YIA セッション 1 ① X 線照射により発生する遅発性 ROS が細胞の生存に与える影響の解析 ○伊東一也 1、孫略 1、盛武敬 2、坪井康次 1 1 筑波大学放射線生物研究室、2 産業医科大学放射線健康医学研究室 我々は、これまでに高い放射線抵抗性を示す休止期がん細胞の放射線抵抗性メ カニズムについて研究してきた。そして、増殖期がん細胞では X 線照射 4, 12 h 後に細胞質の活性酸素種(ROS)の有意な上昇が見られるのに対して、休止期がん 細胞では X 線照射後の細胞質 ROS の上昇は見られないことを明らかとした。こ の違いが休止期細胞の放射線抵抗性に寄与している可能性が考えられるが、放射 線照射数時間後に発生する ROS (遅発性 ROS)が細胞の生存に影響を与えている か否かは未だに不明である。そこで、本研究では抗酸化物質である N-acetyl-cysteine (NAC)とアスコルビン酸を用いて X 線照射後の増殖期がん細 胞の遅発性 ROS を消去して生存率解析を行うことで、遅発性 ROS が細胞の生存 に与える影響を解析した。 ② ジクロロ酢酸ナトリウムによる癌幹細胞様クローンの放射線増感メカニズ ムの解明 ○孫略 1、伊東一也 1、松本孔貴 2、盛武敬 3、坪井康次 2 1 筑波大学人間総合科学研究科、2 筑波大学医学医療系 3 産業医科大学産業生態科学研究所 我々はヒト髄芽腫細胞株 ONS-76 に放射線を照射し、生存細胞から放射線抵抗 性かつ CD133 強陽性を示す癌幹細胞様クローン ONS-F8 を樹立している。昨年 の本学会において、この ONS-F8 にミトコンドリア賦活薬であるジクロロ酢酸ナ トリウム(DCA)を投与するとミトコンドリアからのスーパーオキサイド産生が増 え、癌幹細胞性質が低下することを報告したが、ここでは DCA の放射線増感作 用を細胞のエネルギー代謝の観点から解析したので報告する。ONS-F8 に対して DCA 投与した群では非投与の群より有意に放射線感受性が増加していた。 また、 DCA 投与群ではミトコンドリアの形態が変化し、酸素消費量(OCR) が増加して いたが、ATP は逆に低下しており、細胞内のエネルギー代謝効率の低下が示唆さ れた。さらに DCA 投与群では細胞内グルタチオン量が低下していた。以上の結 果から、DCA の投与によってミトコンドリアの機能不全が誘導されることで、 ATP およびグルタチオン合成が低下し、放射線感受性を高めることが示唆された。 ③ 水溶液試料への低 LET 放射線照射によって生成するヒドロキシルラジカル の分子密度 ○小川 幸大 1 東邦大院 1,2、 松本 謙一郎 2、 藤崎 真吾 1 理、2 放射線医学総合研究所 レドックス応答制御研究チーム 放射線の生物影響を考える上で・OH、O2-、H2O2 が重要な役割を演じている。 その中で、ヒドロキシルラジカル (・OH) は水の電離を起因として最初に生じる 活性酸素種であり、かつ生体内でのラジカル反応の実行役と考えられる。本研究 では、水に低 LET 放射線を照射したときの・OH の生成密度を、 電子常磁性共鳴 (EPR)スピントラッピング法を応用して明らかにした。 水溶液中のスピントラッピング剤 (DMPO)の分子密度 (濃度) を増やしたと きに、X 線もしくはγ線の照射によって生じる、ヒドロキシルラジカルアダクト (DMPO-OH)の生成量の変化を求めた。DMPO-OH 濃度は DMPO 密度に対し て直線的に増加したのち、飽和が見られた。その後、プラトーに達すると思われ たが、予測に反し、DMPO 分子密度が極めて高いところ (490~1680 mM) で再 び原点を通ると思われる直線的な上昇を示した。以上の結果より、低 LET 放射 線によって 2 種類の・OH の生成、すなわち比較的低密度な DMPO でトラップさ れる「疎」な生成と、極めて高密度の DMPO でないと検出できないような非常 に「密」な生成が示唆された。 ④ 放射線照射後の組織におけるレドックス状態変化の解析 ○中村美月 1,2、柴田さやか 3、尾澤芳和 3、上野恵美 2、松本謙一郎 2,*、山田健一 4,5、 鎌田正 1,2、青木伊知男 3 1 千葉大院医薬、2 放医研重医セ、3 放医研分イメセ、4 九大院薬、5JST さきがけ 放射線による組織内レドックス状態の変化とその時間的変化は、「診断治療」 を目指す将来の放射線治療において、重要な鍵となる。本研究では、正常マウス 脳について X 線または炭素線照射後のレドックス状態変化を経時的に解析した。 放射線をマウス頭部に照射した 1、2、4、8 日後に 7 T 水平型 MRI にて MC-PROXYL を造影剤として連続撮像を行い、その信号強度の減衰速度を解析 して脳内のレドックス状態を評価した。MC-PROXYL の二相性の減衰曲線で、 主にラジカルの還元を示す初期減衰速度の観察から、照射 1~2 日後に組織のレ ドックス変化が起こっていると考えられた。主にクリアランスを示す二相目の減 衰速度は、8 Gy X 線照射群と 8 Gy 炭素線照射群で照射 1 日後の減衰速度が速く なり、16 Gy 炭素線照射群は減衰速度が遅くなった。この減衰速度の増加は膜透 過性の亢進が考えられ、減衰速度の低下は血流の低下の影響が考えられる。 ⑤ Flavan-3-ols は交感神経を介して循環刺激作用を発現する ○江部力彦、稲川広大、田口真紀、柴田政廣、越阪部奈緒美 芝浦工業大学 システム理工学部 生命科学科 【目的】Flavan 3-ols(FL)の反復摂取は降圧作用を示すことが明らかとなってい るが、そのメカニズムについては不明である。我々はこれまでに 10mg/kg の flavan 3-ols の単回経口投与が、ラットの骨格筋血流量、血圧および心拍数が一 過的に上昇することを確認している 1)。本研究では FL の循環刺激作用における 交感神経の関与についてアドレナリン受容体阻害薬を用いて検証することとし た。 【方法】Wistar 系雄性ラットに FL 1, 10, 100 mg/kg または精製水を投与し、 血圧および心拍数を 60 分間測定したのち、摘出した大動脈におけるリン酸化 eNOS (p-eNOS)量を western blot 法にて定量した。 また非特異的(carvedirol), α 1 特異的(prazosin)およびβ2 特異的(butoxamin)アドレナリン受容体阻害剤をそ れぞれ前投与したラットを用いて、同様の実験を行った。【結果】FL 1 および 10mg/kg 投与群においては、血圧および心拍数の一過的な上昇が認められたが、 100 mg/kg 投与群ではこれらの作用は認められなかった。Carvedirol 前投与ラッ トにおいては、10mg/kg の FL 投与後に認められる一過的な血圧・心拍数の上昇 が消失した。 Prazosin 前投与ラットでは 10mg/kg の FL 投与後に認められる 血圧の上昇は消失したが心拍数上昇は増強され、100 mg/kg 投与群では血圧は有 意に低下し心拍数増加は更に増強された。Butoxamin 前投与ラットに 100mg/kg の flavan 3-ols を投与した場合、単独投与と同様な循環動態を示した。一過的な 血圧上昇が認められた群においては大動脈中の p-eNOS 量の増加が認められた。 【結論】FL 低用量による一過性の血圧や心拍数の上昇は、FL が交感神経を刺激 し放出されたカテコールアミンが血管のα1 受容体・心筋のβ1受容体に結合し た結果であることが示唆された。高用量ではこのような反応が見られなかったこ とは、交感神経上のα2受容体を介しネガティブフィードバックが起こっている 可能性が示唆された。((1)Inagawa et al. PLoS One. 2014;9(4):e94853. ⑥ Flavan-3-ols は消化管知覚神経によって認識される ○稲川広大、神尾直哉、渡辺尚貴、江部力彦、柴田政廣、越阪部奈緒美 芝浦工業大学 システム理工学部 生命科学科 【目的】Flavan 3-ols(FL)はメタボリックシンドロームを予防・改善することが 報告されているが、生物学的利用能が極めて低いためメカニズムは明らかとなっ ていない。