「平高の風 第39号」を掲載します。 - 島根県立平田高等学校

第39号
( H26.12.25 )
~
Hirakou
no
kaze
平高の風
島根県立平田高等学校
校長
長野
チャンスと機会
いつかの機会のための準備、その積み重ねが新しい機会を運んでくれる
博
~
昔、友人の結婚式に出た際の話である。新婦の上司の一人が「お二人の結婚に際し『HOPE』
という言葉を贈ります。」とスピーチされた。二人の行く手に希望あれということだが、その人は続
けて「Hは正直・誠実の Honesty であり…」と四つのアルファベットの意味を説明された。ちなみ
に「O」は Opportunity(機会)、「P」は Parents(両親)、「E」は Encouragement(励まし)だったと
記憶している。そして Opportunity については、「これは『機会』という意味だ。同じような意味だ
が、偶然性の強い Chance ではない。天からチャンスが降ってくるのを単に待つのではなく、来(き
た)るべき時に備えて前向きに準備を積み重ねることが大切だ。」と言われた。若かった私は、なん
とまあ上手く言うもんだと感心し、いつか使えると思って記憶の引き出しにしまった。
柔道部の佐々木君がアジアジュニア選手権で優勝した。彼が予定した今年の大会は 9 月の全日本
ジュニア体重別選手権が最後のはずだった。本戦準々決勝と敗者復活戦の 2 回戦に敗れたところで、
終わりのはずだった。それが 11 月になって、全日本柔道連盟からアジアジュニア選手権の出場要請
があった。彼は 9 月以降、怪我と戦いながらも練習に励んできた。大学で柔道を続けるという目標
があったとはいえ、高い意識を持ち続けながらの練習はなかなかできるものではない。
私も含めて、多くの人々は目の前にある目標に向かって努力をすることは得意だ。しかし、遠く
にある目標に向かっての努力は並大抵のことではない。また、何が目標かわからないまま、日々努
力を積み重ねているものも多くある。規則正しい生活をすることや、学校での勉強もそのような性
格を持ち合わせる。何かの機会が訪れたときに、それまで意識もしなかったような積み重ねが功を
奏したりすることは私でさえ何回か経験してきた。
話を変えよう。大学入試や就職試験で面接試験があれば、ほとんどの人が言葉遣いや身だしなみ
に気を配り、面接練習も十分に行って本番に臨む。「試験の時だけ良い格好して…」という意見もあ
るが、これを読んでいる皆さんはどう思われるだろうか。
私が小学生の頃の話だ。翌日、学校に偉い人が来られるとかで、その日は特に念入りに掃除をす
るように先生に言われた。私も友人も、「先生は偉い人にいいとこ見せようと思っちょるんだわ。」
と言い合った。教職に就いてからも、しばらくはそんな感覚を持っていた。しかし、数年で考え方
が変わった。
「偉い人」が来られるのに丁寧に掃除をしないことの方がおかしいと思うようになった。
すべき時にすべきことをしないことの方がよっぽどおかしいと思うようになったのである。面接練
習も、言葉遣いや身だしなみへの気配りも、試験があればするのが当然のことであり、しない方が
おかしい。ただ、もちろんそうであっても、望むべくは日頃からの準備だということは間違いない。
日常的なコミュニケーションの中で自己表現ができるようにしておいたり、言葉遣いや身だしなみ
を日頃から当たり前のように整えておくことが何より大事である。
その後もこの考え方は基本的に変わっていないが、40 歳をこえる頃から感じることがある。それ
は、日常的な準備は来るべき時のためだけではないということだ。その日常的な準備の積み重ねが
新しい機会を誘発してくれるのではないかと思うようになったということだ。
天から降ってくるチャンスはめったには無い。だからこそ真摯に準備しよう。きっとそれが新し
い機会を与えてくれる。ひょっとしたら天から降ってきたと思っているチャンスも、日頃の準備が
運んでくれた機会なのかもしれない。