( ) 【原 著】 産業動物 による豚の疣贅性心内膜炎多発例と 心内膜炎由来株の解析 小林亜由美 北海道石狩家畜保健衛生所(〒 和田 ‐ 要 平成 好洋 札幌市豊平区羊ヶ丘 番地) 約 年、母豚 頭を飼養する石狩管内の一貫経営養豚場(A 農場)で、肥育豚に ( ) による疣贅性心内膜炎が多発した。疣贅性心内膜炎の多発要因検討のため、A 農場の豚より分離された心内膜 炎由来 株と、と畜場へ搬入した B∼E 農場の豚から分離された心内膜炎由来 株の計 マルチプレックス PCR 法による莢膜形成遺伝子( )型別および共凝 集反応による血清型別を実施した。その結果、A 農場およびと畜場で疣贅性心内膜炎から れていた B 農場では、 株を用い、 2 型株のうち血清型別不能だった株がそれぞれ あり、これらの株は莢膜を欠損している可能性があった。 株中 株( %)と が多く検出さ 株中 株( %) による疣贅性心内膜炎の多発要因として、 の莢膜欠損株の農場内での浸潤が示唆された。 キーワード: 、疣贅性心内膜炎、莢膜欠損株 北獣会誌 ( )は豚レンサ球菌症の原因 菌で、豚に髄膜炎や心内膜炎などを起こす。また、ヒト Ⅰ.A 農場の は、莢膜多糖体の抗原性の違いにより 種 者由来株の多くは血清型 では豚の疣贅性心内膜炎から血清型 型の が高 ( ) による疣贅性心内膜炎発生 .肥育豚における心内膜炎の発生状況 類の血清型に型別されるが、日本では病豚およびヒト患 型である[ ]。近年、と畜場 ∼ 概要 にも感染するため人獣共通感染症としても重要な疾病で ある。 , A 農場は、母豚 成 年 月から 頭を飼養する一貫経営養豚場で、平 ∼ カ月齢の肥育豚で発育不良・チア ノーゼを呈し、心内膜炎と推察される死廃事故が多発し 率に分離されているが、その農場には偏りがあるとの報 た。事故率は、平成 告がある(東京都芝浦食肉検査所 HP、調査研究内容 次は .%に上昇し、うち心内膜炎と思われるものは ‐ )。今回、石狩管内の一貫経営養豚場(A 農場)で、 .%だった(図 年次は .%だったが、平成 )。平成 年 年次の心内膜炎と思われる 疣贅性心内膜炎による死廃事故が多発したので、その概 要ならびに による疣贅性心内膜炎の多発要因検 討のため、A 農場およびと畜場で豚の疣贅性心内膜炎か ら分離された の解析を実施したので報告する。 図 連絡責任者:和田 〒 TEL 好洋 ‐ 北海道石狩家畜保健衛生所 札幌市豊平区羊ヶ丘 − A 農場における肥育豚の事故率 − FAX 番地 − − E-mail : [email protected] 北 獣 会 誌 ( ) ( ) た。腸間膜リンパ節は充血・腫大していた。その他臓器 に著変はみられなかった。 ⑵ 細菌学的検査 頭中 頭(No. 、 ∼ を分離した。なお、 )の心臓および血液から 頭(No. 、 )は遊走菌 の影響により分離できなかったが、心臓の乳剤を用いた 図 A 農場における月別死廃頭数(平成 豚の死廃頭数は、 頭中 を通じて認められた(図 頭( PCR により 年次) の臓器から菌は分離されなかった。分離株 た肥育豚 あるペニシリン系のアンピシリンおよびアモキシシリン )。 は 頭、死体 ウイルス学的検査 豚コレラウイルス、豚繁殖・呼吸器症候群ウイルス 頭)の病性鑑定を実施 (PRRSV)および豚サーコウイルス した。 ⑴ 株すべて感受性だった。 ⑶ ∼ 月の間、発育不良・チアノーゼを呈し 頭(生体 株を用いた 薬剤感受性試験では、豚レンサ球菌症の第一次選択薬で .%)で、発生は年間 .病性鑑定 平成 年 遺伝子[ ]を検出した。その他 の 型(PCV2)につ いて遺伝子検出を実施した[ − ]。PCV2 は全頭陽性、豚 剖検所見 外景は、全頭で発育不良および耳介にチアノーゼがみ コレラウイルスおよび PRRSV は全頭陰性だった。 られた。内景は全頭の心臓に疣贅性心内膜炎がみられ、 ⑷ 主に左房室弁(最大で 心臓の心内膜にはグラム陽性球菌の増殖(図 × × . cm)にみられたが、 一部右房室弁にもみられた(表 、図 )は心外膜炎もみられた。また、 )。 頭(No. 、 頭(No. ∼ 病理組織学的検査 )と好 中球の浸潤、心外膜には線維素が析出していた。