ゼロの超越者 ID:73332

ゼロの超越者
浜屋良和
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小説の作者、
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じます。
︻あらすじ︼
アインズとナザリックの守護者達がハルケギニアに強制転移
ゼロの使い魔は二次創作の知識しかありません。
ファンの方には不快に思わせてしまうかも知れません。
目 次 ゼロの超越者 │││││││││││││││││││││
1
ゼロの超越者
ーーーハルケギニアーーー
ハルケギニアの一国、トリステインの王立魔法学院では毎年、昇
級試験として使い魔召喚の儀式が行われている。
︽サモン・サーヴァント︾
使い魔は召喚者の能力によって変わり、ドラゴン、フクロウなど、毎
年様々な種類の生き物が召喚される。
時には暴れ狂う生き物が召喚されるが、それを鎮めるのも試験の内
である。
そして今もその儀式が行われている最中、なのだがーーー
などとざわつく周囲の言葉をなるべく無視して、今はこの瞬間に全
身全霊を尽くす。
生まれてこの方、あらゆる魔法を爆発という形で失敗させ続け、系
統魔法どころか、未だに基礎的な魔法まで扱うことができない。
家族からは才がないと言われ、生徒たちからは﹃ゼロのルイズ﹄と
いう不名誉なあだ名が通ってしまい、その屈辱に耐える日々。
そんな生活を、一転して変えることのできる重大な日。それがこの
召喚の儀なのである。
1
﹁次、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール﹂
﹂
そう呼ばれて、ルイズは立ち上がる。
﹁はい
を呼ぶ神聖な日だ。
?
﹁どうせ爆発して終わりさ、賭けたっていいぜ﹂
﹁ルイズの奴何を召喚するかな
﹂
今日は自身にとって大切な儀式、自分の一生の召使いである使い魔
皆の前から一歩前へ出た。
!
︵見てなさい、立派な使い魔を呼んでアッと言わせてやるんだから
周りの生徒たちは、ほぼ使い魔を召喚し終えた後だった。
わたしは心より求め、訴えるわ。我が導きに応えよ
﹂
﹁宇宙の果てにある私の僕よ、神聖で美しく、そして強力な使い魔よ
げて朗々と唱えた。
︶
段々とざわめきが薄くなり、静かになっていく中、ルイズは杖を掲
そんな想像をしてしまい、そんな考えを振り払うように頭を振る。
もし召喚出来なかったら⋮
ンまで召喚しており、それがルイズの焦りを強くする。
皆、それぞれサラマンダーやモグラ、タコやカエル、中にはドラゴ
!
!
いう思いから涙が流れてしまう。
土煙が辺り一面に立ち込め、咳き込むと同時に失敗してしまったと
詠唱が完了すると、ルイズの目の前が爆発で吹き飛んだ。
!
どこか遠くの方で、爆発音が聞こえるが、知らぬうちに八つ当たり
で魔法を使ってしまったのだろう。
きっと注意を受ける。
周りの生徒からも非難されるだろう。
⋮どうでもいい、どうせ、ここにはもういれなくなるのだから⋮
﹁⋮一体、何が起きた﹂
﹂
2
これでは昇級出来ない。
家に帰される。
私はこれからどうしたらいいの
?
止まらない自己嫌悪で膝が崩れ落ち、地面に手を付きうつ向く。
私はここまで⋮こんなにもダメだったの⋮
?
﹁分かりません、周りに人間がいるようですが⋮﹂
﹁魔獣の気配もしますよ
!
﹁すぐに消しますか
﹂﹂
﹂
執事服に身を包み、鋭い視線で警戒している素振りの男性
尾の生えている男性
眼鏡をかけ、ジッと回りを観察するような雰囲気を出している、尻
見るからにひ弱そうで、オドオドした瞳で杖を抱える女の子
見るからに活発そうで、キラキラした瞳で魔獣を見つめる男の子
いる赤い目と白い肌で、深紅のドレスを着ている女性
その女性と同じ位に美しく、その背丈に似合わない豊満な胸をして
ている、純白のドレスを着ている女性
いままでみたことのないほど美しく、豊満な胸をしている角が生え
少しの後、声があった方に顔を向けるとそこにはーーーー
強烈な突風が吹き荒れ、思わず顔を覆う。
﹁とりあえず、この邪魔な土煙を飛ばすか。﹂
土煙の中に様々な大きさの影が立っているように見えたのだ。
そして驚愕した。
その声にルイズは顔を上げる。
﹁﹁ハッ
まだなにもするな。﹂
﹁⋮ハァ⋮いや、相手の出方が分からない。
?
