7%台の成長となる中国経済

中 国 経 済 展 望
2015年3月
調査部 マクロ経済研究センター
http://www.jri.co.jp/report/medium/publication/china/
◆本資料は2015年2月25日時点で利用可能な情報をもとに作成
◆本資料に関するご照会先
調査部 関辰一 (Tel:03-6833-6157 Mail:[email protected])
リスクを孕みつつ、7%台の成長となる中国経済
景気は減速。消費は堅調さを維持し、輸出は緩やか
に拡大している一方、固定資産投資の増勢鈍化に歯止
めがかからず。とりわけ、不動産開発投資のスローダ
ウンが顕著。
(%)
13
実質GDP(前年比)
(%ポイント)
70
企業の資金繰りDI(右目盛)
消費
投資
物価
(2013年末)
(%)
200
180.1
68
12
66
11
150
127.1
64
10
62
9
60
100
60.7
58
8
40.7
50
56
7
もっとも、成長率の低下ペースは当局の景気てこ入
れ策を受けて、緩やかなものになると予想。6%台の
成長率では、急進的なデレバレッジが発生し、景気失
速に繋がる恐れも。すでに、企業収益が悪化し、赤字
企業が急増。企業の資金繰りはリーマン・ショック時
より厳しい状況に陥り、企業間信用などではデフォル
トが多数発生。
これらの結果、銀行融資に底入れの動きがみられ、
株式市場も持ち直しの動き。住宅販売は昨夏をボトム
に前年対比の減少幅が縮小し、住宅価格の下落ペース
も鈍化。先行き、景気対策効果が一段と顕在化し、景
気失速は回避の公算。2015年の実質成長率は7.2%、
2016年は7.0%と予想。
輸出入
家計及び非金融企業債務の対GDP比
GDP成長率と資金繰りDI
先行き、経済成長率は低下トレンド。固定資本形成
比率(固定資本形成/GDP)が46%と高水準なほ
か、家計及び非金融企業債務は対GDP比180%と新
興国としては異例の高さに達するなか、過剰投資・過
剰債務の解消は不可避。固定資産投資は中長期にわた
り伸び悩む見通し。
こうしたなか、2014年春頃から、中央政府は地方政
府の住宅購入規制の緩和を黙認するなど、不動産市場
の底割れ回避に着手。加えて、インフラ投資を加速
し、景気をてこ入れ。さらに、企業の資金繰り難の緩
和に向け、資金供給を拡大。昨年9~10月に主要銀行
と農村商業銀行などに対して総額7,695億元の資金供
給を行ったうえで、11月に政策金利を引き下げ、2015
年2月には2年9カ月ぶりとなる預金準備率の引き下
げを実施。
概説
54
6
0
52
2008
09
10
11
12
13
14
(資料)国家統計局、中国人民銀行
(注)資金繰りDIは「資金繰り良い」-「悪い」+50。
調査対象は全国約5,900社の工業企業。
インドネ
インド
タイ
中国
シア
(資料)債務額はBISのtotal credit統計、名目GDPはCEICの
データを基に日本総研作成
(注)BISが家計及び非金融企業債務を公表している国のうち、
アジアにおける1人当たりGDPが1万ドル以下の国。
(年/期)
<金利、預金準備率の推移>
政策金利と預金準備率
貸出基準金利(1年物)
預金基準金利(1年物)
預金準備率(大手金融機関、右目盛)
(%)
7
銀行融資残高と社会融資総量
(%)
22
21
6
(%)
17
社会融資総量(右目盛)
銀行融資残高(前年比)
2.5
16
2.0
20
5
19
4
18
(兆元)
3.0
1.5
15
1.0
17
3
14
0.5
16
2
2010
11
12
(資料)中国人民銀行
13
14
15
15
(年/月)
13
2012
13
(資料)中国人民銀行
14
0.0
15
(年/月)
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2015年3月
-1-
輸出は緩やかな増加にとどまる見通し
<輸出>
1営業日あたりの輸出額に増勢鈍化の動き。もっ
