目 次 2.6 非臨床概要...................................................................................................................2 2.6.1 緒言 ..............................................................................................................................2 2.6.2 薬理試験の概要文.......................................................................................................3 2.6.2.1 まとめ ..........................................................................................................................3 2.6.2.2 効力を裏付ける試験...................................................................................................3 2.6.2.2.1 セロトニン 5-HT2C 受容体機能に及ぼすフルボキサミンの影響..........................3 2.6.2.3 副次的薬理試験...........................................................................................................6 2.6.2.4 安全性薬理試験...........................................................................................................6 2.6.2.5 薬力学的薬物相互作用試験.......................................................................................6 2.6.2.6 考察及び結論...............................................................................................................6 2.6.2.7 参考文献.......................................................................................................................8 2.6.3 薬理試験の概要表.....................................................................................................11 2.6.4 薬物動態試験の概要文.............................................................................................12 2.6.5 薬物動態試験の概要表.............................................................................................12 2.6.6 毒性試験の概要文.....................................................................................................13 2.6.7 毒性試験の概要表.....................................................................................................13 1 2.6 非臨床概要 2.6.1 緒言 マレイン酸フルボキサミン(以下,フルボキサミン)は選択的セロトニン再取り込み 阻害薬(以下,SSRI)の一つであり,in vitro 試験におけるセロトニン再取り込み阻害作 用はノルアドレナリンあるいはドパミンの再取り込み阻害作用と比較してそれぞれ 130 倍,160 倍強力である 1)。フルボキサミンの選択的なセロトニン再取り込み阻害作用は, フルボキサミンを投与したラットの摘出脳組織を用いた ex vivo 試験においても認めら れ 2) ,更にフルボキサミン投与後のラット脳内の細胞外モノアミン濃度を Brain Microdialysis 法で測定した結果ではセロトニン濃度の選択的な増加が認められている 3)。 うつ病の動物モデルとして汎用されているマウス強制水泳法及び尾懸垂法において,フ ルボキサミンは無動時間を短縮し,抗うつ作用を示した 4,5)。