G20アンタルヤ・サミットの概要について(財務省関係)…吉田 昭彦

G20アンタルヤ・サミットの
概要について(財務省関係)
2015年11月15日~16日開催、於トルコ・アンタルヤ
SPOT
国際機構課長 吉
田 昭彦
国際機構課課長補佐 津 田 尊 弘
国際機構課企画係長 山 川 貴 洋
2015年11月15日~16日にかけて、トルコ・ア
ンタルヤにて、G20サミットが開催され、日本か
アフリカ、トルコ
(イ)招待国:スペイン、
マレーシア(ASEAN
ら安倍総理大臣、麻生副総理兼財務大臣が出席し
議長国)
、
ジンバブエ
(アフリカ連合
(AU)
た。G20サミットは、リーマンショックを契機と
議長国)
、セネガル(アフリカ開発のた
した金融危機に対応するための国際的政策協調の
めの新パートナーシップ(NEPAD)運
枠 組 み と し て2008年11月 に 初 め て 開 催 さ れ、
営委員会議長国)
、シンガポール、アゼ
2009年9月のG20サミット以降、
「国際経済協力
ルバイジャン
に関する第一のフォーラム」として世界経済にお
ける重要な役割を担っている。
(ウ)国 際機関:金融安定理事会(FSB)
、国
際労働機関(ILO)
、
国際通貨基金(IMF)
、
トルコ議長下の2015年G20の締めくくりに各国
経済協力開発機構(OECD)
、国際連合
首脳がトルコに集まり、議論を行った。直前の11
(UN)
、世界銀行(WB)
、世界貿易機関
月13日にパリで発生し、130名近くの犠牲者を出
(WTO)
した同時多発テロの影響もあり、厳重な警備の中
で会議が進行した。
2日間にわたり、世界経済、成長戦略、金融規制、
国際課税、開発、気候変動、貿易、エネルギー、
テロ、難民など多岐にわたり議論が行われたが、
本稿では、世界経済、国際課税、金融規制の分野
における主な議論の概要を紹介したい。
参考1)アンタルヤ・サミットへの参加国・
国際機関
(ア)G20:G7(日本、カナダ、仏、独、伊、
英、米、EU)
、露、アルゼンチン、豪、
ブラジル、中国、インド、インドネシア、
韓国、メキシコ、サウジアラビア、南
公式記念撮影
出典:
「首相官邸ホームページ(http://www.kantei.go.jp/
jp/97_abe/actions/201511/15turkey.html)
」
ファイナンス 2016.1
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1.世界経済について
かつ、質の高いインフラを育み、中小企業を
SPOT
世界経済について、成長戦略の実施を通じた強
支援し、知識共有を促進するための具体的な
固で持続可能かつ均衡ある経済成長の実現の重要
政策及び行動を結集する、野心的な国別投資
性につき一致した。また、強固で持続可能かつ均
戦略を策定した。OECDの分析によれば、こ
衡のある成長の実現に向けた行動計画として、各
れらの戦略は、G20全体の投資の対GDP比を、
国の個別のマクロ経済政策や成長戦略の現状と今
2018年までに、見積もりで1%引き上げるこ
後の計画を記載したアンタルヤ行動計画を採択し
とに貢献する。
た。さらに、国別投資戦略の策定並びにインフラ
及び中小企業への民間投資の増大が必要であると
いうことを確認した。
2.金融規制、国際課税について
安倍総理から、世界経済の議論の中で中国経済
金融規制については、成長を支える上で金融シ
の安定的でバランスのとれた成長は世界経済の安
ステムの安定性の向上が重要であるとの認識で一
定に資するものであり、中国には、過剰生産設備
致し、巨大銀行の破綻時の総損失吸収力(TLAC)
の解消を始め、経済のインバランスや構造的な諸
等の主要な金融規制改革を完了させたことを確認
課題の解決に向けた改革努力が求められている旨
した。また、金融規制改革の影響を引き続き注視
発言があった。また、G20各国には包括的な成長
することで一致した。
戦略の実施や構造改革の取組強化が求められてい
国際課税については、BEPS(税源浸食・利益移
ることに言及しつつ、女性の活躍推進を含むアベ
転)プロジェクトの合意の実施及び非居住者の金
ノミクスの進捗、特に新たに発表した「第2ステ
融口座に係る自動的情報交換の開始の重要性につ
ージ」の取組を紹介し、世界経済の成長へ貢献し
き一致した。
ていく決意を述べた。さらに、今般大筋合意に至
安倍総理からは、金融規制改革の適切な実施が
ったTPPは成長戦略の核であり、生産性向上や産
重要であり、持続的な成長を実現する観点から、
業活性化などを通じて、日本の成長につながるこ
規制の効果の検証をしっかり行うことが必要であ
とを期待する旨言及した。加えて、本年5月に日
る旨発言した。BEPSプロジェクトについては、最
本が公表した「質の高いインフラパートナーシッ