まんまるとした形のスカートを履く、これまた美しいメイド
3
!
スリットの入ったスカートを履き、キョロキョロと周りを見る赤毛
の美しいメイド
キラキラと輝く美しい装甲をした、キチチと音をたてる昆虫の化け
物
そして⋮
ルイズがいままでに見たことがないほどの素晴らしいローブを羽
︶の奇妙な集団が立っていたーーー
織り、いままでに見たことがないほど豪華な杖を持った、骸骨の化け
物
総勢10名︵8人と2体
なり動揺していた。
アインズは、ナザリック地下大墳墓で、守護者各員とセバス、︽漆黒︾
モモンの代わりに出向いているナーベラル・ガンマ、カルネ村を担当
しているルプスレギナ・ベータを集め、集会を開いていたのだ。
細かい情報など、書類には載せないほど小さな事の確認や自分の考
えを皆に再確認させる意味で。
それを怠ったせいで、何度か失敗してしまっているので、なるべく
隠し事も引き出すようにしている。
4
?
守護者達に対して余裕の振りをしているがアインズは内心ではか
⋮一体、何が起こっているんだ⋮
?
結果オーライだったものもあったが、これからもそうとは限らな
い。
一つのミスがナザリック地下大墳墓の破滅に繋がっているかも知
れないのだ。
そんな、アインズの思いを知ってか知らずか、情報の交換は滞りな
く進んでいく。
そんな時、突然部屋の中心に鏡が表れたのだ。
その鏡に、その場にいた全員が、身構える隙もなく、抗う暇も与え
られずに吸い込まれていった。
そして、土煙の中である。
⋮もし私達を狙ったモノであれば即座に攻撃などをされているだ
5
ろう。
⋮しかしそういった行動を移す気配は、なにも感じない。
であれば、一体⋮
を使うことにした。
敵対行動だと取られたくないし、久々に使う第一位階の︽ウィンド︾
⋮払うにはこの程度で、十分か。
晴れる様子もなく、ただただ舞い続ける土煙。
⋮しかし、この土煙は邪魔だな。
これから起こる面倒事を察し、思わず溜め息を付き、皆を宥める。
ここは一旦下手に出るべきだ。
場合、それは余りにも愚策である。
もし周りにいるのが、友好的なモノや、自分たちよりも強者だった
しようかと進言してくる。
そんな考えを巡らせていると、アルベドが今にも愚か者を皆殺しに
?
︽ウィンド︾
周りの土煙は一気に晴れ、周りにいた人間たちの姿が見え始める。
⋮子供ばかりじゃないか⋮
さぁ、どう出る⋮
キルはすべてオフにし、なにもするなと命令した。
全員には︽伝言︾でそのうまを話し、ダメージを与えるパッシブス
いざとなればジルクニフに会わせろと言えば大丈夫であろう。
え、無言を貫く事にした。
自分たちだと知らずに、意図せずに魔法を使った可能性もあると考
しかし、その生徒達の顔に写るのは畏怖の顔のみ。
と⋮
まさかその生徒たちが、強制的に相手を転移させる魔法を使えるだ
そういえば帝国にはこんな学園があると聞いたが⋮
!?
アレらは、ルイズが召喚したのだと。
て、理解した。
突如突風が吹き荒れ、土煙が晴れた瞬間に表れていた集団を目にし
キュルケは、どうするべきかと必死に考えていた。
魔 法 に 失 敗 し た ル イ ズ を 茶 化 し て や ろ う と 一 歩 踏 み 出 し て い た
本能で、動けば死ぬと理解したからだ。
誰も動けない。
突風の後に土煙が晴れた瞬間から、生徒達に緊張が走る。
?
6
?
