中国経済展望2016年8月号:公共投資が景気を下支え(PDF

中 国 経 済 展 望
2016年8月
調査部 マクロ経済研究センター
http://www.jri.co.jp/report/medium/publication/china/
◆本資料は2016年7月28日時点で利用可能な情報をもとに作成
◆本資料に関するご照会先
調査部 関辰一 (Tel:03-6833-6157 Mail:[email protected])
公共投資が景気を下支え
◆現状:景気は減速基調
4~6月期の実質成長率は前年同期比+6.7%と、
前の期から横ばいで推移。公共投資が景気の下支えと
なったものの、民間固定資産投資の減速に歯止めがか
からず。実質小売売上高も減速傾向。輸出は人件費の
上昇や輸出先の景気減速を受けて、前年割れが持続。
なお7月5日、国家統計局はGDP統計の改定を発
表。具体的には、1952年に遡って、研究開発支出を固
定資本形成に計上。これにより、各年の名目GDPの
規模と実質成長率は上方修正されたものの、総じてみ
れば変化幅は限定的。新基準では、2015年の名目GD
Pは68兆5,506億元、実質成長率は+6.9%(旧基準で
は、67兆6,708億元と+6.9%)。
概説
ただし、企業債務の過剰感が強いなか、不良債権は
急増しており、先行き金融機関の破綻や政府によるミ
スハンドリングが金融システムの不安定化に繋がるリ
スクには警戒が必要。すでに一部の中小金融機関は債
務超過に陥り、取り付け騒ぎも散見される状況。
また、人民元レートが大幅に減価するリスクも。英
国のEU離脱が国民投票で決まったことにより、為替
市場では大きな混乱がみられた2016年1月と同程度の
値崩れが発生。
このほか、所得の伸びが鈍化し、雇用調整の動きが
拡大するなか、個人消費が冷え込む恐れも。4~6月
期の求人数は前年同期比▲9.5%と、減少幅が拡大。
消費
投資
物価
公共投資(年初累計、前年比)
実質GDP成長率(前年比)
(%)
13
インフラ投資(除く電力)
(%)
国有企業(含む政府機関)の固定資産投資
26
12
24
22
見通し
11
20
10
18
16
9
14
8
12
10
7
4
6
8
10 12
2014
6
◆展望:景気は一段と減速
先行き、バランスシート調整を余儀なくされるもと
で、民間投資は一段とスローダウンするものの、公共
投資が景気・雇用を下支えするなか、経済成長率の低
下はマイルドなものにとどまる見通し。2016年の経済
成長率は+6.6%、2017年は+6.5%と予想。
輸出入
2008 09
10
11
12
13
14
15
16
(%)
14
12
20
11
10
10
9
0
8
▲ 10
7
2011
12
13
14
15
8
10 12
15
2
4
6
16
(年/月)
債務超過の金融機関と取り付け騒ぎ
13
30
6
(資料)国家統計局「全国固定資産投資」
(注)国家統計局は2014年4月からインフラ投資(除く電力)の
データ発表を開始。
民需と外需(前年比)
輸出
民間固定資産投資(年初累計)
実質小売売上高(CPIで実質化、右目盛)
4
17
(年/期)
(資料)国家統計局「国民経済計算」を基に日本総研作成
(%)
40
2
16
(年/期)
(資料)海関総署「貿易統計」、国家統計局「民間固定資産投資」
「社会消費品零售総額」「居民消費价格」を基に日本総研
作成
債
務
超
過
取
り
付
け
騒
ぎ
・湖南省の澧県農村信用合作聯社
( 2015年6月30日時点で2億元)
・同省の湘潭県農村信用合作聯社
( 2015年9月30日時点で4億元)
・地元政府系の投資会社である現代投資が2社
を支援・救済
・河南省林州市の複数の農村信用社
( 2015年5月)
・同省新郷市の中国郵政貯蓄銀行の
複数の支店(同年11月)
・河北省邯鄲市の農村信用社( 2016年3月)
・いずれのケースも数日以内に各市の公安や
警察が「根拠のないうわさを広めた」とのこと
で、1人ないしは数人を拘束
(資料)各種報道を基に日本総研作成
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2016年8月
-1-
大幅に増加する対外直接投資
◆輸出:伸び悩み
輸出額は人件費の上昇に加え、輸出先の景気減速
を受けて、伸び悩み。足許では、BRIS(ブラジ
ル、ロシア、インド、南アフリカ)など資源国・新
興国向け輸出に下げ止まりの兆しも。資源価格に底