とも、1営業日あたりの値でも例年1~2月に伸び
率が大きくブレる点を踏まえると、毎年春節の時期
や法定休日が違うことから生じる輸出額の偏りを十
分に除去できず、より精緻な基調判断をするには、
1~2月の合計をみることが必要。
先行き、輸出は緩やかな増加にとどまる見通し。
人件費の上昇などを背景に、中国製品の価格競争力
は低下の方向。世界経済は総じてみれば、緩やかな
回復基調をたどるとみられるものの、資源国の景気
減速やEUのデフレ懸念、米国の利上げなど世界経
済を取り巻く環境は不透明。
<輸入>
輸入は頭打ち。1営業日あたりの輸入額は3カ月
連続で前年を下回る水準。この背景には、輸入価格
の下落と内需の弱まりが指摘可能。1月の鉄鉱石の
入着価格は前年同月比▲45.3%、原油は同
▲41.4%、石炭は同▲18.2%下落。
今後、輸入は二極化する見通し。消費財の輸入は
所得水準の上昇を受けて伸びる一方、投資財と生産
財の輸入は過剰設備や過剰生産の解消に伴い、低迷
が長期化する見通し。
概説
輸出入
1営業日あたりの輸出額(前年比)
消費
投資
物価
平均賃金
(%)
100
(元/月)
5,000
4,290
80
4,000
60
3,000
40
2,060
20
2,000
0
1,000
▲ 20
▲ 40
2008
09
10
11
12
13
14
(資料)海関総署を基に日本総研作
0
15
(年/月)
2007年
2013年
(資料)国家統計局を基に日本総研作成
1営業日あたりの輸入額(前年比)
対中直接投資(年初累計、前年比)
(%)
100
(%)
40
80
30
60
<対中直接投資>
1月の米ドルベースの対中直接投資は前年同月比
29.4%増。地域別にみると、韓国、日本、ドイツ、
英国、スウェーデンなどからの投資額が増加し、台
湾や米国などからが減少。日本からは2014年に前年
比▲38.7%と大幅に減少したものの、2015年1月に
同3.2%増。
▲ 20
業種別にみると、サービス業は同45.1%増、製造
業は同13.9%増。
▲ 40
2008
20
40
20
10
0
0
09
10
11
12
(資料)海関総署を基に日本総研作成
13
14
15
(年/月)
▲ 10
2010
11
(資料)商務部
12
13
14
15
(年/月)
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2015年3月
-2-
2,500万台の大台にさしかかる中国自動車市場
<個人消費>
実質小売売上高は二桁の伸びを維持。主要小売企
業5,000社の1月の販売額をみると、スマートフォン
など通信機械は前年同月比16.2%増、家具販売は同
11.5%増と、それぞれ増加幅が2014年12月から
5.8%、2.9%ポイント拡大。家電販売も全体を上回
る伸び。
概説
小売売上高(前年比)
(%)
18
<自動車市場>
2014年の自動車販売台数は前年比6.9%増の2,349
万台。内訳をみると、乗用車は同9.9%増の1,970万
台。とりわけ、SUVは36.4%増の408万台、MPV
は46.8%増の191万台と高い伸び。他方、商用車は同
▲6.5%減の379万台。
2015年の中国自動車市場を展望すると、年前半は
住宅販売の持ち直しなどを受けて、比較的高い伸び
となる見通し。中国では、消費者が住宅と車をセッ
トで購入する傾向があるなか、住宅購入制限の撤廃
や住宅ローン規制の緩和など一連の不動産市場てこ
入れ策は、市場拡大の大きなプラス要因に。加え
て、昨年末頃の株価上昇やガソリン価格の下落、銀
行の預金準備率の低下で中小企業が商用車を買いや
すくなることもプラスに寄与。
投資
物価
60
(2010年
主要70都市の新築住宅価格(右目盛) 12月=100)
分譲住宅販売床面積(前年比)
114
50
112
40
110
(%)
名目ベース
実質ベース
16
30
108
20
106
10
12
104
0
10
▲ 10
102
▲ 20
100
▲ 30
