中 国 経 済 展 望

中 国 経 済 展 望
2017年2月
調査部 マクロ経済研究センター
http://www.jri.co.jp/report/medium/publication/china/
◆本資料は2017年1月30日時点で利用可能な情報をもとに作成
◆本資料に関するご照会先
調査部 関辰一 (Tel:03-6833-6157 Mail:[email protected])
概説:景気減速の動きが一服
◆現状:景気減速は一服
10~12月期の実質成長率は前年同期比+6.8%
と、前の期から0.1%ポイント上昇。景気てこ入
れ策が打ち出されるなか、景気減速の動きが一
服。とりわけ、公共部門の投資拡大、不動産開
発投資の加速、自動車販売の拡大が景気を下支
え。
もっとも、2016年通年の実質成長率は前年比
+6.7%と、2015年の同+6.9%増から低下。
固定資産投資(年初累計、前年比)
実質GDP成長率(前年比)
民間固定資産投資<28>
(%)
13
国有企業(含む政府機関)の固定資産投資<14>
(%)
インフラ投資(除く電力)<8>
30
12
不動産開発投資<8>
見通し
11
25
20
10
15
9
10
8
5
0
7
4
6
8 10 12 2
4
2014
6
2008 09
10
11
12
13
14
15
16
17
18
(年/期)
(資料)国家統計局「国民経済計算」を基に日本総研作成
8 10 12 2
4
15
6
8 10 12
16
小売売上高(前年比)
自動車販売台数(前年比)
(%)
100
6
(年/月)
(資料)国家統計局「民間固定資産投資」
「全国固定資産投資」「全国房地産開発投資和銷售情况」
(注)<>はGDPに占めるシェア、重複計上あり。
(%)
2014年
2015年
2016年
35
5.0%の期間
30
80
※小型車の取得税
税率は通常10.0%
25
20
60
15
10
7.5%の期間
40
5
11
12
13
14
15
16
17
(年/月)
衣料品
10
(資料)中国汽車工業協会「汽車工業経済運行情況」
を基に日本総研作成
家電
▲ 20
2008 09
通信機械
0
小売売上高
0
20
実質小売売上高
◆展望:景気は再減速
今後を展望すると、企業部門の構造調整が景
気の足枷になる見通し。過剰債務・過剰設備を
抱える状況下、企業の債務削減姿勢が長期化
し、民間固定資産投資の景気牽引力は一段と低
下すると予想。
企業部門の構造調整は、個人消費抑制にも作
用。バランスシート調整に苦しむ企業が人件費
抑制に動いていることで、実質所得の伸び率は
低下。雇用に対する将来不安と所得の伸び鈍化
を背景に、先行きも消費の減速基調が続く見込
み。
さらに、家計支援策による景気押し上げ効果
も減退する公算。自動車販売は小型車減税措置
の縮小を受けて、伸びが低下する見込み。不動
産開発投資も住宅需要が価格抑制策を受けて頭
打ちとなるなか、増勢が鈍化する見通し。
もっとも、景気失速は回避されると判断。
2016年12月に開かれた中央経済工作会議では、
2017年にさらなる「積極的な財政政策」を採る
と決定するなど、政府は景気を下支えする姿勢
を明確化。中国人民銀行も、企業破綻への警戒
感から、過度の金融引き締めは行わない構え。
これらの結果、2017年の実質成長率は6.5%、
2018年は6.4%と、小幅な減速にとどまると予
想。
中国
名目ベース
(資料)国家統計局「社会消費品零售総額」「居民消費价格」
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2017年2月
-1-
輸出入:輸出に下げ止まりの兆し
◆輸出:下げ止まりの兆し
2016年の輸出額は前年比▲6.4%と、2年連続
で減少。とりわけ、ブラジル向けが同▲19.2%
となるなど、資源国・新興国向けが大幅に減
少。米国、日本、EU向けもそれぞれ▲5.1%、
▲4.7%、▲3.7と減少。
もっとも、月次の輸出額(季調値)は12月ま
で3カ月連続で増加し、下げ止まりの兆し。と
りわけ、米国向けの回復が鮮明。良好な雇用・
所得環境を背景に、米国経済の成長ペースが加
速していることが主因。
先行き、輸出は米国向けを中心に増加に転じ
る見通し。米国では、家計部門、企業部門の持
ち直しにより、自律回復に向けた動きがみられ
