ゼロの超越者 浜屋良和 ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP DF化したものです。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作 品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁 じます。 ︻あらすじ︼ アインズとナザリックの守護者達がハルケギニアに強制転移 ゼロの使い魔は二次創作の知識しかありません。 ファンの方には不快に思わせてしまうかも知れません。 目 次 ゼロの超越者 │││││││││││││││││││││ 1 ゼロの超越者 ーーーハルケギニアーーー ハルケギニアの一国、トリステインの王立魔法学院では毎年、昇 級試験として使い魔召喚の儀式が行われている。 ︽サモン・サーヴァント︾ 使い魔は召喚者の能力によって変わり、ドラゴン、フクロウなど、毎 年様々な種類の生き物が召喚される。 時には暴れ狂う生き物が召喚されるが、それを鎮めるのも試験の内 である。 そして今もその儀式が行われている最中、なのだがーーー などとざわつく周囲の言葉をなるべく無視して、今はこの瞬間に全 身全霊を尽くす。 生まれてこの方、あらゆる魔法を爆発という形で失敗させ続け、系 統魔法どころか、未だに基礎的な魔法まで扱うことができない。 家族からは才がないと言われ、生徒たちからは﹃ゼロのルイズ﹄と いう不名誉なあだ名が通ってしまい、その屈辱に耐える日々。 そんな生活を、一転して変えることのできる重大な日。それがこの 召喚の儀なのである。 1 ﹁次、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール﹂ ﹂ そう呼ばれて、ルイズは立ち上がる。 ﹁はい を呼ぶ神聖な日だ。 ? ﹁どうせ爆発して終わりさ、賭けたっていいぜ﹂ ﹁ルイズの奴何を召喚するかな ﹂ 今日は自身にとって大切な儀式、自分の一生の召使いである使い魔 皆の前から一歩前へ出た。 ! ︵見てなさい、立派な使い魔を呼んでアッと言わせてやるんだから 周りの生徒たちは、ほぼ使い魔を召喚し終えた後だった。 わたしは心より求め、訴えるわ。我が導きに応えよ ﹂ ﹁宇宙の果てにある私の僕よ、神聖で美しく、そして強力な使い魔よ げて朗々と唱えた。 ︶ 段々とざわめきが薄くなり、静かになっていく中、ルイズは杖を掲 そんな想像をしてしまい、そんな考えを振り払うように頭を振る。 もし召喚出来なかったら⋮ ンまで召喚しており、それがルイズの焦りを強くする。 皆、それぞれサラマンダーやモグラ、タコやカエル、中にはドラゴ ! ! いう思いから涙が流れてしまう。 土煙が辺り一面に立ち込め、咳き込むと同時に失敗してしまったと 詠唱が完了すると、ルイズの目の前が爆発で吹き飛んだ。 ! どこか遠くの方で、爆発音が聞こえるが、知らぬうちに八つ当たり で魔法を使ってしまったのだろう。 きっと注意を受ける。 周りの生徒からも非難されるだろう。 ⋮どうでもいい、どうせ、ここにはもういれなくなるのだから⋮ ﹁⋮一体、何が起きた﹂ ﹂ 2 これでは昇級出来ない。 家に帰される。 私はこれからどうしたらいいの ? 止まらない自己嫌悪で膝が崩れ落ち、地面に手を付きうつ向く。 