中国経済展望2015年1月号:設備投資の抑制がブレーキ要因

中 国 経 済 展 望
2015年1月
調査部 マクロ経済研究センター
http://www.jri.co.jp/report/medium/publication/china/
◆本資料は2014年12月25日時点で利用可能な情報をもとに作成
◆本資料に関するご照会先
調査部 関辰一 (Tel:03-6833-6157 Mail:[email protected])
設備投資の抑制がブレーキ要因に
景気は不動産開発投資のスローダウンを主因に減
速。消費は堅調さを維持し、輸出は緩やかに拡大して
いる一方、固定資産投資の増勢鈍化に歯止めがかから
ず。とりわけ、不動産開発投資のスローダウンが顕
著。
固定資産投資(年初累計、前年比)
(%)
28
他方、設備過剰感が強いなか、製造業の固定資産投
資は一段と鈍化する見通し。これまでの景気減速に伴
い企業収益は伸び悩み。設備稼働率も低下していると
みられるなか、企業の資金需要が落ち込んでおり、設
備投資意欲の低下を示唆。
10
このほか、在庫調整圧力の高まり等も景気の重石に
なると見込まれ、先行き、経済成長率は低下トレンド
となる見通し。もっとも、政府は景気失速も警戒。小
規模な刺激策により、景気減速ペースは緩やかなもの
になる見込み。2014年の実質成長率は7.4%、2015年
は7.2%と予想。
消費
投資
物価
住宅の販売と着工(季調値)
分譲住宅販売床面積
180
新設住宅着工床面積
160
24
22
輸出入
(2010年=100)
全体
不動産開発投資
製造業
26
今後、景気減速の主因は住宅市場の調整から設備投
資の抑制に変化する見通し。足許では、地方政府の住
宅購入規制の緩和や9月の住宅ローン規制の緩和など
により、住宅市場に持ち直しの動き。具体的には、春
頃から住宅着工が持ち直しているのに続き、住宅販売
も7月をボトムに増加。先行き、建設竣工時に計上さ
れる不動産開発投資は底入れする公算大。
12月11日に閉幕した中央経済工作会議は「積極的な
財政政策」「穏健な金融政策」の継続を決定し、2015
年の成長率目標を引き下げる方針で議論。加えて、デ
レバレッジの長期化を指摘したことも注目点。これら
は、経済成長のペースを高速から中高速にシフトする
政策スタンスが続くことを示唆。当局は、構造調整を
重視して過剰投資・過剰債務の解消を図る構え。
概説
140
20
120
18
16
100
14
80
12
60
2012
13
14
(年/月)
(資料)国家統計局
2011
12
13
14
(年/月)
(資料)国家統計局を基に日本総研作成
企業の資金需要DI(季調値)
在庫調整圧力
(図表2)在庫調整圧力
(%)
25
(%ポイント)
90
圧力上昇
20
85
15
10
80
5
0
75
▲5
▲ 10
70
▲ 15
▲ 20
65
04
05
06
07
08
09
10
11
12
(資料)中国人民銀行を基に日本総研作成
(注1)調査対象は約3,100社の金融機関。
(注2)資金需要DIは「資金需要拡大」-「縮小」+50。
13
14
(年/期)
▲ 25
2007
08
09
10
11
12
13
14
(年/月)
(資料)国家統計局、CEICを基に日本総研作成
(注)在庫調整圧力=工業在庫の前年比-工業生産の前年比。
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2015年1月
-1-
資源類の入着価格が大幅に下落
<輸出>
アジア向けは堅調。米国向けとBRIS(ブラジ
ル、ロシア、インド、南アフリカ)向けは緩やかに
拡大。他方、EU向けは減少傾向。
先行き、輸出の増勢加速は期待薄。人件費の上昇
などを背景に、中国製品の価格競争力は低下の方
向。世界経済は総じてみれば、緩やかな回復基調を
たどるとみられるものの、EUのデフレ懸念や米国
の利上げなど世界経済を取り巻く環境は不透明。ア
ジア諸国で資本流出が発生すれば、中国のアジア向
け輸出は頭打ちとなるリスク。
概説
地域別輸出額(季調値)
(2012年=100)
130
世界 <100>
EU <16>
BRIS <9>
米国 <17>
アジア <23>
輸出入
消費
物価
製造業PMI新規受注指数(季調値)
(%ポイント)
56
輸出向け
国内+輸出向け
54
120
投資
52
110
50
100
48
90
46
80
<輸入>
輸入額は輸入価格の下落と内需の弱まりを背景
に、伸び悩み。9~10月にNIEsとASEANか
らの輸入が急増したものの、新型スマートフォンと
タブレットの部品や加工機械の調達が主因とみら
れ、一時的な動きとなる見込み。実際、当該地域か
らの輸入額は11月に減少。
国際的な資源価格の下落は、中国の輸入額を押し
下げ、貿易黒字の拡大要因に。11月の鉄鉱石の入着
価格は前年同月比▲36.1%、原油は同▲17.4%、石
炭は同▲14.0%下落。こうしたなか、11月の貿易黒
字は単月で過去最大の545億ドルに拡大。
2012
13
14