我々は FL が循環を刺激し 1)エネルギー代謝を亢進させること 2)、こ れらの作用が交感神経を介することを見出している。近年、ある種の食品成分が 消化管知覚神経によって認識され交感神経を刺激することが報告されているこ とから、今回除知覚ラットを用いて FL の循環刺激作用に対する影響を観察した。 【方法】除知覚ラットは capsaicin 125mg/kg を皮下投与して作成した。単回投 与試験:正常または除知覚ラットに flavan 3-ols 10 mg/kg を投与し、血圧および 心拍数を 60 分間測定したのち、摘出した大動脈のリン酸化 eNOS (p-eNOS)量を 定量した。 反復投与試験:正常または除知覚ラットに通常食あるいは 0.2% flavan 3-ols 画分含有食を 2 週間摂取させ、 血圧および大動脈の eNOS 量を western blot 法にて定量した。【結果】単回投与試験:正常動物の flavan 3-ol 群では、平均血 圧および心拍数の一過的な上昇および大動脈の p-eNOS 量の増加が認められたが、 除知覚ラットにおいては認められなかった。反復投与試験:正常動物の flavan 3-ols 含有食摂取群では有意な血圧の低下および大動脈 eNOS 量の増加が認めら れたが、除知覚ラットにおいてはこれらの作用は認められなかった。【結論】以 上の結果より、flavan 3-ols は知覚神経によって認識され、その結果交感神経を 刺激し、循環動態に影響を与える可能性が示唆された。今後、この認識機構を明 らかにすることを目的に、除知覚ラットの脊髄後根神経のトランスクリプトーム 解 析 を 実 施 す る 予 定 で あ る 。 ( (1)Inagawa K. et al. PLoS One. 2014;9(4):e94853.(2)Matsumura Y et al, PLoS One. 2014;9(11):e112180) 一般演題 1 ① 重粒子線(炭素線)の生物影響に対する抗酸化剤 TEMPOL の効果 〇上野 恵美、中西 郁夫、松本 謙一郎 放医研 先端粒子線生物研究プログラム 重粒子線(炭素線)の照射はブラッグピークの存在により、X 線やγ線などの 低 LET 放射線と比較して、正常組織の障害を低減させるという利点を有してい る。重粒子線においても低 LET 放射線と同様にフリーラジカルが生成すること が知られており、将来的な高線量・小分割照射を考えたとき、フリーラジカル生 成を要因とする正常組織の障害が予想される。 正常マウスの大腿部に重粒子線局所照射を行うと、線量依存的に皮膚の炎症が 生じ、また晩期反応として大腿部に萎縮が生じることがある。この炭素線の照射 によって生じるマウスの大腿部繊維化に対して、抗酸化剤として知られている TEMPOL をマウスの飲料水に添加し自由に摂取させると、TEMPOL 摂取群と非 摂取群において、照射された脚の長さに違いがみられ、TEMPOL 投与群では筋 繊維の萎縮が抑制されていることが観察された。本実験の結果より、炭素線照射 によって生じる組織障害に対し TEMPOL が抑制効果をもつことが示唆され、発 生するフリーラジカル種としてスーパーオキサイドの関与が推測された。 ② 熱ストレス障害に対するレドックス因子ペルオキレドキシン 4 の保護効果 ○本間拓二郎、倉橋敏裕、藤井順逸 山形大・院医・生化学分子生物学 細胞が恒常性を維持して正常に活動するためには、タンパク質が正しく折り畳 まれて成熟した高次構造をとり、さらに合成や分解の制御によりタンパク質の量 を適正に保つことが重要である。例えば、急激な温度上昇によるストレス下では、 分子シャペロンである熱ショック遺伝子群が誘導され、折り畳みを促進させるこ とでタンパク質の変性を防いでいる。