No.17

4.5
基底の変換
が成り立つ.
逆に基底 b1 , . . . , bn から基底 a1 , . . . , an への基底変換行列を Q とすると,基底変換行列という
ある線形空間 V に二つの座標系があるとき,座標変換がどうなるだろうか.以前述べたように,
用語の定義より
「座標」で考えるよりも,
「基底」で考える方が実はやりやすい.そこで二つの基底がどう対応する
(
a1
かを見る.
n > 0 とし,a1 , . . . , an と b1 , . . . , bn が共に n 次元線形空間 V の基底であるとする.このとき
a1 , . . . , an が V の基底であることから,b1 , . . . , bn を
(
bj = p1j a1 + p2j a2 + · · · + pnj an = a1

p1j
) 
.. 
an 
 . 
pnj
···
(
b1
···
) (
bn = a 1
···

p11
 .
.
P =
 .
pn1
)
an P,
命題 4.5.2 基底 a1 , . . . , an から基底 b1 , . . . , bn への基底変換行列 P は正則であり,逆行列 P −1
(j = 1, 2, . . . , n)
は基底 b1 , . . . , bn から基底 a1 , . . . , an への基底変換行列である.
(4.4)
( )
( )
1
0
例 4.5.3 (平面上の座標系の回転) R の標準基底 e1 =
, e2 =
を,原点を中心に角 θ
0
1
回転してできる基底を a1 , a2 とする.
(
)
(
)
基底 e1 , e2 から a1 , a2 への基底変換行列を P とすると, a1 a2 = e1 e2 P により,
(
)
( )
( )
(
) X
cos θ − sin θ
x
P =
である.よって x =
を x = a1 a2
と表したとき,
sin θ cos θ
y
Y
2
...
..
.
...

p1n
.. 

. 
pnn
(4.5)
となる n 次正方行列 P がただ一つ存在することがわかる.この行列 P を,基底 a1 , . . . , an から
( )
x
基底 b1 , . . . , bn への基底変換行列という.
このとき x ∈ V の,基底 a1 , . . . , an に関する座標を (x1 , . . . , xn ), 基底 b1 , . . . , bn に関する座
標を (y1 , . . . , yn ) とすると,


)
bn Q
···
が成り立つ.これと (4.5) から Q = P −1 であることがわかる.

と一意的に表すことができる.これを纏めると,
) (
an = b1
···

y
(
=
cos θ
− sin θ
sin θ
cos θ
)( )
X
Y
⇔
( )
X
Y
(
=
cos θ
sin θ
− sin θ
cos θ
)( )
x
y
が成り立つ.

x
y
)  1
(
)  1
.. 
.


x = a1 · · · an  .  ,
x = b1 · · · bn  .. 
(4.6)

xn
yn
 
 
x1
y1
 . 
.



.
であるから,(4.5), (4.6) を合わせれば  .  = P  .. 
 が成り立つことがわかる.これが求め
xn
yn
たかった座標変換の公式である.
今得られた結果を定理として纏めておこう.
(
4.6
線形変換
集合 A の各元に集合 B の元を一つずつ対応させる規則が与えられたとき,これを集合 A から
集合 B への写像という.f が集合 A から B への写像であることを,
f :A→B
と書く.また,写像 f により a ∈ A に b ∈ B が対応するとき,b = f (a) とか f : a 7→ b と書く.
つまり写像とは,関数概念の一般化である.写像に関する用語については,前期第 2 回のプリント
定理 4.5.1 n を正の整数とし,V が n 次元線形空間であるとする.ベクトルの組 a1 , . . . , an と
b1 , . . . , bn が共に V の基底であるなら,
(
) (
b1 · · · bn = a 1
···
を参照.
ここではベクトル演算と相性のよい写像を考えるが,その簡単な場合として,R2 上の線形変換
)
を復習しておこう (前期第 3 回).
an P となる n 次正方行列 P がただ一つ存在する.ここで行列 P の第 j 列は,基底 a1 , . . . , an に関す
る bj の座標である.
4.6.1
( )
( )
x
x′
に写す変換のうち,
R 上の点
を
y′
y
このとき x ∈ V の,基底 a1 , . . . , an に関する座標を (x1 , . . . , xn ), 基底 b1 , . . . , bn に関する座
標を (y1 , . . . , yn ) とすると,


x1
 . 
 . =P
 . 
xn
R2 上の線形変換
2


y1
.
.
.
yn
)( )
( ) (
a b
x
x′
=
y′
c d
y
30
(4.7)
と表されるものを線形変換 (あるいは一次変換) と言った.この変換を T という記号で表すと,T
は二つの条件
(L1)
T (x1 + x2 ) = T (x1 ) + T (x2 )
(L2)
T (kx) = kT (x)
(4.8)
(x1 , x2 , x ∈ R2 , k ∈ R) を満たすことが,定義からわかる.(4.8) のような性質を線形性という.
逆に,線形性を持つ平面上の変換を,標準基底から定まる座標で表すと,(4.7) のようになる.
(4.7) は座標に依存した書き方をしているが,(4.8) はそうでない.そのため (抽象的な) 線形空
間 V から線形空間 W への写像で (4.8) を満たすものを考えることができる.
このような方針で,一般の線形空間の間の線形写像というものを次回定義し,その性質を述べて
いく予定でいる.
31