中 国 経 済 展 望 2016年1月 調査部 マクロ経済研究センター http://www.jri.co.jp/report/medium/publication/china/ ◆本資料は2015年12月28日時点で利用可能な情報をもとに作成 ◆本資料に関するご照会先 調査部 関辰一 (Tel:03-6833-6157 Mail:[email protected]) ダウンサイド・リスクは残存 ◆現状:景気は減速基調 景気減速下、中国政府は景気てこ入れ策を強化。10 月から小型車減税が始まったほか(2016年末までの時 限措置)、財政支出が拡大。これらの結果、自動車販 売台数は急増し、インフラ投資に持ち直しの兆し。 この背景には、雇用環境の悪化。7~9月期の求人 数は前年同期比▲9.3%と、3四半期連続のマイナ ス。非製造業PMI就業人員は10カ月連続で良し悪し の目安となる50を割り、製造業のみならずサービス業 の労働需要も縮小。 ◆展望:景気は一段と減速 今後を展望すると、財政出動や住宅市場てこ入れ 策、規制緩和などにより、経済成長率は2015年 6.9%、2016年6.8%と、政府目標の7%を小幅に下回 る水準を確保できると期待。12月21日に閉幕した中央 経済工作会議は、2016年にさらなる「積極的な財政政 策」を採ると決定。減税の実施に加え、政府財政バラ ンスの赤字拡大を通じて公共投資を拡張する方針。す でに、全国財政支出の拡大ペースは加速。 もっとも、企業のバランスシート調整圧力は大き く、先行き、民間固定資産投資が大幅に下振れるリス クは残存。企業は新たな借り入れに慎重となってお り、企業の資金需要DIは低下。加えて、不良債権は 急増しており、不良債権問題が金融仲介機能の重石と なる恐れも。中央経済工作会議では、資本コストの引 き下げに向け「穏健な金融政策」を続けると決定した ほか、不良債権処理を重要課題の一つとして指摘した ことにも注目。 また、雇用所得環境が悪化するなか、個人消費の増 勢も鈍化する見通し。このほか、住宅市場が再び調整 期に入るリスクも。9月1日に2軒目の住宅購入にお ける頭金比率を追加で引き下げたものの、政策効果は 従来と比べさほど現れていない状況。 概説 輸出入 (万台) 3,000 小型車減税 (2009年1月~2010年末) 2,000 1,500 小型車減税 1,000 投資 500 (除く電力、年初累計、前年比) (%) 26 25 24 23 22 21 20 19 18 17 16 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 0 2006 07 2014 08 09 10 11 12 13 14 (資料)中国汽車工業協会を基に日本総研作成 15 (年/月) 企業の資金需要DI(季調値) (%ポイント) 90 貸出基準金利(1年物、右目盛) 住宅販売・着工と価格上昇都市数 (%) 8.0 7.5 85 7.0 80 15 (年/月) (資料)国家統計局 (注)国家統計局は2014年4月からインフラ投資(除く電力)の データ発表を開始。 企業の資金需要と政策金利 企業の資金需要と政策金利 (2010年 =100) 前月比価格上昇の都市数(右目盛) 分譲住宅販売床面積(季調値) 新設住宅着工床面積(季調値) 75 6.0 70 5.5 「増加」 65 5.0 60 頭金比率引き下げ 160 頭金比率引き下げ 4.0 55 09 10 11 12 13 14 15 (年/月) (資料)中国人民銀行「銀行家問巻調査報告」等 (注)資金需要DIは「資金需要増加」-「減少」+50、調査対象は 全国約3,100の銀行、日本総研が季節調整。 70 60 50 140 40 120 30 100 20 4.5 「減少」 (都市) 頭金比率引き上げ 180 6.5 2008 物価 インフラ投資 自動車販売台数(季調値年率) 2,500 消費 80 10 60 0 2012 13 14 15 (年/月) (資料)国家統計局 (注)日本総研が住宅販売床面積と着工床面積を季節調整。 (株)日本総合研究所 中国経済展望 2016年1月 -1- 資源価格の動向や米利上げの影響に留意 ◆輸出:弱含み BRIS(ブラジル、ロシア、インド、南アフリ カ)向け輸出が一段と減少。原油をはじめとした資 源価格の下落を受けて、資源国経済が悪化。先進国 においても、素材・エネルギーセクターを中心に企 業活動にブレーキがかかり、欧米向けも弱含み。 今後、資源価格の動向に加え、米国の利上げの影 響に留意の要。