るほか、トランプ新政権が掲げる積極的な財政
政策も成長ペースの高まりに繋がる見通し。足
許の輸出向け新規受注も改善傾向。
他方、不安定さが残る資源価格や世界的な保
護貿易ムードの強まりが懸念されるなか、輸出
の下振れリスクは払拭できない状況。とりわ
け、トランプ新政権による米通商政策の行方が
最大のリスク要因。
◆輸入:下げ止まりの兆し
2016年の輸入額は前年比▲5.4%と、2年連続
で減少。ただし、ここ3カ月は増加しており、
下げ止まりの兆し。輸入価格が上昇したほか、
輸入数量も総じて増加。
中国
地域別輸出額(季調値、米ドルベース)
(2012年
=100)
140
世界 <100>
EU <16>
BRIS <6>
米国 <18>
アジア <25>
(ポイント)
53
52
130
51
120
50
110
100
49
90
48
80
47
70
2012
13
14
15
16
(資料)海関総署「貿易統計」を基に日本総研作成 (年/月)
(注1)<>は2016年のシェア。
(注2)BRISはブラジル、ロシア、インド、南アフリカ。
地域別輸入額(季調値、米ドルベース)
(2012年
=100)
150
140
世界 <100>
EU <13>
日本 <9>
NIEs+ASEAN <32>
資源国 <11>
米国 <9>
46
2012
13
14
15
16
(年/月)
(資料)国家統計局、物流購買連合会
(注)日本総研が季節調整。
対外直接投資(前年比、米ドルベース)
(%)
60
50
130
40
120
110
30
100
◆対外直接投資:大幅に増加
2016年1~11月の対外直接投資は前年比
55.3%の大幅増加。国内期待投資収益率の低下
や対外投資に際しての行政手続きの簡素化など
が背景。もっとも、昨年後半から当局は資本規
制の強化に向け、海外投資の事前審査を求め始
めたことを踏まえれば、今後、対外投資の増加
ペースにブレーキがかかる可能性。
製造業PMI輸出向け新規受注指数(季調値)
90
20
80
70
10
60
50
2012
13
14
15
16
(資料)海関総署「貿易統計」を基に日本総研作成 (年/月)
(注1)< >は2016年のシェア。
(注2)資源国はオーストラリア、ブラジル、ロシア、南アフリカ。
0
2009
10
11
12
13
(資料)商務部「商務運行総体情況」
(注)直近値は2016年1~11月の値。
14
15
16
(年)
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2017年2月
-2-
消費:上場小売企業の6割は売上高が前年割れ
◆個人消費:増勢は鈍化
実質小売売上高の伸び率は低下基調。2016年
通年では前年比8.4%増と、2015年の同9.3%増
から▲0.9%ポイント低下。品目別にみると、自
動車販売は好調ながら、通信機械、家電、衣料
品などが不調。
チャネル別にみると、インターネット販売は
割安さなどが評価されて、2016年の売上高が同
25.6%と高い伸びを維持。金額でみると、4兆
1,944億元と名目小売売上高全体の12.6%を占め
る状況。他方、店舗販売の厳しい状況を反映し
て、上場小売企業の6割は売上高が前年から減
少。百貨店大手の上海百聯集団や王府井集団な
ど3年連続で減収となる企業も。
この背景には、企業部門の構造調整による雇
用所得環境の悪化。10~12月期の求人数は前年
同期比▲4.0%と8四半期連続で減少。雇用環境
が悪化するなか、2016年の一人当たり実質可処
分所得の伸び率は前年比6.3%増と、2015年の同
7.4%増から減速。これらは、ネット販売の追い
風となるも、店舗販売には逆風に。
◆正念場を迎える成長モデルの転換
分配面に着目すると、一人当たり可処分所得
の伸び率が同GDPの伸び率に近い水準へ低下
しており、労働分配率の上昇がストップしつつ
ある状況。成長率が鈍化傾向をたどるなか、過
剰債務などバランスシート調整に苦しむ企業
が、人件費抑制に動いている模様。
中国では、GDPに占める固定資本形成の比
率を引き下げる一方、個人消費の比率を引き上
げることで成長モデルを消費主導へ切り替えて
いくことが、中長期的に目指す構造改革の方向
性。ところが、所得環境が悪化すれば、「投資
から消費へ」の動きが頓挫し、持続可能な成長
モデルに移行できない恐れがあり、中長期的観
