中 国 経 済 展 望 2016年9月 調査部 マクロ経済研究センター http://www.jri.co.jp/report/medium/publication/china/ ◆本資料は2016年8月29日時点で利用可能な情報をもとに作成 ◆本資料に関するご照会先 調査部 関辰一 (Tel:03-6833-6157 Mail:[email protected]) 景気は減速、遼寧省はマイナス成長に ◆現状:景気は減速基調 中国景気は、減速が持続。固定資産投資は増勢鈍化 に歯止めがかからず。内訳をみると、1~7月の民間 固定資産投資が前年同期比2.1%増と、2015年の前年 比10.1%増から大幅鈍化。実質小売売上高も減速傾 向。輸出は前年割れが持続。 地域別にみると、2016年入り後、31省・市・自治区 のうち25地域の実質成長率が低下。 とりわけ、遼寧、青海、北京では1~6月の民間投 資が前年比でそれぞれ▲59.9%、▲13.8、▲10.4%の 大幅減少。遼寧は固定資産投資全体がマイナスに。他 方、青海と北京は公共投資の拡大によって、落ち込み を回避している形。 ◆展望:景気は一段と減速 先行き、企業がバランスシート調整を余儀なくされ るもとで、民間投資は一段とスローダウンするもの の、公共投資が景気・雇用を下支えするなか、経済成 長率の低下はマイルドなものにとどまる見通し。2016 年の経済成長率は+6.6%、2017年は+6.5%と予想。 ただし、企業債務の過剰感が強いなか、不良債権が 急増しており、先行き金融機関の破綻や政府によるミ スハンドリングが金融システムの不安定化に繋がるリ スクには警戒が必要。すでに一部の中小金融機関は債 務超過に陥り、取り付け騒ぎも散見される状況。 概説 輸出 固定資産投資(年初累計) 実質小売売上高(CPIで実質化、右目盛) (%) (%) 14 20 13 0 12 ▲ 10 11 ▲ 20 20 10 固定資産投資 民間固定資産投資 ▲ 40 ▲ 50 8 ▲ 60 遼寧 7 ▲ 10 13 14 物価 ▲ 30 9 0 12 投資 10 10 2011 消費 2016年1~6月の固定資産投資(前年比) 主要統計(前年比) (%) 30 輸出入 15 青海 北京 全国 16 (資料)各地域および全国の固定資産投資は、国家統計局「分地 区固定資産投資(除く農村家計)完成額」、各地域の民間 固定資産投資はそれぞれ遼寧省発展改革委員会・青海 統計信息网・北京市統計局、全国の民間固定資産投資は 国家統計局「民間固定資産投資」 (年/期) (資料)海関総署「貿易統計」、国家統計局「社会消費品零售総額」 「居民消費价格」「全国固定資産投資」を基に日本総研作成 (注)直近値は2016年7月の値。 地域別実質GDP成長率(前年比) (%) 12 2015年 東部(沿海部) 10 2016年1~6月 西部(内陸部) 中部(内陸部) 8 6 4 0 雲南 内モンゴル 広西チワン 陜西 甘粛 四川 新疆 寧夏 青海 チベット 貴州 重慶 安徽 江西 河南 湖北 湖南 吉林 山西 黒龍江 河北 遼寧 上海 山東 北京 浙江 広東 海南 江蘇 ▲2 天津 このほか、4~6月期の求人数は6四半期連続で減 少するなど、雇用調整の動きが続くなか、先行き、所 得の伸びが鈍化し、個人消費が冷え込む恐れも。 2 福建 また、人民元レートが大幅に減価するリスクも。債 務超過に陥る金融機関が増加すれば、非居住者のリス ク回避姿勢が強まり、中国から資金を引き揚げる動き が再拡大する可能性。 (資料)国家統計局「地区生産総値」 (株)日本総合研究所 中国経済展望 2016年9月 -1- 機械類の輸入減少が顕著 ◆輸出:減少 輸出額は人件費などコスト上昇による中国製品の 輸出競争力の低下に加え、輸出先の景気減速を受け て、減少傾向。 概説 地域別輸出額(季調値、米ドルベース) (2012年 =100) 140 不安定な資源価格や米国の利上げ懸念など、世界 経済の先行きが不透明ななか、輸出に景気の牽引役 を期待することは困難。 130 ◆輸入:減少 輸入額は内需の弱まりなどにより減少。品目別に みると、機械類の輸入減少が顕著。 100 世界 <100> EU <16> BRIS <6> 米国 <18> アジア <25> ◆対中直接投資:伸び悩み 1~7月の対中直接投資は前年同期比4.3%増と伸 び悩み。