課題名: 農山漁村 6 次産業化対策に係る AI システム実証

課題名: 農山漁村 6 次産業化対策に係る AI システム実証事業
実証機関 慶應義塾大学大学 SFC 研究所
連携機関 NEC システムテクノロジー
サラダボウル

はじめに
特にサラダボウルにおける教育ソリューションとの
本事業の目的は、AI システムを構成する諸技術を実
連携においては、サラダボウルが新規就農者の教育に力
証し、熟練農家の技能継承の基盤としての有効性を確認
を入れている体制を活用し、
作物の栽培手順を細分化し、
することにある。
個々の農業従事者がそれら定められた手順に基づき農作
AI システムとは、高齢化が急速に進む日本の高度な
業を実施する事で、誰もが農作業を実施する事を目指す
農業技術を次世代に伝えることを目的として、農林水産
仕組みと連携した。ここでの細分化された個々の手順に
省が 2009 年に設置した「農業分野における情報科学の
は、その内容を踏まえた技能レベルが設定されている。
活用等に係る研究会」において、初めてそのコンセプト
初心者であっても作業できる手順もあれば、経験を要す
が提示された。研究会では、高度な農業技術を次世代に
る作業もある。農業従事者は、経験を要する作業につい
円滑に受け渡すための情報科学の活用等についての議論
ては一つ一つ経験を積むことで学びを積み重ね、次第に
を行い、同年 8 月に報告書「AI (Agri-Informatics)農業
作業できる手順を増やしていくからである。この経験を
の展開について」を取りまとめた。同報告書では、AI
踏まえた学習の仕組みにおいて、AI システムの連携・適
農業を、
「人工知能を用いたデータマイニングなどの最
用を試みた。農業生産法人は、AI システムの実用化フェ
新の情報科学等に基づく技術を活用して、短期間での生
ーズにおける主たる利用者として想定され、共通基盤化
産技能の継承を支援する新しい農業」と定義している。
に向けた要件抽出や利活用に資すると考えられる。
上記の定義を基に、本事業では、AI システムを「デ
ータマイニングなどの分析を用いて、熟練者の持つ問題

発見・問題解決技能を、非熟練者が早期に継承するため
実証活動の取り組み
のフィードバックループを提供する学習支援基盤」と捉
本事業では、昨年度に取り組みを行った「作物・圃場
え、慶應義塾大学のこれまでの研究成果を活用して、昨
の違いに基づくスキーム」の検討結果等を参照しつつ、
年度も AI システムの実証を行った。本事業はこの実証
AI システムの横展開可能性の検討・検証を行うとともに、
の 2 年目として、AI システムの共通基盤の構築・適用
教育システムとして活用を図るべく実証を行った。
や、その横展開可能性の検討を行った。
1. 気づき記録ツールの拡張