点からも正念場を迎えている状況。
中国
小売売上高(前年比)
売上高が前年割れの小売企業の割合
(%)
16
名目ベース
70
15
実質ベース
60
(%)
14
50
13
40
30
12
20
11
10
10
0
2008
9
8
7
2012
13
14
15
16
(年/月)
(資料)国家統計局「社会消費品零售総額」
(注)CPI上昇率で実質化、1月と2月は1~2月の合計。
16
(年)
(資料)各社の年報、Wind Databaseを基に日本総研作成
(注1)株式上場している小売企業67社のデータ。
(注2)直近値は2016年1~6月の値。
(注3)倹約令の発表は2012年11月。
実質可処分所得と実質GDP
(%)
9.0
(年初累計、前年比)
09
10
11
12
13
14
15
固定資本形成と個人消費の対GDP比
(%)
60
8.5
50
8.0
40
7.5
7.0
30
6.5
固定資本形成
20
6.0
一人当たり実質可処分所得の伸び率
5.5
一人当たり実質GDP成長率
個人消費
10
5.0
2014
15
16
(年/期)
(資料)国家統計局「全国居民人均可支配収入」「国民経済計算」
を基に日本総研作成
0
80
85
90
95
00
(資料)国家統計局「国民経済計算」
05
10
15
(年)
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2017年2月
-3-
投資:不動産開発投資の増勢は鈍化する見通し
◆現状:減速傾向
2016年の固定資産投資は前年比8.1%増。伸び
率は2015年から▲1.9%ポイント低下。とりわ
け、民間固定資産投資は同3.2%増と、昨年から
▲6.9%ポイント低下し、大きくスローダウン。
この背景として、過剰設備・過剰債務を抱え
る状況の中で企業が新たな投資に慎重になった
ことが指摘可能。実際、2014年11月以降に政策
金利が計6回引き下げられたものの、企業の資
金需要DIが持ち直す動きは見られず。
今後を展望すると、企業債務の対GDP比が
日本のバブル期を上回り、元利支払い負担、バ
ランスシート調整圧力が大きいため、企業の債
務削減姿勢は簡単には解消しない見込み。企業
は引き続き借入拡大に慎重になる見通しで、当
面は民間投資の力強い回復は期待薄。
不動産開発投資は前年比6.9%増と、2015年の
伸び率から5.9%ポイント上昇。2014年11月以降
の利下げを受けて、住宅販売が拡大したことが
背景。2016年の住宅販売床面積は同22.4%増
と、伸び率は2015年から15.5%ポイント上昇。
もっとも、緩和マネーが流入するなか、沿海
大都市の北京や上海、深センのみならず、合肥
や南京などの内陸都市においても、住宅価格が
前年比3割超上昇し、不動産市場は過熱化。
こうしたなか、2016年9月30日から10月9日
の間に北京や上海をはじめとする計20都市にお
いて、ローンの頭金比率引き上げ等の住宅価格
抑制策を発表。その結果、11月の住宅販売床面
積(季調値)が前月比▲15.8%減少。
同様の抑制策が打ち出された2013年のケース
をみても、同年11月に多くの都市が頭金比率引
き上げ等を発表した後、ほどなくして住宅需要
が減少し、不動産開発投資はスローダウン。今
回も、先行きの住宅販売は頭打ちとなり、不動
産開発投資の増勢が鈍化する見通し。
中国
固定資産投資(年初累計、前年比)
固定資産投資(年初累計、前年比)
(%)
企業の資金需要と政策金利
企業の資金需要と政策金利
35
全体<43>
(%ポイント)
90
30
民間固定資産投資<28>
85
企業の資金需要DI(季調値)
貸出基準金利(1年物、右目盛)
(%)
8.0
7.5
7.0
25
80
20
75
6.0
15
70
5.5
10
65
5
60
6.5
5.0
「増加」
4.5
4.0
「減少」
55
0
2012
13
14
15
16
(年/月)
(資料)国家統計局「全国固定資産投資」「民間固定資産投資」
(注)<>はGDPに占めるおおよそのシェア。
3.5
2008
09
10
11
12
13
14
15
16
(年/月)
(資料)中国人民銀行「銀行家問巻調査報告」
(注)資金需要DIは「資金需要増加」-「減少」+50、調査対象は
全国約3,100の銀行、日本総研が季節調整。