肺は、 ) 間質および肺胞の水腫と肺胞内にマクロファージの浸潤 の肺に充血・水腫がみられ、肺門リンパ節は腫大してい 図 症例 No. の心臓の割面(ホルマリン固定) 図 左右房室弁の疣贅性心内膜炎(矢印) 表 症例 発育不良およびチアノーゼを呈した肥育豚の剖検所見 心臓 No. 検査年月 区分 獣 会 月齢 性別 心内膜炎 (左房室弁) (右房室弁) 肺 リンパ節腫大 心外膜炎 水腫 肺門 腸間膜 H . 生体 雄 − + − − − + H . 死体 雌 + − + + + + H . 死体 雌 + − + + + + H . 死体 雄 + + − + + + H . 生体 雌 + + − + + + H . 死体 雌 + − − + + + +:病変あり −:病変なし 北 の心臓(グラム染色) 心内膜にグラム陽性球菌(矢印)の増殖 誌 ( ) ( ) の泳動条件で PFGE を行い、クラスター解析により PFGE プロファイルの系統樹解析を実施した[ 成 . がみられた。なお、ウイルス検査で全頭から PCV2 遺伝 株が血清型 キシシリンの投与( mg/kg/日、飼料添加)を開始し た。その結果、心内膜炎と思われる発育不良・チアノー ていない(図 ・血清型別ともに型別 型、D 農場株は ・血清型別とも ・血清型別ともに型別不能であっ )。 .PFGE による遺伝子型別 Ⅰ∼Ⅵ型の つのパターンに型別され、A 農場株は 株すべてⅠ型、B 農場株は 株がⅡ型、 株がⅢ型、C、 月以降は認められ ) 。 Ⅱ.疣贅性心内膜炎から分離された の 型、血清型および PFGE 型 の解析 分離場所 菌株 No. 分離年 による疣贅性心内膜炎の多発要因を検討するた 型 血清型 (PCR) (凝集反応) PFGE A 農場 A− H 型別不能* Ⅰ A 農場 A− H 型別不能* Ⅰ ∼ 年にと畜場で豚の疣贅性心内膜炎から A 農場 A− H Ⅰ (と畜場心内膜炎株)の解析を実施し A 農場 A− H Ⅰ と畜場 B− H Ⅱ と畜場 B− H と畜場 B− H / Ⅱ と畜場 B− H 型別不能* Ⅱ と畜場 B− H と畜場 B− H め、A 農場の豚の疣贅性心内膜炎から分離された心内膜 分離された た。 材料と方法 .供試株 生体 頭および死体 農場心内膜炎株 (B 農 場 2 型で、う 株は 表 炎株と平成 株が 株は型別不能で、他 た(表 年 株中 / 型に型別されたが、 薬剤感受性試験によりペニシリン系の抗生剤が感受性 ゼによる死廃数は減少し、平成 型、 株が型別不能であっ 株が に 日間、アモ 2 型に型別さ 型、 .対策 月から離乳後 株が 不能であった。C および E 農場株は 子が検出されたが、PCV2 の所見はみられなかった。 年 株すべて た。と畜場株は、B 農場株は ち だったことから、平成 績 型別では れたが、血清型別では A 農場における対策後の月別死廃頭数 ] 。 型別および血清型別 A 農場株は、 図 − 頭の病性鑑定で分離された A と畜場 C H 株 と畜場 D H 株)を 用 い た。な お、B と畜場 E H 株およびと畜場心内膜炎株 株、C∼E 農 場 各 戸 農場では、と畜場に搬入した豚の疣贅性心内膜炎から が多く検出されていた。 .莢膜形成遺伝子( * 型別で血清型 だった菌株 Ⅱ 型別不能 型別不能 Ⅲ Ⅱ Ⅴ 型別不能 型別不能 Ⅵ Ⅳ 型と推定されたが、血清型別では型別不能 )型別 の血清型を決定する莢膜多糖体の形成に関与す る莢膜形成遺伝子( )を検出し、血清型推定を行う マルチプレックス PCR[ ]を実施した。 .血清型別 上記 PCR から推定された血清型について、抗血清を 用いた共凝集反応[ 、] を実施した。 .パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)による遺 伝子型別 制限酵素 SmaⅠを用い、電圧 V/cm、パルスタイム .− . sec、泳動時間 時間、泳動温 度 ℃、流 速 図 の PFGE プロファイル 北 獣 会 誌 ( ) ( D、E 農場はそれぞれⅤ、Ⅵ、Ⅳ型に型別された。 (表 、図 来は異なる一方、農場毎では ・血清型 型株と ) 2 型・血清型別不能株は同一の型に型別されたことから、 ) 考 それぞれ農場毎に由来の異なる有莢膜株が突然変異によ 察 り莢膜欠損株となり、それが農場内で浸潤したことによ は豚レンサ球菌症の原因菌であるが、健康豚の り疣贅性心内膜炎を発症しやすくなったと推察された。 