入れの動きがみられるほか、新興国で景気てこ入れ
策が打ち出されていることが背景。
もっとも、資源需要が低迷する一方、供給能力の
整理に数年単位の時間がかかるため、資源価格の低
迷は長期化する見通し。こうしたなか、資源国・新
興国を中心に、厳しい状況が続く見込み。輸出の先
行きを示唆する製造業PMI輸出向け新規受注指数
をみると、持ち直しの動きがみられる一方、良し悪
しの目安となる「50」を依然として下回っており、
輸出に景気の牽引役を期待することは困難な状況。
概説
地域別輸出額(季調値、米ドルベース)
(2012年
=100)
140
◆対外直接投資:大幅に増加
1~6月の対外直接投資は前年同期比58.7%増の
889億ドル。この背景には、中国経済の成長期待の低
下、技術やブランドの獲得、人民元の先安観の強ま
りなどが指摘可能。とりわけ、製造業への投資は同
3.5倍と大幅に増加。
米国 <18>
アジア <25>
消費
投資
物価
製造業PMI輸出向け新規受注指数(季調値)
(ポイント)
53
52
130
51
120
50
110
100
49
90
48
80
47
70
2012
13
14
15
16
(資料)海関総署「貿易統計」を基に日本総研作成 (年/月)
(注1)<>は2015年のシェア。
(注2)BRISはブラジル、ロシア、インド、南アフリカ。
◆輸入:伸び悩み
輸入額は内需の弱まりなどにより伸び悩み。足許
では、資源国からの輸入額に持ち直しの動きもみら
れるものの、依然低水準。
◆対中直接投資:伸び悩み
1~6月の対中直接投資は前年同期比5.1%増と伸
び悩み。業種別にみると、サービス業は同8.0%増、
製造業は同▲2.8%の減少。資金の出し手をみると、
米国は同2.4倍、EUは同42.5%増、ASEANは同
1.3%増。資金の受け入れ地域をみると、西部は同
29.5%増と大幅に拡大する一方、東部は同7.0%増に
とどまり、中部は同▲32.6%減少。
世界 <100>
EU <16>
BRIS <6>
輸出入
46
2012
13
140
世界 <100>
EU <12>
日本 <9>
NIEs+ASEAN <31>
資源国 <11>
米国 <9>
16
(年/月)
対外直接投資
(%)
160
(米ドルベース、年初累計、前年比)
140
130
120
120
100
110
80
100
60
90
40
80
20
70
15
(資料)国家統計局、物流購買連合会
(注)日本総研が季節調整。
地域別輸入額(季調値、米ドルベース)
(2012年
=100)
150
14
0
60
▲ 20
50
2012
13
14
15
16
(年/月)
(資料)海関総署「貿易統計」を基に日本総研作成
(注1)<>は2015年のシェア。
(注2)資源国はオーストラリア、ブラジル、ロシア、南アフリカ。
▲ 40
2012
13
14
15
16
(年/月)
(資料)商務部「商務運行情況」
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2016年8月
-2-
所得の伸びが鈍化し、雇用調整の動きが拡大
◆個人消費:増勢は鈍化
実質小売売上高の伸び率は低下傾向。2016年1~
6月の実質小売売上高は前年同期比8.2%増と2015年
通年の前年比9.3%増から▲1.1%ポイント低下。
とりわけ、スマートフォンなど通信機械の販売額
が大きく鈍化。そのほか、衣料品や化粧品などにも
増勢鈍化の動き。小型車減税実施後の自動車市場で
は2009年のような持続的な盛り上がりがみられず。
概説
小売売上高(前年比)
輸出入
消費
投資
物価
全国1人当たり実質可処分所得
(%)
16
名目ベース
15
実質ベース
14
(%)
9.0
(年初累計、前年比)
8.5
8.0
13
7.5
12
7.0
11
この背景に所得の増勢鈍化。1~6月の全国1人
当たり実質可処分所得は前年同期比6.5%増と、2015
年通年の同7.4%増から減速。
雇用情勢も悪化。国有企業の倒産が発生し、大手
民間企業でも中途採用の凍結や新卒採用の大幅縮小
がみられるなど、雇用調整の動きは拡大。4~6月
期の求人数は前年同期比▲9.5%と、1~3月期の同
▲4.5%増から減少幅が拡大。
業種別にみると、製造業のみならず、リース・企
業向けサービス、不動産業、卸小売業、飲食・宿泊
などのサービス業においても、求人数が前年対比2
ケタ減少。他方、治水・環境・公共施設管理や情報
