最適資本構成と配当政策

現代ファイナンス論講義ノート No.8
最適資本構成と配当政策
蛭川雅之
2014 年 12 月 1 日
現代ファイナンス論講義ノート No.8
担当:蛭川雅之
1 資金調達と企業価値
• 資金調達方法の違いが企業価値にどのような影響を与えるか?
– 代表的な資金調達方法は以下の3種類のいずれかである。
1. 株式発行
2. 社債発行
3. 銀行借入
• 資金調達 = 資本構成 (Capital Structure)
– 資本構成とは、負債と株主資本の割合を指す。
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2 財務レバレッジ
2.1 企業の収益性
• 総資産利益率 (Return on Assets, ROA) および株主資本利益率
(Return on Equity, ROE) は企業の収益性を表す代表的な指標で
ある。
(当期純利益)
(当期純利益)
=
(総資産)
(負債) + (株主資本)
(当期純利益)
ROE =
(株主資本)
ROA =
– ROA が企業全体の収益性を表すのに対し、ROE は株主の立
場から見た収益性を表す。
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2.2 財務レバレッジ
• ROE は企業の資本構成の影響を受ける。
– より具体的には、ROE は負債が増加するにつれて改善する。
• 負債を D、株主資本を E 、当期純利益を R と表記すると、次の関
係が成り立つ。
R
ROE =
=
E
(
R
D+E
)(
D+E
E
)
(
= ROA
D
+1
E
)
– 負 債 比 率 (Debt-to-Equity Ratio)D/E が 大 き く な る ほ ど 、
ROE も大きくなる。
– 負債比率を財務レバレッジ (Financial Leverage) という。
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結論 1 財務レバレッジの結果、ROE は増加するが、事業リスクと財務リ
スクを負担することに伴い、ROE のバラツキも増加する。
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3 最適資本構成
3.1 MM(モジリアーニ = ミラー)理論の第一命題
命題 2(無関連性命題)税金や取引コスト等が存在しない完全資本市場で
は、資本構成は企業価値に影響を与えない。
• 同一の投資プロジェクトに直面しているが、資本構成だけが異なる
2つの企業を考える。
– 同一の投資プロジェクトとは、期間あたりの営業利益が同じプ
ロジェクトを指す。
– 資本構成が異なる企業として、株式のみで資金調達をする企業
U(= Unlevered Firm)と株式と社債で資金調達をする企業 L
(= Levered Firm)を考える。
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• 企業 U の株式時価総額を EU 、一方、企業 L の株式および社債時価
総額をそれぞれ EL および DL とする。
– 企業 U および企業 L の価値はそれぞれ
VU = EU , VL = EL + DL
となる。
• 以下のようなポートフォリオ(およびその収益)を考える。
1. 企業 U の株式を 10% 保有(= VU × 10% に投資)するポート
フォリオ:(収益) = (企業 U の営業利益) × 10%
2. 企業 L の株式・社債を各 10% 保有(= VL × 10% に投資)す
るポートフォリオ:(収益) = (企業 L の営業利益) × 10%
• これら2つの収益は同額であるため、投資家の裁定取引行動により、
VU × 10% = VL × 10% ⇒ VU = VL
が成り立つ。
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3.2 法人税の効果
• 法人税を考慮すると、MM 理論はどのように修正されるか?
• 支払利息分が法人税課税対象額から控除されるため、企業 L から受
け取るキャッシュ・フローの方が多くなる。
– 負債の節税効果 (Tax Shield) という。
• 節税効果の現在価値はいくらか?
