リハビリチームアプローチの重要性 ∼難病を抱える利用者様の在宅生活の質の向上に向けて∼ 静岡県 介護老人保健施設 ヒューマンライフ富士 通所リハビリテーション 作業療法士 大和瀬 敏矢 理学療法士 佐野 将誉 はじめに 当通所リハビリテーション(以下当通所リハビリ)は、定員60名、療養 型病院と介護老人保健施設併設の大規模事業所Ⅱに区分される事 業所である。 近年、当通所リハビリにおいては若年層や障害の重度化(介護度 4,5)が増加傾向にある。利用者様の登録者数は約180名で、その内 個別リハビリテーション加算を算定している利用者様は登録者中100 名超となっており、理学療法士(以下PT)、作業療法士(以下OT)が 日々3∼5名体制で個別リハビリを実施している。それに加え、日々3 ∼4名の個別リハビリ専属職員が物療等加算外のリハビリを実施して いる。 利用者様は脳血管疾患、パーキンソン病、認知症、骨折等様々であ るが、中でも難病の利用者様が増えてきている。その中で、今回当通 所リハビリにおいて難病の利用者様に対して目標設定を行い、その 目標に沿ったリハビリ、サービスの提供を行ったことで身体機能面の 向上が見られた利用者様が居た為ここに報告する。 症例紹介① 《K氏》(初期評価) ・67歳男性 ・ギランバレー症候群 ・下肢筋力低下中等度(MMT2+) ・左股関節屈曲制限軽度 ・下肢運動機能障害中等度 ・両下肢感覚軽度鈍麻 ・立ち上がりは行えるも前傾強く離殿困難 ・殿部、左脇支え介助にて数十秒の立位保持可能 ・起立性低血圧あり ・入浴はチェアイン特浴 ・排泄はバルーン留置 症例紹介② 《S氏》(初期評価) ・51歳男性 ・全身性エリテマトーデス ・肺炎後廃用症候群 ・下肢筋力重度低下(MMT1) ・下肢運動機能障害重度 ・両側網膜動脈閉塞症により両視力明暗が僅かに認識出来る程度 ・寝返り動作は可能 ・起き上がりは体幹が持ち上がらないため介助にて実施 ・立ち上がりは全介助にて可能も立位耐久性低下あり ・両肩、両膝関節に強い痛みがあり、動作への影響が大きい ・入浴はストレッチャータイプの機械浴 経過・結果 当通所リハビリでは利用者様の介助方法やリハビリプログ ラム等をPT・OT同士で日々意見交換、技術指導等を行い、全 ての利用者様に対して統一したリハビリを提供出来るように している。 今回の2症例に対して、利用開始当初からご本人様のニー ズを聴取し、リハビリプログラムを立案、実施、再検討を繰り 返し行っている。 経過・結果 《K氏のニーズ》 「立ち上がりや歩行が出来るようになりたい。」 目標に対し、現状可能なプログラムを立案。 まずは・・・筋力向上を目標とする。 ①ベッド上での徒手抵抗訓練 ②介助での平行棒内立ち上がり訓練 この2つを中心にリハビリを実施。 徐々に・・・下肢筋力の向上が見られる。 その後プログラムの再検討をし、次のプログラムを立案。 ①徒手抵抗訓練からパワーリハビリへの移行 ②立ち上がりの自主訓練化 経過・結果 歩行がしたいという目標に対しては・・・ ・平行棒内歩行訓練を見守り下で開始 その後・・・歩行状態が安定し始める。 ・平行棒内歩行の自主訓練化 平行棒から歩行器歩行へ! ・歩行器歩行訓練を見守り下で開始 更に安定が見られ・・・ ・歩行器歩行の自主訓練化 現在では・・・ 左手にT字杖、右手にロフストランド杖を使用しての歩行訓練を見守り下にて実施。 「自宅近くの畑に歩いて行きたい。杖なしで歩行したい。」 この最終目標に向け、PT・OT全員で経過を追い、ステップアップを検討している。 経過・結果 《S氏のニーズ》 「リハビリをして立てるようになりたい。歩けるようになりたい。」 目標に対し、現状可能なプログラムの立案。 まずは・・・K氏同様筋力の向上を目標とする。 ①ベッド上での徒手抵抗訓練、起居動作訓練 ②PT・OTによるベッドサイドでの立ち上がり訓練 徐々に筋力の向上、起居動作の向上が見られる。 また、立ち上がり能力も向上し始める。 ベッド上訓練から歩行訓練に移行。開始当初は3mを2∼3往復全介助にて歩行。 現在も歩行訓練を継続している。距離も5mとなり、20往復を中等度介助にて歩行。 経過・結果 S氏の歩行訓練方法、立ち上がり介助の方法等に関しては、PT・OT 内で意見交換を行い、再検討を重ねている。また、介助方法を個別リ ハビリ専属職員にも伝達し、全員で統一した訓練を実施出来るよう配 慮している。 今回両利用者様に対して、身体機能の向上に併せて目標も高くして いき、達成する毎にフィードバック、目標の再設定、プログラムの再検 討を行ったことで、機能向上に繋がった。 訓練風景 《K氏:歩行器歩行》 訓練風景 訓練風景 《K氏:杖歩行訓練》 訓練風景 訓練風景 《S氏:介助歩行訓練》 考察 難病の利用者様に対して、ご本人様のニーズ、目標に沿ったリハビ リを行うことで、利用者様の身体機能に予想以上の向上が見られた。 これはPT・OT内での日々の意見交換、情報共有を行い、状態の変化 に合わせてプログラムの変更を重ねた結果であると考える。 当通所リハビリでは、限られた時間(約6時間)の中で利用者様と接 していくことになるため、その限られた時間の中でいかに利用者様の ニーズに応えていくかが重要となる。 PT・OT同士の利用者様に対する介助方法の統一化、状態変化時の 情報共有、多職種との連携、伝達を密に行うことで、利用者様のモチ ベーション、意欲向上に繋がり、身体機能面の向上に繋がっていくの ではないかと考える。 まとめ 当通所リハビリにおけるリハビリの最大の役割を考えてみると、障害 を抱えていてもその人らしく生き、在宅生活を心豊かに過ごしていくこ とではないかと感じる。 通所リハビリは在宅生活と密接に関係しており、身体機能面や精神 機能面の向上は在宅でのADL、更にはQOL向上に繋がっていく。その 向上に繋げていくには、PT・OTのみならず、全科全職員が一丸となっ て利用者様のニーズに応え、可能なリハビリやサービスを提供し目標 に対して全力で支援してくことが不可欠となる。 現在当通所リハビリの利用者数は増加傾向にある。その中で利用 者様へのより良いサービスを提供していくにはどうすれば良いのか今 後改めて検討し、地域の中で選ばれるような施設、利用者様に在宅 にて明るく元気に過ごして頂けることが出来るよう、より一層努力して いきたい。 ご清聴ありがとうございました
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