米国の利上げは同国での設備投資や 住宅投資の重石になるほか、ドル建て債務の負担増 加や中国を含む新興国からの資本流出に繋がる恐 れ。新興国で債務不履行や株安、通貨安が進展すれ ば、当該国の景気が一段と悪化するリスク。中国の 輸出額のうちOECD非加盟国向けは55%と大き く、新興国や資源国の景気変動の影響は大。 ◆輸入:「爆買い」商品類の輸入関税を引き下げ 内需の弱まりや資源価格の下落などにより、輸入 額は減少。先行き、設備投資のスローダウンを受け て、資本財や生産財を中心にEUや日本からの輸入 減少が続く見込み。企業のバランスシート調整圧力 は大きく、調整は長期化する見通し。他方、消費者 ニーズの高度化や輸入関税の引き下げは消費財の輸 入を下支えする公算。 概説 地域別輸出額(季調値、米ドルベース) (2012年 =100) 140 世界 <100> EU <16> BRIS <7> 米国 <17> アジア <24> 輸出入 消費 投資 物価 新興国向け輸出額(季調値、米ドルベース) (2012年 =100) 150 OECD非加盟国 <55> ロシア <2> 南アフリカ <1> ブラジル <1> インド <2> 140 130 130 120 120 110 100 110 90 100 80 70 90 60 50 80 2012 13 14 15 (資料)海関総署を基に日本総研作成 (年/月) (注1)<>は2014年のシェア。 (注2)BRISはブラジル、ロシア、インド、南アフリカ。 2012 地域別輸入額(季調値、米ドルベース) (2012年 =100) 140 世界 <100> 資源国 <12> 日本 <8> NIEs+ASEAN <29> EU <12> 米国 <8> 13 14 15 (資料)海関総署を基に日本総研作成 (注)<>は2014年の輸出総額に占めるシェア。 (年/月) 対中直接投資(年初累計、前年比) (%) 30 130 財務部は2016年1月1日に日用品の輸入関税の引 き下げを実施すると発表。カバン・スーツケース、 衣服、魔法瓶などが対象。これは、2015年6月1日 (スーツや紙オムツ、スキンケア用品などが対象) に続く輸入関税引き下げの第2段。前回、当局はこ れらの商品を海外で購入する消費者が多いと指摘。 今回、国内消費者の選択肢を増やすためと説明。 ◆対中直接投資:増加 1~11月の米ドルベースの対中直接投資は前年同 期比7.3%増。ASEANは同13.1%増、EUは 6.9%増、米国は同▲2.2%、日本は▲25.3%減少。 20 120 110 10 100 90 0 80 70 2012 13 14 15 (年/月) (資料)海関総署を基に日本総研作成 (注1)<>は2014年のシェア。 (注2)資源国はオーストラリア、ブラジル、ロシア、南アフリカ。 ▲ 10 2010 11 12 13 14 15 (年/月) (資料)商務部 (株)日本総合研究所 中国経済展望 2016年1月 -2- 大半の業種で求人数が減少 ◆個人消費:比較的高い伸びを維持 2015年入り後、実質小売売上高は雇用所得環境の 悪化を受けて、伸び率がやや低下。 投資 物価 業種別の求人数 (%) 16 名目ベース (%) 20 15 実質ベース 15 (2015年7~9月期、前年比) 10 14 5 0 13 ▲5 12 ▲ 10 11 ▲ 15 求人数と非製造業PMI 非製造業PMI就業人員指数(右目盛) (%ポイント) 54 5 52 0 50 ▲5 48 ▲ 10 46 ▲ 15 44 ▲ 20 42 2012 13 14 15 (資料)中国人力資源市場信息監測中心「2015年第三季部分都 市公共就業服務機構市場供求状況分析」 収入の現状と見通し(DI、季調値) グラフ タイトル 都市部の求人数(前年比) (%) 10 情報通信 2012 13 14 15 (年/月) (資料)国家統計局を基に日本総研作成 (注)CPI上昇率で実質化、1月と2月は1~2月の合計。 交通運輸・ 倉庫・ 郵政 8 製造業 9 リース・ 企業向 けサービス ▲ 20 10 全業種 家計の収入も悪化。中国人民銀行によると、10~ 12月期の収入の現状DIは大きく低下。賃金統計の 公表は2015年初から停止しているが、足許で賃金の 伸び率が低下している公算大。さらに、収入の見通 しDIも50%ポイントを下回り、家計は将来の収入 を一段と不安視。こうしたなか、先行き、生活防衛 のために消費を抑制する動きが拡がる恐れ。 消費 卸小売業 景気が減速するなか、雇用情勢は悪化。