卸DI実例集 卸DI実例集

卸DI実例集
第365回
Question No.1595
身の粘膜下に再分布し、全身の粘膜で特異的な分
インフルエンザワクチンで鼻から噴霧するも
のが報道されたが、 どのようなものがあるの
か知りたい。 (2013年10月)
泌型IgA抗体応答があることが知られている。つ
まり、鼻の粘膜にワクチンを接種すると、特異的
IgA抗体の分泌は鼻の粘膜に限定されず、呼吸器・
消化器・泌尿生殖器上の粘膜に誘導される。
Answer
~国内のインフルエンザワクチンについて~1)
~経鼻インフルエンザワクチンの効果~1)
現在国内で使われているインフルエンザワクチ
ワクチン高病原性鳥インフルエンザH5N1 は、感
ンは、不活化したウイルス抗原を“皮下注射”して
染部位が呼吸器に限局されずに消化管感染の報告
ウイルス抗原に対する免疫を誘導するものである。
もある。したがって経鼻ワクチンによって誘導さ
これは感染防御を目指すものではなく、「発症
れる全身の粘膜上の免疫は、呼吸器に限局しない
予防」「重症化予防」を目的としている。ワクチン
感染を起こすこれらのウイルスにはより効果的と
の注射により誘導される抗体は血液中に存在する
なる。
ものであり、インフルエンザウイルスがヒトに感
さらに、ワクチンの皮下接種では認められな
染したのちに効果を発揮する。インフルエンザに
かった効果として、抗原性の異なるウイルス株に
対するワクチンは、例年次の年の流行を予測しワ
対しても高い交叉防御能を示した報告がある。経
クチンに用いる株を決定し準備される。インフル
鼻ワクチンのメリットは、なんといっても「感染
エンザウイルスは抗原性が変化しやすく、流行予
自体を防御する能力」と「抗原性の一致しないウ
測が正しい場合には重症化予防の効果がみられる。
イルス株に対しても一定の効果がある」ことが挙
一方、流行予測が外れた場合には、その効果は低
げられる。
くなる。それは、注射により誘導される血中の中
和抗体であるIgG抗体が、ウイルスの株特異的に
~国内で使用されている経鼻インフルエンザワク
チンについて~1)2)
働くためである。
経鼻ワクチンは、米国で 03 年に承認された「フ
~注射・経鼻ワクチンのメカニズムの違い~
1)
ルミスト」
(米Medlmmune社が製造販売)がある。
抗体にはいくつかの種類があり、粘膜上に分泌
フルミストは、低温で増殖するウイルス株を用い
される抗体も存在する。しかし粘膜上に分泌され
た生ワクチンである。添付文書のデータでは、副
る抗体は、ワクチンの注射によっては、誘導され
反応として鼻炎用症状が 40~50%、発熱や咽頭痛
ない。感染の場となる呼吸器の粘膜上に、感染を
が 10%前後に起きるとされている。また、喘息を
阻止する抗体が準備されれば、感染自身を抑える
はじめとする基礎疾患を持つ患者や、インフルエ
ことにつながり、効果の高いワクチンとなる。経
ンザにおける最も高リスクのグループ(乳幼児や
鼻粘膜投与型インフルエンザワクチン(経鼻ワク
高齢者など)が適応年齢から外れている。国内で
チン)は、注射ではなく鼻に噴霧することによっ
は、輸入して使用する為、副反応被害が生じた場
て、粘膜上インフルエンザウイルスに対する抗体
合に国の救済制度は適用されず、補償は輸入代理
を誘導するワクチンである。
店による独自の規定に準じることに注意が必要で
粘膜免疫には、1か所の粘膜で刺激を受けると、
粘膜免疫を担当する分泌型IgA抗体産生細胞が全
ある。アメリカ合衆国における不活化ワクチンと
生ワクチンの比較を表1に示す。
Vol.38 NO.1 (2014)
55 (55)
~日本での開発・今後の導入予定~1)3)
4)横 浜市衛生研究所ホームページ 横浜市感染
国内では、より安全な方法として、生きたウイ
症情報センター インフルエンザ生ワクチン
ルスを使わず不活化抗原の経鼻ワクチンを開発中
について
である。動物を用いて安全性を確認する前臨床試
http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/eiken/
験が終了し、今のところ特に大きな問題は認めら
idsc/disease/influvaccine.html
れていない。今後臨床治験を得て、臨床応用され
〈執筆協力会社〉㈱サンキ 医薬品部学術情報課
ることが期待されている。
毎年冬に流行を起こすインフルエンザを予防す
るためには、変異株にも有効でさらに感染を阻止
するワクチンの実用化が必要である。経鼻ワクチ
ンの利用により、季節性インフルエンザだけでな
く流行株の予測が不可能な新型インフルエンザに
対しても、パンデミック前に有効なワクチンの準
備が可能になる。インフルエンザの交叉防御およ
び感染防御を目的としたワクチンとして、早期の
実用化が望まれる。
高校2年生(16歳)で留学予定の方がいる。
その際に、 ポリオワクチンを接種する必要が
あるようだが、 不活化ポリオワクチンの「イ
モバックスポリオ皮下注」
を投与しても大丈夫
か? (2013年2月)
Answer
イモバックスポリオ皮下注は、サノフィパス
ツール社(フランス)によって開発された3価不
表14)
アメリカ合衆国におけるインフルエンザの不活化ワクチンと
生ワクチンとの主要な相違点
不活化ワクチン
生ワクチン
投与方法
筋肉内注射
ワクチンのウイルスの状態
病原性が弱い、
