
2
h1 2 3 5 9
1
1
22
47
自然晴乳区一一一
人工晴乳区............
図2
. 血清中における必須アミノ酸の経時的変化
l週齢以降であった.また, P
r
oは 1週齢に至るまで
であった (P<O.OOl).72時間になると自然晴乳区は
人工晴乳区は 20.57-44.01の範囲で推移し,自然晴
減少し,一方,人工晴乳区は増加し,その後 3週齢
2時間, 1週齢でも有意
乳区の 1/8-2/5に過ぎず, 7
まで 7
2時間とほぼ同様の値で推移した.この間, 3
.
0
5
)
. 非蛋白構成ア
差がみられた (P<O.OOl, P<0
週齢まで各時期とも区間に有意差がみられた (P<
,2
4時間まで両区近似し
ミノ酸の Tauと Hy-Proは
0
.
0
0
1
)
.
4週齢以降になると両区の値は近似して推移
て推移し, 7
2時間になるといずれの区も著しく増加
し,有意差はみられなくなった.
2時間以降も,自然晴乳区は増加し
した.しかし, 7
考
続けたのに対し,人工晴乳区は減少した.このため,
Tauは 3週齢, Hy-Proは 5週齢まで自然晴乳区が
察
自然哨乳区は血清遊離アミノ酸総量,必須,非必
上回り,いずれも 1
,2週齢で有意差がみられた (P<
2時
須および非蛋白構成の各アミノ酸総量が出生後 1
.
0
1
)
.人工晴乳区の C
i
tと Ornは
, 1
2時
0
.
0
0
1,P<0
間で最も高<, 7
2時間まで急速に低下し,その後ほ
間で自然晴乳区に比べて有意に低く (P<O.OOl),C
i
t
ぽ安定した推移を示した.それに比べて人工晴乳区
は1
/
4,Ornは 1
/
3の値であった.その後も 2週齢ま
の血清蛋白量およびアミノ酸総量は 1
2時間で著しく
i
tは 2
4時間および 2週齢
で人工哨乳区が下回り, C
4時間でも殆ど変化がなく, 7
2時間にな
低 <,更に 2
(P<0.05)で
, Ornは 2
4時間および 1週齢 (
Pく 0
.
0
1
)
って増加がみられた.人工哨乳区は出生後 2日間は
でそれぞれ有意差がみられた.その間,人工晴乳区
市販の子豚用代用乳を用いず,育児用粉乳と免疫抗
のC
i
tと Ornは徐々に増加する傾向を示し, 3週齢で
g
l
b粉末を温湯に溶かして
体供給源として豚血清 γ
自然晴乳区の値に近づいた.
給与した.一方, 自然 H
甫乳区は同腹子豚の半分を人
血清蛋白量は人工晴乳区が 3週齢まで 3.42-3.95
工晴乳区のために 1・り除いたので,乳頭の競合もな
g
/
d
lと低い範囲で推移した.特に 1
2時間および 2
4時
く初乳を十分取りjL_. l'ことができた.豚初乳には蛋
間では,それぞれ自然晴乳区の 5
/
8と有意に低い値
白質が 16-20%含まれ,時間の経過とともに著しく
- 39-
岩i
畢季之・楢崎昇・花津修
減少して 3日目には 5-6%となり,その後ほぽ安定
文 献
するといわれており,また免疫の賦与のみならず,
新生子豚の栄養に不可欠なアミノ酸やペプタイドな
EASTER,R
.A.,R
.S
.KATZandD
.H.BAKER,(
1
9
7
4
)
どを多く含んでいるといわれている(古郡;1
9
8
0
),
A
r
g
i
n
i
n
e
:A d
i
s
p
e
n
s
a
b
l
eaminoa
c
i
df
o
rp
o
s
-
このことから,摂取乳汁の量並びに蛋白質の質的な
t
p
u
b
e
r
t
a
l
.growth and pregnancy o
fs
w
i
n
e
.J
.
