4.5 基底の変換 が成り立つ. 逆に基底 b1 , . . . , bn から基底 a1 , . . . , an への基底変換行列を Q とすると,基底変換行列という ある線形空間 V に二つの座標系があるとき,座標変換がどうなるだろうか.以前述べたように, 用語の定義より 「座標」で考えるよりも, 「基底」で考える方が実はやりやすい.そこで二つの基底がどう対応する ( a1 かを見る. n > 0 とし,a1 , . . . , an と b1 , . . . , bn が共に n 次元線形空間 V の基底であるとする.このとき a1 , . . . , an が V の基底であることから,b1 , . . . , bn を ( bj = p1j a1 + p2j a2 + · · · + pnj an = a1 p1j ) .. an . pnj ··· ( b1 ··· ) ( bn = a 1 ··· p11 . . P = . pn1 ) an P, 命題 4.5.2 基底 a1 , . . . , an から基底 b1 , . . . , bn への基底変換行列 P は正則であり,逆行列 P −1 (j = 1, 2, . . . , n) は基底 b1 , . . . , bn から基底 a1 , . . . , an への基底変換行列である. (4.4) ( ) ( ) 1 0 例 4.5.3 (平面上の座標系の回転) R の標準基底 e1 = , e2 = を,原点を中心に角 θ 0 1 回転してできる基底を a1 , a2 とする. ( ) ( ) 基底 e1 , e2 から a1 , a2 への基底変換行列を P とすると, a1 a2 = e1 e2 P により, ( ) ( ) ( ) ( ) X cos θ − sin θ x P = である.よって x = を x = a1 a2 と表したとき, sin θ cos θ y Y 2 ... .. . ... p1n .. . pnn (4.5) となる n 次正方行列 P がただ一つ存在することがわかる.この行列 P を,基底 a1 , . . . , an から ( ) x 基底 b1 , . . . , bn への基底変換行列という. このとき x ∈ V の,基底 a1 , . . . , an に関する座標を (x1 , . . . , xn ), 基底 b1 , . . . , bn に関する座 標を (y1 , . . . , yn ) とすると, ) bn Q ··· が成り立つ.これと (4.5) から Q = P −1 であることがわかる. と一意的に表すことができる.これを纏めると, ) ( an = b1 ··· y ( = cos θ − sin θ sin θ cos θ )( ) X Y ⇔ ( ) X Y ( = cos θ sin θ − sin θ cos θ )( ) x y が成り立つ. x y ) 1 ( ) 1 .. . x = a1 · · · an . , x = b1 · · · bn .. (4.6) xn yn x1 y1 . . . であるから,(4.5), (4.6) を合わせれば . = P .. が成り立つことがわかる.これが求め xn yn たかった座標変換の公式である. 今得られた結果を定理として纏めておこう. ( 4.6 線形変換 集合 A の各元に集合 B の元を一つずつ対応させる規則が与えられたとき,これを集合 A から 集合 B への写像という.f が集合 A から B への写像であることを, f :A→B と書く.また,写像 f により a ∈ A に b ∈ B が対応するとき,b = f (a) とか f : a 7→ b と書く. つまり写像とは,関数概念の一般化である.写像に関する用語については,前期第 2 回のプリント 定理 4.5.1 n を正の整数とし,V が n 次元線形空間であるとする.ベクトルの組 a1 , . . . , an と b1 , . . . , bn が共に V の基底であるなら, ( ) ( b1 · · · bn = a 1 ··· を参照. ここではベクトル演算と相性のよい写像を考えるが,その簡単な場合として,R2 上の線形変換 ) を復習しておこう (前期第 3 回). an P となる n 次正方行列 P がただ一つ存在する.ここで行列 P の第 j 列は,基底 a1 , . . . , an に関す る bj の座標である. 4.6.1 ( ) ( ) x x′ に写す変換のうち, R 上の点 を y′ y このとき x ∈ V の,基底 a1 , . . . , an に関する座標を (x1 , . . . , xn ), 基底 b1 , . . . , bn に関する座 標を (y1 , . . . , yn ) とすると, x1 . . =P . xn R2 上の線形変換 2 y1 . . . yn )( ) ( ) ( a b x x′ = y′ c d y 30 (4.7) と表されるものを線形変換 (あるいは一次変換) と言った.この変換を T という記号で表すと,T は二つの条件 (L1) T (x1 + x2 ) = T (x1 ) + T (x2 ) (L2) T (kx) = kT (x) (4.8) (x1 , x2 , x ∈ R2 , k ∈ R) を満たすことが,定義からわかる.(4.8) のような性質を線形性という. 逆に,線形性を持つ平面上の変換を,標準基底から定まる座標で表すと,(4.7) のようになる. (4.7) は座標に依存した書き方をしているが,(4.8) はそうでない.そのため (抽象的な) 線形空 間 V から線形空間 W への写像で (4.8) を満たすものを考えることができる. このような方針で,一般の線形空間の間の線形写像というものを次回定義し,その性質を述べて いく予定でいる. 31
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