2016 NEWYEAR TALK

2016 NEWYEAR TALK
一般財団法人 防衛技術協会
高岡 力
理事長 読者の皆様、昨年は本誌をご愛読頂き大
変有り難う御座いました。今年も引き続き
宜しくお願いします。
ケース・バイ・ケースで対応することが求め
られます。
日本の防衛関連企業の多くは、防衛以外
さて昨今の世界の安全保障を巡る環境は
の分野では、輸出を主な事業とし多くの経
大きく変化しております。これに対応して
験を積んできています。従って、分野を超え
国は13年に、新たに国家安全保障戦略の大
て社内の総合力を発揮すればビジネスと国
方針を決定し、それに基づき一昨年は防衛
際貢献を両立させることができると思いま
装備移転三原則を定めました。さらに昨年
す。日本の産業のほとんどが生き残りをか
は大方針を具現化する組織として防衛装備
けて世界を相手にビジネスを行っています。
庁が新設されました。本年は大方針に基づ
一人、防衛産業のみが、これまでのように国
く施策を新しい組織で実行して、成果を挙
内市場だけを相手に健全な発展を続けられ
げていく年であります。
る時代は終わりました。防衛関連企業の将
大方針の中で防衛技術に関わる一つは装
備移転であります。これは、国家安全保障戦
来を見据えた叡智と積極性が期待される年
であります。
略によれば単純に武器の輸出ではなく、国
国では装備移転の軸として、防衛装備庁
際貢献を目的とする装備技術の移転という
をスタートさせました。関連法令の整備、相
ことが分かります。“ どこまでやれば国際貢
手国への支援、日本企業のサポートが行わ
献か? ” ですが、要は感謝されるということ
れます。ここでは、“ 技術を出す、出さない ”
と思います。相手国が物品だけか、整備や生
の輸出管理の線引きと、国としての移転に
産のインフラも含め、貢献を求めているか、
関わる新たな人材の確保が焦点となります。
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防衛技術ジャーナル January 2016
一億総活躍の時代です、人材は官民 OB の
転に伴うさまざまな問題でも、官民 OB と
有機的組織化で確保できるでしょう。防衛
会社の協賛を得て、お手伝いをしてまいり
関連企業が世界企業として自立できるよう、
ます。一例としては、移転に伴う機微技術の
国と装備庁が不退転の決意で道を拓き続け
管理の面ですが、ますます拡がりを見せる
て頂きたいと思います。
国内外のサプライチェーンを把握、整理し
大方針のうち、防衛技術に関する二つ目
てデータとして提供できる体制を引き続い
はデュアルユースの活用です。装備移転と
て構築してまいります。また装備移転の意
デュアルユースは密接に関わっています。
欲はあるが、経験の乏しい企業には、必要な
現在、移転の俎上に乗っている多くのアイ
アドバイスを協会として提供してまいりた
テムは、その優秀性を営営と積み重ねてき
いと思います、お気軽に声を掛けて下さい。
た防衛関連のシステム技術によっています
デュアルユース技術については、防衛技
が、要素の技術の多くを自動車や電機の民
術ジャーナル誌上で具体的な視点と、鳥瞰
間産業基盤によっていることも自明です。
的な視点からの二つのシリーズを企画して
高抗張力鋼、各種の複合材、半導体素子、コ
います。一つは新たに始まる「民生有望技術
モンレール等を組み込んだ装備品には、海
―日本は何を?」で、デュアルユースとして
外が魅力を感じています。デュアルユース
有望な具体的案件をご紹介します。今月は
技術を磨くことにより、日本の装備技術の
実用化が間近なナトリウムイオン電池を取
競争力が高まります。新たな共同開発案件
り上げました。技術のメリットは何か、技術
を見出すことで、国際貢献をして、同時に国
はどこまで完成しているかが分かるように
内の防衛技術を向上させることができます。
解説いたします。二つ目の「世界の注目技
デュアルユース技術も基礎的なところが大
術」では鳥瞰的な視点で、特定の技術はどの
事ですが、今年、装備庁が開始する大学、民
国が開発しているか、どの国が優れている
間を対象にしたファンディング制度が、長
か、世界の中の日本の位置づけ等が分かる
期的見地で大いに期待されるところです。
よう、論文の数、引用の多さをもとに解析し
防衛技術の振興を使命とする当協会は、
ます。ファンディング制度の方向検討の参
本誌の編集を含め協会の活動の中でこの二
考になればと考えております。ご期待下さ
つの点につき少しでもお役に立てればと考
い。
えています。装備技術移転に関しては、官民
最後になりましたが、今年も引き続き防
交流の場を国内から海外に広げ、昨年から
衛省、協賛各社の温かいご支援、ご協力が頂
引き続き防衛技術に関する国際コンフェラ
けますようお願いをして、新年のご挨拶と
ンスを支援してまいります。国際感覚の豊
させて頂きます。
富な若手技術者が多く育つことに貢献でき
ればとの考えからであります。装備技術移
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