また,不安の動物モデルで あるマウスのガラス玉覆い隠し試験,ラットの母子隔離誘発性超音域発声試験において, 抗不安作用が認められている 6,7)。これらのことから,フルボキサミンはセロトニンの細 胞内への再取り込みを阻害し,その結果として細胞外のセロトニン濃度を高めてセロト ニン神経伝達を亢進させることにより,うつ病や各種の不安障害を改善するものと考え られている。 社会不安障害は米国精神医学会が発行する『精神疾患の診断統計マニュアル第 4 版 (DSM-IV)』において不安障害の一つとして分類されている。近年,SSRI が社会不安障 害にも有効で副作用も少ないことが相次いで報告され 8,9,10,11,12,13) ,海外においては,塩 酸パロキセチン(以下パロキセチン)と塩酸セルトラリン(以下セルトラリン)が社会 不安障害の適応で承認を得ている。 社会不安障害の病態解明につながる研究は極めて少なく,その病態が明らかになって いるとは言えない 14)。近年,不安(恐怖)を調節する脳内セロトニン神経が 2 種類に分 類され,背側縫線核から中脳水道灰白質へ投射するセロトニン神経は不安を抑制し,背 側縫線核から扁桃核と前頭葉皮質に投射するセロトニン神経は逆に不安を亢進するこ とが明らかになった 15)。社会不安障害患者では,扁桃核の神経活動が亢進していること が報告されており,これが不安症状の発現に関与している可能性があると考えられてい る 16) 。また,社会不安障害患者においてはセロトニン遊離促進薬の fenfluramine やセロ トニン 5-HT2C 受容体作動薬の m-chlorophenylpiperazine(以下 mCPP)による血中コルチ ゾールの上昇や不安症状の悪化が健康成人より顕著であることから,社会不安障害の患 者ではセロトニン 5-HT2C 受容体の機能が過剰亢進していることが示唆されている 17,18,19)。 さらに,パロキセチンとセルトラリンは反復投与によりセロトニン 5-HT2C 受容体機能に 脱感作が生じることから ている 20,21,22) ,これが抗不安作用発現の機序である可能性が提唱され 22) 。しかしながら,フルボキサミンでは同様の検討は行われていない。そこで今 回,セロトニン 5-HT2C 受容体機能に及ぼすフルボキサミンの影響を明らかにする目的で, 2 mCPP がラットに誘発する自発運動量減少に及ぼすフルボキサミン反復投与の影響につ いて検討した。 2.6.2 薬理試験の概要文 2.6.2.1 まとめ 社会不安障害に対応する確立された動物モデルは存在しない。しかしながら 2.6.1 項 で述べたように,社会不安障害の患者ではセロトニン 5-HT2C 受容体の機能が過剰亢進し ており,社会不安障害の適応で承認を得ているパロキセチンやセルトラリンは,セロト ニン 5-HT2C 受容体機能を脱感作させることにより抗不安作用を発揮するとの可能性が 考えられている。そこで,フルボキサミンがセロトニン 5-HT2C 受容体機能を脱感作させ るか否かについて,セロトニン 5-HT2C 受容体作動薬の mCPP が誘発するラットの自発運 動量の減少を指標に検討した。 その結果,フルボキサミンは正常ラットの自発運動量に影響を与えず,mCPP が誘発 する自発運動量の減少に対して単回投与では影響しなかったが,30 または 90 mg/kg の 反復経口投与により mCPP による自発運動量の減少を有意に抑制した。パロキセチン 10 mg/kg の反復投与も同様の効果を示した。 このことから,フルボキサミンの反復投与によりセロトニン 5-HT2C 受容体機能が脱感 作することが示唆され,社会不安障害に対するフルボキサミンの有効性は社会不安障害 患者で過剰亢進したセロトニン 5-HT2C 受容体の機能が是正されることにより発現して いる可能性があるものと考えられた。 2.6.2.2 効力を裏付ける試験 2.6.2.2.1 セロトニン 5-HT2C 受容体機能に及ぼすフルボキサミンの影響 実験群設定とその投与スケジュールについて表 2.6.2.2-1 に示した。ラットにフルボキ サミンの 10,30 及び 90 mg/kg,パロキセチンの 10 mg/kg あるいは溶媒(1% Tween 80) を 1 日 1 回,21 日間反復経口投与した。最終投与の翌日(22 日目)にセロトニン 5-HT2C 受容体作動薬の mCPP 4 mg/kg を腹腔内投与し,投与 20 分後から 10 分間にわたってラ ットの自発運動量を赤外線センサー装置を用いて測定することで,mCPP が誘発する自 発運動量の減少に及ぼすフルボキサミンとパロキセチンの反復投与の影響を検討した。 フルボキサミンとパロキセチンの反復投与後に生理食塩液を投与する群(G 及び H 群) 並びにフルボキサミンとパロキセチンを反復投与期間の 21 日目のみ投与する群(I 及び J 群)を設けることにより,それぞれ正常ラットの自発運動量に及ぼすフルボキサミン とパロキセチンの反復投与の影響と,mCPP により誘発されるラットの自発運動量の減 少に及ぼすフルボキサミンとパロキセチンの単回投与の影響についても合わせて検討 3 した。 mCPP による自発運動量の減少に対して,フルボキサミンの反復投与は用量依存的な 抑制作用を示し,30 及び 90 mg/kg で対照群(B 群)に対し有意差が認められた。