相談面接技術の理解 平成27年度 京都府介護支援専門員更新研修・再研修 公益社団法人 京都府介護支援専門員会 • 相談援助の面接とは、ある一定の状況下に おいて援助者(面接者)と利用者(被面接 者)とが、特定の目的をもって実施される相 互作用のプロセス • このことは、面接とは単なる日常的な話し合 いや相談ではなく、多くの要素から構成され る構造的なものであることを意味する。 対人援助における相談面接技術の位置づけ • 制度上の手続きを円滑にすすめるだけではなく、 本当の意味で利用者側に立ったケアマネジメント ができるかどうか?また、利用者の抱える悩みや 課題に適切に対応できるかどうかはこの相談面 接技術のレベル次第で大きく変わる。 面接技術だけでは、問題は解決しない • カレーライスと包丁の例 • 切れる包丁の方が調理は安全・スムーズ • でも、切れる包丁があればおいしいカレーライス が出来るとは限らないし、おいしく食べてもらえる とも限らない。 面接技術だけでは、問題は解決しない • おいしく食べるためには、食材やルーの質、作り 方のテクニックにも左右される。 • おいしく出来たと思っても、食べる人の好みや空 腹具合によって評価は全く違う。 面接技術だけでは、問題は解決しない • でも、包丁が無ければ、カレーライスは作りにくい し、研いであり、切れ味が鋭い包丁の方が使いや すい。 • 相談面接技術を身につけることは、包丁を研ぐこ とに相当する。相談面接技術とは、あくまでも対 人援助の目的を達成するための手段(道具)であ る。 • 相談面接技術のレベルを高めることに加えて、ど の方向に向けて活用するのかを方向づける対人 援助の理論や価値が必要となる。 相談面接の成立条件 1.相談援助における面接の目的 2.面接の形態と物理的条件 3.コミュニケーション技法としての相談面接技術 1 相談援助における面接の三つの目的 (1) 援助関係の形成 (2) 情報の収集 (3) 問題解決 (1) 援助関係の形成 • 援助関係の形成は、相談面接の目的の一つであると共に対人援 助の基本要件である。 • 情報収集や問題解決を含めた全ての援助過程においても信頼関 係に裏打ちされた援助関係が前提となる。 • 援助者と利用者との間に結ばれる関係とは、面接において活用で きる重要な「武器」となる専門職業的援助関係のこと。 • きわめて特殊な関係であり、面接や援助の場だけで活用される。 (2) 情報の収集 • 詳細な情報を単に「聞き出す」ことだけでなく、面接にお ける利用者との相互作用過程の中で必要な情報を見極 めながら、利用者本人が自分の問題についての「気づ き」を深めていくことも含んでいる。 • したがって、情報収集とは、問題解決過程の一つのプロ セスと位置づける必要がある (2) 情報の収集 – 客観的事実 • 利用者自身やその生活環境及び社会環境との関係に関す る情報。それらは、面接の場面で利用者によって言語化さ れる情報と援助者によって観察される情報、面接を通して、 援助者によって総合的に解釈される情報がある。 – 主観的事実 • 利用者本人が今の現実や自分の抱える問題・課題をどのよ うに受け止めているのかという情報。 (3) 問題解決 • 相談面接の最も重要な目的は、援助関係の形成と情報 収集をふまえた上での問題解決である。 • 本人と相互作用関係にある環境の側に働きかける間接 援助においても、また本人への直接援助の方法としても 相談面接技術はきわめて重要な方法として位置づけら れる (3) 問題解決 • 対人援助とは、本質的には援助者と利用者の援助関係 を基軸として、利用者自身が自分の問題についての洞 察を深め、新たな「気づき」を得ながら問題への対処能 力や解決能力を高める過程といえる。相談面接技術は その中核となる専門技術。 • 援助者はその技術を用いて利用者の「気づき」を深め、 本人の問題対応能力を高めると共に本人の自己決定を 支えることに主眼がおかれる。 