犬アトピー性皮膚炎 Part.2

身近な皮膚疾患を
徹底攻略
第6回
犬アトピー性皮膚炎 Part.2
もう痒みに悩まない
池 順子
吉田動物病院・奈良動物医療センター
(日本獣医皮膚科学会認定医)
はじめに
前回は犬アトピー性皮膚炎の病態や臨床徴候、診
ス・ジャパン)が発売され治療の選択肢が増えまし
断についてお話させていただきましたが、犬アト
た。
「今ならあの子の痒みをもう少し緩和できたか
ピー性皮膚炎は慢性、再発性の皮膚疾患で、通常生
もしれないのに」と思うことがあります。
涯にわたる治療が必要となります。
犬アトピー性皮膚炎の子の診察の際に、飼い主さ
私が大学を卒業した 15 年以上前に行っていた治
んから一度は聞いたことがある「ステロイド剤は使
療といえば、ステロイド剤や抗ヒスタミン薬、必須
いたくないけどこの痒みを早くなんとかしたい」
「ど
脂肪酸の経口投与、皮内反応試験とその結果に基づ
の治療法が一番いいの?」
「アポキル錠は新しい薬
く減感作療法などで、スキンケアの重要性に関して
だから使うのが心配…」
。これらの質問についてど
も今ほど情報がなかったように思います。
のように説明されていますか? 今回は現在推奨さ
®
その後アトピカ (ノバルティス)やイヌインター
れている犬アトピー性皮膚炎の治療ガイドラインを
フェロン‐γ(組換え型)製剤のインタードッグ ®
紹介しながらすでに国内で広く使用されているイン
(共立製薬)が発売され、2014 年に減感作療法薬ア
タードッグで治療を行った症例と、発売が開始され
®
レルミューン HDM(ゼノアック)が、そして今年
たばかりのアポキル錠で治療を行った症例について
7月には新たに分子標的薬のアポキル ® 錠
(ゾエティ
お話させていただきます。
犬アトピー性皮膚炎の治療を考える 前回お話したように犬アトピー性皮膚炎は遺伝的な要因
や環境アレルゲンに対する免疫学的な反応、皮膚のバリア
■ 痒みの原因となる抗原を回避
機能の低下、皮膚の常在菌である細菌やマラセチアの増殖、
痒みの原因となる抗原は主にハウスダストマイトなど
更には食物や心因的な要因など多数の要因が関与して症状
の環境抗原ですが、食物やノミの寄生により痒みが悪化
が表れます。そのため春先から秋までは痒みがあるけれど、
することがあります。抗原の曝露ができるかぎり少なく
冬場は症状がみられないというように季節によって症状に
済むよう生活環境を変えてみたり(例:絨毯の部屋から
変化がみられるものや、1年を通して痒みがみられるもの、
フローリングの部屋)
、部屋の掃除をまめに行うように
病変が足先や耳だけに限局するものから全身に症状がみら
します。また1年を通したノミの寄生予防を行うととも
れるものまで症例ごとにその症状は多様です。我々はそれ
に、食物が痒みの一因となっている犬では食餌管理が重
ぞれの犬の症状や年齢、家族のライフスタイル、犬と飼い
要となります。
主さんの生活の質を考えた治療を提案する必要があります。
※ NJK は、みなさんで作る雑誌です。症例紹介、御質問、御意見をどしどしお寄せください。
14
Nov 2016