パロキ セチン 10 mg/kg の反復投与も mCPP による自発運動量の減少を有意に抑制した(図 2.6.2.2-1)。 一方,フルボキサミンの 90 mg/kg あるいはパロキセチンの 10 mg/kg の反復投与は, mCPP を投与しない正常ラットの自発運動量には影響しなかった。また,フルボキサミ ンの 90 mg/kg あるいはパロキセチンの 10 mg/kg の単回投与(反復投与期間の 21 日目の みの投与)では,mCPP による自発運動量の減少に影響しなかった(図 2.6.2.2-2) 。 表 2.6.2.2-1 投与スケジュール 群 1~20 日目 21 日目 22 日目 mCPP/自発運動量測定 mCPP/自発運動量測定 mCPP/自発運動量測定 mCPP/自発運動量測定 生理食塩液/自発運動量測定 生理食塩液/自発運動量測定 図 2.6.2.2-1 図 2.6.2.2-2 図 2.6.2.2-1 図 2.6.2.2-2 図 2.6.2.2-1 図 2.6.2.2-1 図 2.6.2.2-1 図 2.6.2.2-1 図 2.6.2.2-2 図 2.6.2.2-2 mCPP/自発運動量測定 図 2.6.2.2-2 mCPP/自発運動量測定 図 2.6.2.2-2 A 溶媒 生理食塩液/自発運動量測定 B 溶媒 mCPP/自発運動量測定 C D E F G H I J マレイン酸フルボキサミン 10 mg/kg マレイン酸フルボキサミン 30 mg/kg マレイン酸フルボキサミン 90 mg/kg 塩酸パロキセチン 10 mg/kg マレイン酸フルボキサミン 90 mg/kg 塩酸パロキセチン 10 mg/kg マレイン酸フルボキサミ 溶媒 ン 90 mg/kg 塩酸パロキセチン 溶媒 10 mg/kg 群名を図 2.6.2.2-1 及び図 2.6.2.2-2 中に表示した。 mCCP: m-chlorophenylpiperazine 4 結果表示 *** 10 分間の自発運動量カウント 500 *** ### ## 400 300 200 100 (10) A群 B群 (10) 溶媒 溶媒 C群 (10) D群 (10) E群 (9) F群 (9) 10 30 90 10 0 パロキセチン フルボキサミン 生理食塩液 図 2.6.2.2-1 mg/kg, p.o. mCPP mCPP により誘発されるラットの自発運動量の減少に及ぼす フルボキサミンとパロキセチンの反復投与の影響 自発運動量の成績を,平均値と標準誤差で示した。 *** p<0.001(Student t-test) ,##p<0.01, ###p<0.001(Dunnett 多重比較) 括弧内は動物数を示す。 フルボキサミン:マレイン酸フルボキサミン,パロキセチン:塩酸パロキセチン mCCP: m-chlorophenylpiperazine 10 分間の自発運動量カウント 500 400 300 200 100 A群 (10) G群 (10) H群 (10) B群 (10) I群 (10) J群 (10) フルボキ サミン 90 パロキ セチン 10 溶媒 フルボキ サミン 90 パロキ セチン 10 0 溶媒 mg/kg, p.o. 単回投与+ mCPP 反復投与+生理食塩液 図 2.6.2.2-2 正常ラットの自発運動量に及ぼすフルボキサミンとパロキセチンの反復投与の 影響(左)並びに mCPP により誘発されるラットの自発運動量の減少に及ぼす フルボキサミンとパロキセチンの単回投与の影響(右) 自発運動量の成績を,平均値と標準誤差で示した。括弧内は動物数を示す。 Student t-test で溶媒群と薬物群の間にいずれも有意差なし。 フルボキサミン:マレイン酸フルボキサミン,パロキセチン:塩酸パロキセチン mCCP: m-chlorophenylpiperazine 5 2.6.2.3 副次的薬理試験 該当なし。 2.6.2.4 安全性薬理試験 該当なし。 2.6.2.5 薬力学的薬物相互作用試験 該当なし。 2.6.2.6 考察及び結論 mCPP は,セロトニン 5-HT2C 受容体を刺激することにより,ラットにおいては自発運 動量の減少の他,摂食行動の抑制並びに社会行動の減少を誘発するが,これらの反応は 社会不安障害の適応で海外で承認を得ている SSRI であるパロキセチンあるいはセルト ラリンの反復投与によって抑制されることが報告されている 20,21,22)。これらの SSRI の反 復投与がセロトニン 5-HT2 受容体数に及ぼす影響について検討された成績では,受容体 数が増加する,減少する,あるいは影響しないとの報告が散見され,一貫した成績は得 られていない 23,24,25) 。一方,セルトラリンの反復投与により,セロトニン 5-HT2 受容体 数は変化することなく,セロトニン 5-HT2 受容体以降の細胞内情報伝達系が減弱してい ることが示されている 25) 。セロトニン 5-HT2C 受容体のみを特異的に標識する放射性リ ガンドが存在しないため,セロトニン 5-HT2C 受容体数については検討されていないが, パロキセチンあるいはセルトラリンの反復投与による抗 mCPP 作用は 5-HT2 受容体数の 減少によるものではなく,受容体以降の細胞内情報伝達機能が脱感作したことによる可 能性が考えられている 20,21,22)。 今回,フルボキサミンはパロキセチンと同様に mCPP がラットに誘発する自発運動量 の減少を単回投与ではなく反復投与により抑制した。