食肉処理場と農場において摘発されている豚サルモネラ症

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豚病会報 No.51 2007
食肉処理場と農場において摘発されている豚サルモネラ症
高 橋 泰 幸(群馬県中部家畜保健衛生所)
)による豚サルモネラ
に、農場で下痢やチアノーゼ、呼吸器症状等の臨床症
症は主に肥育前期の豚に敗血症を引き起こし、死亡率
状を示し、病性鑑定の結果、肝臓の巣状壊死や化膿性
が高いため発生農場における経済的損失は大きい。一
肺炎等が認められ、肺、肝臓を中心に全ての主要臓器
方、近年、農場から普通畜として出荷された豚が、食
から分離された、1
3農場、18症例由来の1
8株を用いた。
肉処理場(と畜場)のと畜検査により豚サルモネラ症
病性鑑定を実施した2
7頭中16頭で、
と診断される事例が増加している。2
0
06年の当家保管
サーコウイルス(
(
型(
内における、と畜場および病性鑑定による豚サルモネ
ラ症の発生件数は3
8戸、1
2
4頭と、前年比で約6倍に達
)
、
Ⅱ)および
(
盪 方法
れた
薬剤感受性試験はアンピシリン(
抗体検査を、と畜場で
分離農場)と病性鑑定豚から
(病性鑑定
法による
が分離された農場(と畜場
が分離された農場
分離農場)を対象に実施し、併せて管内
リン(
シン(
)
、セファゾ
)
、ストレプトマイシン(
ファジメトキシン(
)、スル
)
、トリメトプリム(
)
、
)、エンロフロキサシン(
)
ナリジクス酸(
する。
の9薬剤について、
法に準拠した寒天平板希
釈法により、最小発育阻止濃度(
材料と方法
)、カナマイ
)、オキシテトラサイクリン(
の浸潤状況についてもまとめたので、その概要を報告
プラスミドプロファイル(
1.分離株の性状比較
)
との混合感染症が疑われた(表1)
。
している。今回、と畜場および病性鑑定豚から分離さ
株の性状を比較した。また、
ウイルス、豚
)を測定した。
)は関崎の変法により
プラスミドを抽出し、0.
8%アガロースゲルを用いて
盧 供試株
10
0 で電気泳動を行い、その保有状況を観察した。
遺伝子型別としてパルスフィールド電気泳動法
と畜場由来株は、2
0
0
4年7月から2
0
0
5年8月までに
1
4農場、18頭の肺、肝臓、脾臓および腸間膜リンパ節
(
)を実施した。制限酵素
を切断し、その切断パターン(
から分離された25株を用いた。これらは、農場から普
通畜として出荷され、と畜場の生体検査で異常が認め
た。
られなかった個体で、内臓検査で肝臓の出血壊死、肝
2.抗体検査
盧 と畜場
臓、脾臓および腸間膜リンパ節の腫脹等が認められた。
分離農場と病性鑑定
Ⅰにより
)を比較し
分離農場の
抗体検査
発生農場由来株は、2
0
0
0年10月から2
0
0
4年1
0月まで
表1 材料(分離株の性状比較)
Ⅰと
と畜場で
が分離された
農場と、
病性鑑定で
が分離された4農場を対象に、2
0
0
3年以降に採材した、
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農場13
3検体、4農場2
03検体の血清を用いて抗体検
査を実施した。抗体検査は全菌体加熱抽出抗原を用い
た
法により実施し、
値0.
4以上を
抗体陽
性豚とした。
盪 管内の浸潤状況確認のための抗体検査
2
00
1年度から20
06年度にかけて採材した管内農場
12
5戸8,
6
11検体の血清について
検査を実施した。
法により抗体
6
Proc Jpn Pig Vet Soc No.51 2007
成績
い た 株 は、と 畜 場 由 来 株 で は14農 場 の う ち 1 農 場
1.分離株の性状比較
(13
0
(12
0、1
00、5.