2 相談面接の形態と物理的条件 有意義な相談面接の為には、その過程で用い られるコミュニケーション技法としての相談面接 技術の向上は不可欠であるが、その技術の活 用の前提となる相談面接の形態と面接に望ま しい物理的条件がある。 (1) 相談面接の形態 • 面接室、時間の予約等枠組みのある構造的な面接では、 来談者も集中して話しが出来る。外部に漏れる心配もな い。 • 面接相談専用の部屋に来談者がやってくるという時点で、 すでに来談者側に、「困っていることの相談に乗って欲し い」という動機付けがあるので、問題解決に向けた取り 組みの過程にスムーズに入っていけるメリットがある。 (1) 相談面接の形態 • 非構造的な面接である「生活場面面接」(life space interview)も重要。 • 利用者は、自分の生活場面で話しが出来るのでリラック ス。援助者は面接室では把握できない情報を生活場面 から得ることが出来る。 • 信頼関係が無ければ自分の生活空間に立ち入られるこ とに不快感を感じる利用者がいたり、内容について集中 できない場合もある。 (1) 相談面接の形態 • 利用者宅での面接では、全体的な生活実態や本人の生活へ の認識、生活上の価値観、家族(親族)関係、家族内での役 割、近隣との人間関係等が把握できる。 • 施設や病院等における生活場面面接では、生活全般の様子、 プログラムへの参加、入所者等との人間関係等幅広く把握で きる。多くの場合オープンスペースなので、プライバシーへの 配慮が求められる。 • どのような形態や場面であっても援助者は相談面接技術を 活用すべき状況であることを認識しておく必要がある。 2 物理的条件 • 相談面接を効果的に進めるためには、相談面接 技術を適切に用いることはもちろんであるが、面 接の為の物理的な条件を整えることも重要な要 素。 • 面接室での面接では、利用者がリラックスして面接 に望めるような環境づくりが求められる。 隣同士で自己紹介をして下さい • 隣同士で自己紹介をしますが、一人の方は立っ て下さい。もう一人の方は座ったままで、立ってい る方が自己紹介して下さい。 • 名前と、今日、どうやって会場に来たか?(交通 手段等)を簡単に紹介して下さい。 • 合図をしたら、座っていた方、立っていた方、交代 して同じように自己紹介して下さい。 隣同士で自分の趣味を紹介して下さい • 隣同士で、出来るだけ正面を向き合って下さい。 • どちらか一人の方から、自分の趣味を紹介して下さい。 聞いている人は、目をそらさず表情を変えずに話しを聞 いて下さい。 • 合図をしたら、もう一人の方が、同じように自分の趣味を 紹介して下さい。 • 決して、目をそらさないで下さい。 援助者の正しい座り位置は? 利用者 テーブル A B C 2 物理的条件 • 援助者が利用者との目線を出来るだけ水平に近づける。 車椅子に乗った利用者やベッドに横になった利用者など 特に注意が必要。 • 援助者と利用者が真正面から視線を合わせることになる ポジションは、利用者によっては圧迫感を与えることにな る。左右のどちらかに少しずらす等の配慮が必要。 2 物理的条件 • 利用者と援助者との間に適切な距離と角度を確保する ことが必要。人はそれぞれ個人的空間(personal space)を持っている。対人距離の「なわばり」ともいえる もので、他人に入ってこられると不快感を感じる距離のこ と。 • 人によって差異があるもので、利用者の個人的空間を尊 重しながら適切な距離を保つことが大切。 3 コミュニケーション技法としての相談面接技術 • 相談面接技術は、対人間のコミュニケーションの一形態。 これを、対人援助の価値と倫理に基づいて専門的かつ 意図的に活用することで専門技術となる。 • コミュニケーションを端的に定義すると「二者間において お互いに意思や感情を伝達し合うこと」と言える。これは、 コミュニケーションの成立条件として、一方通行ではなく 相互のやり取り、つまり双方に影響を与え合うという相互 作用があげられる。 