フルボキサミンはセロトニン 5-HT2C 受容体を介してラットの自発運動量を減少させることが認められており,フルボ キサミンがセロトニンの再取り込みを阻害する結果,シナプス間隙のセロトニン濃度が 上昇し,セロトニン 5-HT2C 受容体を刺激すると考えられる 26) 。しかしながら,フルボ キサミンの単回投与のみでは mCPP がラットに誘発する自発運動量の減少が抑制されな かったことから,シナプス間隙のセロトニン濃度の上昇が一時的な場合は,セロトニン 5-HT2C 受容体の機能は影響を受けないものと考えられる。 一般に SSRI はシナプス間隙のセロトニン量を増加させるが,投与初期においてはセ ロトニン神経活動を抑制的に調節しているセロトニン 5-HT1A 受容体やセロトニン 5-HT1D 受容体が刺激されるため,シナプス間隙のセロトニン濃度の上昇は大きなもので 6 はない。SSRI を反復投与することにより,セロトニン 5-HT1A 受容体やセロトニン 5-HT1D 受容体が脱感作してセロトニン神経活動の抑制が解除される結果,シナプス間隙のセロ トニン濃度は投与初期よりも上昇すると考えられている 27,28)。フルボキサミンのセロト ニン再取り込み阻害作用は反復投与によっても減弱せず 2),反復投与により投与初期よ りもシナプス間隙のセロトニン濃度が上昇する 29) ことから,セロトニン 5-HT2C 受容体 は長時間に亘って刺激され続けると考えられる。また,フルボキサミンの反復投与はセ ロトニン 5-HT2 受容体数と親和性に影響しないことが認められており 3),フルボキサミ ンが単回投与ではなく反復投与により mCPP の自発運動量減少作用を抑制したことは, 持続的なセロトニン刺激の結果,セロトニン 5-HT2C 受容体の機能が脱感作したことを示 しているものと考えられる。社会不安障害の患者ではセロトニン 5-HT2C 受容体の機能が 過剰亢進していることが示唆されていることから 17,18,19) ,社会不安障害におけるフルボ キサミンの有効性は,社会不安障害患者で過剰亢進したセロトニン 5-HT2C 受容体の機能 が是正されることにより発現している可能性があるものと考えられる。 社会不安障害の患者でセロトニン 5-HT2C 受容体の機能が過剰亢進しているとすれば, フルボキサミンを含む SSRI の投与開始時には 5-HT2C 受容体の刺激が過剰になり,むし ろ症状が悪化する可能性が懸念される。事実,社会不安障害患者にフルボキサミンを処 方した臨床研究において,統計学的に有意差はないものの,投与開始 1 週目にわずかな がら不安症状の悪化が認められるとする報告がある 8) 。しかしながらこのような所見は 少数の患者でのみ認められ,逆に投与を継続することにより,明らかな治療効果が観察 されている 8)。前述のように,SSRI によるシナプス間隙のセロトニン量の増加は投与初 期においては大きなものではないが,反復投与により投与初期よりも増加するとされて いる 27,28)。結果として投与初期におけるセロトニン 5-HT2C 受容体の刺激効果も軽微であ り,このため不安症状を顕著に悪化させる危険性は小さいものと考えられる。一方,SSRI を反復投与することにより,シナプス間隙のセロトニン量が投与初期よりも増加してセ ロトニン 5-HT2C 受容体の刺激効果も強まり,これに伴ってセロトニン 5-HT2C 受容体の 脱感作が進行するため,症状の悪化ではなくむしろ治療効果が発現するものと考えられ る。また,SSRI は投与初期に発現する消化器症状などの副作用を回避するため,通常低 用量から投与開始して維持用量まで漸増する投与法がとられる。この用法を勘案しても, 投与初期に不安症状が急激に悪化する危険性は小さいものと考えられる。 7 2.6.2.7 参考文献 [ ]内は CTD 添付文書番号 1) Claassen V. 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Br J Pharmacol 1995; 116: 1923-31. 10 2.6.3 薬理試験の概要表 2.6.3.1 薬理試験:一覧表 一覧表 試験の種類 試験系 投与量・投与経路 被験物質:マレイン酸フルボキサミン 実施施設 効力を裏付ける試験 SD 系 10, 30, 90 mg/kg 明治製菓㈱ セロトニン 5-HT2C 受容 ♂ラット 1 日 1 回、21 日間 薬品総合研究所 体機能に及ぼす影響 2.6.3.2 試験番号 S01559 記載箇所 第4部 4.2.1 項 反復経口投与 効力を裏付ける試験 被験物質:マレイン酸フルボキサミン 試験の種類 試験系 投与量・投与経路 実施施設 効力を裏付ける試験 SD 系 10, 30, 90 mg/kg 明治製菓㈱ セロトニン 5-HT2C 受容 ♂ラット 1 日 1 回、21 日間 薬品総合研究所 体機能に及ぼす影響 2.6.3.3 反復経口投与 副次的薬理試験 該当なし。 2.6.3.4 安全性薬理試験 該当なし。 2.6.3.5 薬力学的薬物相互作用試験 該当なし。 11 試験番号 S01559 記載箇所 第4部 4.2.1 項
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