また分泌タンパク質や膜タンパク質の合成 の場である小胞体に負荷がかかると小胞体ストレス応答が誘導され、小胞体分子 シャペロンの誘導に加えて、タンパク質の翻訳量を低下させることで小胞体内に おけるタンパク質の合成量を減らし、負担を軽減させる。小胞体ストレスが細胞 の修復機能を超えてしまった場合には、アポトーシス誘導因子が活性化され、細 胞死が起こる。 ペルオキレドキシン 4(Prx4)は、小胞体内では過酸化水素を利用してタンパ ク質の酸化的折り畳みを行うチオールオキシダーゼとして働く。当研究室では Prx4 欠損マウスを樹立し解析を行ってきたが、これまで精巣を除いて顕著な表 現型は認められていない。そこで本研究では、Prx4 の熱ストレスによる障害か らの保護効果について検討した。まず、野生型マウスおよび Prx4 欠損マウスか ら胚性線維芽細胞(MEF)を樹立した。37 ℃の CO2 インキュベーターで培養後、 熱ショックを与えたところ、Prx4 欠損 MEF において、より多くの変性タンパク 質(ユビキチン修飾タンパク質)が蓄積することがわかった。また、野生型 MEF と比較して、Prx4 欠損 MEF において顕著な細胞死の亢進が認められた。これら の結果から、Prx4 は熱ショックによるタンパク質の変性に対して保護作用を示 すことが示唆された。 YIA セッション 2 ① パーキンソン病患者における酸化ストレスと還元型コエンザイム Q10 の投 与効果 ○橋本和彦 1、瀬高朝子 2、永瀬 翠 1、山本順寛 1、服部信孝 3 1 東京工科大学応用生物学部、2 順天堂大学越谷病院、 3 順天堂大学医学部脳神経内科 【目的】パーキンソン病は頻度の高い神経変性疾患であり,まだ根本治療薬のな い難病である.ミトコンドリア機能の障害や酸化ストレスの関与が報告されてい るので,コエンザイム Q10 の治療効果が期待されている.2002 年,Shults らは 初期のパーキンソン病患者に対して病状の進行を抑制したと報告したが(Arch Neurol (2002) 59,1541-1550) ,最近のより大規模な調査では改善が認められなか った(JAMA Neurol (2014) 71, 543-552).そこで我々は,初期患者とともに進 行期の患者にも還元型コエンザイム Q10 を投与し,その効果を調べた.【対象と 方法】順天堂大学で還元型コエンザイム Q10 の臨床試験に同意された初期患者 33 名と進行期患者 31 名を,それぞれ 2 群にわけ,還元型コエンザイム Q10 を一 日 300mg あるいはプラセボを投与した.投与期間はそれぞれ 96 週と 48 週であ った.Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (UPDRS)で症状評価した. 酸化ストレスは血漿中コエンザイム Q10 の酸化型の割合(%CoQ10)で評価した. 【結果と考察】試験開始時の平均 UPDRS 値は初期群で 7.4±4.9,進行期群で 14.8±9.1 であった.%CoQ10(平均±SD)はそれぞれ 10.0±7.0,12.4±5.9 で あり,同年齢の健常人の値 3.9±1.3 に比べ有意に高く,酸化ストレスの亢進が確 認できた.還元型コエンザイム Q10 投与の有無にかかわらず,初期群の UPDRS 値は漸増した.一方,進行期群では還元型コエンザイム Q10 投与により UPDRS 値は低下し, 48 週と投与終了 8 週後でプラセボ群に比べ有意な症状の改善を認め た.還元型コエンザイム Q10 を投与し,大幅なコエンザイム Q10 濃度の増加が 観測されたのにも関わらず,%CoQ10 の低下は認められなかった.これを改善す る方法を見つけることが急務と考える. ② コエンザイム Q10 結合タンパク質プロサポシンによる細胞接着の制御 ○根本 亘 1、加柴美里 2、鈴木 優 1、吉村眞一 1、山本順寛 1 東京工科大学 1 応用生物学部、2 教養学環 コエンザイム Q10(CoQ10)は ATP 産生に必須の脂質であり,その還元型は 抗酸化物質としても重要である.