「気づき」の分析による熟練者の暗黙知の形式知化を
連携の背景
実現するため、気づき記録ツールの改良を行い、有効性
本事業では、トマトを対象にこれまで慶應義塾大学が
の検証を進めた。
基礎的な研究を続けてきた AI システムのさらなるデー
(1) 「気づき」として理由と判断結果を記録
タ蓄積、実証に加え、NEC システムテクノロジーと連携
「いつ、どこで、誰が、何に気づいた」だけではなく、
し温州ミカンのフィールドを加えている。
「行動した/しない、行動した/しなかった理由」も含
さらに今年度はサラダボウルとの連携を行い、トマト
めて記録することで、熟練者と非熟練者の判断の違いを
栽培での実証を進めるとともに、サラダボウルが行って
分析し、八女における熟練者の暗黙知を形式知化に取り
いる就農を目指す若者に向けた教育ソリューションとの
組んだ。
連携を行い、AI システムの教育効果を促進させるための
(2)
取り組みを実施した。
気づき項目を階層構造で詳細化
熟練者と非熟練者の判断の違いを詳細に分析するた
施設栽培のトマトと露地栽培のミカンの 2 つを実証フ
め、
「樹の葉のツヤ」
「樹全体の色」
「圃場全体の色」など
ィールドとし、AI システムの他作物への展開可能性を具
気づき項目を詳細化、また気づき項目の値も様々な値を
体的に検証することを目的としたものである。昨年度に
記録できるよう改良した。
行った検討結果を踏まえ、施設栽培、露地栽培における
(3)
横展開を見据えたスキーマ設計
具体的な利活用シーンを踏まえた導入プロセスにおける
トマト・施設栽培での実証向けシステムデータベース
課題や要件の抽出を実施、また拡張したシステムを導入
スキーマと、ミカン・露地栽培でのデータベーススキー
し、その利用可能性を検討した。
マを共通化できることを確認し、他の作物に対しても適
-1-
可能であると考えられ、ひいては教育ソリューションと
用可能なシステムとして実現することを目指した。
の連携にも有益であると考えられる。
そこでサラダボウルの実施している教育の仕組みに、
気づき記録ツールを活用した AI システムを適用、相乗
効果を発揮するための仕組みとして位置付け、既存の教
育成果をそこで学ぶ若手に見えるようにすることにより、
それぞれの学習達成度を周りと比較、強み弱みを把握す
ることからさらなる成長につなげ、さらに指導的立場の
人からは見えている、本来は自らが気づき行動すべきこ
とを、その指導者が伝えて作業をさせるのではなく、シ
ステムに気づき項目を設定することにより、その項目の
記録を学習者の習慣とすることにより、結果的に自ら気
図 1 気づき記録ツール
づきを行う環境を設計することが可能ではないかという
仮説のもと、気づき項目の設計を通じ既存の学習ソリュ
2. 気づき登録項目の検討・設計
ーションの効果をさらに発揮させ、気づき記録による効
栽培従事者が判断を求められる場面において、さまざ
果をより得られる仕組みを構築した。
まな要因が関連する。栽培従事者が水やりや摘花、その
他さまざまな戦術としての各種作業の判断を下すにあた
って、環境や作物の状態を見極める必要がある。それぞ

れの状態が互いに影響しあい、結果をもたらす。結果を
不定形要素のデータ収集手法としてのつぶやき
得るための操作・作業の実施・不実施やその作業内容の
暗黙知による潜在的な行動として、無意識のうちに発
決定について、いかに判断するかが当然ながらに重要と
する言葉、すなわち「つぶやき」を、不定型な要素に関
なる。
するデータ収集に関する手法として活用し、判断のため
の「主体的知識」が含まれている音声記録データを「つ
ぶやき」と定義、主体的知識を状況把握と背景知識、判
断とに区分してその状況把握の差異に着目する AI シス
テムのアプローチに組み入れ、不定形な要素に関するデ
ータ収集の手法として AI システムを強化する取り組み
を進めている。

まとめと今後の課題・方向性
今年度の成果を踏まえて以下のような項目がさらな
る発展への方向性として考えられる。
・ 蓄積された「気づき」を非熟練者の学習・指導に有効
図 2 影響の流れと観測データ
活用できる気づき記録システムの改良
・ 「気づき」活用による非熟練者への学習効果検証
・ 「気づき」を活用した技能向上による作物の収量・品
質など定量的効果の検証
また教育ソリューションとの連携を進めるにあって
は、教育を受けている学習者同士が相互に学ぶ体制を作
ることが必要であり、そのための気づきの共有や環境・
作物情報の共有が欠かせず、AI システムの更なる発展・
実証に取り組む計画である。
【お問い合わせ】
図 3 判断が必要となる作業例
慶應義塾大学 SFC 研究所
TEL:0466-49-3436
農地や作物の状態の読み取りを、データ計測の仕組み
e-mail:[email protected]
や気づきシステムの記録データから読み取っていくこと
により、適切な作業実施への判断をサポートすることが
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