OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 第19巻第2号(1968) 115 ナツダイダイ樹の発育生理に閲す−る研究 Ⅰ 成熟果の大きさと果実の形態ならびに 二,三の生理的特性の比較 井上 宏,山本裕昭,福田光男 Ⅰ,は し が き ここ数年来,筆者の−・人,井上(8)はナツダイダイの果実の発育をいろいろな面から追究してきた.ナツダイ ダイほ大果ほど単位重量あたりの市場価格が高く,大果の多収が経営上望まれるところである.この研究は 同一・樹から収穫した種々の大きさの成熟果について,果実の大きさと果実の形態ならびに生理的特性の関係 を検討し,果実を含めたナ・ツダイダイ樹の発育生理を究明し,実際栽培に資することを目的としたものであ る.. 本実験を実施するにあたり,ご協力をいただいた本学果樹園芸学第二研究室の専攻生および研修生の各位, ならびに実験材料を提供下さった高松市中山町の谷義照氏に深謝の意を表する. なお,本報告の要旨は園芸学会昭和41年度中四国支部大会において発表した. ⅠⅠ.実験材料および方法 (1)実験材料 高松市中山町(香川県のナツダイダイの集団産地)の谷義照氏園の1樹から1966年5月 21日,成熟果を採取した.同園は南面の緩傾斜地で,土質は安山岩土壌であった..施肥畳は10ア−ルあたり 年間N4・5kg,P20540kg,K2035kgであったm供試樹は約65年生で,カラタチ台であるが,白根の発生し た幹周約140cmの大木で,樹勢よく約200kgの果実を着生していた.これらの果実の中からナツダイダ イの全国統一・出荷規格にしたがって,LLからSSの果径(横径)の果実をそれぞれの階級について約20果ず つ採取し,果実の大きさと,その形態および生理的特性の 関係を調査した.なお,SSより小さい果実をSSSとして 加え,計6階級とした(第1表). 実重,果実容概を測定し,果径指数(縦径/横径)および果 実比重(重畳/容積)を艶出した. ii)果皮重割合と果皮の厚さ 果実の生体重に対する 果皮の重盛%を果皮重割合として算出し,果皮の博さほ果 梗基部,赤道部および果頂部についてダイヤル・キャリバ 智 級l 果実の横径(cm) S LLIMSSSS (2)方 法 i)果実の外部形態 横径,縦径,果 第1表 果実の階級 1019 以上 10い2∼10い9未満 9,5 ′〉102 〝 88 ∼ 9.5 〝 80.・..8。8 〝 80 〝 ー・により測定した∴アラベド組織の厚さも同様にして測定 し,アルベド組織の厚さは果皮の厚さよりフラベド組織の 厚さを減じて算出した.なお,■フラベド組織の厚さには表皮および下皮の厚さも含めた. iii)じようのう皮の厚さ じようのう皮の厚さをじようのうの赤道部の側面中央部でダイヤル・キャリ パ」一により測定した.. iv)含有種子数と種子重 各果実について,その中に含まれている完全種子と不完全種子の数を測定し た.不完全種子とは充実不十分なものと「しいな」である. v)砂じよう数 各果実について砂じようの数を数え,砂じよう数と果実の大きさとの相関関係をみた.. この場合,果実の大きさとして種子を除いた果肉重を用いた. S OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 116 香川大学農学部学術報告 vi)呼吸強度 果実の大きさによる呼吸強度を比較するために,密閉式呼吸測定法により,200Cで測 定した.すなわち,デシケ・−タ」−・にソー・ダ・ライム管を連結し,炭酸ガス除去の空気が出入できるようにし, デシケ」−・タ」−・の底には蒸発皿に0小2Nの苛性カリ水溶液を入れ,その上に果実を入れて,200Cの恒温室に10 時間放置したのち,塩化バリウムを加え,0・2Nの塩酸で炭酸ガスの呼出量を定量した. vii)果汁の品質 i)で供試した果実の一・部につし)て,果汁を採取し,屈折糖度計で可溶性固形物を測定 し,さらに全糖,還元糖および酸含量を定量した..糖の定量はSoMOGYI新試薬法(りにより行ない,酸の定 量は0り1N苛性ソ−・ダで滴定し,クエン酸畳で表示した. ⅠⅠⅠ..実験結果および考察 (i)果実の外部形態 供試果実の横断面と縦断面の写真を第1図に,果実の大きさと果径指数および果実比重の関係を第2表に 示す.大果ほど果形は扁平であり,果径指数(縦径/横径)は低下するが,小果になるにしたがって球形に近 くなり,横径の発育が劣った..