多くが上部気道や生殖器などに保菌しており、本症を発 症する個体はそのうちの一部である[ ]。 稿を終えるにあたり、分離株の 別を実施していただきました国立研究開発法人 農業・ 近年、と畜場では疣贅性心内膜炎の原因として が問題となっている(平成 型別および血清型 年度日獣年次大会講演要旨 食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 細菌・寄生 による疣贅性 虫研究領域の高松大輔先生、と畜場分離株を分与いただ 心内膜炎が多発した症例はほとんど報告がない。そこで きました北海道早来食肉衛生検査所の諸先生方に深謝い 著者らは、疣贅性心内膜炎の多発要因を検討するため、 たします。 集、p 、 )が、農場において A 農場の豚の心内膜炎から分離された およびと 引用文献 畜場に搬入された豚の心内膜炎から分離された について解析を行った。 [ ]高松大輔: 疣贅性心内膜炎が多発した A 農場およびと畜場で疣 贅性心内膜炎から が多く検出されていた B 農場 から分離された では、 型別で 型に型別され た株のうち、血清型別不能だった株がそれぞれ 株( %)と 株中 株( %)あった。 - based on the gene encoding the gluta- 84 (2003) [ ]Vilcek S, Herring AJ, Herring JA, Nettleton PF, Lowings JP, Paton DJ : Pestiviruses isolated from 2 型・血清型別不能だった株がそ pigs, cattle and sheep can be allocated into at least 株あったが、PFGE ではいずれもⅠ型に型別さ three genogroups using polymerase chain reaction れた。同様に B 農場では、 ずれも erase chain reaction (PCR) assay specific for 型別および血清型別でいずれ 型だった株と れぞれ ) mate dehydrogenase, FEMS Microbiol Lett, 218, 79- 型別され、農場毎に菌株の由来が異なることが示唆され も 、 ‐ ( [ ]Okwumabua O, O Connor M, Shull E : A polym- 株中 PFGE は、概ね農場毎にⅠ∼Ⅵ型の つのパターンに た。また、A 農場では 日本細菌学雑誌、 の多様性と病原因子、 型だった 株と 型別および血清型別でい 2 型・血清型別不能だった 株は、PFGE ではいずれもⅡ型に型別されたことから、 各株の由来は同一であると考えられた。 は、莢膜多糖体の抗原性の違いにより and restriction endonuclease analysis, Arch Virol, 136, 309-323 (1994) [ ]Kono Y, Kanno T, Shimizu M, Yamada S, Ohashi S, Nakamine M, Shirai J : Nested PCR for detection 種類の and typing of porcine reproductive and respiratory 血清型に型別されるが、莢膜欠損株では血清型別不能と syndrome (PRRS) virus in pigs, J Vet Med Sci, 58, なる。豚心内膜炎由来株には、 941-946 (1996) 推定される株の少なくとも 型別で血清型 型と 割が莢膜を欠損していると [ ]Hamel AL, Lin LL, Nayar GP : Nucleotide se- の報告があり、また、莢膜欠損株は莢膜発現株に比べ豚 quence of porcine circovirus associated with post- 血小板に対し高い付着能を有し、付着能の増加が心内膜 weaning multisystemic wasting syndrome in pigs, J 炎の発症に有利に働くとの報告がある[ ]。