[2.著作権侵害] 1.全体の傾向 (1)苦情・クレームの類型 本年度に寄せられた苦情・クレームの事例を、対象となる情報の発信形態に着目して分類すると、以 下のとおりとなる。苦情・クレームの内容(要求内容)は、情報の削除(送信防止措置)、情報の発信 者の住所・氏名の開示であった。 (1) 会員が、自社が提供するホームページ開設サービスを利用して開設したホームページの内容に関 する苦情・クレーム (2) 会員が、ファイル交換ソフトを利用してインターネット上で行なっていると思われる情報の授受 に関する苦情・クレーム * 「会員が、自社のアカウントを利用してインターネットに接続し、他者の管理する掲示板に書き込 んだ文章に関する苦情・クレーム」は、なかった。 (2)全体の傾向 本年度に寄せられた事例には、昨年度までの事例にはみられなかった以下の傾向、特徴がみられる。 ・ 上記(1)のスキーム自体は、従来より苦情の対象となっていたが、本年5月にプロバイダー責任制 限法が施行されたのに伴い、同法に基づき発信者情報の開示を請求されたケースや、信頼性確認 団体からプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会所定の書式を用いて送信防止措置を要 求されたケースが含まれている。 ・ 上記(2)のケースでは、ホームページ等とは異なり、対象となる情報の内容を確認できないため、 権利侵害性や違法性を検討することが困難であることから、対応に苦慮することが多いと考えら れる。 2.対応の方向性等 今年度寄せられた事例にみられる対応方針を、上記1の各類型ごとにみると以下のとおりであるが、著作 権侵害の場合は、名誉毀損・プライバシー侵害のカテゴリーと異なり、信頼性確認団体から送信防止措置 の依頼が寄せられることがある。(信頼性確認団体については、3(4)を参照されたい。) (1)の類型 ・ 信頼性確認団体から送信防止措置を依頼されたケースでは、該当の Web ページを閲覧し、明らかな対 象情報の誤解等が認められなかったので、権利侵害に該当するとの前提で対応を行なった。 ・ プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求を受けたケースでは、証拠書類等から、請求者が 著作権者であることや対象となる情報の確認ができたので、同法に基づき該当の利用者に対して、発 信者情報開示に係る意見照会を行なった。 (2)の類型 ・ 侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書を用いずに送信防止送信措置を講ずるよう要求されたケース。 IP アドレスとタイムスタンプの提示があったので、一応該当の会員を特定することはできたが、ホー ムページや BBS への書き込みと違って、当該会員が本当に違法性のある情報の送受信を行なっている のかを確認する術がないため、そのような通報があった旨を通知し、通報どおりの行為を行なってい たとしたら著作権侵害にあたるので止めるように求めるにとどまった。 (違法な情報のやり取りを中止 させるには、現時点では会員資格を停止する以外に方法がないが、違法性の確認ができないのに、会 員資格の停止のように重大な措置を講ずることは困難である。) 著作権侵害に関する申し入れを受け対応を検討するに際し、例えば、Webページに複数のファイル がアップロードされていて、全てのファイルにつき著作権侵害が明らかな場合等は、苦慮することは 少ないと考えられるが、当該Webページ上のファイルの一部について申し入れを受けた場合等は利 用者の表現の自由やサービス利用契約上の権利への配慮から、対応に苦慮することが少なくないと考 えられる。送信防止措置の対象となる情報は、著作権侵害に該当することが明らかなものに限定され るべきであるが、大半のファイルが著作権侵害に該当することが明らかな場合等はWebページその ものを著作権侵害と評価し得る可能性がある。対応にあたっては、条発信の形態等を考慮し慎重な検 討が必要である。 3.関連事項 (1)著作権侵害に関する苦情を受けた時の対応 著作権侵害に関する苦情を受けた時の対応の方向性については、以下のガイドラインを参照されたい。ま た、契約約款において禁止事項、禁止事項が行われた時の制裁措置を予め明確に定めておくことが望まし い。約款類の整備には、以下のサイトを参考されたい。 ・インターネット接続サービスなどにかかる事業者の対応に関するガイドライン http://www.telesa.or.jp/guide/guide01.htmal ・インターネット接続サービス契約約款モデル条項(α版) http://www.telesa.or.jp/html/model/modelindex.htm (2)著作権侵害に関する具体的な対応 著作権侵害(おそれのある場合を含む)に関する具体的な対応を検討するにあたっては、プロバイダ責任 制限法に関する以下のサイトを参考にされたい。 ・プロバイダ責任制限法著作権関係ガイドライン(プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会) http://211.0.28.19/01provider/index_provider.html ・総務省が公表した同法の解説 http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020524_1.html (3)他人の著作物の取り扱いに関する注意喚起 ホームページを作成およびインターネット上で通信をする際、他人の著作物の取り扱いに関する注意を喚 起し、他人の著作権を侵害しないよう啓発していくことが重要である。この点、以下のサイトを参考され たい。 ・インターネット自己防衛マニュアル(テレコムサービス協会) http://www.telesa.or.jp/html/990426.htm ・インターネットを利用する方のためのルール&マナー集(インターネット協会) http://www.iajapn.org/rule (4)信頼性確認団体 著作権侵害においては、信頼できる第三者が一定の信頼できる手続きにより著作権侵害を確認している場 合には、社会的に見ても本人性等の確認ができていると判断できると考えられる。プロバイダ責任制限法 ガイドライン等検討協議会では、著作権関係ガイドラインにおいて、著作権者等と一定の関係にあり、一 定の基準を満たすものを信頼性確認団体と位置付けている。(当該基準については、上記(2)のガイド ラインを参照されたい。)本年9月末の時点で、7団体が信頼性確認団体に認定されているので、以下の サイトを参照されたい。 ・信頼性確認団体の第1回認定について(プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会) http://211.0.28.19/01provider/index_provider_020930.htm なお、信頼性確認団体が、申出者の本人性や著作権者等であることを確認し、併せて著作権等の侵害を確 認し、著作権関係ガイドライン所定の書式の適切にその確認をした旨の書面等を添付している場合には、 プロバイダ等は、当該書面等を確認することで適切な確認がなされていると判断できると考えられている。 4.事 例 No.1 会員ホームページによる著作権侵害(アニメーション) 苦情等の内容 :苦情等の内容:海外のアニメーションの映像がホームページ上で使用され、著作権違反 となる旨の通報を受けた。(削除等の対応の要求) 苦情元の属性 :一般ユーザ以外 関係する自社サービス :ウエブホスティング 対応の方向性 :確認したところ、既に問題のファイルはサイト上になく、開設自ら削除した模様。 検討課題 :特になし。 No.2 会員ホームページによる著作権侵害(出版物) 苦情等の内容 :会員が開設したホームページに自社の出版物を無断で掲載した部分が含まれており、著 作権法第 23 条の公衆送信権(送信可能化権を含む)が侵害されたとして、プロバイダ 責任制限法ガイドライン等検討協議会所定の書式(発信者情報開示依頼書)により、発 信者情報の開示を請求された。証拠書類として、ホームページの該当箇所のプリントア ウト及び当該出版物の該当箇所のコピーが添付されていた。 苦情元の属性 :一般ユーザ以外 関係する自社サービス :ウエブホスティング 対応の方向性 :依頼書及び添付された証拠書類を検討した結果、プロバイダ責任制限法第 4 条第 1 項の 発信者情報開示請求に当たると考えられるので、同法第 4 条第2項に基づく発信者情報 開示に係わる意見照会をプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会所定の書式を 用いて行った。その結果、ホームページ開設者より、発信者情報の開示に同意する旨の 回答を得たので、請求者に当該発信者情報を開示し、当事者間に解決を委ねることとし た。 検討課題 :発信者情報の開示について同意が得られなかった場合は、プロバイダーが権利侵害の明確性 等を検討し、開示請求に応じるか否かを慎重に決定しなければならないが、この検討に は困難な場合が多いと思われる。 No.3 会員ホームページによる著作権侵害(音楽著作物) 苦情等の内容 :会員が開設したホームページに信頼性確認団体が著作権を有する著作物が無断で掲載さ れており、著作権法第 21 条の複製権、同題 23 条の公衆送信権(送信可能化権を含む) を侵害しているとして、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会所定の書式(著 作物等の送信を防止する措置の申出について)により、当該著作物の送信を防止する措 置を講ずるよう求められた。添付書類として、権利を侵害されたとする著作物のリスト (作詞者、作曲者、音楽出版社等)が添付されていた。 苦情元の属性 :一般ユーザ以外 関係する自社サービス :ウエブホスティング 対応の方向性 :該当ホームページにアクセスしたところ、信頼性確認団体の申し出が事実であることが 確認できたが、会員が開設したホームページの内容については、会員自身に責任を負っ てもらう方針でサービスを提供しているので、弊社側での削除等の措置を講じるのでは なく、期限を指定して、リストに記載された音楽著作物を削除するよう、開設者に求め た。その結果、開設者は該当のホームページを閉鎖した。 検討課題 :特になし No.4 peer-to-peerソフトウエアによる情報の送受信に対する著作権侵害の苦情 苦情等の内容 :当社会員が Gunutella(peer-to-peer ソフトウエア)を利用して権利者の承諾を得ずに、 動画データ(The Simpsons)を頒布していることに関する著作権侵害の苦情。 苦情元の属性 :一般ユーザ以外 関係する自社サービス :インターネット接続 対応の方向性 :申告者は、係る行為に関して当該会員への 1.アクセスを不能にすること 2.会員規約に基づいた適切なアクション を当社に要求しているが、peer-to-peer ソフトウエアによる行為であるため当社では、 その事実関係を確認できない。そのため苦情申告だけに基づいて1の処置はできないの で、2 に対する処置が適当と判断し、当該会員に対し電話とメールで「苦情がある旨の 連絡」と「事実であれば著作権侵害行為の中止のお願い」を行った。 検討課題 :最近、peer-to-peer ソフトウエアによる著作権侵害や名誉毀損の苦情が多くなっている ので、かかる苦情申告に対する「取り扱い基準」を検討する必要性がある。
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