第十一回 空気抵抗 基礎物理学 I 2014 年 6 月 26 日 空気から受ける抵抗力 1 大気中を運動する物体は空気から抵抗力を受け、その抵抗力の大きさは物体の形状やサイズ、ま た速度によっても変化する。ここでは球状の物体に働く空気抵抗の大きさを議論する。 物体が運動する速度 v が非常に小さいときに、球体が受ける空気抵抗の大きさは次の式で表され ることが知られている(ストークスの法則)。 F = 6πηRv ≡ bv. (1) ここで、η は空気の粘度と呼ばれる量であり、空気の場合 1.82 × 10−5 [Pa・s] である。また R は 球の半径である。このように球体の運動速度が小さいときには速度に比例した大きさの抵抗力を受 ける。これを粘性抵抗という。 球体がより速い速度で空気中を運動し、周囲に渦が生じるくらいになるときの抵抗力はどれくら いの大きさになるだろうか。そのようなときの空気抵抗の大きさは次の式で表されることがわかっ ている。 F = 1 CρAv 2 . 2 (2) ここで C は抵抗係数と呼ばれ、球の場合は 0.5 となる。ρ は空気の密度、A は断面積である。この ように球体の運動速度が大きいときには、速度の二乗に比例した大きさの抵抗力を受ける。これを 慣性抵抗という。 雨滴の運動方程式 2 空気中を落下する雨滴の運動を調べよう。まずは単純に雨滴に粘性抵抗のみが働くとする。図 1 に雨滴の受ける力を示した。下向き(重力加速度の向き)を x 軸の正方向に取れば雨滴の受ける 力は F = mg − bv (3) となる。ここで m は雨滴の質量である。したがって雨滴の運動方程式は d2 x dt2 dv ∴m dt m = mg − bv (4) = mg − bv (5) となる。式(5)を解いて、雨滴の速度の時間変化を調べよう。 1 bv mg x 図 1: 雨滴の受ける力。 式(5)を変形すれば → dv dt = dv −v = mg b ) b ( mg −v m b b dt m となる(確かめよ)。式(7)の右辺と左辺をそれぞれ速度と時間で積分しよう。左辺は、 ∫ dv mg = − log | − v| + C1 mg − v b b となる(C1 は積分定数)。また右辺は ∫ b b dt = t + C2 m m (6) (7) (8) (9) となる(C2 は積分定数)。式(8)、(9)を等号で結び、v について解けば v= b mg − Ce(− m t) b (10) となる。ここで C = e(C1 −C2 ) は定数である。t = 0 をこの式に代入すれば初期条件 v(0) = 0 より C= mg b (11) となる。したがって、 v= b mg (1 − e(− m t) ) b (12) となる。 式(12)を大まかにグラフに描くと、図 2 のようになる。雨滴が落下した直後は抵抗力が小さく 自由落下とみなせるため、速度は重力加速度 g で時間に比例して増加する。落下速度がだんだん大 きくなってくると空気抵抗も大きくなってくるため、だんだん比例関係からのずれが大きくなり、 最終的には一定値 vt = mg b (13) に漸近する。この速度を終端速度という。終端速度は重力と粘性抵抗が釣り合う条件から求めるこ ともできる(確かめよ)。 2 v=gt v(t) mg/b 0 t 図 2: 雨滴の速度の時間変化。落下直後の速度は時間にほぼ比例して変化するが、時間が経つと徐々 に外れ、最終的には終端速度に漸近する。 もし、慣性抵抗が働く場合の終端速度は、重力と慣性抵抗が釣り合う条件から mg ∴ vt 1 CρAvt2 2 √ 2mg = CρA = (14) (15) となる。 ¶ ³ 問:雨滴の質量と半径をそれぞれ m = 4 × 10−6 [kg]、R = 10−3 [m] として終端速度を求めよ。 粘性抵抗のみが働くときと慣性抵抗のみが働くときで、終端速度はどれだけ違うか。また空 気抵抗が一切ないときの、地上付近の雨滴の速度はどれくらいか。 µ 3 ´ スカイダイビング スカイダイビングは高度 1000m から 4000m 付近まで飛行機で上昇し、パラシュート等を装着し て地上に飛び降りるスポーツである。これまでのスカイダイビングの最高高度は、1960 年 8 月 16 日に「プロジェクト・エクセルシオ [1]」においてジョゼフ・キッティンジャーが打ち立てた高度 31300m であった。昨年(2012 年)行われたプロジェクト「レッドブル・ストラトス [2]」において は、フェリックス・バウムガルトナーが高度 39000 メートルからのスカイダイブを成功させ、キッ ティンジャーの高度記録を52年ぶりに更新した。「レッドブル・ストラトス」においては、4つ の世界記録が樹立されたのだが、興味深いのは生身の人間の落下速度で初めて音速を超えたという ことである。一般に大気中を運動する物体の速度が音速をこえると大気中に衝撃波が生じ、ソニッ クブームとして地上に届くことが知られているが、バウムガルトナーが生じた衝撃波によるソニッ クブームも地上で観測された。生身の人間がソニックブームを生じさせたのはもちろん世界初のこ とである。 ¶ ³ 問:バウムガルトナーの終端速度はどれくらいに達したかを見積もれ。また終端速度に達する までの時間を見積もれ。ちなみに公式記録は、終端速度が 372m/s、それに達するまでの時間 が 35 秒であった。 µ ´ 3 参考文献 [1] Wikipedia: http://ja.wikipedia.org/wiki/プロジェクト・エクセルシオ [2] レッドブル・ストラトス公式ページ:http://www.redbull.jp/cs/Satellite/ja JP/Red-BullStratos/001243262863320 ¶ この回のまとめ ³ • 粘性抵抗と慣性抵抗の違いについて学んだ。 µ • 雨滴の運動方程式を解き、終端速度を計算した。 4 ´
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