3 コミュニケーション技法としての相談面接技術 • コミュニケーションのとり方には、個人のパーソナ リティや文化的背景が大きく影響する。 • この事は、人によってコミュニケーションのとり方 に個人差があることを意味する。介護支援専門 員の活動においても、個人差があることを十分に 意識して取り組む必要がある。 3 コミュニケーション技法としての相談面接技術 「バーバル(言語)コミュニケーション」 「ノンバーバル(非言語)コミュニケーション」 この二つのタイプの組み合わせによって、 コミュニケーションが成立する。 これは相談面接技術においても同様。 バーバルコミュニケーション • 言葉の選択が大きな意味を持つ。同じ内容を表 現するにしても、言葉の選び方次第でそのニュア ンスが大きく変わる。 • 相談援助の専門職が語彙を豊富に持たなければ ならないといわれる理由がここにある。また、擬似 言語といわれる、声量、スピード、声の質、発音、 沈黙等もコミュニケーションの内容に影響を与え る要素。 ノンバーバルコミュニケーション • 感情の伝達における重要な手段となる。中でも「表情」は 多くのメッセージを伝える。そのほか、しぐさやジェスチャー 等の身体動作、身長や服装といった身体特徴、さらには スキンシップによる接触動作も非言語による感情を伝え る重要な要素となる。 • 相談援助の場面においても、感情の伝達はきわめて重 要な要素であるから、利用者の非言語によるメッセージ を見逃してはならない。 相談面接技術 -21の技法- • 相談面接技術は、日常的にわれわれが用いるコミュニ ケーションの延長線上にある。各技法は無意識に日頃 使っていることも多く、馴染みがあるかもしれない。 • しかし、援助関係の形成、情報収集、問題解決という面 接の各目的に向けて適切に用いる為には、通常は相当 のトレーニングを積まなければ使いこなすことが出来な い。ここでは、このような技法があると認知してもらうこと を目的とする。 面接の技法① <うながし・方向づけ・気づき> • 相談面接の過程を促進させる為の技法の集まり。 会話が流れるままに利用者とやりとりをしていて は目的に至ることはない。援助者の専門技術とし て、利用者の発言をうながし、方向づけ、そして利 用者自身が自分のおかれた状況や問題について 気づきをすすめていくことが求められる。 1 アイコンタクトを活用する – 視線を自然に用い、アイコンタクトを意図的に活用して、面接過程を 円滑かつ効果的にすすめる技法。 – 目はノンバーバルコミュニケーションの重要な要素。アイコンタ クトは、多彩なメッセージを相手に送ることが出来る。 – スムーズな会話をすすめる、利用者の発言を励ますため、アイコ ンタクトを意識的に活用する。 – 視線の感じ方は人によってことなるので、相手を緊張させない ようにする配慮も必要。 2 うなづく – 利用者の話しに対して適切にうなづき、発言を励ましたり、うな がすという技法 – ノンバーバルコミュニケーションを用いた面接技法であり、積極 的傾聴のための一つの方法。 – 「最小限の励まし」の方法として活用される。 – 目的は、利用者自らの発言を励ましたり、発言をうながすこと にある。 – 「あなたの話に関心をもって聴いていますよ」「その調子で話し 続けて」というメッセージを伝えることにある。 – 利用者が発言をためらったり、うまく言葉にできないときなど援 助者がこのうなづきを適切に用いることによって、利用者が言 語化しようとする意欲を喚起することが出来る。 3 相づちを打つ – 利用者の話に適切かつ意図的に相づちを打ち、利用 者の発言をうながすという技法。 – 利用者が話しやすい状況をつくり、利用者の発言を促 進したり、その発言内容を問題解決に向けて活用でき るよう方向づける技法。 – 「うなづく」と同じく「最小限の励まし」の一つとして分類 され、実際にはうなづきと重ねて用いられることが多 い。 