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平成 27 年 6 月 4 日
米国臨床腫瘍学会(ASCO)において BEST OF ASCO に選出
超早期乳癌である非浸潤性乳管癌に対する手術の生存改善効果
相良安昭
社会医療法人博愛会
相良病院
乳腺科部長
Dana-Farber Brigham and Women's Cancer Center,
Harvard Medical School 客員研究員
2015 年 5 月 29 日~6 月 2 日にアメリカのシカゴにて米国臨床腫瘍学会(ASCO)が開催され、25,000
人以上の癌の専門家が世界中から集まり、5,000 以上の最新の臨床試験や研究の結果が発表され
ました。私は今年 ASCO において非浸潤性乳管癌に対する手術の生存改善効果に関する研究結果を
発表し、私の発表が BEST OF ASCO という優秀演題に選ばれ、全米各地や日本でも発表される予定
です。また同研究を 6 月 3 日 JAMA Surgery にて論文掲載されました(JAMA Surg. 2015 Jun 3. doi:
10.1001)。論文の概要は以下のとおりです。
論文タイトル:低悪性度非浸潤癌に対する外科治療の延命効果: アメリカ地域住民を対象としたコ
ホート研究
研究背景、目的:乳房の非浸潤性乳管癌(DCIS)は乳管内に限局した病変で、他臓器への転移する
能力を持たない非常に早期段階の病変であるが、乳癌検診の普及と共に罹患数が非常に増加して
いる。アメリカでは 2015 年に 6 万人以上が DCIS に罹患しており、日本においても DCIS は乳癌患
者数の 15~20%を占め年々増加傾向である。DCIS は様々なバイオロジーを示し、核異形度はその
多様性を反映している。10 年の観察期間において、低異形度の DCIS は 40~85%が浸潤癌にならな
かったという報告や、高異形度の DCIS は乳癌術後の局所再発が高いことが知られていたが、DCIS
の早期発見と治療の臨床的意義は不明なままであった。そこで、DCIS に対する乳癌手術の生存率
改善に関する調査することを目的に研究を行った。
研究デザイン、対象:アメリカにおける癌患者の 28%が登録されている SEER データベースを利用し、
後ろ向きコホート研究を行った。 1988 年から 2011 年の間に、核異形度と手術の状況が明らかな
DCIS 57,222 症例を抽出し、乳房手術による乳癌特異生存率と全生存率の改善効果を検討した。
結果:DCIS 57,222 例のうち、1,169 例(2.0%)が手術をせずに管理され、56,053 例(98.0%)
が手術で管理されていた。診断から 72 ヶ月の追跡期間中央値では、576 例の乳癌による死亡
(1.0%)を認めた。10 年の乳癌特異生存率は非手術群で 93.4%、手術群で 98.5%と統計的に有
意な改善を認めた。生存率改善の程度は、核異形度によって異なっていた。低異形度 DCIS におい
て、10 年間の乳癌特異生存率は非手術群 98.8%、手術群 98.6%と統計的有意差は認めなかった。
一方で中間および高異形度の DCIS においては、手術群にて乳癌特異生存率の有意な改善を認めた。
また、同様の結果が、全生存率にもみられた。
結論:低異形度の DCIS に対する乳房手術を行う生存率の改善効果は、中間または高異形度 DCIS
のそれよりも小さかった。低異形度 DCIS の新たな治療戦略を明らかにするための積極的なサーベ
イランスや非手術治療方法の安全性や実現可能性を検討するための前向き臨床試験が望まれる。
私たちの臨床研究で、中異形度、高異形度の DCIS に対しては手術によって大きな生存改善効果
があることが示唆され、また逆に低異形度の DCIS に対しては、手術を行った患者と診断時に手術
を行わずにフォローされた患者さんの予後に統計的な有意差を認めませんでした。しかし、この
研究は後ろ向きコホート研究といって得られる情報が限られており、手術を診断時受けなかった
患者さんも暫くたってから手術を受けている可能性もあります。また低異形度 DCIS で手術を受け
られなかった方が 192 名と、統計学的な検討を行うためには少数でした。従ってこの結果を未だ
日常臨床にて用いることはできません。今後、科学的に妥当な臨床研究において非手術による治
療や経過観察の安全性を今後明らかにしていかなければなりません。現時点で DCIS と診断された
方に勧められる最善の治療は手術を行うことです。
患者さんにとって最適な治療を提供するために、過剰な診断や治療を少なくし、治療効果を高め
ていくことは、科学的妥当性のある研究で今後明らかにしなければならない課題です。日本のが
ん専門施設や大学、臨床試験グループと連携して、DCIS の患者さんへの負担の少ない非手術方法
や治療方針を明らかにするべく努力して参ります。