死んだウイルス 生きているウイ
ルス
接種対象年齢
生後6か月以上 2− 49 歳
鼻の中に噴霧
インフルエンザ関連の合併症を
起こす可能性が高い人への接種 できる
ができるか
できない
喘息のこどもや、過去 12 か月間
に喘鳴が見られた2−4歳のこ できる
どもへの接種ができるか
できない
妊婦への接種ができるか
できる
できない
強度の免疫不全状態の人の家
族・濃厚接触者への接種ができ できる
るか
できない
抗インフルエンザウイルス剤投
できる
与と同時に接種ができるか
できない
チメロサールを含有するか
Question No.1596
を用いて生産され、不活化ポリオウイルス1型
(Mahoney株)40D抗原単位、不活化ポリオウイル
ス2型(MEF−1株)8D抗原単位、及び不活化ポ
リオウイルス3型(Saukett株)32D抗原単位が含
まれている。本剤は、高い免疫原性と安全性プロ
ファイルがさまざまな臨床試験において立証され
ており、1982 年7月のフランス承認以降、87 か国
(2013 年6月現在)で使用されている。
急性灰白髄炎(ポリオ)はポリオウイルスが引
含有するものと
含有しないもの 含有しない
とあり
接種後の鼻咽頭部からのインフ
検出されない
ルエンザウイルスの検出
活 化 ポ リ オ ワ ク チ ン(IPV) で あ り、Vero細 胞
接種後7日後ぐ
らいまで検出さ
れる
き起こす疾患で、主な症状は運動神経麻痺である。
1型、2型、及び3型の3つの血清型に分類され
るが、症状が同じであるため、臨床的に見分ける
ことはできない。ポリオの感染を避けるには、こ
れらの血清型のそれぞれに対する中和抗体が必要
である。2011 年5月 26 日、IPVの導入に関する厚
生科学審議会感染症分科会予防接種部会による検
討会が開催され、その結果を踏まえて 2011 年7月
1日より、サノフィパスツール社は小児を対象と
した国内第Ⅲ相臨床試験を実施した。現在までに
初回免疫(3回)及び追加免疫(1回)を終了し、
【参考文献】
1)経 鼻インフルエンザワクチンのいま 長谷川秀
日本人小児に対する良好な免疫原性が得られ、安
全性においても良好な忍容性が確認されている。
樹 ExpertNurse Vol25.No.13 P10 - 14 2009
本邦では「急性灰白髄炎の予防」を効能又は効果
2)今 冬の感染症はここを押さえろ! 野村和博、
とした承認申請を行い、2012 年4月に製造販売承
井田恭子、久保田文 日経メディカル 第 541
認を取得し、2013 年5月に追加免疫に対する追加
号 P57 2012.12
承認を取得した。1)
3)ニ ューカレント Pipeline Report 第 23 巻 第
28 号 通巻 636 号 P201 2012
Vol.38 NO.1 (2014)
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効能・効果
用法・用量
急性灰白髄炎の予防
を接種したことがない人への接種
アメリカやカナダの先進国においては、不活化
通常、1回0.5mLずつを3回、
初回免疫 いずれも3週間以上の間隔で
皮下に注射する。
ポリオワクチンを2回プラス1回の合計3回接種
通常、初回免疫後6ヶ月以上
追加免疫 の間隔をおいて、1回 0.5mL
を皮下に注射する。
週間の間隔をあけて2回目を接種し、その後、初
(用法及び用量に関連する接種上の注意)
1.接種対象者・接種時期
本剤の接種は、通常、生後3か月から 90 か月までの
間にある者に行うが、初回免疫については、標準として
生後3か月から 12 か月までの者に3~8週間の間隔で、
追加免疫については、標準として初回免疫終了後 12 か
月から 18 か月を経過した者に接種する。なお、国内に
おいて4回を超える接種後の有効性及び安全性は検討さ
れていない。
2.他のワクチン製剤との接種間隔
生ワクチンの接種を受けた者は、通常、27 日以上、
また他の不活化ワクチンの接種を受けた者は、通常、6
日以上間隔を置いて本剤を接種すること。ただし、医師
が必要と認めた場合には、同時に接種することができる
(なお、本剤を他のワクチンと混合して接種してはなら
ない)。
不活化ポリオワクチンの留学する方への投与に
関して明確な決まりはない。ただ、パターンとし
2)
ては下記の2つが考えられる。
【パターン①】生まれてから一度もポリオワクチン
されているようである。1回目を接種後、4~8
回接種してから6~12ヵ月後の間隔をあけて3回
目を接種。
【パターン②】過去にポリオワクチンを接種したこ
とがある方で、トラベラーズワクチンとして接種
先進国では、トラベラーズワクチン(海外渡航
前の接種)として、渡航前の4週間以内に接種。
ただ、成人に対する接種の定めは特にないので、
主治医に相談して頂きたい。
留学先の国によって、接種に関する指針が異な
る可能性があるので、最終的にはその接種指針に
従って頂きたい。
[参考資料]
1)
「イモバックスポリオ皮下注」インタビュー
フォーム(2013 年6月作成(第4版))
[調査機関]
2)サノフィ株式会社 TEL:0120-870-891
〈執筆協力会社〉㈱琉薬 DI室
Vol.38 NO.1 (2014)
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