3
分離株は全て硫化水素非産生性の生物型
保有、10
0、72
保有、1
20
保有)
であった(図1)
。
だった。
蘯 盧 薬剤感受性試験
と 畜 場、発 生 農 場 由 来 の 全 て の 株 で
に耐性、
保有)と、農場由来株では1
3農場のうち3農場
、
、
制限酵素に
、
Ⅰを用いた
パターンは、全体
で6パターンに分かれ、と畜場由来株で3パターン、
に感受性を示し、同一農場
農場由来株で4パターンあった。
由来株では同じ感受性成績を示した(表2)
。
盪 Ⅰでは、全体で
5パターン、と畜場由来株、農場由来株はそれぞれ3
は全ての分離株が、50
パターンに分かれた。しかし、二種類の制限酵素を用
の血清型特異病原性プ
いて確認された違いは、バンド1、ないし2本であり、
ラスミドを保有していた。プラスミドを複数保有して
表2 分離 SC の MIC 分布(μg/ml)
ㄘ႐↱᧪ᩣ㩿㫅㪔㪈㪏㪀
㪕㪇㪅㪈㪉㪌 㪇㪅㪈㪉㪌 㪇㪅㪉㪌
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㪚㪜㪱
㪪㪤
㪢㪤
㪦㪫㪚
㪪㪛㪤㪯
㪫㪤㪧
㪈㪌
㪈
㪥㪘
㪜㪩㪝㪯
㪈㪎
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㪉㪉
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㪜㪩㪝㪯
㪉㪊
䌓䌃
㪇㪅㪌
㪈㪉
㪈
㪌
㪉
㪋
㪈㪎
㪈
㪏
㪈㪍
㪊㪉
㪍㪋 㪈㪉㪏 㪉㪌㪍 㪌㪈㪉 㪕㪌㪈㪉
㪈
㪈㪏
㪈㪌
㪊
㪈㪏
㪈㪏
㪉
㪈㪎
㪈
㪋
㪏
㪈
㪇㪅㪌
㪉㪇
㪈
㪊
㪊
㪉
㪉㪉
㪉㪉
㪊
㪈㪍
㪊㪉
㪍㪋 㪈㪉㪏 㪉㪌㪍 㪌㪈㪉 㪕㪌㪈㪉
㪈
㪌
㪉㪇
㪉㪌
㪉㪌
㪈
㪉
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㪉㪈
㪊
㪉
㪈
ㄘ႐↱᧪ᩣ
䌓䌔
㪐㪇䌫䌢
㪌㪇䌫䌢
㪍㪅㪏䌫䌢
㪈㪊㪇
㪈㪉㪇
㪈㪇㪇
㪌㪇
㪌㪅㪊
図1 プラスミドプロファイル
㪈㪇㪇 㪈㪉㪇
㪎㪉
㪌㪇
7
豚病会報 No.51 2007
䈫⇓႐↱᧪ᩣ
ㄘ႐↱᧪ᩣ
䈫⇓႐↱᧪ᩣ
䌘䌢䌡㸇
ㄘ႐↱᧪ᩣ
䌂䌬䌮㸇
図2 PFGE
それ以外は全て同じであった。
(図2)
。
の豚で5
0%(
2.抗体検査
鑑定
盧 と畜場
分離農場と病性鑑定
農場では
−
値の分布を示した。
表3に20
01年度から2
0
06年度にかけて実施した抗体
検査成績を示した。検査戸数で見た陽性率は2
00
2年か
が確認された2
0
0
5年1
0月採材分では、
1
80日齢
㪦㪛୯
㪈㪅㪍
㪉㪇㪇㪌
㪈㪅㪋
㪉㪇㪇㪋
㪉㪇㪇㪊
㪈㪅㪉
㪈㪅㪇
㪇㪅㪏
㪇㪅㪍
㪇㪅㪋
㪇㪅㪉
㪇㪅㪇
㪇
㪋㪇
㪏㪇
ᣣ㦂
㪈㪉㪇
㪈㪍㪇
㪉㪇㪇
図3 A 農場 ELISA 成績(20
03∼2
00
5)
㪦㪛୯
㪈㪅㪍
㪉㪇㪇㪌
㪈㪅㪋
㪉㪇㪇㪋
㪉㪇㪇㪊
㪈㪅㪉
㪈㪅㪇
㪇㪅㪏
㪇㪅㪍
㪇㪅㪋
㪇㪅㪉
㪇㪅㪇
㪇
㪋㪇
)
、残りの3
盪 管内の浸潤状況確認のための抗体検査
農場では2
00
4年
採材分までは抗体陽性豚が認められなかったが、と畜
場で
発生後の採材で1
0
0%(
が分離された40∼12
0日齢を中心に29∼
10
0%の抗体陽性率を示した。
図3、4に20
0
3年度から2
0
0
5年度に実施した5農場
の
分離4農場のうち、と畜場採材のみ実施した
1農場では
分離農場の
抗体検査
)の抗体陽性率を示した。一方、病性
㪏㪇
㪈㪉㪇
㪈㪍㪇
ᣣ㦂
図4 病性鑑定 SC 分離4農場 ELISA 成績(20
0
3∼200
5)
㪉㪇㪇
8
Proc Jpn Pig Vet Soc No.51 2007
に有効であることが確認された。
表3 抗体検査成績(2001∼2006)
㧙▤ౝⴡ↢ᬌᩏࠃࠅ㧙
は豚を主な宿主とすると考えられている血清型
であるが、台湾においては1
9
90年代初頭から、
ᐕ ᐲ ᬌᩏᚭᢙ 㓁ᕈᚭᢙ 㓁ᕈ₸(%)
に
よるヒトのサルモネラ症が報告されており、現在では
2001
52
8
15.4
2002
62
19
30.6
2003
69
19
27.5
サルモネラ症の治療に多用されるセファロスポリン系
2004
53
11
20.8
やフルオロキノロン系薬剤に耐性を示す株が増加して
2005
71
19
26.8
おり、臨床上、問題となっている。今回の薬剤感受性
2006
75
18
24.0
ヒトのサルモネラ症から分離される血清型として2番
目に多くなっている。また、近年のヒト由来株では、
試験成績では、と畜場由来株で
2株あり、
に耐性を示す株が
に対しても他の株より高い
値
ら20から3
0%の間で推移していた。検査頭数で見た陽
を示していたため、フルオロキノロン系薬剤耐性株の
性率は20
0
1年度3.
