腫瘍マーカーの臨床応用について 教えてください。 ? 関西労災病院外科部長 高塚雄一 ▼ 腫瘍マーカーの測定は簡便性、迅速性、非侵 いては他臓器検索によるアップ・ステージングが 襲性に優れ、かつ安価であることから、日常臨床 行われ、かつ疑陽性例を術前にチェックしてお においては汎用されてきた検査法です。しかし、 く点での意義はあります。 効率的かつ科学的根拠に基づいた医療が叫ば 術前のサーベイランスにおける定期的な腫瘍 れている今日、腫瘍マーカーにおいてもその特 マーカーの測定は、生存率の改善と再発後の緩 性をよく理解したうえでの適切な測定が問われ 和医療に寄与しないことから、ASCO(American ています。 ASCO/NCCNの ガイドライン ■ 乳癌の腫瘍マーカー 術後のサーベイランスにお Society of Clinical Oncology) や NCCN(Natio nal Comprehensive Cancer Network)のガイド 乳癌において広く用いられている腫瘍マーカ いては、問診・理学所見と ライン では推奨されていません 2)。しかし、新 ーとしては、CEA、CA15 -3、NCC - ST- 439があり マンモグラフィが重要であ しい薬剤(タキサン、ビスホスホネート、トラスツ 1) (表1)、いずれの腫瘍マーカーも単独では原発 乳癌での陽性率は低く、進行癌や再発時でも40 り、定期的な腫瘍マーカー (CEA、CA15-3) の測定は 推奨されない。 マブなど)の登場により再発乳癌の治療体系は 変革期にあり、適切な間隔での腫瘍マーカー測 ∼60%程度の陽性率とされています (表2) 。さら 定は患者さんの不安の解消の面からも容認され に、CEAやNCC -ST- 439の場合には疑陽性例が ます。 問題となり、前者では喫煙や肝疾患が、後者で ■ 治療効果のモニタリングとしての意義 は婦人科疾患や肝・胆道疾患が疑陽性の原因と 再発例における病勢の把握、および治療効果 して知られています。このようなことから、診断 のモニターとしての腫瘍マーカーの測定は日常 臨床では一般的ですが、臨床試験における腫瘍 能向上を目的に複数の腫瘍マーカーの組み合わ せが行われていますが、保険診療の面からも2 RECISTの ガイドライン マーカーの扱いは少し異なっています。すなわ ∼3 種類の組み合わせが適切です。 腫瘍マーカー単独では効果 ち、RECIST(Response Evaluation Criteria in ■ サーベイランスにおける意義 判定に使用できないが、腫 Solid Tumors) のガイドライン では、標的病変 瘍マーカー高値例の完全効 一般に、術前検査としての腫瘍マーカー測定 の意義は乏しいとされていますが、陽性例につ 果の判定に際してはその正 常化が必要である。 (測定可能) と非標的病変を組み合わせて総合 判定していますが、腫瘍マーカー高値例の完全 効果の判定と非標的病変の評価に際しては、腫 瘍マーカーの併用が定められています 3)。 表1 乳癌の腫瘍マーカー 1) 腫瘍マーカーの臨床応用に際しては、ガイド 広く普及 CA15-3、CEA、NCC-ST-439 時に用いられる TPA、BCA225 ラインから大きく外れることなく、かつ柔軟な展 骨転移で使用 I CTPなど 開が望まれます。 高カルシウム血症で使用 PTHrP 研究段階 ECD-HER2、CYFRA21-1、KL-6、IL-6など 表2 腫瘍マーカーの感度と特異性 CEA CA15-3 NCC-ST-439 参考文献 感度 原発例(n=81) Stage Ⅰ/Ⅱ Stage Ⅲ/Ⅳ 再発例(n=49) 17.3% 16.0% 34.6% 9.5 44.4 3.2 61.1 25.4 66.7 46.9 42.9 53.1 95.1 99.4 84.5 特異性 非再発例(n=470) 4 乳癌診療 TIPS & TRAPS 1)紅林淳一:腫瘍マーカー. 再発乳癌治療ガイドブック,南江堂, p8084, 2002 2)Bast RC et al:2000 up date of recommendations for the use of tumor markers in breast and colorectal cancer:Clinical practice guidelines of American Society of Clinical Oncology. J Clin Oncol 19:1865-1878, 2001 3)Therasse P et al:New guidelines to evaluate the response to treatment in solid tumors. J Natl Cancer Inst 92:205-216, 2000
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