果実比重は逆の傾向を示して小果で大となり,大栄で小となった. 第1図 供試果実の横断面と縦断面 第2表 果実の大きさと果実の形質 階 級l横 径l縦 径 t 果径指数l果 実 重l果実容積l果実比重 注)果径指数=縦篠÷横得 OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ l17 第19巻第2号(1968) ナツダイダイの果実は,越冬後成熟期に入ると横径の肥大がいちじるしく,扁平果となると同時に,果皮 の発育がいちじるしいためと,果心の空隙が大きくなるために果実比重が低下する(3).本実験で調査した同 劇樹からとった果実で,大果では前述の形態上で果実の成熟のすすんだ傾向を示し,逆に小果では成熟段階 の遅れた傾向を示した. (ii)果皮の厚さと果皮重割合 果皮の厚さと果皮重割合は第2図および第3表のとおりである. 1エ 1 V S SS SSS 第2図 果実の大きさと果皮のフラベドおよびアルベド組織の厚さ 第3表 果実の大きさと果皮重塩割合 階 級l果 実 重 一 束 肉 重l果 皮 重l果皮重割合 果皮を表皮,下皮組織を含めた1フラベド組織と,以下のアルベド組織に分けて,その厚さをみたところ, 果実が大きくなるに従って果皮の厚さを増し,組織別には,とくに■フラベド組織の厚さの増加がいちじるし い..部位別に検討すると,この傾向は果梗部においてさらにいちじるしい.果梗部の果皮の厚さを占めるフ ラベド組織の厚さの割合はLLの41l9%に射し,SSSでは242%にとどまった。このことば井上(8)が述べ OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 香川大学農学部学術報告 118 たとおり,樹上で果実が越冬後,果梗部の果皮の2次肥大がとくに旺盛なことと関連し,大果では果梗基部 の果皮が盛り上る傾向にあるが,こればとくに表皮,下皮を含むフラベド組織の一・部の細胞の分裂・増殖と 伸長によるものと考えてよい.カンキツの果実の大きさと果皮の厚さの関係についてはグレープフル・−トに ついてSMITH9),バレンシヤオレンジについてREUTHER,SMIIH(8),WA【1ACEほか(10)の成紡があるが,いず れも大栄で果皮の厚くなる傾向を示している一. 上述のように果皮の厚さは大束ほど大であったが,果皮の重義割合をみると,果実の大きさにかかわらず 40∼42%の値を示し,差異がみられなかったい 第4表 果実の大きさとじょうのう 皮の厚さ (iii)じようのう皮の厚さ 果実の大きさとじようのう皮の厚さの関係は第4表のと おりである.大栄となるほど,じようのうも厚くなる傾向 を示した. 階 級l じょうのう皮の厚さ 207/J I」L (iv)含有種子数と種子重 L 果実の大きさと各果実に含まれる種子数および種子重の M 関係は第5表のとおりである.. S 果実が大きいほど含有種子数の多い傾向にあった.この 傾向は完全種子数にみられるもので,その10%内外にあた S S S S S 193 205 180 170 170 る不完全種子数には−・定の傾向はみられなかった.また, 種子重は明らかに大果で多く,小果で少ない傾向にあった. これは完全種子100粒重についても同様であっ た.なお,完全種子数と果実重の相関係数を求めたところ, +0499で,1%水準で有意な正の本日関関係を 認めた. 第5去 来実の大きさと含有種子数および梯子重 階 級 【完全種子数l不完全種子数】種 子 重* ぎ 完全種子100粒重 * 不完全種子歪も含む 種子の発育をその生体重の変化で季節を追って観察した成緻(8)によると,収穫前年の11月頃最大となって, それ以後種子は肥大しない.このことから,種子の発育と果実の発育が関係があるとすれば第1次肥大期(3) (開花当年の果実の肥大期間)の果肉の肥大と関係があるはずである‖ 第2次肥大期は果皮の発育が旺盛であ るが,種子の発育はまったくみられず,果実の2次肥大と含有種子数の関係は少ないと推察する.. なお,藤井ほか(1)はナツダイダイの成木の1樹から収穫 した果実を大きさ別に分け,含有種子数を調査したところ, 果実の大きいほど,種子数の多いことを認め,さらに冬季 第6表 果実の大きさと砂じょう数 塔 級】砂じょう数(1果あたり) LlMSSS いる. (Ⅴ)砂じよう数 S うも多数含まれる傾向を示した,.