さらに、同 Virol, 72, 5262-5267 (1998) 一個体の心内膜炎病変部から分離された有莢膜株と無莢 [ ]Okura M, Lachance C, Osaki M, Sekizaki T, 領域の塩基配列を解析したところ、無莢膜株 Maruyama F, Nozawa T, Nakagawa I, Hamada S, に莢膜の欠損に関与する可能性のある変異や挿入が認め Rossignol C, Gottschalk M, Takamatsu D : Develop- られたとの報告がある[ ] 。そのため、今回農場で疣贅 ment of a two-step multiplex PCR assay for typing 性心内膜炎が多発した A 農場およびと畜場で疣贅性心 of capsular polysaccharide synthesis gene clusters 内膜炎から of 膜株の された が多く検出されていた B 農場で分離 2 型の血清型別不能株は、莢膜を欠損してい る可能性が示唆され、また、PFGE で各農場間の株の由 北 獣 会 誌 ( ) , J Clin Microbiol, 52, 1714-1719 (2014) [ ]Han DU, Choi C, Ham HJ, Jung JH, Cho WS, Kim ( ) J, Higgins R, Chae C : Prevalence, capsular type and mura S, Takeuchi D, Nakayama T, Nakamura S, antimicrobial susceptibility of Akeda Y, Gottschalk M, Sawanpanyalert P, Oishi K : iso- lated from slaughter pigs in Korea, Can J Vet Res, Genotypic profile of 65, 151-155 (2001) and clinical features of infection in humans, Thailand, Emerg Infect Dis, 17, 835-842 (2011) [ ]Lakkitjaroen N, Takamatsu D, Okura M, Sato M, Osaki M, Sekizaki T : Loss of capsule among - [ ]Vela AI, Goyache J, Tarradas C, Luque I, Mateos isolates from porcine endocarditis and A, Moreno MA, Borge C, Perea JA, Domínguez L, its biological significance, J Med Microbiol, 60, 1669- Fernández-Garayzábal JF : Analysis of genetic diver- 1676 (2001) sity of Microbiol, 41, 2498-2502 (2003) bisch M : Genetic diversity of strains isolated from pigs and humans as revealed clinical isolates from pigs in Spain by pulsed-field gel electrophoresis, J Clin [ ]Berthelot-Hérault F, Marois C, Gottschalk M, Ko- [ serotype 2 [ ]遠矢真理、石田沙倉、大倉正稔、高松大輔、大崎 by pulsed-field gel electrophoresis, J Clin Microbiol, 慎人、関崎 40, 615-619 (2002) 来 ]Kerdsin A, Dejsirilert S, Puangpatra P, Sripak- 誌、 勉:莢膜の有無に着目した豚心内膜炎由 の遺伝学的解析、家畜衛生学雑 、 ‐ ( ) dee S, Chumla K, Boonkerd N, Polwichai P, Tani- 北 獣 会 誌 ( )
© Copyright 2024 ExpyDoc