生分解性インジェクタブルポリマーの 高強度化と利便性向上

生分解性インジェクタブルポリマーの
高強度化と利便性向上
ライフサイエンス
用途・応用分野
医療分野
再生医療分野
ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)材料
癒着防止膜、血管塞栓物質
組織工学・再生医工学用足場材料
細胞回収が容易な3次元培養基材
本技術の特徴・従来技術との比較
室温ではゾル(コロイド溶液)状態で、体内注入後に体温に応答してゲル状に固まるポリマーは、インジェクタ
ブル(注射可能)ポリマー(IP)として、医療分野での利用が盛んに検討されている。しかし、これまでのIPは、ゲ
ル状態の力学的強度が低いという問題があった。我々は、分岐型PEGを用いた生分解性IPを設計することによ
り、ゲル強度の改善に成功した。また、生分解性IPを水に溶解する際に、長時間(数日)を要する(臨床現場で
用時調製できない)という問題があった。我々は、粉末化させた生分解性IPにPEGを添加物として加えることに
より、約20秒で水に溶かすことができる(用時調製可能な)生分解性IP製剤の開発に成功した。
1. ゲル状態の力学的強度が高い生分解性IP
分岐型PEGを開始剤としてラクチドを開環重合すること
によって得た星形ブロック共重合体(8-arm PEG-PLLA)
の末端に、自己組織化能を有する高いコレステロール基
(図 1)を導入した8-arm PEG-PLLA-cholesterol (CPchol) を合成した(図 2)。得られたCP-cholは室温と体温
の間にゾルゲル転移点を有し、37℃におけるゲル強度は、
約5kPa(従来の生分解性IPは0.1kPa以下)であり、力学
的強度の改善に成功した(図 3)。さらに、このゲル内に
おいて細胞の増殖が可能であった(図 4)。
37℃
貯蔵弾性率: G’ (Pa)
2. 用時調製可能な生分解性IP
PEGを親水部とし、カプロラクトン-グリコール酸共重合
体を疎水部とするトリブロック共重合体(PCGA-PEGPCGA)は粉末の性状を示す生分解性IPである。これに
添加物として適当な分子量のPEGをIPに対して10wt%添
加した水溶液を凍結乾燥させた綿状の固体に、水を加え
て室温で撹拌すると、約20秒で注射可能な懸濁液を調製
でき、体温まで加熱すると即座にゲル化した(図 5)。
CP-chol
これらの結果より、従来の生分解性IPの課題が解決さ
れ、臨床応用に大きく前進したと言える。
25℃
凍結
乾燥後
2)
3)
4)
K. Nagahama, T. Ouchi, Y. Ohya, Adv. Funct. Mater., 2008,
18, 1220-1231.
Y. Yoshida, A. Takahashi, A. Kuzuya, Y. Ohya, Polym. J.,
2014, 8, 632-635.
大矢裕一,大内辰郎,長濱宏治,特許第5019851号, 温度応答
性ゾル-ゲル転移を示す生分解性ポリマー及びその製造方法
大矢裕一, 吉田泰之, 高橋明裕, 特願2013-101278, 温度応答
性生分解性高分子組成物,及びその製造方法
お問合わせ先
20wt%
10wt%
TCPS
時間 (日)
温度 (℃)
図 3 CP-cholのゲル強度の温度依存性
図 4 CP-cholゲル内での細胞増殖
25℃ (ゾル)
37℃ (ゲル)
水を
加える
室温で
20秒撹拌
図 5 用時調製可能な生分解性IP製剤(PEGとPCGA-PEG-PCGAの混合物)
左から、乾燥状態、ゾル状態、ゲル状態
特許・論文
1)
細胞数 ( 104 cells/well)
技術の概要
研究者
大矢 裕一
化学生命工学部 化学・物質工学科
機能性高分子研究室
関西大学 社会連携部 産学官連携センター
TEL: 0 6 – 6 3 6 8 – 1 2 4 5
MAIL:[email protected]