砂じよう数と種子を除い S 果実の大きさと含有砂じよう数の関係をみると,第6表 のとおりである..すなわち,果実が大きくなるほど砂じよ l の生理的落果は種子数の少ないものに多かったと報告して OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 第19巻第2号(1968) 119 た果肉重の相関係数を求めたところ,+0.488で,1%水準で有意な正の相関関係を示した. カンキツの果実の大きさと砂じよう数との関係は,温州ミカンの普通種(5),早生種,八朔および伊予カン(4) において,いずれも大きい果実ほど砂じよう数の多い傾向が認められている.ただし,倉岡,菊池(5)は温州 ミカンの普通種について,小果においては砂じよう数の変異が大きいが少なくともる大果となるためには砂 じよう数の多いことが必要だと言えると述べている.本実験においても,SSSの梅/ト果やLLの大果におい て砂じよう数の変異が多かったが,ナツダイダイでも大栄となるためには砂じよう数の多いことが必要であ ると思われるり ただ,ナツダイダイの場合は前項でも述べたように,果実の大きさは含有種子数とも関係が あり,種子が多数に形成され砂じよう数が多い果実が大果となる一.果実中に含まれる完全種子数と砂じよ う数の相関係数を求めると,+0473で1%水準で有意な正の相関関係を示した.松本(6)はカンキツ果実の 砂じよう原基の発生数ほ,発芽期前後から開花期にかけての樹体の栄養状態の良否に支配されると述べてい るが,受精による種子の形成,発育も開花期前後の栄養状態に左右されると考えられるので,有核種のナツ ダイダイ果実を大きくするためには発芽期から開花期にかけての栄養状態を良ぐすることがまず必要である と思われる.. (vi)呼吸強度 果実の大きさと20◇Cで測定した果実の呼吸強度を比較すると,第3図のとおりで,果実が大きいぼど果 実1kgあたりの炭酸ガス呼出盈は少なくなるが,1果あたりでは逆の傾向を示した. l時間あたり∽呼出畳 エエ ⊥ W S 55 SSS 第3図 果実の大きさと果実の呼吸強度 (vii)果汁の品質 果実の大きさと果汁の品質の関係をみると第7表のとおりである.. 果汁比重,可溶性固形物含意,全糖含盈および酸含盈のいずれも大栄で少なく,/ト果で多い傾向を示した. ただし,還元糖含盈は大果ほど大であった..全糖含虞を酸含盈で除した甘味比ではM級の果実が最大で,そ れより大果でも/ト果でも甘味比は低下した“ カンキツ果実の大きさと果汁の品質の関係についての成続は多い.可溶性固形物含盛についてはGARDNER ほか(2)がタンジェリンで,SMIrH(9)がグL/・−プフル−トで,WALLACEほか(10)がオレンジでいずれも大果で OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 香川大学農学部学術報告 120 第7表 果実の大きさと果汁の品質 可 階 級l果汁比重l品形届食違 溶 性 全糖含量l還元糖含塵 滅ずる傾向のあることを報告しているw酸の含量についてはGARDNERほか(2)がタンジェリンで,WAllACE ほか(10)はオレンジで大果になるほど減ずるとし,SMITIi(9)はグレープフルートで大果になるほど増加する としている.ナツダイダイでの本実験では前者の傾向と同様であったが,SMI川(9)はグレープフル−トのこ の逆の傾向を試料採取の時期の相違と,成熟後なお4∼うか月樹上におかれる特殊性によるものかも知れな いと述べている. 要 ⅠVn 摘 ナツダイダイの成熟期ト5月下旬)に同一・樹から収穫した種々の大きさの果実について,形態ならびに二, 三の生理的特性の比較を行なった. 1.大束は横径の肥大がよく,扁平果の傾向にあり,果実比重は小であった.果皮は大果で厚く,フラベ ド組織がとくによく発達していたが,果皮重割合は果実の大きさに関係なく,ほぼ40%前後の価を示した. じようのう皮の厚さは大果となるほど厚かった… 含有種子中の完全梯子数は大果で多く,小果では少なかっ た.不完全種子数には差がみられなかったい 完全種子の100粗重も大栄で遥かった. 2..果肉重盈と含有砂じよう数との関係をみると,砂じようが多いほど大果となる傾向にあり,相関係数 は +0・488で,1%水準で有意差を示したい 3.果実の呼吸強度は大果で小さく,小果で大であった.