純粋に、嬉しかった。
ライバルであるルイズの努力がやっと、やっと恵まれたのだ。
友達として、純粋に嬉しかったのだ。
駆け寄りたい気持ちだった。
しかし、それを表に出すことは出来なかったのだ。
それらが放つ強烈なオーラに身動き一つ取れなくなったから。
⋮殺されてしまう。
大切な友人が、殺されてしまう。
そんな恐怖が襲うが身体はピクリとも動かない。
当たり前だ、自分の命の方が惜しいのだ。
ルイズ、お願い逃げて⋮
キュルケは動かない身体で必死に願う。
大切な大切な親友が、どうか殺されてしまいませんようにーーー⋮
と。
そんな緊迫した中、一人歩み出るものがいた。
コルベールである。
少しでも自分に注意を向かせ、ルイズが、生徒達が逃げる時間を稼
ぐために動き出したのだ。
何人かは喋れそうな者もいる。
もしかしたら、交渉できるかもしれない。
私だけが死ぬだけですむかもしれない。
そんな思いだけで、彼は動き出したのだ。
10人の強烈な視線と生徒達の弱々しい視線がこちらを捕らえる。
もう逃げられない。
7
!
その先には死しか待ってない。
それでも集団に向かって歩き進める。
ただ、愛すべき生徒達のために。
﹁私の名は、トリステイン魔法学院の教師、ジャン・コルベールと申し
ます﹂
膝を付き、見ず知らずのモノに対して最敬礼で名を言う。
愛すべき生徒達のためだ、なんの屈辱でもない。
ほう⋮と誰かの感心したような声が聞こえる。
﹁私の名はアインズ・ウール・ゴウン
そしてこちらは私の大切な臣下達だ。﹂
その一言を聞いて震えてしまう。
見た目は化け物だが、どこかの国⋮それも様々な種族を従えるほど
﹂
﹁い、いえ、そのような国の名前は存じ上げません⋮﹂
﹂
不快に思われるかもしれないが、正直に答えるしかない。
﹁⋮地図は貰えるか
﹁ハッ
今すぐにでも
﹂
思ってもみない提案に
?
!
8
に強大な国の王を呼んでしまったのではないかーーーと。
しかし同時に、化け物から発せられる理性的な声のトーンに、交渉
できる存在なのかもしれないと安堵した。
﹂
﹁しかしトリステイン⋮聞いたことがないな﹂
﹁ど、どういう事でしょうか⋮
声が震える。
?
﹁⋮この付近にバハルス帝国があるはずだが⋮﹂
﹂
知らないのか
﹁バハルス帝国⋮
﹁ん
?
?
思わず声に出てしまっていたのだろう。
?
と飛び付くほどに反応してしまった。
!
この好機を逃すわけにはいかないのだ。
﹁しかし、地図は学院長室にしかないのです。
﹂
時間を捕らせる訳にもいかないのでついてきていただいてもよ
ろしいでしょうか⋮
﹁そういうことなら、仕方ないだろう﹂
﹂
よし、後はもう一つ、一番大事な事だ。
﹁⋮その間に、生徒達は寮に戻しても⋮
お願いだ⋮
どうか聞き入れてくれ⋮
﹁あぁ、構わないとも﹂
?
﹁ルイズ
﹂
ということだけである。
あのジャン・コルベール先生が命をとして自分たちを助けてくれた
そんな事は誰にも分からない、が、分かることがある。
ルイズは、魔法に成功したのか。
一体、あの集団はなんだったのか。
た緊張がゆっくりと解れていく。
コルベールが10名の集団を連れていくと、生徒達の間に流れてい
!
た。
いまだにボーッとしていたルイズは、豊満な胸に包まれた事によっ
て我に帰り、キュルケを引き剥がそうとした。
が、先程までの恐怖のあとの、良かった良かったと騒ぐキュルケの
優しい温もりがとても心地よく、少しびくびくしながらキュルケの背
中に手を伸ばし、抱きしめ返した。
死の窮地にたたされた二人は、今ある幸せに感謝し、噛み締めるよ
うに、ルイズが学院長に呼ばれるまで抱きしめあった。
9
?
やっと動けるようになったキュルケはルイズに駆け寄り抱きしめ
!!
