10月17日の講義ノート

§3. ベキ級数
ベキ級数: a0 + a1 z + · · · + an z n + · · · =
例 3.1
1
P
n=0
an z n (an 2 C, z 2 C).
次の 3 個のベキ級数を考える:
1
1
X
X
zn ,
n
f0 (z) :=
z ,
f1 (z) :=
n
n=1
1
X
zn .
f2 (z) :=
n2
n=1
n=1
z n
z n
まず不等式 z =
=
(n = 1, 2, . . . ) に注意.
n
n2
n
n log |z|
z
(1) z > 1 のとき. 2 = e 2
! +1 より,fj (z) (j = 0, 1, 2) のどのベキ
n
n
級数も一般項が 0 に収束しない.よってどの fj (z) も発散1.
n
(2) z < 1 のとき.f0 (z) は絶対収束する.ゆえに f1 (z), f2 (z) も絶対収束する.
(3) z = 1 のとき.(i) z n = 1 ゆえ z n ! 0 ではないので f0 (z) は収束しない.
P 1
(ii)
は収束するので,f2 (z) は絶対収束する.
n2
(iii) f1 (z) について:まず z = 1 では発散する.次に z 6= 1 のときを考える.
Sn := z + · · · + z n (n = 1),S0 := 0 とおくと
N
N
N
X
X
Sn
z n = X 1 (S
Sn 1 ) =
n
n
n
n
n=1
=
n=1
N
X1⇣
n=1
ここで z 6= 1 より Sn =
n=1
1
n
z(1
1
⌘
S
1
Sn + N
n+1
N
N
X1
n=0
Sn
n+1
(Abel の変形法).
zn)
2
であり, z = 1 であるから, Sn 5
.
z
1 z
SN
! 0 (N ! 1) であり,しかも
N
N
N
⌘
⌘
X1 ⇣ 1
X1⇣ 1
1
2
1
2
Sn 5
5
n
n+1
1 z
n
n+1
1 z
n=1
n=1
⌘
NP1⇣
1
1
となるので,
S は絶対収束する.よって f1 (z) は収束する. ⇤
n+1 n
n=1 n
ゆえに
以下,次のベキ級数を考える:
1
P
n=0
補題 3.2
ベキ級数
1
an z n · · · · · ·
1
について:
(1) z = z0 で収束 =) z < z0 で絶対収束.
(2) z = z0 で発散 =) z > z0 で発散.
1教科書に合わせて,
「収束しない」ことを「発散する」ということにする.
1
証明
(1) z0 6= 0 としてよい.an z0n ! 0 (n ! 1) となるから,9M > 0 s.t.
an z0n 5 M (8n).ゆえに
⇣ z ⌘n
⇣ z ⌘n
5M
.
z0
z0
1
P
< 1 であるから,
an z n は収束している.
an z n = an z0
z < z0 のとき
z
z0
n
n=0
(2) もしある z1 ( z1 > z0 ) で収束していれば,(1) より z = z0 でも収束している
⇤
ことになる.
定理 3.3
ベキ級数
1
について,次の三つのケースが起こる:
(1) すべての z 2 C で絶対収束.
(2) 9⇢ > 0 s.t. z < ⇢ で絶対収束かつ z > ⇢ で発散.
(3) z = 0 でのみ収束.
定義 3.4
ベキ級数
1
について:
(1) のとき,収束半径は 1 であるという.
(2) のとき,収束半径は ⇢ であるといい,円: z = ⇢ を収束円という.
(3) のとき,収束半径は 0 であるという.
証明 補題の証明から続けて,
⇢ := sup z0 ; ベキ級数 1 が z = z0 で収束
( = 1 も許す)
とおくと定理が成立する2.すなわち, z < ⇢ で絶対収束, z > ⇢ で発散.
⇤
定理 3.5(係数比判定法)
an
が( 1 を許して)存在する
an+1
an 6= 0 (n = 0, 1, 2, . . . ) かつ R := lim
n!1
=) R = ⇢.
注意 3.6 (1) an と an+1 のどちらが分子でどちらが分母なのかを忘れたら,極端な例
P
で試してみればよい.たとえば an が急速に大きくなると
an z n が収束しにくくなるは
ずであるから, an+1 が分母にくるはずであるという様に.
(2) 次の Cauchy–Hadamard の定理から定理 3.5 を導けるが(演習参照),上極限について
理解が十分でない人のために,ここでは直接証明を与える.
2実際
z < ⇢ ならば, z < 9⇢0 < ⇢ s.t. z0 = ⇢0 かつベキ級数 1 が z = z0 で収束.このとき,
補題から z でもベキ級数 1 が収束.一方で, z > ⇢ である z でベキ級数 1 が収束したら,⇢ の定義
に反する.
2
証明
z < R で絶対収束, z > R で発散ということがわかれば,R = ⇢ である.
