ブラジルの下振れリスクは高まっている

リサーチ TODAY
2015 年 3 月 2 日
ブラジルの下振れリスクは高まっている
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
ブラジル経済は、①財政緊縮措置の発動、②金融引締めの継続、③資源価格下落による交易条件の
悪化により2015年はマイナス成長に転落する可能性が高い。みずほ総合研究所は、ブラジルでの現地取
材に基づくリポートを発表し1、2015年はブラジル経済の「調整の年」、景気回復は2016年以降との見方を
示してきた。今回はさらに、「下振れリスク高まるブラジル経済」と題するリポートを発表している2。同時に、
2015年の成長率が▲0.3%に低下すると展望している。
今日の資源価格の下落のブラジル経済への影響については、原油安がインフレを抑制する効果は限定
的で、交易条件の悪化によるマイナスの影響のほうが大きい。その結果、資源関連の主要企業では、大幅
な投資削減の動きもみられる。資源価格の下落は、ブラジルのような資源輸出国の場合、交易条件(輸出
物価/輸入物価)の悪化を通じて所得の海外流出をもたらすことから、外需のみならず内需にも悪影響を及
ぼす。下記の図表はブラジルの交易条件を示す。ブラジルの交易条件は、2000年代後半以降穏やかな改
善傾向を示し、そこでは、特に金属鉱物(鉄鉱石)がけん引役になっていた。しかし、2012年以降は資源価
格の下落により、輸出物価が下落する一方、レアル安の進行等を背景に輸入物価は横ばい圏で推移し、
交易条件の悪化が続いている。
■図表:ブラジルの交易条件(輸出物価・輸入物価)推移
(2006=100)
200
交易条件(輸出物価/輸入物価)
輸出物価
輸入物価
180
160
140
120
100
80
60
2000
02
04
06
08
10
12
14 (年)
(資料)通商研究センター(FUNCEX)
交易条件の変化に伴う実質所得(購買力)の変化を捉える概念に、交易利得・損失(海外からの所得の
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2015 年 3 月 2 日
流出入)がある。定義上、実質GDP(国内総生産)に交易利得・損失を加えたものが実質GDI(国内総所得)
となる。下記の図表で、ブラジルの交易利得の推移をみると、2000年代前半は小幅な変動にとどまってい
たが、2006-2008年にかけては交易利得の変動(ここでは交易損失の縮小)がプラスに寄与して、実質GDI
の伸びが実質GDPを上回っていた。一方、2012年以降は、交易条件が悪化するとともに、交易利得幅は縮
小し、実質GDI成長率は実質GDP成長率を下回っている。また、交易利得の縮小により、実質所得の伸び
が鈍化することで、消費や投資にも下押し圧力がかかっている。
■図表:ブラジルの実質GDP・実質GDI・交易利得推移
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(前年比、%)
交易利得
8
実質GDP
実質GDI
6
4
2
0
-2
2000
02
04
06
08
10
12
14 (年)
(注)1.2014 年は 7~9 月期までの実績。交易利得は寄与度。
2.実質 GDI、交易利得は、輸出入物価の加重平均を共通デフレーターとして算出。
(資料)ブラジル地理統計院(IBGE)
国際的な資源価格の先行きを占ううえで重要なのが中国の動向である。ただし、中国が投資主導のモデ
ルを転換し、安定した成長率まで減速する「新常態」を基本姿勢とするのであれば、鉄鉱石を中心とした資
源価格の上昇は期待しにくい。それだけに、ブラジル経済には下押し圧力がかかりやすいだろう。みずほ
総合研究所は2015年のブラジルの成長を▲0.3%で見通し、2016年を1.0%とした。景気回復はインフレ率
のピークアウトにより金融緩和余地が生じる2016年以降とした。ブラジルとロシア3は2000年代の成長をリー
ドした新興国であるが、2015年は軒並みマイナス成長に陥るだけに、世界全体の回復力はまだまだである。
新興国の回復のためには、まず、日米等の先進国が先に浮上するシナリオを期待するしかないだろう。
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西川珠子 「ブラジル経済は変われるのか」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2014 年 12 月 5 日)
西川珠子 「下振れリスク高まるブラジル経済」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 2 月 13 日)
2015 年のロシアの成長率をみずほ総合研究所は▲4.5%で予想している。
筆者の都合により、3 月 3 日(火)から 3 月 11 日(水)は休刊とさせていただきます。
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