98
15
(年/月)
(資料)住宅の販売床面積は国家統計局の月初累計値を基に日
本総研が月次値作成、新築住宅価格はロイター社の算出
値(出所は国家統計局)を基に日本総研作成
2012
8
2012
13
14
(資料)国家統計局を基に日本総研作成
(注)CPI上昇率で実質化。
(年/月)
(万台)
2500
合計
(%)
商用車
乗用車
50
14
(ポイント)
3,400
上海総合指数(月末値)
ガソリン価格(右目盛)
3,200
合計(前年比、右目盛)
40
2000
13
株価とガソリン価格
自動車販売台数
自動車販売台数の推移
1500
30
1000
20
8.5
2,600
8.0
7.5
2,200
7.0
2,000
1,800
6.5
15
(年/月)
(資料)上海証券取引所、国家発展改革委員会を基に日本総研
作成
(注)ガソリン価格は乗用車で多用される93号の平均小売価格。
2012
0
0
98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
(年)
(資料)中国汽車工業協会
9.5
9.0
2,400
10
(元/リットル)
3,000
2,800
500
もっとも、当局は不動産開発投資などの再過熱を
回避するために、年後半には再び抑制策を強化する
見込み。その結果、通年では5~8%の緩やかな伸
びに落ち着く見通し。
消費
住宅の販売価格、販売床面積
14
先行き、新型スマートフォン・タブレットの発売
による効果が剥落することにより、通信機械販売の
伸び率は低下すると見込まれるものの、住宅市場の
底入れに伴い家電や家具の販売は好調さを維持する
見通し。総じてみると、当局が構造調整と景気てこ
入れという二兎を追う政策を続けるなか、消費は足
許程度のペースで堅調に推移する公算。
輸出入
13
14
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2015年3月
-3-
急進的なデレバレッジに留意の要
当局による過剰投資・過剰債務の抑制スタンスを
背景に、固定資産投資は鈍化。とりわけ、不動産開
発投資のスローダウンが顕著。2013年2月から政府
がキャピタルゲイン課税の徴収強化や住宅購入制限
の強化など一連の価格抑制策を打ち出した結果、家
計の住宅価格上昇期待が弱まり、2014年入り後に住
宅需要は全国ベースで縮小。
また、製造業の設備投資は資金制約を受けて、増
勢が鈍化。従来、収益性の劣る企業に対しては地方
政府や地元の金融機関が資金面から支援。しかし、
昨年には李克強首相が一定のデフォルトを容認する
と発言。その結果、過剰生産に陥っているソーラー
パネル産業で、大手メーカーの社債がデフォルトと
なり、同社は倒産。資金の出し手に慎重化の動きが
みられ、債券市場において収益性の高い事業を持つ
企業とそうでない企業を選別するという市場の機能
が働き始めたことを示唆。
固定資本形成比率が46%、家計及び非金融企業債
務の対GDP比が180%という高水準にとどまるな
か、今後も、過剰投資・過剰債務の解消は不可避。
市場が政府に代わって有望な事業を選別し、資金配
分を決定するようになることで、鉄鋼業などの製造
業の設備投資は中長期にわたり伸び悩むと予想。
もっとも、成長率の7%割れにより、企業のデ
フォルトが続き、銀行オフバランス融資(いわゆる
シャドーバンキング)や直接金融が急速に細る恐れ
も。すでに、赤字企業が急増し、企業の資金繰りは
リーマンショック時より厳しい状況。
こうしたなか、政府は不動産市場てこ入れ策、イ
ンフラ投資の加速、資金供給の拡大を実施。今後、
景気てこ入れ策の効果が徐々に顕在化することによ
り、急進的なデレバレッジは回避される見通し。
概況
固定資産投資
輸出入
消費
銀行オンバランス融資
人民元融資
外貨融資
銀行オフバランス融資
委託融資
信託融資
銀行引受手形
直接金融
社債
株式市場
その他
合計
全体
不動産開発投資
製造業
26
24
22
20
18