我々は CoQ と結合するタンパク質としてプロ サポシン(Psap)を見出している.本研究では,細胞接着に対する Psap の役割 に注目した. 実験にはヒト肝がん由来細胞 HepG2 を用いた. HepG2 細胞の Psap 高発現 (Tf) とノックダウン株(KD)を樹立した.Psap モノクローナル抗体を用いて確認し たところ,細胞内 Psap 量は,Tf>parental>KD であり,遺伝子改変細胞株の樹 立が確認できた.これら細胞株の細胞内 CoQ10 量を HPLC-ECD を用いて測定 した.細胞内 CoQ10 量は,Tf>parental>KD であった.CoQ10 結合タンパク質 Psap 量と細胞内 CoQ10 値に相関が認められ,Psap が CoQ10 の合成や輸送等に 関与していることが示唆された. 我々が以前に解析を行っていた Caco-2 細胞の PsapKD 株では細胞同士の結合 能が低下し,タイトジャンクション形成がうまくできないことがわかっている. そこで,次に HepG2 細胞株の細胞接着動態を解析した.HepG2 細胞をコラーゲ ンコート加工プレートに播種し位相差顕微鏡にて観察したところ各株の接着に 差は見られなかったが,ガラスやプラスチックプレートで観察したところ接着動 態に変動が認められた.接着におけるカルシウムの効果や,接着分子の解析につ いても合わせて報告する. 以上の結果より,CoQ10 結合タンパク質 Psap は,細胞内 CoQ10 量の維持に 必須であるとともに,細胞接着にも関与する因子であることが示された. ③ 白金ナノコロイドの次亜塩素酸イオン消去能 ○本宮紗月,山本順寛 東京工科大学応用生物学部 【目的】白金ナノコロイドはスーパーオキシドを還元することを再確認し,さら に酸化された白金ナノコロイドが過酸化水素を触媒的に速やかに 2 電子酸化還元 し,水と酸素とするが,1 電子酸化還元反応によるヒドロキシルラジカルは生成 しないこと,生成する酸素の一部は一重項酸素であること,この一重項酸素によ り大腸菌などの原核生物を効率よく殺菌できること,パラジウムナノコロイドを 共存させると白金ナノコロイドの酸化を抑制できることなどを報告してきた.今 回は炎症性細胞から生成する次亜塩素酸イオンとの反応を検討した. 【実験方法】 次亜塩素酸イオンとの反応性が高いエダラボンの減少を白金ナノコロイドが抑 制できるかどうかを調べた.エダラボンの定量には HPLC を用いた. 【結果と考 察】pH7 リン酸緩衝液中で 100 µM エダラボンは 200 µM 次亜塩素酸ナトリウム により 60%のエダラボンが分解した.しかし,50 µM の白金ナノコロイドを共存 させるとエダラボンの分解率は 30%に抑制され,さらに室温空気下で 4 週間保存 して調製した酸化白金ナノコロイドでは分解率が 10%まで抑制された.パラジウ ムを共存させた白金ナノコロイドでは分解率が 30%であった. 【結語】白金ナノ コロイドの次亜塩素酸イオン消去能が確認できた.酸化された白金ナノコロイド はその作用が強かった.したがって,皮膚上などで白金ナノコロイドが酸化され ても,より優れた抗炎症作用が期待できる. ④ エダラボン酸化生成物を用いた新規酸化ストレス・マーカーの可能性 ○渡辺真実,荒井隼太,加藤大地,内田裕希,山本順寛,藤沢章雄 東京工科大学 応用生物学部 エダラボンは様々な活性酸素種に対して高い消去活性を示す優れた抗酸化物 質である.エダラボンをパーオキシルラジカル,パーオキシナイトライト (ONOO-) ,そして次亜塩素酸イオン(ClO-)と反応させ,それぞれの酸化生成 物を回収した.パーオキシラジカルはアゾ化合物の AMVN を用いて発生させた. ONOO-は塩基性条件下で過酸化水素と亜硝酸ナトリウムを反応させて得られた ものを使用した.ClO-との反応には次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いた.