終報告を歓迎するとともに、合意を着実に、高い
プ」の進捗状況を簡単に紹介し、日本として、引
質を維持したままで実施する努力を後押ししたい
き続き質の高いインフラ投資を推進していく旨説
と発言した。また、全ての国に対して、自動的情
明した。
報交換の枠組みに加わるよう呼びかけた。
参考2)G20アンタルヤ・サミット首脳宣言
抜粋
参考3)G20アンタルヤ・サミット首脳宣言
抜粋
1 我々G20首脳は、我々の国民の繁栄を高
13 金融機関の強じん性の強化及び金融シス
めるための強固で、持続可能な、かつ、均衡
テムの安定性の向上は、成長及び発展を支え
ある成長を達成することに向けた更なる共同
る上で極めて重要である。グローバル金融シ
の行動について決定するため、2015年11月
ステムの強じん性を向上させるため、我々は、
15日及び16日にアンタルヤにおいて会合を開
金融規制改革の課題の中核的な要素を更に完
催した。
(後略)
了させた。特に、我々は、
「大きすぎて潰せ
9 (前略)我々は、投資エコシステムを改
ない」問題の終結に向けた重要なステップと
善し、公的部門によるものを含む、効率的で、
して、グローバルなシステム上重要な銀行の
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ファイナンス 2016.1
G20アンタルヤ・サミットの概要について(財務省関係)
(2015年11月15日~16日開催、於トルコ・アンタルヤ)
近世のオスマン帝国、といった昔日の東西交易の
際基準を最終化した。我々はまた、グローバ
要衝としての栄華と重ね合わせつつ、作業室で自
ルなシステム上重要な保険会社の資本上乗せ
らの使命を全うしようと格闘していた。幸い、9
基準の最初のバージョンに合意した。
月のアンカラG20以来の再会となる懐かしいトル
15 世界規模で公正な、かつ、現代的な国際
コ語表示のプリンター(ファイナンス平成27年10
課税システムを達成するため、我々は、野心
月号参照)に今回は苦しめられることなく、スム
的なG20/OECD税源浸食・利益移転(BEPS)
ーズに翌日に向けた準備が進んだ。朝になると、
プロジェクトの下で策定された措置のパッケ
日本の11月に比べると暖かいアンタルヤの日差し
ージを支持する。
(中略)我々は、我々の課
が、屋外のプールに張られた水に反射して作業室
税システムの透明性向上に向けて前進してお
に入り込んだ。夜になりその光が途切れたことに
り、 要 請 に 基 づ く 情 報 交 換 を 行 い、 ま た、
も気づかず作業するスタッフを、トルコの国旗の
2017年又は2018年末までに自動的情報交換
ような三日月が照らしていたことだろう。それに
を行うとの我々のこれまでのコミットメント
対して机上に掲げた我が国の国旗は、作業室のエ
を再確認する。我々は、他の国・地域の参加
アコンのせいだろうか、少し揺らいでいたように
を招請する。我々は、国際課税の諸課題にお
も見えた。
ける開発途上国の関与の強化のための取組を
支持する。
会場一帯の厳重な警備により、車での移動には
距離の割に長い時間を要した。特に検問ポイント
では、IDチェックや探知犬による爆発物のチェッ
クに加え、各国首脳の移動車列を待つ機会も多く
あった。その間は、現地スタッフとの絶好の交流
機会である。片言の英語にも関わらず、自信満々
で“I love JAPAN”と言ってくれるのは嬉しいもの
である。その後口調が流暢になったかと思えば、
どうもトルコ語で話しかけられているようだとい
うことに気付く。こちらも対抗して日本語で感謝
の気持ちを述べているうちに、言葉を超えたコミ
ュニケーションでいつしか意気投合していた(と
ワーキング・ディナー
出典:
「首相官邸ホームページ(http://www.kantei.go.jp/
jp/97_abe/actions/201511/15turkey.html)
」
3.所感・舞台裏での出来事
思いたい)
。
「共同宣言(首脳によるものは首脳宣
言)
」と訳される「Communiqué」は、文書によ
る国家間の合意であり、会議の最重要成果物であ
る。他方、文書に依らないコミュニケーションの
重要性も改めて体感した会議であった。
本年G20議長国を務めたトルコ。金融危機対応・
マクロ政策から構造調整を含む中長期的課題につ
いて議論する場へとG20の役割が転換しつつある
中、議長国運営はなかなかに容易ではなかったよ
うに思う。
筆者の一人(山川)は、アンタルヤの水平線に
さだめ
沈む夕陽を想像しながら、彼の国の負った運命を、
古代ギリシア時代のトロイ、中世の東ローマ帝国、
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SPOT
総損失吸収力(TLAC)についての共通の国