2014
号外
ブルカー・オプティクス Application Note
タンパク質分析用FT-IR システム CONFOCHECK
による軽水中のタンパク質の二次構造解析
はじめに
生体を構成する成分は、いずれも生命にとって重要な機
能を果たしており、その中でもタンパク質は多岐にわたる働
きを有するため、生命活動の仕組みを知る上で、その基本
的性質の研究が必要不可欠です。タンパク質の機能と構造
には非常に深い関連性があり、タンパク質が多様な働きを
発揮できるのは、それぞれに適した高次構造を取ることが
できるためと考えられています。タンパク質の凝集やフォー
ルディング現象などは、アルツハイマー病、プリオン病など
の疾病にも関係を持つとされています。
赤外分光法を用いることで、タンパク質の二次構造の解
析が可能となります。タンパク質の二次構造を解析する代
表的な手法として、紫外可視域における円二色性(Circular
Dichroism: CD)分光法が一般的に用いられていますが、固
体や懸濁液では測定ができない、分解能が低いなどの問
題があります。これに対して赤外分光法では、試料の状態
に影響されることなく、二次構造の定量的な解析や、折り畳
み、凝集などのプロセスの追跡が可能です。
タンパク質の二次構造の違いは、赤外スペクトルにおいて、
図1 に示すように Amide I 吸収帯(1700 ~ 1600 cm-1)に反
映されます。しかしながら、この波数領域は、タンパク質に
とって重要な存在である水(軽水)による強い吸収と重なる
ため、とくに水溶液中のタンパク質について、その二次構造
の僅かな変化を精度よく解析するためには、高い感度と広
い測光ダイナミックレンジを併せ持つ赤外分光計が求めら
れます。
ブルカー・オプティクスの “CONFOCHECK” は、このよう
な要求に対応する FT-IR システムであり、軽水溶液中のタ
ンパク質の定性および定量、二次構造の定量的解析、さら
には環境に依存した二次構造の変化に関する動的解析を
可能にします。ここでは、CONFOCHECK による、タンパク
質の二次構造の温度依存性に関する解析事例について紹
介します。
図1. タンパク質の二次構造の違いを反映する
Amide I 赤外吸収帯( 波数は各構造の平均的な値)
試料、分析システム
試料タンパク質としてリボヌクレアーゼ A (RNase A)を用
い、その軽水溶液を10 μg / μl に調整しました。測定には、タ
ンパク質水溶液分析用ATR アクセサリー “Bio-ATR II” を
装着したCONFOCHECK を使用しました。この組み合わせ
は、水溶液中の微量タンパク質について、環境変動に伴う
二次構造の変化の分析に適しており、溶液の量も20 μl 程
度と少量で測定が可能です。ここでは、試料溶液20 μl を
25 ℃から75 ℃の間を昇降温し(2 ℃ 間隔)、各温度での赤
外スペクトルを連続的に測定することで、二次構造の変化
とその可逆性に関する解析を行いました。
結果
図2-a に、昇温過程におけるRNase A の赤外スペクトル
のAmide I 吸収帯を示します(溶媒のスペクトルを差し引い
たデータ)。まず、昇温開始直後のAmide I 吸収帯において
は、ピークトップが1640 cm-1 以下と比較的低い波数にある
ことから、室温付近の軽水中におけるRNaseA には、β
シート構造が多く存在していることが分かります。続いて、
昇温とともにこの構造が減少、70℃以上でほぼ崩壊し、こ
れに代わって高波数側の吸収強度が増加していることが分
かります。このことは、昇温により不規則構造、あるいはそ
れに近い構造の比率が増加していることを示唆しています。
これらの挙動は、各温度で測定したスペクトルについて、初
期状態(25℃)におけるスペクトルとの差分を求めることで、
より明確に捉えることができます(図2-b)。
さらに、各構造に帰属されるピークの強度変化を追跡する
ことで、二次構造の温度依存性をより正確に理解すること
が可能となります。そこで、試料温度に対して、βシート構
造と不規則構造に由来するそれぞれのピークについて積分
強度をプロットした結果を図2-c (beta sheet/1649 ~ 1610
cm-1 および disordered structure/1700 ~ 1648 cm-1 ) に
示します。この結果から、RNase A は、昇温から降温の過
程において、可逆的に構造を変化させていることが確認で
きます。これに加え、各ピークの強度から定量的な評価へ
展開することも可能になります。
まとめ
この解析例が示すように、赤外分光タンパク質分析システ
ムCONFOCHECK を用いることで、軽水溶液中における微
量タンパク質の二次構造の変化を解析することが可能です。
測定に必要な試料の量は20 μl と微量であり、貴重な試料
についても高い精度で解析を行うことができます。
ここでは、温度依存性に関する解析例を紹介しましたが、
CONFOCHECK は、pH やストレスなどの環境変化に伴う変
性の追跡や、リガンドとの相互作用の解析などにも応用す
ることが可能であり、CD 法等の他の手法と併用することで、
タンパク質の高次構造に関するより詳細な知見が得られる
ものと期待できます。
図2. 軽水中におけるRnase Aの赤外スペクトルの温度依存性
a) 昇温過程における赤外スペクトル
b) 昇温過程における赤外差スペクトル(25℃ との差分)
c) β シートおよび不規則構造に由来するピークの強度変化
参考文献
Alexander Wittemann, Matthias Ballauff, Analytical Chemistry, 76(10),
(2004)
Amanda S. Lee, Charles Galea et al, J. Mol. Biol. 327, 699
(2003)
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