16
14
12
10
2012
13
14
(年/月)
(資料)国家統計局
2005年
86.7
82.9
3.8
5.6
4.1
0.0
1.5
5.2
1.5
3.7
2.5
100.0
2014年
69.1
66.3
2.8
17.5
7.6
4.4
5.5
12.6
9.5
3.1
0.8
100.0
(資料)中国人民銀行「2014年社会融資規模存量統計数据
報告」を基に日本総研作成
(注)その他とは、金融機関の不動産投資、その他ノンバン
クローン。
企業の資金繰りDI
企業の資金繰りDI
鉱工業企業の赤字企業数
(%)
14
物価
社会融資総量の内訳(残高ベース、%)
(除く農村家計、年初累計、前年比)
(%)
28
投資
(年初累計、前年比)
(%ポイント)
68
66
12
64
10
62
8
60
6
58
56
4
54
2
52
0
2013
14
(資料)国家統計局
(年/月)
2008
09
10
11
12
13
14
(年/期)
(資料)中国人民銀行
(注)資金繰りDIは「資金繰り良い」-「悪い」+50。
調査対象は全国約5,900社の工業企業。
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2015年3月
-4-
春節休暇による需要拡大が物価を押し上げ
<物価>
1月のCPI上昇率は前年同月比+0.8%と2014年
12月から▲0.7%ポイント低下。主因は春節による季
節要因。中国では春節休暇中とその直前に、食料品
や衣料品などに対する需要が集中し、物価が高水準
になる傾向。実際、春節休暇初日に該当する月は、
2012年(1/22)、2013(2/9)、2014年(1/31)
ともに、高いCPI上昇率を記録。家族団らんの際
には食事が重視されており、とりわけ食料品価格の
上昇が顕著。2015年の春節休暇は2月18日スター
ト。1月の物価上昇率は前年同月の水準が高かった
ため、低水準に。
2月のCPI上昇率は春節休暇の需要拡大を受け
て、リバウンドする見通し。もっとも、先行きCP
I上昇率は輸入価格の下落や景気低迷を反映し、低
水準で推移する見通し。
概況
消費者物価の寄与度分解(前年比)
(%)
5
(2010年12月=100)
114
食料品
112
<市場金利>
銀行間貸出金利は3%前後を維持。12月の非金融
企業及びその他部門向け貸出金利(加重平均)は
6.77%と2014年初から▲0.42%ポイント低下。企業
収益の悪化を受けて、資金の出し手が慎重化する動
きがみられる一方、当局は金融機関への資金供給拡
大、政策金利と預金準備率の引き下げを実施。
<人民元レート>
足許では、人民元の対米ドルレートが下落。この
背景には、中国の利下げや対外直接投資の拡大、春
節休暇を利用した海外旅行の増加などが指摘可能。
投資
物価
110
108
3
106
104
2
102
100
1
98
2012
15
(年/月)
(資料)主要70都市の新築住宅価格はロイター社の算出値
(出所は国家統計局)を基に日本総研作成
0
2012
13
14
15
(年/月)
(資料)国家統計局を基に日本総研作成
<不動産価格>
2014年秋口から住宅価格の下落ペースは緩やかに
なりつつあり、今後、住宅需要の底入れを背景に、
価格下落に歯止めがかかる見通し。
消費
主要70都市の新築住宅価格
主要70都市の新築住宅価格(右目盛)
非食料品
消費者物価
4
輸出入
13
銀行間貸出金利(加重平均)
14
人民元レート
<人民元レートの推移>
(元/ドル)
(%)
7
6.9
6.8
6
6.7
5
6.6
4
6.5
元高
6.4
3
6.3
2
6.2
6.1
1
6.0
0
2005 06
10
07
08
09
(資料)中国人民銀行
10
11
12
13
14 15
(年/月)
11
12
(資料)Datastream
(注)トムソン・ロイター社調べ。
13
14
15
(年/月/日)
(株)日本総合研究所 中国経済展望 2015年3月
-5-