0%、20
0
2年度7.
5%、20
0
3年度5.
7
出現に注意が必要である。
%、2004年 度4.
0%、20
0
5年 度3.
4%、20
0
6年 度3.
7%
と畜場では生体検査や内臓検査等、と畜検査員の肉
眼による検査で異常が確認された場合に精密検査が行
であった。
検査を実施した実戸数1
2
5戸中6
0戸が抗体陽性で
われる。そのため、サルモネラ属菌に感染しているが、
あった。この60戸の内、病性鑑定を実施し豚サルモネ
肉眼所見で異常が認められない家畜のと体が食肉とし
ラ症と診断された農場は7戸、と畜検査において豚サ
て流通する可能性がある。今後は農場において、
ルモネラ症と診断された農場は1
7戸、病性鑑定・と畜
を含め、家畜を宿主とすると考えられているサルモネ
検査両方において豚サルモネラ症と診断された農場は
ラ属菌に対しても、公衆衛生分野への影響を考慮に入
5戸で、合計29戸で発生が確認された。また、抗体陰
れた対策を行う事が重要である。
性農場においても4戸が、と畜検査で豚サルモネラ症
今回、
ける
と診断された。
法を用いた抗体検査により、農場にお
の浸潤状況と感染時期の把握が可能である事
が確認された。しかし、家保が実施する農場の衛生検
考察
査において、肥育豚の抗体検査は通常60、90、120日
今回、普通畜としてと畜場に出荷された豚から分離
された
と、下痢やチアノーゼ等を呈し、病性鑑定
齢を対象とし、疾病の発生が少ない1
5
0日齢以上の肥
育豚は対象に含まれない事が多いため、農場における
の性状および農場に
15
0日齢以上の衛生状況は余り把握されていない。今
おける抗体保有状況を比較した。と畜検査および病性
後は家畜衛生および公衆衛生の両分野から、豚サルモ
鑑定時の内臓病理所見、分離株間の薬剤感受性試験、
ネラ症への対策が必要となるため、と畜検査でサルモ
を実施した豚から分離された
、
の成績では、同一農場由来株を含め、大き
ネラが分離された農場では15
0日齢以上も対象にした
な違いは認められなかった。抗体検査成績において、
衛生検査を実施することにより、出荷日齢までの衛生
農場では出荷直前の18
0日齢のみ抗体陽性豚が認め
状況を把握した上で、農場に対する衛生指導を行う事
られ、4農場では
の分離日齢を中心に抗体陽性豚
が多く認められたことから、臨床症状の発現に
の
感染時期の違いが影響を及ぼす可能性が考えられた。
感染時期に違いが起こる原因については、今後検討し
ていく必要があるが、 農場は抗体検査成績において、
病性鑑定
分離農場と比較してオーエスキー病や
Ⅱを始めとする他の疾病への感染率が低いことか
ら、肥育前期における農場の衛生状況の違いが一因と
推測された。また、20
0
1年度から実施している抗体検
査成績において、抗体陽性農場では豚サルモネラ症の
発生頻度が高いことから、抗体検査は汚染状況の把握
が重要である。
最後に菌株を分与していただいた、群馬県食肉衛生
検査所の方々に深謝します。