ーー学院長室
オールド・オスマンがいつものようにロングビルにセクハラを働い
ていた時、それは起きた。
召喚の儀の様子を写していた︽遠見の鏡︾が突然大爆発を起こした
のだ。
その威力は固定化のかかった壁を容易く吹き飛ばす程のモノだっ
た。
席を離れていたために被害は被らなかったが、爆風で部屋は大惨事
だ。
10
それを片付けている頃、扉が叩かれる。
返答も待たずに少し扉が開き、その隙間からコルベールが滑り込ん
できた。
注意しようかと考えたが、コルベールのただならぬ雰囲気に思わず
顔をしかめた。
なにか面倒事を持ってきたな⋮と。
﹁どうぞ、お入りください﹂
女性の声と共に扉が開く。
⋮罠はなにもないな。
探知魔法を使ったがなんの反応もなかった。
⋮警戒して損したか
最敬礼で膝まづくが
﹁私の名は、オールド・オスマン、この学院の学院長をしている者です﹂
気を引き締めて入室する。
いや、警戒するべきだ。
?
そんなことよりも目に入ったのはその惨状だ。
散らかり放題で、壁には穴が空いている。
こういうデザインなのか
つくづく理解できない。
その視線に気付いたのか老人が言う。
﹁貴殿方が来る少し前に︽遠身の鏡︾が原因不明の爆発を起こしてしま
いましてな、それでこの有り様なのです﹂
ギクッ。
﹁生徒達の様子や、監視目的で使っていたのですが、いやはやこれから
どうしたものか⋮﹂
ギクギクッ。
⋮それは俺のせいだな、うん。
アインズは集会の際に念のため対情報系魔法の攻勢防壁をはって
いたのだ。
そのまま転移したためにそのマジックアイテムに、広範囲に設定し
た︽エクスプロージョン︾が発動してしまったのだろう。
それに感付かれたらマズイ、非常にマズイ。
﹂
そうか。とだけ告げ話を地図に戻す。
﹁なんだと⋮
て驚愕した。
自分の知っているあの世界の地図とはまったく異なっていたから
だ。
空に浮かぶ都市、アルビオンを初めとする諸外国の名前など、ユグ
?
ドラシルでもあの世界でも一度も見たことがなかったのだ。
もしかしたら、あの鏡によって異世界に連れてこられたのか⋮
ではナザリック大墳墓はどうなる⋮
ギルドメンバー達の安否はどうなる⋮
色々な考えが錯綜する。
?
?
11
?
来客用の椅子に座りー他9人は立っているー地図を広げ
!?
﹂
﹁もしや、貴殿方が東方から来たのでは⋮
﹁何⋮
ジ
ム
シ
かにせよ﹂と静める。
﹁私を召喚したのは、一体誰なのかな
﹁入ります⋮﹂
﹂
﹂
しかしそのままにしても進まないので、軽く手を挙げ﹁騒々しい、静
そんな不愉快な魔法があるなんてな。
⋮同感だよ、まったく⋮
これだから下等生物は⋮という声がブツブツと聞こえる。
ウ
後ろにいる守護者達のせいだろう。
その説明に場が凍る。
そうだ。
︽サモン・サーヴァント︾は一方通行の魔法で、送り返す魔法はない
れる。
は貴殿方を東方に帰す術はございません⋮大変申し訳ない﹂と告げら
そんな世界の説明に一段落付いたところでオスマンから﹁私たちに
も感じ取れた。
そしてそのエルフを二人も従えるコイツは何者なのか、という視線
ラとマーレを恐れての事だろう。
その話をしている最中に視線が後ろに移ったように見えたが、アウ
もの戦力をぶつけねば勝てないほどらしい。
エルフとやらの強さも聞いたが、エルフ一人に対して普段の何十倍
どんな場所なのかも分からないそうだ。
数千年前からそこに住み着いたエルフによって道は絶たれ、今では
れる伝説の地域で、遥か東、砂漠の彼方にあるという。
話によると、始祖ブリミルがハルケギニアに初めて降り立ったとさ
?
チラリと後ろを見ると、閉まる扉の隙間から一瞬だけ心配そうにこ
まるで死刑執行を待つ囚人のような重い足取りで学院長室に入る。
?
12
?