ただし,1果あたりの炭酸ガス呼出盈は大果ほ と大であった仙 4い 果実の大きさと果汁の品質の関係をみたところ,可溶性固形物,全糖および酸含羞とも大束で少なく, 小果で多かった..ただし,還元糖含選ば大束で多かった..全糖含盈を酸含量で除した甘味比では中果が最大 であったu 献酬 飢二刀 園 文 ︵ ︵ (1)藤井利重,大友忠三,赤松英宣,甲斐一・平: 松本和夫:柑橘,53,束京,朝倉各店(1960)ル 芸学会昭和38年度春季大会発表(1963). 村山 登,谷田沢道彦:作物試験法,304−307, (2)GARDNER,F…E。,REECE,P.C,HoRANIC,G 東京,農業技術協会(1963) E:アr∂‘.Am〝.ぶ〃(.月〃rJ.ぶ占ざ.77,188−193 (8)REUTHER,W.,SMIT王子,P.F:タr〃‘∴dmβr∫β‘ (1961) 励rJぶ‘≠,59,1−12(1952) (9)SMITH,P.F:Pro‘.Am〝.ぶ〃J\月わ圭㌫∠,83, (3)井上 宏:香川大学農学部紀要,第23号,ト 59(1967)仲 (4)菊池卓郎,門屋−・臣,倉岡唯行:関学雑,33 (1),8−12(1964) (5)倉岡唯行,菊池卓郎‥園学雑,30(き),189− 196(1961). 316−321(1963) (10)WALLACE,A.,CAMERON,S,H.,WIELAND, A‖T∴ Pro‘・d椚〝」ぶ鋸肋r′.∫J査,65,99−108 (195−5) OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ 第19巻第2号(1968) 121 Physiological studies on the growth of Natsudaidai trees (CYtru3nalsudaidaiHAYATA) Ⅰ・Comparisonsofthemorphologicalandphysiological characters ofmature丘uits ofdi鮎IentSizes HiroshiINOUE,HiroakiYAMAMOTO and Mitsuo FuKUDA SⅦmmary Morphologicaland physiologicalchar・aCterS Of6difftrent sizes ofmature Natsudaidai fiuitsharVeStedfiOmthesametr・eeWereinvestlgated. Theresultswereasfbllows. 1.Asthefhlitsizeincreased,thicknessofpeel,eSPeCiallyofflavedo tissue,increased, butthebulkdensityoffiuitdecreased. Theproportionofpeelweight to the fiuit weight WaSalmostconstant,aboutO.40.Thelargerfiuitscontainedalargenumberofftr・tileseeds・ TheweightoflOOfらrtileseedsofthelargerf王・uitswasheavierthanthoseofthesmallerones・ 2.Thenumberofjuicesacstendedtobemoreinthelargerfiuitsthaninthe smaller OneS. 3.Respiration rate ofthelarger fiuits waslowerthanthat of’the smaller・OneS. AmountofCO2eVOlutionperfiuit,however,WaShigherwithincreaslngfiuitsize. 4.Totalsolublesolids,tOtalsug・arSandacidcontentsofthejuicedecreasedasthefi・uit Sizeincreased,WhereasreducingSugarSincr・eaSed. Maximumsugar・aCid ratio was obtained in the medium size fi・uits. (1967年12月1日受理)
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