通信業では、求人数が大幅に増加。
6.0
9
8
5.5
7
5.0
2012
13
14
15
16
(年/月)
(資料)国家統計局「社会消費品零售総額」
(注)CPI上昇率で実質化、1月と2月は1~2月の合計。
2014
16
(年/期)
住宅販売と価格上昇都市数
(2016年4~6月期、前年比)
前月比価格上昇の都市数(右目盛)
(2010年
=100)
180
160
140
分譲住宅販売床面積(季調値)
(都市)
頭金比率引き上げ
頭金比率引き下げ
70
60
50
40
120
30
100
治水・
環境・
公共施設管理
情報通信業
全業種
個人向け
サービス
製造業
飲食・
宿泊
卸小売業
不動産業
(%)
50
40
30
20
10
0
▲ 10
▲ 20
▲ 30
▲ 40
▲ 50
15
(資料)国家統計局「全国居民人均可支配収入」
業種別の求人数
リース・
企業
向けサービス
◆過熱感残る不動産市場
6月の住宅販売床面積(季調値)は2カ月連続で
減少も、2015年末より29.8%高い水準。住宅平均販
売価格も4月の前月比+1.2%をピークに伸び鈍化
も、6月も引き続き主要70都市のうち55都市で上
昇。前年同月と比べると、沿海大都市の深センが+
47.4%、上海+33.7%、北京+22.3%と、いずれも
2ケタ上昇。このほか、南京+31.5%、合肥+
29.1%、武漢+13.8%と、一部の内陸都市でも10%
を上回る上昇がみられ、不動産市場の過熱感は残
存。
6.5
10
(資料)中国人力資源市場信息監測中心「2016年第二季部分都
市公共就業服務機構市場供求状況分析」
80
20
10
60
0
2012
13
14
15
16
(資料)国家統計局「全国房地産開発投資和銷售 (年/月)
状況」、「70大中城市住宅銷售价格変動状況」
(注)日本総研が住宅販売床面積を季節調整。
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2016年8月
-3-
民間投資は大きくスローダウン
◆現状:減速傾向
1~6月の固定資産投資は前年同期比9.0%増。伸
び率は1~5月から▲0.6%ポイント低下。
内訳をみると、民間固定資産投資が同2.8%増と、
2015年通年の前年比10.1%増から大きくスローダウ
ン。とりわけ、民間鉄鉱石採掘業では同▲38.3%、
石炭採掘業▲32.4%、非鉄金属製造業▲7.4%と落ち
込みが顕著。投資の伸び鈍化は構造調整にさらされ
る第2次産業のみならず第3次産業にも及んでいる
状況。
他方、国有企業(含む政府機関)の固定資産投資
は同23.5%増と2015年通年の前年比10.7%増から急
加速。インフラ投資も同20.9%増と2015年の前年比
17.2%増から加速。
概況
固定資産投資
固定資産投資(年初累計、前年比)
一方で、金融緩和では民間投資を喚起できず、む
しろ緩和マネーがシャドーバンキングや住宅市場に
流入するという弊害を抱えるなか、景気下支えに向
けて公共投資は拡大を続け、総じてみれば固定資産
投資の減速はマイルドなものにとどまる見通し。た
だし、下振れリスクは残存。過剰債務は企業の資金
需要の減退に繋がるほか、金融システムの不安定要
因に。不良債権は急増しており、銀行は貸倒引当金
を積まざるを得ず、経営環境は厳しさが増す状況。
消費
投資
物価
民間固定資産投資
(年初累計、前年比)
(年初累計、前年比)
(%)
25
(%)
20
全体<100>
30
第2次産業<50>
25
第3次産業<46>
20
15
15
10
10
5
0
5
3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6
0
(資料)国家統計局「民間固定資産投資」
(年/月)
(注1)名目GDPの約28%は民間固定資産投資。
(注2)業種別の民間固定資産投資の統計開始が2012年3月。
(注3)<>内は2015年のシェア。
2012
2012
13
14
15
(資料)国家統計局「全国固定資産投資」
◆展望:減速が持続
先行き、過剰債務・過剰設備が重石となるなか、
民間企業はバランスシート調整を余儀なくされ、そ
の結果、民間投資は一段とスローダウンすると予
想。2015年末の非金融企業の債務残高は115.5兆元
と、同年のGDPの1.7倍。これはバブル期の日本を
上回る規模。企業の元利金支払い負担は一段と重く
なっており、資金繰りはリーマン・ショック直後よ
