[1.名誉毀損・プライバシー侵害] 1.全体の傾向 (1)苦情・クレームの類型 本年度に寄せられた苦情・クレームの事例を、対象となる情報の発信形態に着目して分類すると、概ね 以下のとおりとなる。苦情・クレームの内容(要求内容)は、情報の削除、情報の発信者の住所・氏名 の開示・強制退会であった。 (1) 会員が、自社が提供するホームページ開設サービスを利用して開設したホームページの内容や電子 掲示板に書き込んだ文章に関する苦情・クレーム (2) 会員が、ファイル交換ソフトを利用してインターネット上で行なっていると思われる情報の授受に 関する苦情・クレーム *「会員が、自社のアカウントを利用してインターネットに接続し、他者の管理する掲示板に書き込ん だ文章に関する苦情・クレーム」は、なかった。 (2)全体の傾向 本年度に寄せられた事例には、昨年度までの事例にはみられなかった以下の傾向、特徴がみられる。 ・ 本年5月にプロバイダ責任制限法が施行された関係から、同法に言及した苦情・クレームが寄せら れたが、情報の削除等の要請を受けたプロバイダには要請に応えなければならない義務が生じると 誤解しているケースや、データの保全や会員資格の停止等も同法に基づき請求できると誤解してい るケースがあった。施行から間がないことから、同法の趣旨が必ずしも正確に理解されていないと 考えられる。 ・ また、同法に言及してはいるものの、 「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書」あるいは「発信者 情報開示依頼書」を使用した申し入れはなく、同書を使用して再度具体的に申し入れてほしい旨を 伝えると、その後コンタクトがなくなる。事例を収集した時期が本年7~8月であり、施行から間 がないことから、同書が普及していないと考えられる。また、寄せられた事例に限っていえば、同 法に基づく救済が必要なレベルには達していなかったものとも推測される。 上記(2)のケースは、第三者に漏洩した個人情報がインターネット上で流通していることが背景にあ ると推測される。後述のとおり、このようなケースでは、ホームページ」等とは異なり、対象とな る情報の内容を確認できないため、権利侵害性や違法性を検討することが困難であることから、対 応に苦慮することが多いと考えられる。 2.対応の方向性等 苦情・クレームの背景や情報発信の形態等は様々であり、対応の方向性は事例毎に異なるのが通常である が、今年度寄せられた事例にみられる対応方針を、上記1の各類型ごとにみると以下のとおりである。 (1)の類型 ・ 実社会における取引を巡るトラブルに端を発し、ホームページの削除(閉鎖)や開設者の住所、氏名 の開示等を求められたケースでは、相手先への連絡手段を有していると考えられるところから、当事 者間解決へ誘導した。電子掲示板上の紛争に端を発し、相手方の住所、氏名等の開示を求められたケ ースでも、通報者も激烈な調子で反論しているところから当事者間解決へ誘導した。 (削除を行なうこ とだけがプロバイダの取るべき措置ではなく、警告や当事者間解決への誘導などのように削除以外の 措置であっても、解決に資する場合もあると考えられる。 ) ・ 発信者情報(住所、氏名)の開示を求められたケースでは、発信者情報開示依頼書を使用して再度具 体的に申し入れてほしい旨を伝えた。 ・ 電子掲示板で自分を誹謗中傷した会員の強制退会を求められたケースでは、被害届を出し当該会員が 逮捕、略式起訴されており、起訴の事実が確認できたので、強制退会処分を講じた。 (2)の類型 ・ 侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書を用いずに送信防止措置を講ずるよう要求されたケース。IP アドレスとタイムスタンプの提示があったので、一応該当の会員を特定することはできたが、ホーム ページや BBS への書き込みと違って、当該会員が本当に違法性のある情報の送受信を行なっているの かを確認する術がないため、そのような通報があった旨を通知するにとどまった。 (違法な情報のやり 取りを中止させるには、現時点では会員資格を停止する以外に方法がないが、違法性の確認ができな いのに、会員資格の停止のように重大な措置を講ずることは困難である。) 3.関連事項 (1)違法・有害情報に関する通報を受けたときの対応の方向性については、以下のガイドラインを参照 されたい。また、契約約款において禁止事項、禁止事項が行なわれたときの制裁措置を予め明確に定めて おくことが望ましい。約款類の整備には、以下のサイトを参考にされたい。 ・インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン http://www.telesa.or.jp/guide/guide01.html ・インターネット接続サービス契約約款モデル条項(α版) http://www.telesa.or.jp/html/model/modelindex.htm (2)通報元がプロバイダ責任制限法に関する知識が十分でない場合や、「侵害情報の通知書兼送信防止 措置依頼書」あるいは「発信者情報開示依頼書」を使用した申し入れを求める場合は、以下のサイトを参 考にされたい。 ・プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会 http://211.0.28.19/01provider/index_provider.html ・総務省が公表した同法の解説 http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020524_1.html (3)不用意に自分の住所、氏名、電話番号等を他者に開示すること、あるいはこれらの情報が他者に知 られることが、プライバシー侵害につながるケースもあると考えられるところから、ユーザー(特に子供) に対して、自分の情報の管理及び他人の情報の取り扱いに関する注意を喚起し、被害者にならないだけで なく、加害者にもならないよう啓発していくことが重要である。