7~9月 期の求人数は前年同期比▲9.3%減少。情報通信、交 通運輸・倉庫・郵政、個人向けサービス、電力・ガ ス・水道の4業種は前年比増加したものの、それ以 外の全ての業種で求人数が減少。11月の非製造業P MI就業人員指数は48.4%ポイントに低下。 小売売上高(前年比) 不動産業 ◆個人消費に下振れリスク 今後を展望すると、個人消費の増勢は雇用所得環 境の悪化を受けて、鈍化する見通し。2012年に前年 比14.3%、2013年13.1%、2014年12.0%であった名 目小売売上高の伸び率は、2015年には11.0%を下回 ると予想。 輸出入 建設業 足許では、自動車販売の増加が小売売上高を押し 上げ。9月には前年同月比2.7%増にとどまっていた 自動車類の売上高は、10月に小型車減税を受けて同 7.1%増、11月は同9.0%増加。国家統計局によると 自動車類の売上高増加は10月の名目小売売上高を 0.8%ポイント押し上げ。この結果、10月の名目小売 売上高の前年比伸び率は前月から0.1%ポイント、11 月は同0.2%ポイント上昇。他方、衣料品などの販売 は弱含んでおり、好調を維持してきた家具にも増勢 鈍化の兆し。ガソリンなどの石油製品は前年割れが 持続。 概説 (年/月) (資料)国家統計局「非製造業商務活動指数」、中国人力資源市場 信息監測中心「部分都市公共就業服務機構市場供求状況 分析」 (注1)2015年10~12月期の求人数は未公表。 (注2)非製造業PMI就業人員指数は 「就業人員が先月から増加」-「減少」+50、調査対象は全国 4,000社。 (%) 収入の現状DI 64 62 収入の見通しDI 60 58 56 54 「増加」 52 50 48 「減少」 46 44 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 (年/期) (資料)中国人民銀行「城鎮儲戸問巻調査報告」 (注1)調査対象は全国2万世帯、日本総研が季節調整。 (注2)収入の現状DIは「当四半期の収入は増加」-「減少」+50。 (注3)収入の見通しDIは 「将来の収入は増加すると思う」-「減少」+50。 (株)日本総合研究所 中国経済展望 2016年1月 -3- 民間サービス産業の固定資産投資もスローダウン ◆現状:減速傾向 1~11月の固定資産投資は前年同期比10.2%増と1 ~10月と同じ伸び率となるなど、投資減速に底入れ の兆し。全体の17%を占めるインフラ投資は同 18.2%増と、1~10月の同17.4%増から増加幅が拡 大。景気減速下、政府は財政支出を拡大し、全国財 政支出は1~11月に前年同期比18.9%増と、2014年 通年の8.3%増から加速したことが背景。 概況 固定資産投資と全国財政支出 固定資産投資 (%) 30 製造業に加え、非製造業においても、企業はバラ ンスシート調整のため、新たな借り入れに慎重化。 製造業と非製造業の資金需要DIはいずれも低下。 需要の金利弾力性は著しく低下し、金融緩和の効果 は限定的。 ◆急増する不良債権 景気減速下、採掘業、製造業、建設業、卸小売 業、不動産業を中心に、資金繰りが悪化し、不良債 権が急増。銀行業監督管理委員会によると、2015年 9月末の不良債権残高は前年9月末比54.7%増加 し、不良債権比率は1.6%へ上昇。 この公式統計は、①オフバランスの与信が統計の 対象に入っていない、②不良債権の認定が甘い、等 の問題点があり、実際の不良債権は公式統計を大き く上回る規模と判断可能。不良債権問題が深刻化す るなか、中国人民銀行は2016年のマクロ経済を展望 するにあたり、不良債権比率の上昇が主要リスクの 一つであると明記しており、中央経済工作会議では 不良債権処理を翌年の重要課題の一つと指摘。 投資 物価 (年初累計、前年比) (年初累計、前年比) (%) 35 消費 民間固定資産投資 グラフ タイトル 固定資産投資 45 全国財政支出 40 全体<100> 第2次産業<50> 第1次産業<3> 第3次産業<47> 35 25 30 25 20 民間固定資産投資をみると、第2、第3次産業と もにスローダウンが持続。民間の鉄鋼業や石炭採掘 業、教育や娯楽セクターに加え、統計が公表されて いない民間不動産開発投資や卸小売業、リース・企 業向けサービス業などでも、求人数が減少した点を 踏まえれば、設備投資が抑制された公算大。 