人件費の上昇や内需拡大ペースの鈍化が背 景として指摘可能。業種別にみると、サービス業は 同7.7%増、製造業は同▲5.2%の減少。 ◆対外直接投資:大幅に増加 1~7月の対外直接投資は前年同期比61.8%増と 大幅に増加。この背景には、国内の期待投資収益率 の低下、海外の技術やブランドの獲得を強化する動 き、人民元の先安観の強まりなどが指摘可能。地域 別にみると、米国向けは3.1倍、ドイツ向けは3.0 倍、オーストラリアは1.7倍と大幅に増加。 対外直接投資の大半はM&A。1~7月のM&A は総額543億ドルと対外直接投資全体の52.8%に。情 報通信や製造業、電力・ガス・水道などの分野で企 業買収が増加。 消費 投資 物価 地域別輸入額(季調値、米ドルベース) (2012年 =100) 150 140 世界 <100> EU <12> 日本 <9> NIEs+ASEAN <31> 資源国 <11> 米国 <9> 130 120 120 110 110 100 90 80 90 70 80 先行き、設備投資のスローダウンを受けて、機械 類を中心に輸入減少が続く見込み。企業のバランス シート調整圧力は大きく、輸入の低迷は長期化する 見通し。 輸出入 60 70 2012 13 14 15 16 (資料)海関総署「貿易統計」を基に日本総研作成 (年/月) (注1)<>は2015年のシェア。 (注2)BRISはブラジル、ロシア、インド、南アフリカ。 50 2012 13 14 15 16 (年/月) (資料)海関総署「貿易統計」を基に日本総研作成 (注1)<>は2015年のシェア。 (注2)資源国はオーストラリア、ブラジル、ロシア、南アフリカ。 機械類の輸入額(季調値、米ドルベース) 機械類 (2012年=100) 140 対外直接投資 (億ドル) 2,000 1,800 120 1,600 100 1,400 1,200 80 1,000 800 60 600 40 400 200 20 0 0 200102 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年/月) (資料)海関総署「貿易統計」を基に日本総研作成 2008 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (資料)商務部「商務運行総体情況」 (注)2016年の値は、2016年1~7月のペースで投資が伸びると 仮定した試算値。 (株)日本総合研究所 中国経済展望 2016年9月 -2- 雇用調整の動きが持続 ◆個人消費:増勢は鈍化 2016年1~7月の実質小売売上高は前年同期比 8.2%増と、2015年通年の前年比9.3%増から▲1.1% ポイント低下。とりわけ、スマートフォンなど通信 機械の販売額が大きく鈍化。また、映画興行収入の 増勢鈍化も顕著。 この背景に所得の増勢鈍化。1~6月の全国1人 当たり実質可処分所得は前年同期比6.5%増と、2015 年通年の同7.4%増から減速。 雇用情勢も悪化。国有企業の倒産が発生し、大手 民間企業でも中途採用の凍結や新卒採用の大幅縮小 がみられるなど、雇用調整の動きが持続。4~6月 期の求人数は前年同期比▲9.5%。非製造業PMI就 業人員は増減の分かれ目となる50を下回り、製造業 のみならずサービス業の労働需要も縮小。 ◆南京市などは不動産政策を引き締め 7月の住宅販売床面積(季調値)は前月から小幅 に増加し、2015年末より32.2%高い水準。主要70都 市のうち51都市で住宅価格が上昇。 前年同月と比べると、沿海大都市の深センが+ 41.4%、上海+33.1%、北京+22.7%と、いずれも 2ケタ上昇。このほか、南京+34.9%、合肥+ 34.0%、武漢+15.8%と、一部の内陸都市でも10% を上回る上昇。 3月から、深セン、上海、南京などが住宅価格抑 制策を導入しているものの、各地の住宅価格は依然 として上昇。 こうしたなか、8月11日に南京市政府は、セカン ドハウスの住宅ローン頭金比率を引き上げ。同日、 主要70都市に入っていない江蘇省蘇州市もセカンド ハウスの購入規制を厳格化。 