ちらを見ていたキュルケと目があった。
そして共通の想いを抱く。
⋮せっかく、ちゃんと友達になれた気がしたのに⋮
もはや、ライバルとしての二人は存在しなかった。
ゆっくりと前を向く。
いる。
あの集団だ。
﹁ようこそ、ミス・ヴァリエール﹂
オールド・オスマンの優しい声が聞こえるがそれどころじゃない。
﹂と質問が
︶を見る。
軽く足が震える、が、なんとか持ちこらえて前へと進む。
﹁ふむ⋮キミがミス・ヴァリエールか⋮﹂
骸骨の化け物ーーアインズがこちらを見る。
﹂
﹁そんなハズはないと思うが⋮﹂
と顎に手を当てる。
﹁いえ、本当なのです。
これまで何度も魔法に挑戦していますが、結果はすべて爆発。
つまり失敗しているのです﹂
13
びくびくしながらも、こちらもしっかりと目︵
すると、目の光が一瞬大きくなったように見えた。
まるで、人間が驚きに目を見開くかのような。
少しの間が空き﹁キミはどれ程の魔法が使えるのかな
飛んできた。
言葉につまる。
恐怖からではない。
﹁なに⋮
﹁彼女は、魔法が使えないのです⋮﹂
そんなルイズを見かねて、コルベールが言う。
﹃魔法は何も使えません﹄と自分の口からは言えないからだ。
?
?
チラリとコルベールを見て、またこちらに顔を向ける。
?
教え子の辛い現実を告げるコルベールは、苦虫を噛み潰すかのよう
な顔を浮かべる。
﹁⋮﹂
無言でこちらを見るアインズ。
そして
﹁キミは使い魔がいないと昇級できないそうだね。﹂
ギクリ。
汗が止まらなくなる。
これを答えるのは、貴殿達を使い魔にーーつまり奴隷にするために
召喚しましたと告げるようなモノである。
しかし、不思議と口が動く。
﹁はい、その通りです。﹂
殺されてしまう。
せっかく拾った命なのに、どうしてこうなるのか。
14
﹁⋮キミ達﹃貴族﹄はずいぶんと野蛮なのだな﹂
ゴクリ。
軽く息を飲む。
もちろん貴族としてのプライドがある。
だが今回は言われても当然であるだろう。
人間から遠い種族ばかりを召喚していたせいで薄れていたが、彼ら
にも自分達と同じように家族や友がいたのかも知れないのだ。
今回のルイズによる︽サモン・サーヴァント︾で全員が痛感しただ
ろう。
﹂
そのモノの人生を、自分は知らぬうちに壊してしまっていたのだ
と。
﹁キミはどう思う
﹁私は⋮﹂
私はきっと、ソイツの事を許せないだろう。
としたらーー
〝もし〟この集団のように誰かに召喚されて、使い魔にされていた
うつむき考える。
?
﹁しかし、それがこの世界の理なのだとすれば
私はこれ以上とやかく言うつもりはない。﹂
﹁⋮﹂
﹂
﹁さて、キミはその気持ちを知ったうえで、昇級のために私達を使役し
たいと望むか
﹁⋮はい﹂
真っ直ぐと、目を見て答える。
ルイズは必死に考え、二度と戻れないほどに壊してしまったのな
ら、もう一度最初から、自分が家族として、自分が友として、一緒に
作っていくしかない。
と答えを出した。
それは間違っているのかもしれないが、今のルイズの精一杯の答え
だった。
﹁そうか⋮﹂
アインズの目の中の光が優しく灯ったような気がした。
﹁いいだろう、キミの使い魔となろう﹂
﹁えっ⋮﹂
その場にいた全員が目を見開く。
﹁使い魔といっても、従属するつもりは一切ない。
あくまでも我々を対等の立場として接してくれ﹂
そういって、立ち上がり臣下達の方へ身体を向け
﹁すまない、私のワガママにお前達を巻き込む事になってしまう﹂
そして頭を深く下げた。
﹁理由は後で話す、本当にすまない﹂
頭を下げたままで動こうとしない。
全員がアワアワしていたが、純白のドレスを着た女性﹁顔をお挙げ
ください﹂と伝えるとゆっくりと顔を挙げた。
そしてもう一度こちらを向き
15
?
