これからはROEが企業の「美人の基準」(PDF/397KB)

リサーチ TODAY
2014 年 7 月 30 日
これからは ROE が企業の「美人の基準」
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
みずほ総合研究所は7月25日に、「2020年に向けた経済政策5分野の提言」と題した『緊急リポート』を
発表した1。TODAYでは6月24日に発表された日本再興戦略について議論を行い、そこでは海外投資家
の目を強く意識した対応が行われたとした2。今回の再興戦略の政府側の説明資料で最初に示された論点
が「コーポレートガバナンス」にあった。「企業が変わる、稼ぐ力を付ける」ことが今回の成長戦略の「1丁目1
番地」の扱いであり、そのなかでも重視された論点がROEの水準引き上げにあった。
下記の図表は日本のROEを1980年代から振り返ったものだ。足元の日本のROEの水準は8%程度であ
る。その水準が米国や欧州の10%台半ばと比べて低いことが問題視され、今回の成長戦略では欧米並み
の10%台半ばが水準として意識されている 3 。ただし、下記の図表で日本のROEを単純に振り返れば、
1990年前後のバブル期、世界の株式市場の時価総額で日本が最大シェアを占めた頃でも、今日よりも低
い8%以下の水準であった。当時、日本は持合いも含め、国内で株式保有の安定した構造が維持され、株
価を需給面から支えていたが、1990年代以降、銀行、企業の保有が低下したことによって日本株保有の担
い手として海外に期待せざるをえなくなった。さらに年金・投信を中心としたアセットマネジメント分野が保有
する構造に移行するには、新たな基準が必要になる。そこでの評価基準はROEになった。すなわち、今や
企業の「美人の基準」はROEであり、企業は美人にみられるべくROEを意識したスタンスをとらざるをえなく
なっている。
■図表:日本のROE推移
10
(%)
8
6
4
2
0
(年度)
▲2
89
91
93
95
97
99
01
03
05
(注)集計対象は上場企業 1,152 社(除く金融)
。
(資料)NEEDS-FQ よりみずほ総合研究所作成
ここで教科書的な財務分析を行うと、ROEは次のように分解される。
1
07
09
11
13
リサーチTODAY
2014 年 7 月 30 日
ROE = 当期純利益 / 株主資本
=(当期純利益/ 総資本) × (総資本 / 株主資本)
= ROA
× 財務レバレッジ
=(当期純利益 / 売上高) × (売上高 / 総資本) × (総資本 / 株主資本)
= 売上高当期純利益率
× 総資産回転率
(稼ぐ力)
× 財務レバレッジ
(効率性)
(資本構成)
下記の図表は、これら3項目の指標を示す。90年代以降を振り返れば、図表左の売上高当期純利益率
は大幅に改善し、今やリーマンショック前の水準に戻っている。円高環境のなかでリストラを行ってきた成果
が表れたといえる。他方で図表中央の総資本回転率には大きな改善が見られず、総資産全体がキャッシュ
で拡大された状況が反映されている。さらに、過去20年で最も大きな特徴は、図表右の財務レバレッジが
下がり続けたことにある。
■図表:ROEの構成要素、売上高当期純利益率、総資産回転率、財務レバレッジ
4
(%)
売上高当期純利益率
(回)
3
1.1
2
1.0
1
0.9
(倍)
総資産回転率
1.2
4.0
財務レバレッジ
3.5
3.0
0.8
0
(年度)
‐1
(年度)
89 92 95 98 01 04 07 10 13
(年度)
2.5
0.7
89 92 95 98 01 04 07 10 13
89 92 95 98 01 04 07 10 13
(注)集計対象は上場企業 1,152 社(除く金融)
。
(資料)NEEDS-FQ よりみずほ総合研究所作成
一般的な議論としては、以上の3項目の国際比較から、大きな乖離があるのは売上高当期純利益率で
あり、その改善が不可欠とする見方が多い。確かに、今後、稼ぐ力を新製品やサービスで付加することは重
要であるが、バブル崩壊後、日本は極端な円高に見舞われるなかでリストラを行いつつ、血がにじむような
努力で収益性を改善させてきた。むしろ、筆者が問題視するのは、財務レバレッジである。先行き期待の低
下のなかで、債務圧縮が合目的化され、本来、企業は得るべき投資機会を逸してきたのではないか。ROE
を引き上げるべく、単純にレバレッジを高めるべき、とするようなマインドセットを今日の企業経営者は持た
ない。ただし、企業にキャッシュを溜め込む状況が正当化されるのは、キャッシュを活用してもパフォーマン
スが高まるような成長期待が描けなかったからである。仮に、M&Aや投資等で期待が高まれば、それが大
きな変化の呼び水になる。ROE重視は日本企業のバランスシート運営の転換を促すことになる。
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「2020 年に向けた経済政策 5 分野の提言」(みずほ総合研究所 『緊急リポート』 2014 年 7 月 25 日)
「海外投資家を意識した今回の成長戦略」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2014 年 7 月 16 日)
大塚理恵子 「企業決算からみた株式相場見通し」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2014 年 6 月 16 日)
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