– 負債額を D、利子率を rD 、法人税率を TC とすると、1年当
たりの節税効果は TC DrD と表される。
– 永続価値の公式から、節税効果の現在価値は (TC DrD /rD =) TC D
となる。
• 最終的に、法人税を考慮した企業価値は以下のようになる。
V L = VU + T C D
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結論 3 法人税がある場合、負債による資金調達の結果、支払利息の節税
効果の現在価値分だけ企業価値が高まる。
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3.3 財務破綻コストと最適資本構成
• 実際には、負債をできるだけ増やす企業はまずない。
– 負債を増やしすぎると財務破綻 (Financial Distress) リスクが
高まる。
結論 4 法人税および財務破綻コストを考慮した企業価値は
VL = VU + TC D − (財務破綻コストの現在価値)
となる。
• 負債の持つ節税効果の現在価値と財務破綻コストの現在価値が相殺
されるような負債額で企業価値は最大化される(資本構成のトレー
ドオフ理論)。
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3.4 ペッキング・オーダー理論
• 実務家は MM 理論は非現実的であると考える。
• ペッキング・オーダー (Pecking Order) 理論は、資本市場が完全で
ないとき企業がどのような順番で資金調達を行うかに関する理論で
ある。
– 資金調達を必要とする際はまず内部資金を利用し、外部資金が
必要な場合は最も安全な証券から発行する。
– 資金調達の順序:内部留保 → 銀行借入 → 普通社債 → 転換社
債 → 株式
– 最適資本構成の考え方は存在しない。
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4 配当政策
4.1 MM の配当無関連命題
命題 5 税金や取引コスト等が存在しない完全資本市場では、株主価値は
配当政策と無関連である。
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4.2 自社株取得と株主価値
結論 6 税金や取引コスト等が存在しない完全資本市場では、自社株買い
は株価に対して中立的である。
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• 自社株取得は以下のような目的で行われる。
1. 資本構成の調整
– 株主資本比率を低下させ、資本コストを下げることによ
り、企業価値を高める。
– 結果的に株価が上昇する場合もある。
2. シグナリング効果
– 自社株買い = 自社株が割安であるというシグナル
– 株価が上昇する。
3. ストック・オプション
– オプションの行使に備え、集めた株式を金庫株 (Treasury
Stock) として保管する。
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5 資金調達の方法
• デット・ファイナンス (Debt Finance) かエクイティ・ファイナン
ス (Equity Finance) か?
• デット・ファイナンス:
– 元本と利息を債権者に支払う義務が発生する。
– 資本市場からの調達(直接金融)· · · 社債、コマーシャル・
ペーパー
– 銀行預金を通した資金提供(間接金融)· · · 銀行借入
• エクイティ・ファイナンス:
– 株式調達に代表されるように、資金の返済義務はない。
– 直接金融のみ。
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5.1 銀行借入
1. 手形割引 · · · 期日前の約束手形を金融機関に持ち込む。
2. 手形貸付 · · · 約束手形を金融機関宛に振りだす。
3. 証書貸付 · · · 借入条件を記載した契約証書を締結する。
4. 当座貸越 · · · 予め定めた限度額まで自動的に融資が行われる。
5. コミットメント・ライン · · · 予め定めた期間・融資枠の範囲内で、
企業の請求に基づき、銀行が融資を実行する。
6. シンジケート・ローン(協調融資)· · · アレンジャー(主幹事行)の
もとに複数の金融機関がシンジケート(協調融資団)を組織し融資
を行う。
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5.2 資本市場からの調達
1. コマーシャル・ペーパー (Commercial Paper,CP)
• 高格付の企業・金融機関が短期の資金調達手段として発行する
無担保約束手形を指す。
• 期間:2 週間∼270 日(大半は 60 日以内)。
• 満期日に借り換えできない場合に備え、一般に CP バックアッ
プ・ラインを設定する。
2. 社債
• 詳細は次回解説する(ノート No.9 参照)。
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5.3 調達期間の選択
• 資金需要の期間に合わせる。
• 短期の資金需要(例:運転資本)→ 短期の資金調達
– 長期資金を調達すると、不要な金利負担が発生する。
• 長期の資金需要(例:設備投資)→ 長期の資金調達
– 短期資金を調達すると、投資からキャッシュ・フローが発生す
る前に調達資金を返済する必要が生じる。
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