概説 小売売上高(前年比) 名目ベース 15 実質ベース 13 12 11 10 8 7 2012 13 14 15 16 (年/月) (資料)国家統計局「社会消費品零售総額」 (注)CPI上昇率で実質化、1月と2月は1~2月の合計。 52 0 50 ▲5 48 ▲ 10 46 ▲ 15 44 42 16 (年/月) (資料)国家統計局「非製造業商務活動指数」、中国人力資源市場 信息監測中心「部分都市公共就業服務機構市場供求状況 分析」 (注)非製造業PMI就業人員指数は 「就業人員が先月から増加」-「減少」+50、調査対象は全国 4,000社。 頭金比率引き上げ(全国) 頭金比率引き下げ(全国) 13 14 15 新築分譲住宅販売価格の推移 都市別新築分譲住宅の平均販売価格 住宅販売と価格上昇都市数 前月比価格上昇の都市数(右目盛) 分譲住宅販売床面積(季調値) (%) 54 5 住宅販売と価格上昇都市数 (都市) 70 60 50 140 物価 非製造業PMI就業人員指数(右目盛) ▲ 20 2012 9 160 投資 都市部の求人数(前年比) (%) 10 14 180 消費 求人数と非製造業PMI就業人員指数 (%) 16 (2010年 =100) 輸出入 40 (2006年1月=100) 260 240 南京 220 上海 200 深セン 180 160 120 30 100 20 80 10 60 0 2012 13 14 15 16 (資料)国家統計局「全国房地産開発投資和銷售 (年/月) 状況」、「70大中城市住宅銷售价格変動状況」 (注)日本総研が住宅販売床面積を季節調整。 140 120 100 80 2006 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年/月) (資料)国家統計局「70大中城市住宅銷售价格変動状況」 (株)日本総合研究所 中国経済展望 2016年9月 -3- 公共投資が地方経済を下支え ◆固定資産投資:減速傾向 1~7月の固定資産投資は前年同期比8.1%増。伸 び率は1~6月から▲0.9%ポイント低下。内訳をみ ると、民間固定資産投資は同2.1%増と、減速に歯止 めがかからず。他方、インフラ投資は同19.6%増 と、公共部門の高い伸びが持続。 概況 固定資産投資の内訳(年初累計、前年比) 投資 物価 (兆元) 2.5 民間固定資産投資<28> 30 消費 社会融資総量(フロー、季調値) 固定資産投資<43> (%) 輸出入 インフラ投資(除く電力)<8> 25 2.0 20 地域別にみると、遼寧では投資全体が大幅に減少 しているものの、それ以外の地域では、公共投資の 拡大が地方経済を下支え。民間固定資産投資の状況 を発表している地域は限られているが、少なくとも 青海、北京、湖北、山東、河南、安徽の1~6月の 固定資産投資は民間投資を大きく上回る伸び率と なっており、各地において公共投資が大幅に拡大し ていることを示唆。 遼寧で深刻な調整がみられる背景には、遼寧省政 府の財政資金不足が指摘可能。加えて、中央政府が 過剰債務・過剰設備の圧縮に向け、重工業を中心と した遼寧省経済の調整を黙認している可能性も。こ のほか、李克強首相が遼寧省の党委員会書記を務め ていたという政治的要因があるとの見方も。 北京では民間情報通信業の固定資産投資が同 ▲28.6%、民間製造業が同▲11.3%、民間不動産業 が同▲7.3%減少。これらの業種は、過剰債務・過剰 設備の調整期に入ったと判断可能。なお、青海はチ ベットの東部に位置し、山岳地帯で少数民族が多 く、羊毛や観光資源を生かした産業が活発。 10 1.0 5 0 4 6 8 10 12 2 4 6 2014 8 10 12 2 4 0.5 6 16 (年/月) (資料)国家統計局「全国固定資産投資」「民間固定資産投資」 (注)<>はGDPに占めるおおよその割合、重複計上あり。国家 統計局は2014年4月からインフラ投資(除く電力)のデータ 発表を開始。 15 0.0 2006 07 08 09 10 11 12 13 14 (資料)中国人民銀行「社会融資規模増量」 (注)日本総研が季節調整。 