住宅販売と価格上昇都市数
不動産開発投資(年初累計、前年比)
前月比価格上昇の都市数(右目盛)
(%)
30
(2010年
=100)
200
25
180
20
160
15
分譲住宅販売床面積(季調値)
多くの都市で頭金比率引き上げ
(都市)
70
60
50
40
140
30
10
120
5
0
2012
100
13
14
15
16
(年/月)
(資料)国家統計局「全国房地産開発投資和銷售情况」
(注)名目GDPの約8%は不動産開発投資。
20
10
80
0
2012
13
14
15
16
(資料)国家統計局「全国房地産開発投資和銷售 (年/月)
情況」、「70大中城市住宅銷售价格変動情況」
(注)日本総研が住宅販売床面積を季節調整。
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2017年2月
-4-
物価:PPIの上昇ペースが加速
◆物価:インフレ率は低水準で推移
2016年のCPIは前年比+2.0%と、政府目標
の+3.0%を下回る水準。12月のCPIは前年同
月比+2.1%と、11月の+2.3%から低下。イン
フレ率は弱い内需を受けて、低水準で推移。
2016年のPPIは前年比▲1.4%と、5年連続
の下落。月次では上昇に転じており、12月には
前年同月比+5.5%と上昇ペースが加速。この背
景には、公共投資の拡大に伴う建設資材価格の
上昇、輸入価格の上昇といった実体経済面の要
因に加え、緩和マネーによる鉱物資源など商品
市況に対する投機的動きが指摘可能。
当局は2014年11月以降、政策金利を6回、預
金準備率を5回引き下げたほか、インターバン
ク市場で積極的に資金を供給。投資抑制姿勢か
ら民間企業の資金需要が減退するなか、緩和マ
ネーが住宅市場に流入。もっとも、2016年10月
に住宅価格抑制策が約20都市で打ち出されたこ
とを受けて、余剰資金は住宅市場から商品市場
に移動。この結果、商品市況に上昇圧力。
中国
CPIとPPI(前年比)
品目別卸売価格
(%)
12
消費者物価(CPI)
10
工業生産者出荷価格(PPI)
(2010年1月
=100)
160
(36都市平均)
ポリプロピレン
鋼材(線材)
8
140
銅
6
120
4
2
100
0
80
▲2
▲4
60
▲6
▲8
▲ 10
2007 08
40
07
09
10
11
12
13
14
08
09
10
11
12
13
14
15
15
16
(年/月)
16
(年/月)
(資料)国家統計局「居民消費价格」「工業生産者出荷价格」
(資料)国家発展改革委員会「36个大中城市工業生産資料价格」
を基に日本総研作成
新築住宅販売価格
●●
人民元レート
人民元の対円レート
●●
◆不動産価格:価格上昇に歯止めの兆し
12月の70都市の新築住宅価格は前月比+0.3%
と、上昇率は10月の+0.6%から低下。70主要都
市のうち住宅価格が前月から上昇した都市数は
11月から9都市減り、46都市に。北京、上海、
深センの住宅価格はいずれも小幅に下落。
(2012年1月=100)
(2012年1月=100)
240
128
主要70都市の新築住宅価格(右目盛)
北京
220
124
上海
200
120
深セン
180
116
◆人民元レート:円に対して増価
2015年6月に1元=20.2円をつけてから、
2016年7月には1元=15.0円と、中国からの資
金流出が続いたため、元安円高が進展。もっと
も、資本規制の強化や公共投資の拡大などを背
景に、2017年1月26日時点では1元=16.6円
と、元高円安に。これは春節休み(1月27日~
2月2日)における訪日中国人の消費拡大の追
い風。
160
112
140
108
120
104
100
100
12
96
11
(円/元)
21
20
19
18
17
16
元安
15
14
80
2012
13
14
15
16
(年/月)
(資料)国家統計局「70大中城市住宅銷售价格変動情況」、
Thomson Reutersを基に日本総研作成
13
10
11
12
13
(資料)Datastream
(注)トムソン・ロイター社調べ。
14
15
16
17
(年/月/日)
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2017年2月
-5-