計算解剖学と医用画像認識 Computational anatomy and medical image recognition (工学研究院・電気電子工学専攻)清水昭伸* *連絡先 1.はじめに 計算解剖学は,人体臓器の形状などの 統計的変動を統計数理的に解析・モデル 化する新しい研究分野です.まだ世界的 にも新しく,体幹部(胴体)の計算解剖 学は日本が最も進んでいます.計算解剖 学の成果は,CTなどの画像から臓器を認 識し,その内部の病気を発見する情報工 学の新しい分野において,非常に重要な 役割を果たしています.ここでは,計算 解剖学の概要と医用画像認識への応用例 について紹介します. 2.計算解剖学と医用画像認識 人体の臓器の形は人によって異なり ます.図 1 には,体の正面から見た 21 名分の肝臓を表示しています.人によっ て顔の形が違うように,臓器の形も違う ことが分かります.この差異が,最近, 情報工学の様々な技術を医療の現場に導 入する上で大きな障壁になっています. 最新の CT 装置を使うと,一人の患者 さんから 1,000 枚を超える大量の画像が 出力されることも珍しくありません.そ れによって,画像を診断する医師の負担 が激増し,コンピュータによる診断支援 や手術支援の研究が活発化しています. それらの研究では,まず,画像から臓器 を認識します.これは,臓器によって病 気の特徴が異なるため,正確な病気の診 断のためには臓器認識が欠かせないため です.しかし,人体の解剖学的知識を持 たないコンピュータは,臓器の認識を大 きく間違えることがあります.例えば, CT 値だけを手がかりにしてコンピュー タで処理すると,図 2 のように類似した CT 値を持つ隣接する臓器・組織までも 含めて肝臓だと理解してしまいます.こ のまま次の病気の診断の処理を行うと, E-mail: [email protected] 誤った結果を出力することになります. そこで,計算解剖学の出番です.図 3 に は,臓器の形を統計数理的に解析・モデ ル化し,それを使って生成した形状を示 しました.このようなモデルを用いて処 理すると,図 4 のように正しく臓器を認 識できます.最近では,この技術を複数 臓器に拡張したり,死亡時画像病理診断 と呼ばれる,医学の新しい分野に適用す る試みも始まっています. 図1 21 名分の肝臓の形状 図2 解剖情報なしの肝臓認識結果 2 1 図3 計算解剖モデル 図4 計算解剖モデルを用いた肝臓認識
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