﹁それでは、
︽コントラクト・サーヴァント︾とやらをしてくれないか﹂
うっ⋮
使い魔となってくれるのは今にも跳び跳ねたい位に嬉しかったが、
それを忘れていた。
︽コントラクト・サーヴァント︾
呪文を唱え、〝ある事〟をしなければ発動しない魔法なのだが、そ
の〝ある事〟が厄介なのである。
⋮口づけ⋮接吻⋮
そう、つまりはキスなのである。
化け物相手とはいえ、相手は人間に近くそして当たり前のように喋
る。
どうしようかとモジモジしていると不思議そうにこちらを見る視
線を感じとる。
⋮よしっ
と覚悟を決め、呪文を詠唱する。
﹁我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエー
ル。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔と
なせ﹂
そしてキスをするためにアインズに近付く。
大丈夫⋮骸骨相手ならファーストキスにはならないわ⋮
ゆっくりと目を閉じ顔に近付けていくが途中で顔を無理やり横に
と頬を鷲掴みにされ変な声を上げるがそれもすぐに塞がれ
向かされる。
ムゥ
た。
深紅のドレスを着た美しい女性、シャルティア・フォン・ブラウン
に奪われてしまうのであった。
16
!
こうしてルイズのファーストキスは
!
﹁良くやったわ、シャルティア﹂
ニコニコと、恐ろしい笑みを浮かべる純白の女性。
﹁アインズ様の唇が奪われるのであれば、私の唇が生け贄になったほ
うがいいでありんすからね﹂
妖艶に、軽く唇を舐めるシャルティアと呼ばれた深紅の女性。
自分も唇に手をやる。
も、もしかしてもしかすると⋮
﹁貴女の唇、美味しゅういただきましたでありんすえ﹂
ファーストキスは、女性。
そのキスを思い出してしまい、顔を真っ赤に染める。
﹂
17
﹁あら、うぶだったでありんすね﹂
へなへなと腰を抜かす。
﹁⋮まぁ、いい。
どうやら契約が完了したようだな﹂
彼らの左手の甲が赤く輝いているのが見えた。
どうやら、全員同じルーンのようだった。
﹂
コルベールがそれをスケッチにとり、退室していった。
﹁さて、オスマン学院長
我々はどこに住めばいいのかな
﹁そうであったな⋮
?
従来であれば召喚者と一緒の部屋がいいのだが⋮﹂
﹁全員が入れる程に大きいのか
﹁そうでもないのぅ⋮ では案内してくれ﹂
﹁了解した。
空き部屋を使って貰えるかの﹂
?
﹁ミス・ロングビル、お願いできるかの
﹁は、はい、分かりました。﹂
﹂
﹁⋮ミス・ヴァリエール、ついていかないのかね
﹂
したが、したが、と赤くなっているうちに部屋割りが決まっていた
ようである。
ハッと現実に戻り、ミス・ロングビル達の後を追った。
まさに、王。
それがオスマンのアインズへの評価である。
途中で臣下を鎮めさせたあの態度。
一辺して、ワガママを許してくれと頭を下げるという行為。
臣下に対してそうとう情が厚いのであろう。
そして、得たいのしれなさはトップクラスである。
貴族を責めていたと思えば、ミス・ヴァリエールの使い魔であるこ
とを簡単に了承していた点。
あのエルフを二人も臣下に加えている点。
こっそりディテクト・マジックを使ってみたが作動しなかった点。
様々な事が理解できないのだ。
﹁モーソトグニルよ⋮
ミス・ヴァリエールはとんでもない御方を召喚したようだよ⋮﹂
萎縮していたネズミをなでつつ、オールド・オスマンはこれからの
学院の事を考えるのであったーーー
ルイズと別れ、空き部屋に入るアインズ。
18
?
?