私はここまで⋮こんなにもダメだったの⋮ ? ﹁分かりません、周りに人間がいるようですが⋮﹂ ﹁魔獣の気配もしますよ ! ﹁すぐに消しますか ﹂﹂ ﹂ 執事服に身を包み、鋭い視線で警戒している素振りの男性 尾の生えている男性 眼鏡をかけ、ジッと回りを観察するような雰囲気を出している、尻 見るからにひ弱そうで、オドオドした瞳で杖を抱える女の子 見るからに活発そうで、キラキラした瞳で魔獣を見つめる男の子 いる赤い目と白い肌で、深紅のドレスを着ている女性 その女性と同じ位に美しく、その背丈に似合わない豊満な胸をして ている、純白のドレスを着ている女性 いままでみたことのないほど美しく、豊満な胸をしている角が生え 少しの後、声があった方に顔を向けるとそこにはーーーー 強烈な突風が吹き荒れ、思わず顔を覆う。 ﹁とりあえず、この邪魔な土煙を飛ばすか。﹂ 土煙の中に様々な大きさの影が立っているように見えたのだ。 そして驚愕した。 その声にルイズは顔を上げる。 ﹁﹁ハッ まだなにもするな。﹂ ﹁⋮ハァ⋮いや、相手の出方が分からない。 ? まんまるとした形のスカートを履く、これまた美しいメイド 3 ! スリットの入ったスカートを履き、キョロキョロと周りを見る赤毛 の美しいメイド キラキラと輝く美しい装甲をした、キチチと音をたてる昆虫の化け 物 そして⋮ ルイズがいままでに見たことがないほどの素晴らしいローブを羽 ︶の奇妙な集団が立っていたーーー 織り、いままでに見たことがないほど豪華な杖を持った、骸骨の化け 物 総勢10名︵8人と2体 なり動揺していた。 アインズは、ナザリック地下大墳墓で、守護者各員とセバス、︽漆黒︾ モモンの代わりに出向いているナーベラル・ガンマ、カルネ村を担当 しているルプスレギナ・ベータを集め、集会を開いていたのだ。 細かい情報など、書類には載せないほど小さな事の確認や自分の考 えを皆に再確認させる意味で。 それを怠ったせいで、何度か失敗してしまっているので、なるべく 隠し事も引き出すようにしている。 4 ? 守護者達に対して余裕の振りをしているがアインズは内心ではか ⋮一体、何が起こっているんだ⋮ ? 結果オーライだったものもあったが、これからもそうとは限らな い。 一つのミスがナザリック地下大墳墓の破滅に繋がっているかも知 れないのだ。 そんな、アインズの思いを知ってか知らずか、情報の交換は滞りな く進んでいく。 そんな時、突然部屋の中心に鏡が表れたのだ。 その鏡に、その場にいた全員が、身構える隙もなく、抗う暇も与え られずに吸い込まれていった。 そして、土煙の中である。 ⋮もし私達を狙ったモノであれば即座に攻撃などをされているだ 5 ろう。 ⋮しかしそういった行動を移す気配は、なにも感じない。 であれば、一体⋮ を使うことにした。 敵対行動だと取られたくないし、久々に使う第一位階の︽ウィンド︾ ⋮払うにはこの程度で、十分か。 晴れる様子もなく、ただただ舞い続ける土煙。 ⋮しかし、この土煙は邪魔だな。 これから起こる面倒事を察し、思わず溜め息を付き、皆を宥める。 ここは一旦下手に出るべきだ。 場合、それは余りにも愚策である。 もし周りにいるのが、友好的なモノや、自分たちよりも強者だった しようかと進言してくる。 そんな考えを巡らせていると、アルベドが今にも愚か者を皆殺しに ? ︽ウィンド︾ 周りの土煙は一気に晴れ、周りにいた人間たちの姿が見え始める。 ⋮子供ばかりじゃないか⋮ さぁ、どう出る⋮ キルはすべてオフにし、なにもするなと命令した。 全員には︽伝言︾でそのうまを話し、ダメージを与えるパッシブス いざとなればジルクニフに会わせろと言えば大丈夫であろう。 え、無言を貫く事にした。 自分たちだと知らずに、意図せずに魔法を使った可能性もあると考 しかし、その生徒達の顔に写るのは畏怖の顔のみ。 と⋮ まさかその生徒たちが、強制的に相手を転移させる魔法を使えるだ そういえば帝国にはこんな学園があると聞いたが⋮ !? アレらは、ルイズが召喚したのだと。 て、理解した。 突如突風が吹き荒れ、土煙が晴れた瞬間に表れていた集団を目にし キュルケは、どうするべきかと必死に考えていた。 