輸血による感染症 鹿児島大学輸血部 古川良尚 病原体検査 • 日赤血(献血)について行われている病原体検査 梅毒血清反応 B型肝炎ウイルス; HBs抗原・HBc抗体 C型肝炎ウイルス; HCV抗体 NAT検査 HIV; HIV-1, 2抗体 HTLV-I 抗体検査 ヒトパルボウイルスB19抗原 輸血後感染症 • 輸血後肝炎:輸血後肝炎の診断基準 1.輸血後、2週間以降6ケ月の間に、S-ALT(S-GPT)が100 IU/L 以上の肝機能異常が初発し、継続的に2週以上に及んだ場合。 2.上記1.の症例の中で、輸血後に、HBs抗原が陽転するかHBVDNAが陽性化したものを輸血後B型肝炎と診断し、HCV抗体 が持続陽転するかHCV-RNAが陽性化したものを輸血後C型 肝炎と診断する。その他は非B非C型肝炎として扱う。 3.ただし、原疾患・術後肝障害、薬剤性・脂肪肝・肝機能障害を呈 する事が知られている肝炎ウイルス以外の既知のウイルス性 疾患等は除外する。 輸血後肝炎発症率の変化 売血のみ(1963-1964) 献血制度への切り替え(1965-1967) 献血制度に一本化(1968-1972) HBs抗原検査開始後(1973-1989) HBc抗体検査・HCV抗体第一世代 (1990-1991) HCV抗体検査第二世代(1992-1995) 0 10 20 30 40 50 60 発症率(%) 片山 透 資料 Window期とは (検査の感度にのるまでの時期に献血された血液は 感染症陰性として出庫されるが、感染性がある) ウイルス RNA増殖 HIV感染 NATの感度にのる 時期 (平均11日) 免疫反応による HIV抗体産生 抗体検査の感度にのる 時期(平均22日) NAT (Nucleic acid amplification test): 核酸増幅検査 • 平成11年(1999年) 10月10日より実施 • 感染してから検査陽性となるまでの期間(ウイン ドウ期)を短縮する • HBV、HCV、HIVを対象 • ウインドウ期の比較 NAT HBV HCV HIV 梅毒 約34日 約23日 約11日 抗原・抗体検査 平均59日 平均82日 平均22日 4~6週間 その他の輸血による感染症(1) • HTLV-I 成人T細胞白血病(ATL)とHTLV-I関連脊髄症(HAM)の病原ウイルス。 リンパ球内にプロウイルスとして存在し、血清中には存在しない。 輸血感染ではATLは発症せず、HAMが発症しうる。 1999年度から献血者のうち希望者に感染を通知している。 • サイトメガロウイルス リンパ球・顆粒球・単球・マクロファージの細胞内に潜伏感染し、通常血清中 には存在しないので、HTLV-Iと同様、新鮮凍結血漿(FFP)では感染しない。 免疫抑制状態の場合に抗CMV抗体陽性血液製剤が投与されると潜伏して いたCMVが受血者体内で活性化され間質性肺炎・肝炎・胃腸炎・溶血性貧 血・血小板減少を来すことがある。 成人のCMV抗体陽性率は80~90%と高いが、臓器移植後の易感染性宿主 や、未感染妊婦、未感染妊婦からの低体重出生時への輸血は、抗CMV抗 体陰性血または白血球フィルター処理の血液製剤を用いるべきである。 その他の輸血による感染症(2) • 梅毒 梅毒の抗体検査によるWindow期は4~6週間であるので、抗体検査では 阻止できない。 しかし4~6℃保存で通常72時間で感染性が消失する。 • マラリア 血液製剤中のマラリア原虫は4 ℃で少なくとも1週間生存する。 流行地帯からの旅行者は入国後一定期間は献血を受け付けない。 • ウエストナイルウイルス 1999年にアメルカで流行し、2003年には米国内で感染の拡大がある。 節足動物(蚊)を介して人に伝搬し、発熱、場合によっては脳炎を惹起する。 輸血による感染が確認されている。 • ヒトパルボウイルスB19 小児で伝染性紅班、成人では溶血性貧血の患者では重症の貧血を来す。 SD処理ではウイルスが不活化できないのでγグロブリン製剤では感染の 可能性がある。 輸血による感染が危惧されている感染症 プリオン病 • 孤発性のCreutzfeldt-Jakob病(CJD) 輸血による感染は疫学的に結果より起こらないと考えられている。 • 変異型CJD (vCJD) 狂牛病の牛肉摂取と関連するCJD。 輸血による感染の可能性が以下の理由で危惧されている。 1. 羊での動物実験では輸血で発病。 2. リンパ節に異常プリオンを認める。 3. vCJDを発症する3.5年前に献血された血液を輸血された 受血者 が輸血の6.5年後にvCJDを発症(Lancet 2004 Vol363, p417) 輸血によるE型肝炎ウイルス(HEV) • 輸血による感染症例: 3例 • 不顕性感染が多いが急性肝炎・激症肝炎となり死亡するこ とあり。 慢性肝炎には移行しない。 • 通常は経口感染。(豚由来の食品や野生動物の食肉) 潜伏期間は2~9週間(平均6週間)。 感染初期のウイルス血症で輸血でも感染。 • ALT200以上のHEV-NAT陽性者: 15例 ALT>200 全国 15/1389(1.1%) 北海道 4.6% • 医用ミニブタ(クラウン系ミニブタ)ではHEV-RNAおよび抗 HEV抗体ともに検出されていないが、医学実験でよく用いら れるベビー豚とよばれる産業用ブタの6ケ月未満の子豚は HEVウイルス保有の危険性が高い。 輸血感染症安全対策 • • • • 問診の強化、献血者の意識の向上 NAT(核酸増幅検査)の精度向上。 FFP(新鮮凍結血漿)の貯留保管。 製剤のウイルス(感染性因子の)不活化。 献血受付時の本人確認 • 検査目的での献血防止対策の一環 「安全で責任ある献血」 • 平成16年10月1日から全国的に開始 • 身分証明書等の提示。 運転免許証、パスポート、健康保険証等。 NATの精度向上 • 検体プール数の減少(50本→20本プール) 当面の間の向上策として実施 平成16年8月28日検査分より実施 • 50本NAT, 20本NAT, 個別NATのウィンドウ期間 HBV HCV HIV 50本NAT 46日 24.8日 14日 20本NAT 44日 24.5日 13.5日 個別NAT 34日 23日 11日 FFP(新鮮凍結血漿)の貯留保管 目的: • 遡及調査の結果及び輸血後情報等に基づき、 貯留保管中の該当FFPを確保(拭き取り)する。 • より安全性が確認されたFFPを医療期間に供給 する。 実施時期: • 平成17年7月末に貯留期間を180日(6ケ月間)に する。 • 180日の貯留期間でNAT(+)のFFPの40%を排 除。
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