(資料)海関総署を基に日本総研作成
(年/月)
(注1)<>は2012年のシェア。
(注2)BRISはブラジル、ロシア、インド、南アフリカ。
44
2011
12
130
120
(年/月)
資源類の入着価格
(2012年=100)
120
世界 <100>
NIEs+ASEAN <29>
資源国 <12>
EU <12>
日本 <10>
米国 <7>
140
14
(資料)国家統計局、物流購買連合会を基に日本総研作成
地域別輸入額(季調値)
(2012年=100)
13
鉄鉱石
原油
110
石炭
100
110
90
<対中直接投資>
1~11月の対中直接投資は前年同期比0.7%増。人
件費の上昇や元高などを背景に、中国の生産拠点と
しての魅力は低下。地域別にみると、日中関係悪化
の影響もあり、日本からは同▲39.7%と大幅に減
少。米国からは同▲22.2%、EUからは同▲9.8%の
減少。
100
80
90
70
80
2012
13
14
(資料)海関総署を基に日本総研作成
(年/月)
(注1)<>は2012年のシェア。
(注2)資源国はオーストラリア、ブラジル、ロシア、南アフリカ。
60
2012
13
14
(年/月)
(資料)海関総署を基に日本総研作成
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2015年1月
-2-
縮小する所得格差
<個人消費>
個人消費は堅調に拡大。ただし、高所得層と中低
所得層では大きな違い。綱紀粛正に伴う高所得層の
消費抑制を受けて、百貨店や高級レストランを含む
大手小売業の売上高は低い伸びにとどまる一方、高
所得層の利用が少ない中小小売業は好調に推移して
おり、小売売上高の総額は2ケタの伸びを維持。
概説
小売売上高(前年比)
(%)
16
<所得格差>
消費の絶対的な格差は依然として大きいものの、
格差は縮小の方向。その背景に、倹約令や家計資産
の目減りなどに加え、所得格差の縮小も指摘可能。
近年、大卒数の急増を受けて、金融やITなど高
給で人気の高い業種では、わずかな求人に対して多
数の求職者が集まる一方、労働条件が劣る工事現場
や工場などでは人手不足が問題化。この結果、高賃
金の職種の賃金上昇率が低く、低賃金の賃金上昇率
が高い状況。
実質ベース
物価
全体
15
大手
14
14
13
12
12
11
11
10
10
9
9
2012
13
8
14
2012
(%)
14
(年/月)
(資料)国家統計局
<東部-中西部の所得格差>
東部-中西部の所得格差
都市内の所得格差
下位20%の一人当たり可処分所得の前年比 (倍)
20
13
(年/月)
(資料)国家統計局を基に日本総研作成
(注)CPI上昇率で実質化。
上位20%/下位20%の所得倍率(右目盛)
5.8
(%)
20
5.6
15
中西部所得の前年比
東部/中西部の所得倍率(右目盛)
(倍)
1.45
1.44
5.7
15
5.5
1.43
1.42
5.4
10
5.3
10
5.1
5
5
5
4.9
0
4.8
03
04
05
06
07
08
09
10
(資料)国家統計局を基に日本総研作成
11
12
13
(年)
1.41
1.4
5.2
また、2000年代半ば以降、民間企業の設備投資が
沿海部から内陸部にシフトする動きに伴い、内陸中
小都市の所得水準は沿海大都市を上回るペースで上
昇。また、農村部でも地元企業の賃金が大幅に上
昇。こうしたなか、沿海-内陸間、都市-農村間の
所得格差も縮小。
投資
(%)
16
13
今後、高所得層の消費は一段と鈍化する見通し。
住宅価格の下落が続くなか、家計の資産価値は目減
り。加えて、中央政府は国有企業改革の一環とし
て、国有企業幹部の年俸に上限を設けることを検
討。高所得者層の消費者マインドが大幅に悪化し、
外資ブランドの耐久消費財の販売や旅行などのサー
ビス消費が冷え込む恐れ。
消費
小売売上高(年初累計、前年比)
名目ベース
15
輸出入
1.39
1.38
0
1.37
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
(年)
(資料)国家統計局を基に日本総研作成
(注)東部は沿海の11省・市。中西部は内陸の20省・市・自治区。
都市部一人当たり可処分所得の加重平均。
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2015年1月
-3-
先行き、固定資産投資は一段と鈍化
固定資産投資の増勢は鈍化。とりわけ、不動産開
発投資のスローダウンが顕著。
不動産価格抑制策の緩和や金融緩和を求める声が
強まったため、2014年春頃から中央政府は地方政府
の住宅購入規制の緩和を黙認し、住宅ローンに対す
る規制を緩めるなど、不動産価格抑制策を緩和方向
に微修正。また、金融政策についても、中国人民銀
行は公開市場操作の適用金利引き下げや主要銀行等
に対して資金供給を行ったうえで、11月に2年4カ
月ぶりの利下げを実施。
概況
24
160
22
140
もっとも、固定資産投資全体では、製造業の設備