魔 法 に 失 敗 し た ル イ ズ を 茶 化 し て や ろ う と 一 歩 踏 み 出 し て い た 本能で、動けば死ぬと理解したからだ。 誰も動けない。 突風の後に土煙が晴れた瞬間から、生徒達に緊張が走る。 ? 6 ? 純粋に、嬉しかった。 ライバルであるルイズの努力がやっと、やっと恵まれたのだ。 友達として、純粋に嬉しかったのだ。 駆け寄りたい気持ちだった。 しかし、それを表に出すことは出来なかったのだ。 それらが放つ強烈なオーラに身動き一つ取れなくなったから。 ⋮殺されてしまう。 大切な友人が、殺されてしまう。 そんな恐怖が襲うが身体はピクリとも動かない。 当たり前だ、自分の命の方が惜しいのだ。 ルイズ、お願い逃げて⋮ キュルケは動かない身体で必死に願う。 大切な大切な親友が、どうか殺されてしまいませんようにーーー⋮ と。 そんな緊迫した中、一人歩み出るものがいた。 コルベールである。 少しでも自分に注意を向かせ、ルイズが、生徒達が逃げる時間を稼 ぐために動き出したのだ。 何人かは喋れそうな者もいる。 もしかしたら、交渉できるかもしれない。 私だけが死ぬだけですむかもしれない。 そんな思いだけで、彼は動き出したのだ。 10人の強烈な視線と生徒達の弱々しい視線がこちらを捕らえる。 もう逃げられない。 7 ! その先には死しか待ってない。 それでも集団に向かって歩き進める。 ただ、愛すべき生徒達のために。 ﹁私の名は、トリステイン魔法学院の教師、ジャン・コルベールと申し ます﹂ 膝を付き、見ず知らずのモノに対して最敬礼で名を言う。 愛すべき生徒達のためだ、なんの屈辱でもない。 ほう⋮と誰かの感心したような声が聞こえる。 ﹁私の名はアインズ・ウール・ゴウン そしてこちらは私の大切な臣下達だ。﹂ その一言を聞いて震えてしまう。 見た目は化け物だが、どこかの国⋮それも様々な種族を従えるほど ﹂ ﹁い、いえ、そのような国の名前は存じ上げません⋮﹂ ﹂ 不快に思われるかもしれないが、正直に答えるしかない。 ﹁⋮地図は貰えるか ﹁ハッ 今すぐにでも ﹂ 思ってもみない提案に ? ! 8 に強大な国の王を呼んでしまったのではないかーーーと。 しかし同時に、化け物から発せられる理性的な声のトーンに、交渉 できる存在なのかもしれないと安堵した。 ﹂ ﹁しかしトリステイン⋮聞いたことがないな﹂ ﹁ど、どういう事でしょうか⋮ 声が震える。 ? ﹁⋮この付近にバハルス帝国があるはずだが⋮﹂ ﹂ 知らないのか ﹁バハルス帝国⋮ ﹁ん ? ? 思わず声に出てしまっていたのだろう。 ? と飛び付くほどに反応してしまった。 ! この好機を逃すわけにはいかないのだ。 ﹁しかし、地図は学院長室にしかないのです。 ﹂ 時間を捕らせる訳にもいかないのでついてきていただいてもよ ろしいでしょうか⋮ ﹁そういうことなら、仕方ないだろう﹂ ﹂ よし、後はもう一つ、一番大事な事だ。 ﹁⋮その間に、生徒達は寮に戻しても⋮ お願いだ⋮ どうか聞き入れてくれ⋮ ﹁あぁ、構わないとも﹂ ? ﹁ルイズ ﹂ ということだけである。 あのジャン・コルベール先生が命をとして自分たちを助けてくれた そんな事は誰にも分からない、が、分かることがある。 ルイズは、魔法に成功したのか。 一体、あの集団はなんだったのか。 た緊張がゆっくりと解れていく。 コルベールが10名の集団を連れていくと、生徒達の間に流れてい ! た。 いまだにボーッとしていたルイズは、豊満な胸に包まれた事によっ て我に帰り、キュルケを引き剥がそうとした。 が、先程までの恐怖のあとの、良かった良かったと騒ぐキュルケの 優しい温もりがとても心地よく、少しびくびくしながらキュルケの背 中に手を伸ばし、抱きしめ返した。 