男子寮、女子寮含め10の空き部屋があったため、それぞれに部屋
を持てたのは幸運だった。
﹁ハァ⋮謎しかないよ⋮﹂
しかし、道はある。
彼女、ルイズだ。
入ってきたときに魔力量を調べたが、とんでもない量の魔力を持っ
ていることに気づいたのだ。
それも、守護者達や自分よりも強大な魔力の量である。
だからこそ、魔法が使えないことが不思議だったのだ。
しかしコルベールの言葉は嘘ではないだろう。
もしかしたら、強大な魔力すぎて力のコントロールが出来ていない
のかもしれない。
あの量の魔力であれば未知の魔法⋮自分たちをあの世界へ帰す魔
法も産み出せるかもしれないーーとアインズは考えていた。
飛躍しすぎているかも知れないが、しかし、今はそんな〝もしかし
たら〟にすがるしかないのだ。
一刻も早くあの世界へ戻らなければ⋮
他のメンバーや、ナザリック地下大墳墓に置いてきた大事な大事な
子達にあわなければ⋮
そして、一割程度の理由だが、彼女の事が気に入ったのだ。
あの目。
あのガゼフ・ストロノーフを彷彿とさせたあの眼差しが、アインズ
のなくなりかけている心を揺さぶったのだ。
例え勝てないと分かっていても、それでも他の者のために立ち向か
う勇気。信念。
そんなものをルイズの瞳から感じたのだ。
ガゼフは失敗してしまった。
もう二度と手に入らないであろう。
しかしルイズはまだまだこれからである。
これからゆっくりと関係を形成していけば、手に入るかもしれな
19
い。
そんなコレクター魂を揺さぶったのだ。
守護者達を集め、理由を話した。
驚いてこそいたが、話は飲み込めたようで納得してくれた。
⋮本当に、いい子達だよ。
﹁そして、もう一つの理由だが﹂
大事な事だ、これからのためにも
が浮かぶ。
﹁お前たちにはここの生活を通して﹃演技﹄を覚えてもらいたい﹂
﹁お前達は人間を下等生物と言い見下すが、人間の力を侮ってはいけ
ないのだ﹂
アルベドやナーベには話したなと付け加える。
﹁そして、シャルティアの件もある⋮
あれは私のせいだが、お前たちに同じ失敗を繰り返してほしくは
ないのだ﹂
シャルティアが軽くうつむく
﹁一瞬の怒りに身を任せ、すぐに身体が動かし殺してしまえば、とても
大事な情報も得られなくなる可能性もある﹂
﹁そんな事を未然に防ぐため、ここでの生活では人に触れ、
﹃演技﹄を
﹂
学び、最低限この国内での無益な殺生を禁じる﹂
﹁わかったな
﹁﹁ハッ﹂﹂
﹁⋮わかったな
﹂
誰も何も言えない。
?
そういって﹃ゲート﹄で部屋に戻った。
﹁すまないな、迷惑をかける﹂ それで充分だ。
二回目でやっと返事が帰って来た。
?
20
?
帰ったあとの部屋では。
﹁⋮私達のせいで、あんなに心を痛めていたのですね﹂
﹁⋮そうだね⋮
私達は人間をゴミとしかみていないが、それにより起きる被害を
危惧していたとはね⋮﹂
﹁ウム⋮反省セネバナルマイ⋮﹂
﹁⋮でも演技かー、難しいね﹂
﹂
﹁無理難題を出してこそ、私達の成長に繋がるとアインズ様は考えて
いるのだろうね﹂
﹁我モ、アインズ様ノ為ニモヤロウ﹂
﹂
﹁私達、すっかり蚊帳の外っすねー、ナーちゃん﹂
﹁そうね、ルプー。
でも、あの命令は私達にも言っているのよ
﹁それは分かってるっすよー。
﹁そう、ならいいけど﹂
それに、演技なら得意っすから大丈ブイっす﹂
?
21
﹁ぅぅ⋮自信ないよぅ⋮﹂
﹁それでも、やるしかないでありんすえ
しかし殺生をしてはいけない⋮か﹂
﹁アインズ様の命令になにかご不満でも⋮
﹂
﹁さて、明日からは人間⋮生徒達との生活だ。
﹁うぐ⋮やめてよアルベド⋮﹂
失敗してからでは遅いものね﹂
﹁そうね、シャルティアの言うとおりだわ。
!
﹁いや、いや そんなものはないよセバス﹂
?
﹁それよりナーちゃんっすよ
名前も覚えられないのに、演技なんてできるんすかー
﹂
22
﹁⋮できるわ﹂
﹁あ、目ーそらした﹂
?
?