パー オキシルラジカルとの反応では 2-oxo-3-(phenylhydrozono)-butanoic acid(OPB) が,ONOO-との反応では 4-NO-および 4-NO2-付加体が,そして ClO-との反応で は 4-Cl-付加体が特異的に生成することが確認され,これらを分離・精製した. このことからエダラボンの酸化生成物は反応する活性酸素種に対して特異的で あることが示され,これらは酸化ストレス・マーカーへと応用できると考えられ る.今後は LC/MS/MS を用いた高感度分析法を確立し,エダラボンを投与した 患者血漿中からの検出を検討している. ⑤ 3-Heteroaryl-2-indenol 型新規抗酸化剤の創製 ○藤田亮輔 1、丸山和輝 1、高橋恭子 1、大江知之 1、中村成夫 2、増野匡彦 1 1 慶應義塾大学薬学部、2 日本医科大学 【目的】我々は有用な新規抗酸化剤の創製を目的とし、アスコルビン酸と等価な 構造であり同等の抗酸化活性を有する α-pyridoin に着目した構造変換を行い、 1,2-di(2-pyridinyl)ethanone がラジカル消去活性を有することを明らかにして いる。今回さらなる活性の向上を目的として構造変換を行った結果、 3-(2-pyridinyl)-2-indenol (1)とその類縁化合物に高い抗酸化活性を見出した。 【方 法】化合物 1 のピリジン環への置換基導入、もしくは他のヘテロ環に置換した 3-heteroaryl-2-indenol 類 を 新 た に デ ザ イ ン ・ 合 成 し た 。 一 連 の 化 合 物 の EtOH/MES buffer 系中における DPPH ラジカル消去の二次反応速度定数をス トップトフロー法を用いて測定した。さらに、過酸化水素により惹起される酸化 ストレスに対する細胞保護効果を HL-60 細胞系を用いて評価した。【結果・結 論】新規 3-heteroaryl-2-indenol 類はアスコルビン酸やエダラボンと同等かそれ 以上の DPPH ラジカル消去活性を示した。特に、1 のピリジンを 6-トリフルオ ロメチルピリジンおよびピラジンに置換した化合物はアスコルビン酸やエダラ ボンよりも強力な DPPH ラジカル消去活性を示し、酸化ストレスに対する細胞 保護効果もエダラボンより高かった。 ⑥ 活性酸素とポルフィリン代謝 ○1 伊藤紘、1 松井裕史、1 田村磨聖、1 兵頭一之介、2 犬童寛子、2 馬嶋秀行 1 筑波大学消化器内科、2 鹿児島大学医歯学総合研究科 ポルフィリン構造を有する化合物は腫瘍特異的な集積性を示すことが知られ ており、従来より光線力学的な腫瘍の治療法(PDT)に利用されてきた。しかし ながらその集積機序については不明な点が多く、我々はこれまでにヘム輸送タン パクである HCP-1 (heme carrier protein 1: SLC46A1)がポルフィリンの輸送を も担うことを明らかにしてきた。しかし、HCP-1 の発現現象の詳細は明らかにさ れていない。HCP-1 は十二指腸や小腸の細胞で多くの発現が認められており、そ こには低酸素環境が関わっているとの報告があることからミトコンドリア由来 活性酸素(mitROS)の関与が予想される。本研究では、mitROS 産生量と HCP-1 発現量、さらにはそれに伴う PDT 効果の関係性についてラット胃粘膜由来正常 細胞 RGM1 及びそのがん様変異細胞 RGK1、加えて RGK1 に mitROS 消去能を 有する manganese superoxide dismutase(MnSOD)を恒常的に過剰発現させ た RGK-MnSOD 細胞を用いて検討した。 ⑦ 2 つの置換基を有するフッ素クロリンの合成と物性評価 ○秋山直澄¹、窪田雄介¹、廣原志保¹、小幡誠²、松井裕史³、谷本裕樹 4、垣内喜代 三4 宇部高専¹、山梨大²、筑波大³、奈良先端大 4 最適な腫瘍集積性と腫瘍集積時間を PDT 用光増感剤としてフッ素クロリン (TFPC)に腫瘍集積性置換基であるグルコース(Glc)鎖と腫瘍集積時間促進置換基 であるメルカプトエタノール(mEt)鎖を2分子ずつ導入した TFPC(SGlc)2(mEt)2 の開発を行った。