この点、以下のサイトを参考にされたい。 ・インターネット自己防衛マニュアル(テレコムサービス協会) http://www.telesa.or.jp/html/990426.htm ・インターネットを利用する方のためのルール&マナー集(インターネット協会) http://www.iajapan.org/rule/ ・親子でたのしむインターネット(日本ルーテル・アワー) http://www.jlh.org/me/page2.html 4.事 例 No.1 自社を誹謗中傷するホームページの削除の要求 苦情等の内容 :自分が経営する会社を誹謗中傷する内容のホームページが開設されている。 (URL の指 定あり)新しい法律により、プロバイダは問題のあるホームページを削除しなければな らなくなった、と聞いているので、すぐにそのホームページを削除してほしい。 苦情元の属性 :一般ユーザー(非会員) 関係する自社サービス :自社のサービスは関係していない。 対応の方向性 :該当のホームページを確認したところ、他のプロバイダのサービスを利用して開設され たホームページだったので、その旨を伝えるとともに、削除を要求する場合は、当該プ ロバイダに申し入れてほしい旨を併せて伝えた。その後、接触はない。 検討課題 : 「新しい法律」が、プロバイダ責任制限法を指しているのは明らかだが、削除等の要求を 受けるとプロバイダには要求に応えなければならない義務が生じるとの誤解あり。同法 の趣旨について、正確な普及が望まれる。 No.2 会員が開設したホームページに係わる削除等の要求 苦情等の内容 :御社の会員が開設したホームページに、当社に対するいわれのない誹謗が含まれている。 プロバイダ責任制限法に基づき、当該ホームページの開設者に適切な法的措置を講ずる ため、以下の対応をお願いしたい。 (URL の指定はあったが、誹謗にあたる部分の指定 はなかった。 ) 1.誹謗にあたる部分の掲載日時の開示 2.当該ホームページの閉鎖、及びデータの保全 3.当該ホームページ開設者の会員資格の停止 4.当該ホームページ開設者の住所、氏名の開示 5.当該ホームページのデータが蓄積されたサーバの所在地の開示 苦情元の属性 :一般ユーザー(非会員) 関係する自社サービス :ウェブホスティング(ホームページ開設サービス) 対応の方向性 :当該ホームページを閲覧したところ、通報者が誹謗にあたると考えているらしい部分が 1箇所見つかったが、実社会における取引を巡るトラブルについて触れたものであり、 直ちに違法ないし権利侵害にあたるとは考えられなかった。 また、通報者とホームページ開設者の間には実社会で接点があると思われ、当該ホー ムページには開設者のメールアドレスが表示されており、開設者に直接申し入れること が可能な状況に見受けられた。 このような事情から、以下の趣旨の回答を伝えたところ、その後コンタクトはなかった。 ・当事者間で解決を図ってほしい ・現状では、送信防止措置及び発信者情報の開示の要求には応じられない。 ・その他の要求には、法的根拠がないので応じられない。 No.3 掲示板上の小競り合い 苦情等の内容 :御社が運営する掲示板に私を攻撃する発言を繰り返し書き込んでいる御社会員の住所、 氏名を開示してほしい。 苦情元の属性 :一般ユーザー(非会員) 関係する自社サービス :掲示板(非会員も書き込みを行なうことが可能) 対応の方向性 :当該掲示板を見たところ、通報者と思われる人物も応酬しており、一方的に攻撃されて いるわけではなかったことから、当事者間で解決するよう求めたところ、その後コンタ クトはなかった。 No.4 プライバシー侵害 苦情等の内容 :掲示板に、虚偽を書き込まれ写真まで載せられた。裁判を起こすので、プロバイダ責任 制限法に基づき、会員情報を開示してほしい。 苦情元の属性 :一般ユーザー(非会員) 関係する自社サービス :掲示板 対応の方向性 :裁判を起こすことは、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求権の要件(正 当な理由)を満たすと考えられるが、具体的な書き込みの特定や侵害されたとする権利 の説明がなされていなかったため、テレサ協のホームページに掲載されている「侵害情 報の通知書兼送信防止措置依頼書」書式を用いて再度申し入れてほしい旨を伝えたとこ ろ、その後、コンタクトはなかった。 No.5 誹謗・中傷 苦情等の内容 :自分を誹謗する書き込みが行なわれた件に関し、被害届を出したところ、書き込みを行 なった人物は逮捕され、略式起訴された。ついては、この人物を強制退会させてほしい。 苦情元の属性 :一般ユーザー(会員) 関係する自社サービス :掲示板 対応の方向性 :略式起訴の関係書類が送られてきたので内容を確認したところ、会員規約違反が認めら れたので、退会措置を講じた。 No.6 プライバシー侵害2 苦情等の内容 :御社の会員が、当社ホームページにアクセスし、当社の顧客リストをダウンロードし、 ファイル交換ソフトを使って、インターネット上でやり取りしている可能性があるので、 送信防止措置を講じてほしい。(プロバイダ責任制限法への言及はあったが、 「侵害情報 の通知書兼送信防止措置依頼書」書式を用いた申入れではなかった。 ) 苦情元の属性 :一般ユーザー以外(弁護士) 関係する自社サービス :インタ-ネット接続 対応の方向性 :IP アドレスとタイムスタンプが提示されたので、一応、該当の会員の特定はできたが、 事実確認ができないので、要請の内容を伝えるにとどまった。 対応に苦慮した点 :直接の原因は、顧客リストのような重要な情報が誰でもアクセスできる場所に置か れていたことであるが、このような要求を受けたとき、プロバイダとしてどこまで対応 するべきか判断が難しい。特に、ホームページや掲示板等と異なり、対象となる情報の 中身が確認できないため、対応するとしても現時点では本件のように警告を行なうのが 限界ではないだろうか?
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