(1) z < R(R = 1 のときを含む)とする.ここで r > 0 を z < r < R を
an
みたすようにとる.仮定より,9N s.t. n = N =)
> r.したがって,
an+1
aN +k < 1k aN (k = 1, 2, . . . ).ゆえに3
r
⇣ z ⌘k
aN +k z N +k 5 aN z N
(k = 1, 2, . . . ).
r
P
z
05
< 1 より,
an zn は収束する.
r
(2) z > R(R = 0 の場合を含む)のとき. z > r > R をみたすように r > 0 をと
an
る.このとき,9N s.t. n = N =)
< r.したがって, aN +k > 1k aN
an+1
r
4
(k = 1, 2, . . . ).ゆえに
⇣ z ⌘k
aN +k z N +k > aN z N
(k = 1, 2, . . . ).
r
P
z
> 1 であるから,一般項 an z n は 0 に収束しないので, an z n は発散する. ⇤
r
定理 3.7 (Cauchy–Hadamard)
n
1 = 0, 1 = 1 と約束するとき, 1 = lim sup p
an .
1
0
⇢
n!1
P
注意 3.8 この定理でも, an が激しく大きくなるほど, an z n が収束しにくくなるので,
公式の左辺が ⇢ ではあり得ないことが確認できる.
証明
n
1 = lim sup p
an
R
n!1
束, z > R で
1
= lim sup
k!1 n=k
p
n
an
とおいて, z < R で
1
は絶対収
は発散することを示そう.
(1) z < R のとき.r > 0 をとって z < r < R とする. 1 > 1 であるから,
r
R
⇣ z ⌘n
p
9N s.t. n > N =) n an < 1 .ゆえに an z n 5
(n > N ) となって,
r
r
P
z
05
< 1 より,
an z n は収束する.
r
(2) z > R のとき.r > 0 をとって, z > r > R とする. 1 < 1 ゆえ,無数の
r
R
⇣ z ⌘n
p
1
n
n
n に対して, an > .ゆえにそのような n に対しては an z >
.ここ
r
r
P
z
で
> 1 より,一般項 an z n は 0 に収束しないので, an z n は発散する.
⇤
r
3z
= 0 の可能性があるので等号が必要になってくる.
z 6= 0 である.
4今度は条件より
3
注意 3.9
定理 3.7 においては,lim ではなくて lim sup であることに注意.たとえ
(
1
p
2n (n は偶数)
P
n
ばベキ級数
an z n で,an :=
である場合, an は収束しな
n
n=0
3 (n は奇数) p
n
い.しかし lim sup
an = 3 ゆえ,収束半径は 1 である.今の場合,係数比判定
3
n!1
an
法は使えない.なぜなら, lim
が存在しないから.
n!1 an+1
1
P
zn
1 (8n) であるから
. ······ 2
この場合 an =
n!
n!
n=0
(n + 1)!
an
=
= n + 1 ! +1 (n ! 1).
an+1
n!
ゆえに 2 のベキ級数の収束半径は 1 である. 2 の右辺のベキ級数でもって,複素変
ez :=
例 3.10
数の指数函数 ez の定義とする.定義域は C 全体である.
1 ( 1)m
P
z 2m. · · · · · · 3 この場合は
m=0 (2m)!
( 1)m
a2m+1 = 0, a2m =
(8m = 0, 1, 2, . . . )
(2m)!
n
z
ゆえ, an z n 5
(8n = 0, 1, 2, . . . ).よって例 3.10 より, 3 は 8z 2 C で絶対収
n!
束するので,収束半径は 1 である. 3 の右辺のベキ級数でもって,複素変数の函数
例 3.11
cos z :=
cos z の定義とする.定義域は C 全体で,偶函数である: cos( z) = cos z .
( 1)m
z 2m+1 でもって,複素変数の函数 sin z
m=0 (2m + 1)!
の定義とする.定義域は C 全体で,奇函数である: sin( z) = sin z .
例 3.12
同様に,sin z :=
1
P
命題 3.13
8z 2 C に対して,eiz = cos z + i sin z .
証明
で z を iz とする.cos z ,sin z のベキ級数が絶対収束しているので,
1
1
1
X
X
X
n n
( 1)m 2m
( 1)m
i
z
iz
e =
=
z +i
z 2m+1 = cos z + i sin z.
n!
(2m)!
(2m + 1)!
2
n=0
m=0
m=0
• 極形式 z = r(cos ✓ + i sin ✓) を今後は z = rei✓ と表す.
eiz + e iz
eiz e iz
• 命題 3.13 より,cos z =
,sin z =
.
2
2i
z
z
z
e z とおく(双曲線函数)と,
• cosh z := e + e ,sinh z := e
2
2
cos z = cosh(iz),
sin z = 1 sinh(iz),
i
cosh z = cos(iz),
sinh z = i sin(iz).
4
⇤