本発表では TFPC(SGlc)2(mEt)2 の合成と疑似細胞条件下での光 物性評価の結果について報告する。また TFPC(SGlc)2(mEt)2 についてガン細胞株 (HeLa, RGK など)を用いた in vitro 評価として薬剤接触時間を変化させた時の薬 剤取り込み量や光細胞毒性試験の結果についても報告する。さらに様々な ROS 除去剤(アジ化ナトリウム、d-マンニトール、クエン酸、a-トコフェロール)共 存下での光細胞毒性試験を行い、光細胞毒性に関わる ROS の特定を行った。 一般演題 2 ① グルコース連結クロリンの PDT 評価 ○廣原志保¹、谷原正夫 2、岡千緒 2、川市正史 2、垣内喜代三 2、小幡誠 3、松井 裕史 4 宇部高専¹、奈良先端大²、山梨大 3、筑波大 4 当研究室では腫瘍集積性 PDT 用光増感剤として、クロリン骨格に F 腫瘍集積性を有するグルコース鎖を2分子トランス配向した F TFPC(SGlc)2 を開発し、PDT 用光増感剤としての性能を調べている。 R1 F F F F R4 本発表では、開発した TFPC(SGlc)2 について疑似細胞条件下での物 F N F NH N F R2 N HN 性測定(ROS など)の結果について報告する。また様々なガン細胞株 (HeLa, B16F1, 4T1, RGK など)を用いた細胞取り込み試験、光細胞 F F F F F F R3 F GlcS- = HO HO OH O HO R1 = R3 = F; R2 = R4 = GlcSR2 = R4 = F; R1 = R3 = GlcS- 毒性試験、光細胞毒性に関わる ROS 測定結果や、4T1 細胞を移植し TFPC(SGlc)2 の構造 た担癌マウスを用いた in vivo 試験の結果について報告する。 ② 有害物質を高効率で除去するタバコフィルターの開発 〇池田 豊、倉持 和裕、八幡佳子、Vòng Bính Long、吉富 徹、長崎幸夫 筑波大数理物質、筑波大人間総合、WPI-MANA タバコには様々な有害物質が含まれており、中でも活性酸素による体への悪影 響は数多く報告されている。我々はこれまでに活性酸素を消去する材料を開発し、 ナノ粒子化やコーティング剤として用いる事で、様々な分野でその有用性を示し てきた。今回は、タバコフィルターへのコーティング剤としての開発を試みたの で報告する。用いた材料は活性酸素を除去するニトロキシドラジカルを含むポリ マーである。このポリマーをコートしたタバコフィルターを用いると、タバコの 主流煙に含まれる活性酸素量が低下した。さらに、活性酸素除去だけでなく、有 害物質を高効率で除去する事を目的として、高吸着能を有するシリカ粒子をタバ コフィルターに担持させてその効果を解析したところ、より効果的に有害物質を 除去している事が確認できた。またフィルター透過煙の細胞毒性は著しく低下し ていることが確認され,高い有用性を示すことができた。 ③ 四塩化炭素による肝組織線維化に及ぼす Ebselen の防御作用の解析 ○北谷 佳那恵 1, 山本 順寛 2, 竹腰 進 1 東海大学医学部基礎医学系生体防御学 1、東京工科大学応用生物学部 2 我々は酸化ストレス下において酸化型ジアシルグリセロール(酸化型 DAG) S の産生が増加すること、また、酸化型 DAG は未酸化の DAG に比較して高いプ ロテインキナーゼ C(PKC)活性化作用を有することを報告してきた。さらに、 四塩化炭素(CCl4)投与により生じる肝組織の線維化には酸化型 DAG が重要な 働きを果たしていることを明らかにした。今回、我々は酸化型 DAG の還元活性 を有する Ebselen の CCl4 誘発性肝線維化に対する防御効果を解析した。動物は C57BL/6J マウスを使用し、CCl4 を背部皮下に 12 週間投与し肝線維化モデル動 物を作成した。