死の窮地にたたされた二人は、今ある幸せに感謝し、噛み締めるよ うに、ルイズが学院長に呼ばれるまで抱きしめあった。 9 ? やっと動けるようになったキュルケはルイズに駆け寄り抱きしめ !! ーー学院長室 オールド・オスマンがいつものようにロングビルにセクハラを働い ていた時、それは起きた。 召喚の儀の様子を写していた︽遠見の鏡︾が突然大爆発を起こした のだ。 その威力は固定化のかかった壁を容易く吹き飛ばす程のモノだっ た。 席を離れていたために被害は被らなかったが、爆風で部屋は大惨事 だ。 10 それを片付けている頃、扉が叩かれる。 返答も待たずに少し扉が開き、その隙間からコルベールが滑り込ん できた。 注意しようかと考えたが、コルベールのただならぬ雰囲気に思わず 顔をしかめた。 なにか面倒事を持ってきたな⋮と。 ﹁どうぞ、お入りください﹂ 女性の声と共に扉が開く。 ⋮罠はなにもないな。 探知魔法を使ったがなんの反応もなかった。 ⋮警戒して損したか 最敬礼で膝まづくが ﹁私の名は、オールド・オスマン、この学院の学院長をしている者です﹂ 気を引き締めて入室する。 いや、警戒するべきだ。 ? そんなことよりも目に入ったのはその惨状だ。 散らかり放題で、壁には穴が空いている。 こういうデザインなのか つくづく理解できない。 その視線に気付いたのか老人が言う。 ﹁貴殿方が来る少し前に︽遠身の鏡︾が原因不明の爆発を起こしてしま いましてな、それでこの有り様なのです﹂ ギクッ。 ﹁生徒達の様子や、監視目的で使っていたのですが、いやはやこれから どうしたものか⋮﹂ ギクギクッ。 ⋮それは俺のせいだな、うん。 アインズは集会の際に念のため対情報系魔法の攻勢防壁をはって いたのだ。 そのまま転移したためにそのマジックアイテムに、広範囲に設定し た︽エクスプロージョン︾が発動してしまったのだろう。 それに感付かれたらマズイ、非常にマズイ。 ﹂ そうか。とだけ告げ話を地図に戻す。 ﹁なんだと⋮ て驚愕した。 自分の知っているあの世界の地図とはまったく異なっていたから だ。 空に浮かぶ都市、アルビオンを初めとする諸外国の名前など、ユグ ? ドラシルでもあの世界でも一度も見たことがなかったのだ。 もしかしたら、あの鏡によって異世界に連れてこられたのか⋮ ではナザリック大墳墓はどうなる⋮ ギルドメンバー達の安否はどうなる⋮ 色々な考えが錯綜する。 ? ? 11 ? 来客用の椅子に座りー他9人は立っているー地図を広げ !? ﹂ ﹁もしや、貴殿方が東方から来たのでは⋮ ﹁何⋮ ジ ム シ かにせよ﹂と静める。 ﹁私を召喚したのは、一体誰なのかな ﹁入ります⋮﹂ ﹂ ﹂ しかしそのままにしても進まないので、軽く手を挙げ﹁騒々しい、静 そんな不愉快な魔法があるなんてな。 ⋮同感だよ、まったく⋮ これだから下等生物は⋮という声がブツブツと聞こえる。 ウ 後ろにいる守護者達のせいだろう。 その説明に場が凍る。 そうだ。 ︽サモン・サーヴァント︾は一方通行の魔法で、送り返す魔法はない れる。 は貴殿方を東方に帰す術はございません⋮大変申し訳ない﹂と告げら そんな世界の説明に一段落付いたところでオスマンから﹁私たちに も感じ取れた。 そしてそのエルフを二人も従えるコイツは何者なのか、という視線 ラとマーレを恐れての事だろう。 その話をしている最中に視線が後ろに移ったように見えたが、アウ もの戦力をぶつけねば勝てないほどらしい。 エルフとやらの強さも聞いたが、エルフ一人に対して普段の何十倍 どんな場所なのかも分からないそうだ。 数千年前からそこに住み着いたエルフによって道は絶たれ、今では れる伝説の地域で、遥か東、砂漠の彼方にあるという。 話によると、始祖ブリミルがハルケギニアに初めて降り立ったとさ ? チラリと後ろを見ると、閉まる扉の隙間から一瞬だけ心配そうにこ まるで死刑執行を待つ囚人のような重い足取りで学院長室に入る。 ? 12 ? ちらを見ていたキュルケと目があった。 そして共通の想いを抱く。 ⋮せっかく、ちゃんと友達になれた気がしたのに⋮ もはや、ライバルとしての二人は存在しなかった。 ゆっくりと前を向く。 いる。 あの集団だ。 ﹁ようこそ、ミス・ヴァリエール﹂ オールド・オスマンの優しい声が聞こえるがそれどころじゃない。 ﹂と質問が ︶を見る。 軽く足が震える、が、なんとか持ちこらえて前へと進む。 ﹁ふむ⋮キミがミス・ヴァリエールか⋮﹂ 骸骨の化け物ーーアインズがこちらを見る。 ﹂ ﹁そんなハズはないと思うが⋮﹂ と顎に手を当てる。 ﹁いえ、本当なのです。 これまで何度も魔法に挑戦していますが、結果はすべて爆発。 つまり失敗しているのです﹂ 13 びくびくしながらも、こちらもしっかりと目︵ すると、目の光が一瞬大きくなったように見えた。 まるで、人間が驚きに目を見開くかのような。 少しの間が空き﹁キミはどれ程の魔法が使えるのかな 飛んできた。 言葉につまる。 恐怖からではない。 ﹁なに⋮ ﹁彼女は、魔法が使えないのです⋮﹂ そんなルイズを見かねて、コルベールが言う。 ﹃魔法は何も使えません﹄と自分の口からは言えないからだ。 ? ? チラリとコルベールを見て、またこちらに顔を向ける。 ? 教え子の辛い現実を告げるコルベールは、苦虫を噛み潰すかのよう な顔を浮かべる。 ﹁⋮﹂ 無言でこちらを見るアインズ。 そして ﹁キミは使い魔がいないと昇級できないそうだね。﹂ ギクリ。 汗が止まらなくなる。 これを答えるのは、貴殿達を使い魔にーーつまり奴隷にするために 召喚しましたと告げるようなモノである。 しかし、不思議と口が動く。 ﹁はい、その通りです。﹂ 殺されてしまう。 せっかく拾った命なのに、どうしてこうなるのか。 14 ﹁⋮キミ達﹃貴族﹄はずいぶんと野蛮なのだな﹂ ゴクリ。 軽く息を飲む。 もちろん貴族としてのプライドがある。 だが今回は言われても当然であるだろう。 人間から遠い種族ばかりを召喚していたせいで薄れていたが、彼ら にも自分達と同じように家族や友がいたのかも知れないのだ。 今回のルイズによる︽サモン・サーヴァント︾で全員が痛感しただ ろう。 ﹂ そのモノの人生を、自分は知らぬうちに壊してしまっていたのだ と。 ﹁キミはどう思う ﹁私は⋮﹂ 私はきっと、ソイツの事を許せないだろう。 としたらーー 〝もし〟この集団のように誰かに召喚されて、使い魔にされていた うつむき考える。 ? ﹁しかし、それがこの世界の理なのだとすれば 私はこれ以上とやかく言うつもりはない。﹂ ﹁⋮﹂ ﹂ ﹁さて、キミはその気持ちを知ったうえで、昇級のために私達を使役し たいと望むか ﹁⋮はい﹂ 真っ直ぐと、目を見て答える。 ルイズは必死に考え、二度と戻れないほどに壊してしまったのな ら、もう一度最初から、自分が家族として、自分が友として、一緒に 作っていくしかない。 と答えを出した。 それは間違っているのかもしれないが、今のルイズの精一杯の答え だった。 ﹁そうか⋮﹂ アインズの目の中の光が優しく灯ったような気がした。 ﹁いいだろう、キミの使い魔となろう﹂ ﹁えっ⋮﹂ その場にいた全員が目を見開く。 ﹁使い魔といっても、従属するつもりは一切ない。 あくまでも我々を対等の立場として接してくれ﹂ そういって、立ち上がり臣下達の方へ身体を向け ﹁すまない、私のワガママにお前達を巻き込む事になってしまう﹂ そして頭を深く下げた。 ﹁理由は後で話す、本当にすまない﹂ 頭を下げたままで動こうとしない。 全員がアワアワしていたが、純白のドレスを着た女性﹁顔をお挙げ ください﹂と伝えるとゆっくりと顔を挙げた。 