15 16 (年/月) 地域別固定資産投資(前年比) (%) 30 20 10 0 ▲ 10 東部(沿海部) 中部(内陸部) ▲ 20 西部(内陸部) ▲ 30 2015年 ▲ 40 2016年1~6月 ▲ 50 新疆 青海 陜西 重慶 四川 広西チワン 甘粛 内モンゴル 寧夏 チベット 雲南 貴州 湖南 湖北 江西 河南 山西 安徽 吉林 黒龍江 遼寧 上海 北京 海南 山東 江蘇 河北 天津 浙江 福建 ▲ 60 広東 ◆社会融資総量の増勢が鈍化 2016年半ばから、銀行のオフバランス融資を含む 社会融資総量の増勢鈍化が鮮明化。この背景には企 業の資金需要の弱まり。このほか、5月9日付の人 民日報1面で権威筋が金融緩和に懸念を示したこと が影響しているとの見方や、貸し渋り・貸し剥がし が発生しているとの見方も。 1.5 15 (資料)国家統計局「分地区固定資産投資(不含農戸)完成額」 (株)日本総合研究所 中国経済展望 2016年9月 -4- 資金流出が再拡大する恐れも ◆物価:低い伸び 7月のCPI上昇率は前年同月比+1.8%と6月か ら▲0.1%ポイント低下。内需が弱まるなか、インフ レ率は低い伸びが持続。7月のPPI上昇率は同 ▲1.7%と下落幅が縮小。これまで、多くの企業が原 価割れ価格で出荷を行ってきたが、足許では減産や 公共投資の拡大などにより、市況に持ち直しの動 き。ただし、需給ギャップの早期解消が見込めない なか、物価は一進一退で推移する見通し。 ◆人民元レート:元安進展 人民元の対米ドルレートは2015年に4.7%と大幅に 減価。2016年入り後も元安・ドル高が進み、8月26 日時点で前年末対比2.7%減価。対円レートはそれぞ れ3.8%、18.9%と、2016年入り後の減価が顕著。 2015年、極めて大規模な資金流出が発生。具体的 には、第2次産業の生産活動に急ブレーキがかかる など、中国経済の先行き不透明感が強まり、非居住 者が資金を中国から引き揚げたことから、対内現・ 預金投資が大幅な資金流出超に。また、元の先安観 が強まるなか、中国企業が外貨建て債務の返済を進 めたため、対内貸付(対外借入)も例年にない規模 の資金流出超に。 2016年入り後、公共投資の拡大を受けて、中国経 済の底入れ期待が台頭し、工業製品価格にも持ち直 しの動き。この結果、非居住者による資金の引き揚 げの動きは一服。他方、中国企業による外貨建て債 務返済の動きは持続。 概況 CPIとPPI(前年比) 消費 投資 物価 人民元レート (%) 12 消費者物価 10 工業生産者出荷価格 (元/米ドル) 6.7 対米ドルレート 6 4 2 0 ▲2 ▲4 (円/元) 14 元安 対円レート(右逆目盛) 6.6 8 15 6.5 16 6.4 17 6.3 18 6.2 19 6.1 20 ▲6 ▲8 ▲ 10 2007 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年/月) (資料)国家統計局「居民消費价格」「工業生産者出荷价格」 6.0 21 2014 2015 (億ドル) 2,000 対内現・預金 「資金流入超」 (年/月/日) GDP成長率(前年比) (%) 25 実質GDP 対内貸付 1,500 1,000 2016 (資料)DataStream (注)トムソン・ロイター社調べ。 ●● 対内投資 第2次産業(名目) 20 第3次産業(名目) 500 15 0 ▲ 500 ▲ 1,000 先行き、緩やかな景気減速が続くなか、資金流出 は小幅にとどまり、緩やかな元安傾向が続く見通 し。ただし、債務超過に陥る金融機関が再び現れる など不測の事態が発生すれば、中国から資金を引き 揚げる動きが再び拡大に向かい、人民元レートが大 幅に減価するリスクは残存。 輸出入 10 「資金流出超」 ▲ 1,500 5 ▲ 2,000 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (資料)国家外為管理局「国際収支統計」 (注)直近値は2016年1~3月期の値。 0 2008 09 10 11 12 13 14 15 16 (年/期) (資料)国家統計局「国民経済計算」 (株)日本総合研究所 中国経済展望 2016年9月 -5-
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