Ebselen は 1%トララガント中に懸濁し、週 5 回経口投与した。 コラーゲンの蓄積が CCl4 投与により増大し、 Ebselen の投与により抑制された。 また、 酸化型 DAG が CCl4 の投与により増加し、 Ebselen の投与により減少した。 さらに CCl4 投与による PKC の活性化が、Ebselen の投与により抑制された。以 上のことから、Ebselen は酸化型 DAG を還元消去し、PKC の過剰活性化を回避 することで肝線維化を抑制していると示唆される。 ④ 青黛による NSAID 起因性消化管傷害予防効果 ○鈴木英雄 1、齋藤梨絵 2、松井裕史 1、長野由美子 2、伊藤紘 2、田村磨聖 2、 金子剛 2、圷大輔 2、谷中昭典 2、溝上裕士 1、兵頭一之介 2 1 筑波大学附属病院光学医療診療部、2 筑波大学消化器内科 背景と目的:青黛はキツネノマゴ科のリュウキュウアイなどの抽出物に石灰を 加えて乾燥させたもので、皮膚や消化管粘膜に対する修復作用が知られている。 我々はすでに青黛に強い活性酸素(ROS)消去効果があることを報告しており、 今回は非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)起因性の消化管傷害に対する青黛の予 防効果を検討した。 方法:胃粘膜上皮由来細胞(RGM1)と小腸上皮由来細胞(IEC6)を用い、インド メタシンとアスピリンで傷害を惹起した。青黛の前処理による細胞傷害、ROS 産生の抑制について蛍光試薬で評価した。同様の検討は青黛の主成分であるイン ディゴ、インディルビンに関しても行った。また、ROS の発生源がミトコンドリ ア由来かを MitoSOX を用いて検討した。 結果:青黛は NSAIDS 由来細胞傷害および ROS 産生の抑制効果を示し、青黛 の主成分であるインディゴ、 インディルビンにも ROS を軽減する効果があった。 また、NSAID 曝露により増加した MitoSOX の蛍光が青黛の前処理により減弱し た。 結論:青黛は消化管細胞における NSAID 起因性傷害を抑制し、それはミトコ ンドリア由来の ROS 消去による効果であることが判明した。青黛は、NSAID 起 因性の消化管傷害に対する予防効果が期待できる。 ⑤ 抗酸化食品成分スルフォラファンの胃がん、大腸がん予防効果に関する研究 ○谷中昭典 筑波大学医学医療系 日立社会連携教育研究センター 【目的】ブロッコリースプラウト(BS)に含まれるスルフォラファン(Sulforaphane: SFN)の 胃癌、大腸癌予防効果について、基礎的、臨床的に検討した。 【方法】1.基礎実験:A) H. pylori (Hp) 感染マウスに BS or SFN を 8 週間経口投与し、胃粘膜炎症スコア、Hp 菌数を 測定した。B)大腸腫瘍モデルマウスに BS or SFN を 8 週間投与し、大腸腫瘍発生数を測定 した。2. 臨床試験:A) Hp 感染者に BS を 8 週間摂食させ、胃炎スコア、胃内 Hp 菌数を 測定した。B) 大腸腺腫を有する患者に BS を 6 ヶ月間摂食させ直腸粘膜の ACF(ポリープ の芽)の数を計測した。 【結果】1A) Hp 感染マウスにおいて BS 摂食により胃炎は軽減し、 胃内の Hp 菌数は減少した。B)大腸腫瘍モデルマウスにおいて、BS 摂食により大腸内腫瘍 発症は抑制され、嫌気性菌数は減少した。C) 以上の効果は nrf2-/- マウスでは認められな かった。2 A) Hp 感染者に BS を摂食させることにより胃炎は軽快、Hp 菌数は減少した。 B) 大腸腺腫患者に対する BS 摂食介入試験は現在進行中である。 【結論】1.基礎実験より BS に含まれる SFN は胃癌、大腸癌を予防する可能性が示唆さ れた。 2.臨床試験より BS の摂取は Hp 胃炎を軽減させ胃がん予防に寄与する可能性が示唆され た。
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