そしてもう一度こちらを向き 15 ? ﹁それでは、 ︽コントラクト・サーヴァント︾とやらをしてくれないか﹂ うっ⋮ 使い魔となってくれるのは今にも跳び跳ねたい位に嬉しかったが、 それを忘れていた。 ︽コントラクト・サーヴァント︾ 呪文を唱え、〝ある事〟をしなければ発動しない魔法なのだが、そ の〝ある事〟が厄介なのである。 ⋮口づけ⋮接吻⋮ そう、つまりはキスなのである。 化け物相手とはいえ、相手は人間に近くそして当たり前のように喋 る。 どうしようかとモジモジしていると不思議そうにこちらを見る視 線を感じとる。 ⋮よしっ と覚悟を決め、呪文を詠唱する。 ﹁我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエー ル。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔と なせ﹂ そしてキスをするためにアインズに近付く。 大丈夫⋮骸骨相手ならファーストキスにはならないわ⋮ ゆっくりと目を閉じ顔に近付けていくが途中で顔を無理やり横に と頬を鷲掴みにされ変な声を上げるがそれもすぐに塞がれ 向かされる。 ムゥ た。 深紅のドレスを着た美しい女性、シャルティア・フォン・ブラウン に奪われてしまうのであった。 16 ! こうしてルイズのファーストキスは ! ﹁良くやったわ、シャルティア﹂ ニコニコと、恐ろしい笑みを浮かべる純白の女性。 ﹁アインズ様の唇が奪われるのであれば、私の唇が生け贄になったほ うがいいでありんすからね﹂ 妖艶に、軽く唇を舐めるシャルティアと呼ばれた深紅の女性。 自分も唇に手をやる。 も、もしかしてもしかすると⋮ ﹁貴女の唇、美味しゅういただきましたでありんすえ﹂ ファーストキスは、女性。 そのキスを思い出してしまい、顔を真っ赤に染める。 ﹂ 17 ﹁あら、うぶだったでありんすね﹂ へなへなと腰を抜かす。 ﹁⋮まぁ、いい。 どうやら契約が完了したようだな﹂ 彼らの左手の甲が赤く輝いているのが見えた。 どうやら、全員同じルーンのようだった。 ﹂ コルベールがそれをスケッチにとり、退室していった。 ﹁さて、オスマン学院長 我々はどこに住めばいいのかな ﹁そうであったな⋮ ? 従来であれば召喚者と一緒の部屋がいいのだが⋮﹂ ﹁全員が入れる程に大きいのか ﹁そうでもないのぅ⋮ では案内してくれ﹂ ﹁了解した。 空き部屋を使って貰えるかの﹂ ? ﹁ミス・ロングビル、お願いできるかの ﹁は、はい、分かりました。﹂ ﹂ ﹁⋮ミス・ヴァリエール、ついていかないのかね ﹂ したが、したが、と赤くなっているうちに部屋割りが決まっていた ようである。 ハッと現実に戻り、ミス・ロングビル達の後を追った。 まさに、王。 それがオスマンのアインズへの評価である。 途中で臣下を鎮めさせたあの態度。 一辺して、ワガママを許してくれと頭を下げるという行為。 臣下に対してそうとう情が厚いのであろう。 そして、得たいのしれなさはトップクラスである。 貴族を責めていたと思えば、ミス・ヴァリエールの使い魔であるこ とを簡単に了承していた点。 あのエルフを二人も臣下に加えている点。 こっそりディテクト・マジックを使ってみたが作動しなかった点。 様々な事が理解できないのだ。 ﹁モーソトグニルよ⋮ ミス・ヴァリエールはとんでもない御方を召喚したようだよ⋮﹂ 萎縮していたネズミをなでつつ、オールド・オスマンはこれからの 学院の事を考えるのであったーーー ルイズと別れ、空き部屋に入るアインズ。 18 ? ? 男子寮、女子寮含め10の空き部屋があったため、それぞれに部屋 を持てたのは幸運だった。 ﹁ハァ⋮謎しかないよ⋮﹂ しかし、道はある。 彼女、ルイズだ。 