3 相づちを打つ 「なるほど」「なるほど、なるほど」「なーるほど」 「はい」「はい、はい」 「ええ」「そうですね」「そうですか」「そう」「うん」 「はぁ」「ふん」「へー」「ほー」 「ふむふむ」「うわー」「んーん」 「ほんと?」 「うそ?」「分かる、分かる」 4 沈黙を活用する – 利用者が思考を深める沈黙を効果的に活用し、面接過程を有 意義なものとしてすすめるための技法 – ノンバーバルコミュニケーションの重要な一形態。 – 重要なメッセージが含まれることが多くある。 – 援助者が、この沈黙をいかに取り扱うかが重要な要素。 – 例えば、感動して言葉に詰まることがある。その時は、援助者 も沈黙して時間をかけて次の言葉を探すようにする。 – 話題を変えたくて、返事を保留する為に沈黙している場合、少 し間をおいてから話しかけることも大切。 4 沈黙を活用する A:「・・・・・・・・・」 B:「答えにくい質問でしたかね?」 B:「考えているんですね?」 5 開かれた質問をする – 「はい」「いいえ」では答えられない質問をすることに よって、利用者自身が自分の言葉で話が出来るよう にうながすという技法。 – 最大の特徴は、この質問によって利用者が自分自身 のことについて自分の言葉で話が出来る機会を提供 することにある。 – 利用者自身の言葉で話しもらうことは、信頼関係づく りにも有効。 5 開かれた質問をする B:家族の事について聞かせてください。 B:その時の状況について説明して下さいますか? B:では、どうしていきましょう? B:このことについてAさんのお気持ちはどうでしょう? 6 閉じられた質問をする – 「はい」「いいえ」で答えられる質問をすることによって、必要な 情報を的確に収集すると共に、利用者が自分の言葉で話せる きっかけとするという技法。 – 主に二つの目的がある。一つは、面接過程において援助者が 必要とする情報を多方面にわたって収集できること – もう一つは、最初は「はい/いいえ」であったとしてもその後は、 利用者自身が自分の言葉で話が出来たり、洞察を深めること のできるきっかけを提供すること。 6 閉じられた質問をする B:いつから歩けなくなりましたか? B:お年はいくつですか? B:ご家族は何人ですか? B:ではまず何からしましょうか? B:Aさんが直接、話しますか? B:それは、いつできますか? 7 繰り返す – 利用者が発した言葉の一部をそのまま抽出して利用者に返す という技法。 – 単純な技法でありながら、活用範囲は広く、意図的に用いるこ とで、効果的に面接過程をすすめることが出来る。 – 目的は二つ。一つは、利用者が発した言葉をそのまま繰り返す ことで、援助者が「あなたの発言をしっかりと聴いていますよ」と いうメッセージを利用者に送ることが出来る。 – もう一つは、重要事項について利用者と確認を取りながらすす めることができ、さらに内容を深めることが出来る。 7 繰り返す A:「昨日、とっても嫌なことがあって、思い出しても腹が 立ってくるんですよ。」 B:「腹が立ったんですね」 B:「昨日のことを思い出すと腹が立つんですね」 B:「昨日嫌なことがあって思い出すと腹が立つんです ね」 8 言い換える(関心) – 利用者の発言を別の表現で言い替えて応答することで関心を もって傾聴していることを伝え、発言をさらにうながすための技 法。 – 利用者の発言内容をきっちりと理解し、その内容を利用者に正 確に言い替えて返すことが援助者に求められる。 – 面接過程において、自分の発言が正確に理解されていること を利用者が知ることは、信頼関係の構築につながる安心感を もたらし、さらに次の発言を後押しする。 8 言い換える(関心) A:「もう、ずいぶん休んでいたので、みんなの中に入り づらいんです。」 B:「ご自分だけ、取り残されたような感じがしてるんです かね?」 B:「それは、つまり、自分だけ部外者のように思える・・・ ということでしょうか?」 9 言い換える(展開) – 利用者の発言を別の表現で言い替えて応答すること によって、適切な方向性をもって話の展開をうながす ための技法。 – 展開の方向性は多様であるが、主に内容の整理、概 念化、具体化、焦点化のための「言い替え」に整理で きる。 9 言い換える(展開) A:「気になっているのは、月々のお支払いの事なんで す。入ってくるのは年金だけと限られていますし・・・」 B:「あー、そうですか。つまり、自己負担がどれくらいに なるかが分からないので、引っかかっていたんです ね?」 10 言い換える(気づき) – 利用者の発言を別の表現で言い替えて応答することによって、 利用者自身の気づきや洞察をうながす技法。 – 「内容の反映」として類型化されるものであるが、利用者の「明 確化」の為の主要技法として活用される。 – 利用者に考える機会を与え、気づきを深める為の技術。 – 利用者に関係して生起している事象への気づきと利用者自身 の気持ちや感情への気づきに整理できる。 – 8・9・10は、柔軟な思考の出来る利用者の場合に効果が期待。 相手の能力に応じて活用することが求められる。 10 言い換える(気づき) A:「一人暮らしをしている高齢の母は、私と同居したい と望んでいるんですが、私の妻は結婚直後に冷たくさ れた思い出があるらしく、同居を嫌がっているんです。 どうしたら良いのか、困っているんです。」 B:「お母さんと奥様との板ばさみになってたいへん困っ ておられるご様子ですね。」 11 要約する – 利用者の発言内容を的確に要約して返すことで、面 接を円滑かつ効果的にすすめる技法。 – 目的は、「要約」によって「あなたの発言をしっかり聴 いていますよ」というメッセージを送ることで、安心感を 与え、次の発言を促進させることにある。 – 利用者の発言が長い場合、「繰り返し」ではその応答 が不可能であるため、発言内容の主旨をくみ取り、利 用者の言いたいことに波長を合わせながら「要約」す る。 11 要約する A:「若いころは、辛いことばかりが続きました。戦争が 終わって、ようやく平和になったのですが、まともな食 料が何もなくて、とにかく、贅沢など言ってられません でした。毎日、一生懸命に働いても、生活は楽にはな らず、そのうちに病気にかかってしまい、働くこともで きなくなったのです。しかし、今は幸せです。こんなに 立派な施設に入ることができ、何、不自由なく生活し ているのですから」 B:「若い頃は辛い経験ばかりされたのですが、今は、幸 せなんですね。」 12 矛盾を指摘する – 利用者の発言内容や言動の矛盾を指摘することによって、考 察を深めるための技法。 – 前言の内容(事実)との矛盾(不一致)、言動の矛盾(不一致)、 感情の矛盾(不一致)、の三つに大別できる。 – 援助者による指摘によって、利用者自身が問題についての考 察を深める機会を提供することができる。 – 相談面接の技法として重要かつ有効なものであるが、場面とし ては援助者と利用者が「対決」の構図になるので、慎重に用い る必要あり。 12 矛盾を指摘する A:「息子の暴力から、一日も早く逃げ出したいんです。」 B:「息子さんの暴力から逃げ出したいと考えているんで すね。でも、今まで、何度か機会があってもAさんは家 を出る事はされなかったんですね。」 13 解釈する – 利用者の発言を解釈したり意味づけをすることで、問題の認識 を解決に向けて深める為の技法。 – 「解釈」の内容は、多くの場合、問題の発生のメカニズムについて の「解釈」である。 – 相談援助においては、あくまでも利用者による気づきや発見を 支援するための技法として用いることが肝要。 – 援助者による解釈がたとえ正しいものであったとしても、指摘さ れた利用者自身がそのことの意味づけが出来ず、本当の意味 での気づきがなければ無意味となる。 13 解釈する 最近、実母を癌で亡くした40歳代、女性のAさん。脳梗塞後 遺症、半身麻痺の義母(夫の母)の介護をする事になった。 介護意欲もあるが、面接の度に義母の身体状況のことを 「命に関わることじゃないし、たいしたことじゃありませんね」 と繰り返す。