輸出入 20 15 15 10 10 5 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 5 2008 09 10 11 12 13 14 2012 15 (年/期) (資料)国家統計局、財務部 (注)直近値は2015年1~11月の値。 2013 2015 (年/月) (資料)国家統計局 (注1)< >内は2014年のシェア。 (注2)業種別の民間固定資産投資の統計開始が2012年3月。 不良債権残高(前年比) 企業の資金需要DI(季調値) (億元) 14,000 (%ポイント) 80 製造業 75 2014 非製造業 (%) 80 不良債権残高 前年比(右目盛) 60 12,000 70 10,000 65 8,000 60 6,000 40 20 0 55 ▲ 20 4,000 「増加」 50 ▲ 40 2,000 「減少」 45 2009 10 11 12 13 14 15 (年/期) (資料)中国人民銀行「銀行家問巻調査報告」 (注)資金需要DIは「資金需要増加」-「減少」+50。 調査対象は全国約3,100の銀行、日本総研が季節調整。 ▲ 60 0 2009 10 11 12 13 14 ▲ 80 15 (年/期) (資料)銀行業監督管理委員会「銀行業監管統計指標季度 情況表」 (株)日本総合研究所 中国経済展望 2016年1月 -4- 住宅市場が再び調整期に入るリスクも 概況 CPIとPPI(前年比) ◆物価:強まるデフレ圧力 11月のCPI上昇率は前年同月比+1.5%(豚肉価 格が0.4%ポイント押し上げ)の低水準。企業収益が 悪化するなか、賃金の伸びは全般的に鈍化している とみられ、観光などサービス業の分野でも物価が伸 び悩み。11月のPPI上昇率は同▲5.9%下落。価格 下落の動きが生産財から消費財に拡がるなか、生産 財は46カ月連続、消費財は13カ月連続で前年比下落 し、デフレ圧力が強まる状況。 消費者物価 10 工業生産者出荷価格 投資 物価 横ばい 下落 60 50 6 4 40 2 30 20 ▲2 ▲4 10 ▲6 0 2011 ▲8 ▲ 10 2007 08 09 10 11 12 13 14 15 (年/月) (資料)国家統計局 12 13 14 15 (年/月) (資料)国家統計局を基に日本総研作成 (注)上昇は前月比>0%の都市数、横ばいは同=0%、 下落は同<0%。2011年1月に統計改定あり。 住宅在庫 ●● 人民元レート <人民元レートの推移> (億㎡) (カ月) 6 5 住宅在庫床面積 4 住宅在庫床面積/1カ月当たりの 住宅販売床面積(右目盛) 5 (元/ドル) 6.9 6.8 6.7 4 3 6.6 元安 6.5 3 2 ◆人民元:SDR入りが決定 11月30日、IMFはSDR(Special Drawing Rights)の構成通貨として人民元を採用すると決 定。この背景には、中国の貿易が大きく拡大し、各 国で人民元の利用が拡がっていることが指摘可能。 今後、IMF加盟国が外貨準備に人民元を採用する など、人民元の国際化が進む見通し。 上昇 (都市数) 70 (%) 12 8 もっとも9月1日に追加で頭金比率が引き下げら れたにもかかわらず、10月には住宅価格が上昇した 都市が27都市と9月の39都市から減少し、11月も33 都市にとどまる状況。雇用所得環境の悪化などを背 景に、政策効果は従来対比大きく低下する恐れも。 頭金比率の引き下げや利下げが需要を十分に増や すことができなければ、不動産業は過剰債務と過剰 在庫に直面するなか、値下げの動きが拡がるリス ク。さらに、住宅着工の持ち直しは腰折れとなり、 不動産開発投資のスローダウンに歯止めがかからな くなる恐れも。 消費 <新築分譲住宅販売価格の騰落別都市数> 新築分譲住宅販売価格の騰落別都市数 0 ◆不動産価格:一部の都市では再び下落 2015年3月から住宅価格上昇の動きが全国に拡 大。2014年春頃から地方政府は住宅購入規制を緩和 し、秋口から中央政府も利下げを実施。とりわけ、 2015年3月に実施された2軒目の住宅購入における 頭金比率引き下げの効果は鮮明。 輸出入 2 6.4 6.3 6.2 1 1 0 0 2005 06 07 08 09 10 11 12 (資料)国家統計局を基に日本総研作成 (注)直近値は2015年11月末の値。 13 14 15 (年) 6.1 6.0 10 11 12 (資料)Datastream (注)トムソン・ロイター社調べ。 13 14 15 (年/月/日) (株)日本総合研究所 中国経済展望 2016年1月 -5-
© Copyright 2024 ExpyDoc