投資抑制を主因に、増勢鈍化が続く見通し。景気減
速に伴い企業収益は伸び悩み。設備稼働率も低下し
ているとみられ、企業の設備過剰感は強まる方向。
実際、中国人民銀行によると、企業の資金需要DI
は2014年7~9月期にかけて低下。こうしたなか、
製造業の固定資産投資は一段と鈍化する見込み。
物価
20
120
18
100
16
14
今後を展望すると、住宅ローン規制の緩和などに
より、不動産開発投資の増勢鈍化に歯止めがかかる
公算大。すでに、工事着工時に計上される住宅着工
床面積が持ち直しており、今後、工事完成時点で逐
次不動産開発投資統計に反映される見通し。
投資
(2010年=100)
180
全体
不動産開発投資
製造業
26
消費
住宅着工床面積(季調値)
固定資産投資(年初累計、前年比)
(%)
28
輸出入
80
12
60
10
2012
13
14
2012
(年/月)
(資料)国家統計局
工業企業の企業収益(年初累計、前年比)
13
(年/月)
(資料)国家統計局を基に日本総研作成
実質GDP成長率と固定資産投資(前年比)
実質GDP
(%)
13
(%)
18
14
固定資産投資(年初累計、右目盛)
(%)
35
売上高
12
利益総額
16
30
11
14
10
25
当局が過剰投資・過剰債務を警戒するスタンスを
崩さないなか、11月の利下げに大きな景気浮揚効果
は期待薄。2012年6、7月の利下げ後にみられたよ
うに、資本コストが低下しても、必ずしも固定資産
投資の増勢が急加速する訳ではない。投資プロジェ
クトに対する行政の関与が大きく、かつ、間接金融
を主とする中国では、産業政策や窓口指導が投資の
動向を大きく左右。
9
12
8
10
20
7
8
利下げ
6
2008
6
2013
(資料)国家統計局
14
(年/月)
09
10
11
12
13
15
14
(年/期)
(資料)国家統計局
(注)固定資産投資の直近値は2014年1~11月の値。
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2015年1月
-4-
住宅需要に持ち直しの動き
<物価>
11月のCPI上昇率は前年同月比+1.4%に低下。
輸入価格の下落や景気減速に加え、前年同月の物価
水準が高かったことが背景。2015年初には前年の価
格高騰の影響が剥落していくことから、CPI上昇
率は持ち直す公算。その後は景気低迷を反映し2%
前後の水準で底ばいとなる見通し。
<不動産価格>
住宅価格は下落。2013年の一連の不動産価格抑制
策を受け、同年末頃から住宅需要が全国規模で縮小
したことが背景。
概況
<市場金利>
11月の銀行間貸出金利(加重平均)は2.82%と頭
打ちに。中国人民銀行は公開市場操作の適用金利引
き下げに加え、主要銀行と農村商業銀行等を対象に
資金を供給。11月には政策金利の引き下げを実施。
消費
投資
物価
住宅の販売価格、販売床面積
CPI(前年比)
(%)
3.4
3.2
(2010年12月=100)
(2010年=100)
114
160
主要70都市の新築住宅価格(右目盛)
3.0
150
2.8
112
分譲住宅販売床面積(季調値)
110
140
2.6
108
2.4
130
106
2.2
120
104
1.8
110
102
1.6
100
2.0
100
98
1.4
90
1.2
もっとも、2014年春頃から地方政府は住宅購入規
制の緩和を開始。9月には中国人民銀行が住宅ロー
ンの規制緩和を発表。こうしたなか、11月の住宅販
売床面積は直近ボトムの7月対比24.0%増加し、住
宅需要に持ち直しの動き。住宅価格は住宅販売に半
年から1年程度遅れて変動することを踏まえると、
2015年半ば頃までに住宅価格が底入れする見通し。
輸出入
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
2013
14
(年/月)
(資料)国家統計局
96
80
2010
94
2011
12
13
14
(年/月)
(資料)国家統計局、ロイター社の算出値を基に日本総研作成
銀行間貸出金利(加重平均)
人民元レート
<人民元レートの推移>
(元/ドル)
(%)
7
6.9
6.8
6
6.7
5
6.6
4
6.5
元高
6.4
<人民元レート>
足許では元安が進展。この背景には、中国の利下
げ観測や新興国からの資金流出観測の強まりが指摘
可能。ただし、中国では貿易黒字が続いており、か
つ、当局は原則的にクロスカントリーの資本取引を
制限しているため、人民元レートの下落幅は他の新
興国に比べて限定的。
3
6.3
2
6.2
6.1
1
6.0
0
2005 06
10
07
08
09
(資料)中国人民銀行
10
11
12
13
14
(年/月)
11
12
(資料)Datastream
(注)トムソン・ロイター社調べ。
13
14
(年/月/日)
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2015年1月
-5-