一方、実母が、いかに苦しい思いをして亡くなっ たか、癌による死がどれほど辛いかを折りに触れて話す。 B:「今までのお話をお伺いしていると、お義母さんのおかれてい る状況がそれほど大変ではないと考えていらっしゃるようです ね。それは、Aさんご自身のお母さんの病気と比べればたいし たことないと思っていらっしゃるように聞こえますが・・・」 14 話題を修正する – 取り扱う話題を適切に修正して、問題解決への軌道 に乗せるという技法。 – 相談援助は目的を持った取り組みであるから、話題 が流れるままに流されるのではなく、援助者は適切に 介入して取り扱うべき内容に焦点づける必要がある。 – 具体的な内容としては、話題を変える、元の話題に戻 す、話題を絞る、に整理できる。 14 話題を修正する ケアマネジャーからの質問に答えて、最近の体調 不良のことを主治医に相談に行ったことの報告か ら、話が始まったが、次第に話題が、待合室で出 会った友人の話に移行していった。 B:「そうですか、とっても良い友達ですね。ところで、先 ほど、話をしていた病院で先生から聞いた話はどうで した?」 面接の技法② <感情への接近> • 利用者の感情に接近する為の面接の技法の集まり。 • 通常、人と人とのコミュニケーションにおいては、単なる 情報の交換ではなく、そこに喜び、悲しみ、怒り、恐れと いった感情のやり取りを伴う場合が殆どである。 • 専門職として相談援助に携わる場合には、援助関係の 形成のためにも、この感情に接近し、適切に応答する為 の技法がきわめて重要となる。 1 感情表出をうながす – 利用者の感情の表出を適切にうながす技法。 – 利用者が自分の感情を自分の言葉で話し、それを受 け止められ、自分のもつ感情に気づく過程は、問題解 決に向けた意味ある過程となる。 – 感情表現をさせること自体が目的ではなく、それが援 助の目的に沿ったものである必要がある。 – 表出された感情については、適切に取り扱われる必 要がある。 1 感情表出をうながす A:「昨日なんてね。夜中に5回もトイレに行きたいって 言って、起こされたんです。それなのに、おばあちゃん たら、一言のお礼も言わないんですよ。」 B:「そうですか。よければ、それを言われた時のAさん のお気持ちを聞かせてください。」 B:「どうですか?もう嫌って感じることあります?」 2 感情を表情で返す – 利用者の表出した感情を表情でもって共感的に応答 するという技法。 – 表情はノンバーバルコミュニケーションの重要な要素 であるが、それを専門技術として活用するもの。 – 利用者が表出した感情を援助者が正確にキャッチし、そ れを表情でもって正確に応答する。 – 利用者の表情による感情表現を表情で返すという「模 倣」もこれに含まれる。 3 感情表現を繰り返す – 利用者の感情表現を繰り返して共感的に応答すると いう技法。 – 先の「繰り返す」の「感情版」と言える。 – 利用者が発した言葉による感情表現をそのまま利用 者に返すという共感の技法。 – 当然のことながら、適切な返し方とその後の展開にも 専門性が求められる。 3 感情表現を繰り返す A:「満足に動けない身体になってしまって、もう、自分が 情けなくて・・・・・。ほんとにつらいんです。」 B:「ご自分のことが情けなくて、つらい気持ちでいっぱ いなんですね。」 4 感情表現を言い換える – 利用者が表出した感情表現を別の言葉で言い換えて 返すという共感の技法。 – 利用者による感情表現をもっと正確な表現で応答す ることで、利用者自身が自分の抱く感情に向き合える ように支えることが出来る。 4 感情表現を言い換える A:「毎日、毎日、介護に追われているんです。残りの人 生を考えると、このままでいいのか?という気持ちに なりますよ。」 B:「それはきっと、あせり、焦燥感ともいえる気持ちなん でしょうかね。」 5 現在の感情を言葉で返す – 利用者がもつ現在の感情を言葉でもって共感的に返 すという技法。 – ここでの利用者の感情表現は、言葉以外による感情 の表出。それを援助者がキャッチし、言葉で返すとい う共感の技法。 – その為には、利用者の感情を正確にとらえ、適切な言 葉でもって応答することが求められる。 5 現在の感情を言葉で返す A:「散々苦労して子供を育ててきました。自分の食べる 物を始末してでも、子供には何一つ不自由のない生活 をさせてきたのに・・・。この年になってこんな仕打ちを 受けるなんて。あんまりです・・・」 B:「裏切られたというお気持ちでなんでしょうかね。」 6 過去の感情を言葉で返す – 利用者がもっていた過去の感情を、言葉で共感的に 返すという技法。 – 相談面接で、過去にあった出来事が話題になることが ある。そこで生じた利用者の当時の感情に対して言葉 で共感的に応答するという技法。 – 会話の中で過去の出来事を取り上げ、そこでの感情 に焦点を当てる点に特徴がある。 – この技法を用いる場面をきっちりと見極めることも大 切。 6 過去の感情を言葉で返す 結婚直後に夫は戦争に行ったまま帰らず。戻って きたのは白木の箱に入った小さな石だけだったとの 体験談を聞き。 B:「とっても辛くて悲しい事を経験されたんですね。」 7 アンビバレントな感情を取り扱う – 利用者のアンビバレントな感情を問題解決に向けて適切に取 り扱うという技法。 – アンビバレントとは「好き/嫌い」「行きたい/行きたくない」等の相 反する感情を同時に持つこと。誰もがもつ心の働き。 – 支援を必要とする利用者は、強いアンビバレント状態にあるこ とが多いと言える。 – 援助者は、必要とされる場面を見極めながら、そのアンビバレ ントな心理状態、特に表に出てこないもう一つの裏の感情に焦 点を当てることが求められる。 7 アンビバレントな感情を取り扱う A:「主人は、家をほったらかして、本当にひどい人でし た。でも亡くなって、ほっとしたらなんだか涙が止まら ないんです。変ですよね?」 B:「ほっとした安堵感と、やはり寂しさが入りまじった複 雑なお気持ちから涙が止まらないのかも知れません ね。」 相談面接技術の活用の実際(演習) 1. Nさんのこの発言を受けて、「私が介護支援専門員 だったらどのように対応するか」を各自のノート等に記 入する。 2. この内容を各グループ内で発表する。 3. グループごとに記入した会話の続きを2人1組で順次 ロールプレイする(各3分程度)その他のメンバーは各 ロールプレイの展開を観察する。 4. 全員のロールプレイが終わったら、その結果について 話し合う。 【事例の概要】 Nさんは85歳のひとり暮らしの女性です。3ヶ月前から介護保険制度による サービスを利用し始めました。要介護2の認定に基づき、Nさんの意向を確 認した上で現在週2回訪問介護員が訪問しています。現在利用中の介護保 険サービスはこれだけです。 ある日、担当の介護支援専門員の事業所にNさん本人から電話がかかって きました。その内容は「話があるので近日中に来て欲しい」というものでした。 この介護支援専門員は、その2日後に電話を入れた上で訪問しました。 【訪問時の場面】 いつものように挨拶を交わしたあと、Nさんは「わざわざ来てもろて悪いなぁ」 と言われ、次のように切り出されました。 Nさん:あんたにずいぶんお世話になって、ヘルパーさんにきてもらうようになりまし たやろ。けどなぁ、もう全部断ろと思ってますんや。いや、ヘルパーさんはええ 人で、ようやってくれますんやで。確かに助かるのは助かるんですけど なぁ・・・。今日は、このことをあんたに言おうと思うてましたんや。気悪くせんと いてな・・・。 「Nさん、話をしてくれて有難うございます。 この前から、来てもらっているヘルパーさ んを全部断ろうと思ってはるんですよね。 何故、そんな風に思うようになったのかを、 もう少し詳しく聞かせてもらっても良いです か?」 終了 お疲れ様でした。
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