OI-5-1

OI-5-1
脳室周囲白質軟化症の子どもの書字能力の改善に向けた作業療法
Occupational therapy for improvement of the writing ability of the child with the
periventricular leukomalacia
中沢良明 (OT) 1),○宮城大樹 (OT) 1),大島隆一郎 (OT) 2)
1)
健康科学大学リハビリテーションクリニックリハビリテーション科,2)東京工科大学 医療保健学
部作業療法学科
Key words: 脳性麻痺,書字,姿勢
【はじめに】今回,脳室周囲白質軟化症(以下PVL)の症例を担当する機会を得た.症例は就学を控
え,保護者から書字練習を行って欲しいとの要望があった.PVLと視知覚との関係性は知られている
が,今回,姿勢反応と目と手の協応の向上に焦点を当て作業療法を実施した結果,視写能力に若干の
変化が見られたため以下に報告する.【倫理的配慮】今回の発表にあたりご家族に対して口頭にて説
明をし同意を得た.【症例紹介】6歳,男性,右利き,病名:超低出生体重,脳室周囲白質軟化症,
痙性下肢麻痺.現病歴:平成X年,在胎23週,548gで出生し6ヶ月間NICUに入院.平成X年+3年
から当院にてOT,ST開始.【評価】1)認知:田中ビネー知能検査IQ68点.2)感覚:フロスティッ
グ視知覚発達検査(DTVP) PQ63点(目と手の協調性3点,図形の素地7点,空間関係3点).JSIR78点
(視覚項目yellow,その他green).3)文字理解:平仮名の形の弁別や.自身の名前や身近な単語
の音読は可能.しかし,ひらがなの音声を聞き文字に変換することをできなかった.4)身体機能:
GMFCS-E&Rレベル2.四肢,体幹は低緊張で両側肩甲骨は翼状肩甲.両側上肢の粗大運動時に体幹
と肩甲帯との分離が不十分.平均台上でのチャンバラ遊びでは,足元を確認することが多かった.抗
重力伸展活動は乏しく屈曲優位な姿勢をとり,両側上肢が正中線交差する際,体軸回旋が生じず,体
幹側屈で代償していた.5)書字時の様子:骨盤後傾位で上部体幹は屈曲し,右股関節は外転位で右
下腿部を椅子の脚に引っ掛け,両上肢を机上に置いていた.書き始めると,上部体幹は左側へと捻じ
れ左上肢にもたれかかり,右肩甲骨は拳上し鉛筆操作は努力的となった.それに加え,頭部,体幹の
不十分な平衡反応のため書字中に頭部が動き,焦点を合わせるために代償的に頭頸部を動かしてい
た. 6)文字の特徴:筆圧は弱く,始点,横線,左上から右下への斜線のブレが目立った.特に,縦
から横へと送筆する際,角がなく全体的に丸身を帯びた字体となった.また終始,見本の字を見直
し,その都度線がブレた.【問題点の考察】未熟な姿勢反応が,頭部を一定の位置に保持すること
と,体幹と肩甲帯との分離運動を阻害し,目と手の協応性の発達を遅らせ,書字に影響を及ぼしてい
ると考えた.【治療期間】2ヶ月間(計3回3時間)作業療法を実施.【目標】姿勢反応の出現によ
り,頭部と体幹が安定し,その中で目と手を協応的に動かすことができる.【介入】1)すべり台登
り:スクーターボードを使用しすべり台を登らせ,頭部から下肢にかけての持続的な筋活動を促し,
肩甲帯,体幹の安定性を高めた.2)コイン探し:スクーターボードに腹臥位で乗り,ランダムに設
置したコインを探すことで,頭頸部,体幹の持続的な筋活動を促しつつ,体幹と両側肩甲帯の分離を
促した.3)一本橋でのチャンバラ: OTRは,症例の反応を見ながらダイナミックかつゆっくり動
き,両側上肢の動きに伴う体幹の両側活動と体軸内回旋を促しながら,中心軸を意識した運動を経験
させた.4)的当て:一本橋上から周囲にある的にボールを当てさせることにより,平衡反応を促し,
かつ視覚による上肢の運動制御を促した.【結果】文字の視写にて,左側への姿勢の崩れは軽減し,
始点・横線・斜線のブレや丸身を帯びた字体が軽減した.【まとめ】今回,姿勢反応を促すことで,
視覚に追随する上肢の協調的な操作が可能となり,文字の視写が可能となった.結果,書字に問題を
抱えるPVLに対する作業療法では,視知覚以外だけでなく,姿勢反応や,目と手の協応性など身体機
能の視点からアプローチをすることも重要であることが示唆された.