違いが血清遊離アミノ酸濃度に反映したと推察され
a
n
i
m
.s
c
i
.,3
9
.
:1
1
2
3
1
1
2
8
.
る.個々のアミノ酸レベルで、比較すると人工晴乳区
ELLIOT, R
.F
., G
.W. VANDER NOOT, REX L
.
2時間以降,長期にわた
においては Argや Proが 1
GILBREATHandHANSFISHER,(
1
9
7
1
)E
f
f
e
c
to
f
って低い値で推移した.この時期の子豚は尿素合成
d
i
e
t
a
r
yp
r
o
t
e
i
nl
e
v
e
loncompositionchangesi
n
と体の蛋白質合成の両方を維持するのに十分な速度
sowcolostrumandm
i
lk
.]
.anim.s
c
i
.,3
2
.
:1
1
2
8
t a.
l;
で Argを合成することができず (EASTERe
1
9
7
4
),また尿素回路の中間体である Ornや C
i
tも 2
1
1
3
7
.
古郡
浩・美粛津康民・秋田富士・姫野健太郎, (
1
9
7
3
)
週齢まで低い値で推移したことから,尿素合成能力
子豚の人工育成による血清蛋白質の消長について,
が低いことによる Argの合成量の低下か,もしくは
1
3
8
.
畜産試験場研究報告, 26:3
飼料性の Arg摂取量が低かったためと思われる.ま
た
, Proは豚乳蛋白質中に多く含まれているといわれ
E
L
L
I
O
Te
ta.
l;1
9
7
1
),ここでも代用乳の摂
ており (
取不足が反映しているのかもしれない.それに対し
て自然晴乳区は尿素回路の中間代謝物である Ornや
C
i
t
,更には分娩以降,時間の経過とともに豚乳中の
古郡
浩
, (
1
9
8
0
)子豚の晴育ーその生理と栄養 (
3
),
畜産の研究, 34:8
5
0
8
5
4
.
木村容子・野呂明弘・松本尚武・石井泰明, (
1
9
8
9
)
新生子豚の発育に伴う血液性状の変動,畜産の研
8
7
5
9
2
.
究
, 43:5
倉津信夫・永田裕・真田武, (
1
9
8
6
) 授乳母豚・子豚
9
8
6
),
濃度が増加するといわれる Tauや(倉津ら;1
の血清および豚乳のタウリン値と遊離アミノ酸値
コラーゲンに特異的に含まれている Hy-Proなどが,
について, 日豚研誌, 23:7
5
.
2
4時間以降 2週齢まで著しく増加することが観察き
楢崎昇, (
1
9
9
0
) 人工晴乳初生豚に対する豚血清
れ,血清蛋白量の推移も併せて考えると,代謝が充
γ-glb経口投与の効果,平成元年度伊藤記念財団,
進して順調に発育したと推察される.
食肉に関する助成研究調査報告書, 8:8
6
91.東
2時間までの体蛋白合成
以上のことから,出生後 7
が盛んな初生期からその後の晴乳期間における子豚
の栄養生理状態を把握するうえで,血清遊離アミノ
尽.
丹羽太左衛門・伊藤祐之・故横山
弘・大塚満須彦,
(
1
9
5
1
) 豚の泌乳に閲する研究(1.0
甫乳の習性,
酸の動態は有効な指標となることが示唆され,豚乳
泌乳量および乳汁組成等について),農業技術研究
および代用乳の成分組成や,これら乳汁の摂取量の
3
5
1
5
0
.
報告, G 1:1
相違による血清遊離アミノ酸濃度への影響など,今
後更に検討が必要で、あると思われる.
斎藤健光, (
1
9
7
8
)豚における血液性状成分の発育に
84:3
9
6
3
9
9
伴う変動について,獣医畜産新報, 6
島津製作所編, (
1
9
9
0
)島津アミノ酸分析システム応
1
4
. 島津製作所.京都.
用データ集, 2
- 40-