入ってきたときに魔力量を調べたが、とんでもない量の魔力を持っ ていることに気づいたのだ。 それも、守護者達や自分よりも強大な魔力の量である。 だからこそ、魔法が使えないことが不思議だったのだ。 しかしコルベールの言葉は嘘ではないだろう。 もしかしたら、強大な魔力すぎて力のコントロールが出来ていない のかもしれない。 あの量の魔力であれば未知の魔法⋮自分たちをあの世界へ帰す魔 法も産み出せるかもしれないーーとアインズは考えていた。 飛躍しすぎているかも知れないが、しかし、今はそんな〝もしかし たら〟にすがるしかないのだ。 一刻も早くあの世界へ戻らなければ⋮ 他のメンバーや、ナザリック地下大墳墓に置いてきた大事な大事な 子達にあわなければ⋮ そして、一割程度の理由だが、彼女の事が気に入ったのだ。 あの目。 あのガゼフ・ストロノーフを彷彿とさせたあの眼差しが、アインズ のなくなりかけている心を揺さぶったのだ。 例え勝てないと分かっていても、それでも他の者のために立ち向か う勇気。信念。 そんなものをルイズの瞳から感じたのだ。 ガゼフは失敗してしまった。 もう二度と手に入らないであろう。 しかしルイズはまだまだこれからである。 これからゆっくりと関係を形成していけば、手に入るかもしれな 19 い。 そんなコレクター魂を揺さぶったのだ。 守護者達を集め、理由を話した。 驚いてこそいたが、話は飲み込めたようで納得してくれた。 ⋮本当に、いい子達だよ。 ﹁そして、もう一つの理由だが﹂ 大事な事だ、これからのためにも が浮かぶ。 ﹁お前たちにはここの生活を通して﹃演技﹄を覚えてもらいたい﹂ ﹁お前達は人間を下等生物と言い見下すが、人間の力を侮ってはいけ ないのだ﹂ アルベドやナーベには話したなと付け加える。 ﹁そして、シャルティアの件もある⋮ あれは私のせいだが、お前たちに同じ失敗を繰り返してほしくは ないのだ﹂ シャルティアが軽くうつむく ﹁一瞬の怒りに身を任せ、すぐに身体が動かし殺してしまえば、とても 大事な情報も得られなくなる可能性もある﹂ ﹁そんな事を未然に防ぐため、ここでの生活では人に触れ、 ﹃演技﹄を ﹂ 学び、最低限この国内での無益な殺生を禁じる﹂ ﹁わかったな ﹁﹁ハッ﹂﹂ ﹁⋮わかったな ﹂ 誰も何も言えない。 ? そういって﹃ゲート﹄で部屋に戻った。 ﹁すまないな、迷惑をかける﹂ それで充分だ。 二回目でやっと返事が帰って来た。 ? 20 ? 帰ったあとの部屋では。 ﹁⋮私達のせいで、あんなに心を痛めていたのですね﹂ ﹁⋮そうだね⋮ 私達は人間をゴミとしかみていないが、それにより起きる被害を 危惧していたとはね⋮﹂ ﹁ウム⋮反省セネバナルマイ⋮﹂ ﹁⋮でも演技かー、難しいね﹂ ﹂ ﹁無理難題を出してこそ、私達の成長に繋がるとアインズ様は考えて いるのだろうね﹂ ﹁我モ、アインズ様ノ為ニモヤロウ﹂ ﹂ ﹁私達、すっかり蚊帳の外っすねー、ナーちゃん﹂ ﹁そうね、ルプー。 でも、あの命令は私達にも言っているのよ ﹁それは分かってるっすよー。 ﹁そう、ならいいけど﹂ それに、演技なら得意っすから大丈ブイっす﹂ ? 21 ﹁ぅぅ⋮自信ないよぅ⋮﹂ ﹁それでも、やるしかないでありんすえ しかし殺生をしてはいけない⋮か﹂ ﹁アインズ様の命令になにかご不満でも⋮ ﹂ ﹁さて、明日からは人間⋮生徒達との生活だ。 ﹁うぐ⋮やめてよアルベド⋮﹂ 失敗してからでは遅いものね﹂ ﹁そうね、シャルティアの言うとおりだわ。 ! ﹁いや、いや そんなものはないよセバス﹂ ? ﹁それよりナーちゃんっすよ 名前も覚えられないのに、演技なんてできるんすかー ﹂ 22 ﹁⋮できるわ﹂ ﹁あ、目ーそらした﹂ ? ?
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