りも厳しい状況。こうしたなか、民間企業の投資マ
インドは弱まる方向。
輸出入
16
(年/月)
公共投資と不動産開発投資
14
15
16
企業の資金需要と政策金利
企業の資金需要と政策金利
(年初累計、前年比)
インフラ投資(除く電力)
国有企業(含む政府機関)の固定資産投資
不動産開発投資
(%)
30
13
企業の資金需要DI(季調値)
(%ポイント)
90
貸出基準金利(1年物、右目盛)
(%)
8.0
7.5
85
25
20
80
15
75
7.0
6.5
6.0
10
70
5
5.5
「増加」
65
0
4
6
8
10 12
2
2014
4
6
15
8
10 12
2
4
6
16
(年/月)
(資料)国家統計局「全国固定資産投資」「全国
房地産開発投資和銷售情况」
(注1)名目GDPの約16%は国有企業の固定資産投資。
(注2)国家統計局は2014年4月からインフラ投資(除く電力)の
データ発表を開始。名目GDPの約8%はインフラ投資。
5.0
60
4.5
「減少」
55
2008
09
10
11
12
13
14
15
4.0
16
(年/月)
(資料)中国人民銀行
(注)資金需要DIは「資金需要増加」-「減少」+50、調査対象は
全国約3,100の銀行、日本総研が季節調整。
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2016年8月
-4-
人民元レートのコントロールは困難
◆物価:低い伸び
6月のCPI上昇率は前年同月比+1.9%と5月か
ら▲0.1%ポイント低下。内需が弱まるなか、インフ
レ率は低い伸びが持続。
6月のPPI上昇率は同▲2.6%と下落幅が縮小。
これまで、多くの企業が損益分岐点を下回る価格で
出荷を行ってきたが、足許では減産や公共投資の拡
大などにより、値下げの動きは緩和。ただし、需給
ギャップの早期解消が見込めないなか、値上げの動
きが拡がると期待するのは時期尚早。
概況
CPIとPPI(前年比)
(%)
12
消費者物価
10
投資
工業生産者出荷価格
(元/米ドル)
6.8
対米ドルレート
8
6.7
6
6.6
4
物価
(円/元)
14
元安
対円レート(右逆目盛)
15
16
6.5
17
2
0
6.4
▲2
6.3
18
19
6.2
▲6
20
6.1
▲8
▲ 10
2007 08
6.0
09
10
11
12
13
14
15
16
(年/月)
(資料)国家統計局「居民消費价格」「工業生産者出荷价格」
中国の金融システミックリスクが高まっているこ
となどを踏まえれば、先行き、資金流出の動きが続
き、人民元が一段と減価する恐れ。
21
2014
2015
2016
(年/月/日)
(資料)DataStream
(注)トムソン・ロイター社調べ。
●●
外貨準備高
上海総合株価指数
(億ドル)
政府は1日当たりの人民元の変動幅を一定程度以
内に抑制できても、外貨準備は有限であることか
ら、数カ月や1年にわたって市場の人民元需給を操
作し、人民元レートをコントロールすることは困
難。2015年末の外貨準備は3兆3,304億ドルと前年末
比5,127億ドル減少しており、政府の大規模な為替介
入を示唆。もっとも異常な規模の資金流出が発生す
るなか、人民元レートの大幅な減価を回避できず。
消費
人民元レート
▲4
◆人民元レート:元安進展
人民元の対米ドルレートは2015年に4.7%と大幅に
減価。2016年入り後も元安・ドル高が進み、7月27
日時点で前年末対比2.7%減価。対円レートはそれぞ
れ3.8%、14.4%と、2016年入り後の減価が顕著。
輸出入
(ポイント)
6,000
40,000
5,000
38,000
4,000
36,000
3,000
34,000
2,000
◆株価:下落トレンド
上海総合株価指数は2014年秋口からの金融緩和を
主因に、2015年6月にかけて大きく上昇したもの
の、その後は企業のデフォルトの増加や金融機関の
経営悪化などを受けて、リスク回避の動きが強まる
なか、下落。
32,000
1,000
30,000
0
2014
15
(資料)国家外為管理局
16
(年/月)
2005 06
07
08
09
10
11
12
13
14
15 16
(年/月)
(資料)上海証券取引所
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2016年8月
-5-