埼玉県立大学 WEB講座 平成23年10月 精神障害者のリカバリーとは 埼玉県立大学 保健医療福祉学部 作業療法学科 教授 大橋秀行 「リカバリーの意味」 この 8 年間ほど、精神障害を持つ当事者や精神障害領域の保健医療福祉分野の関係者の中に、 精神障害をもつ人(もしくは、自分自身)への支援のあり方を方向づける目標や理念として「リ カバリー」という言葉が使用されるようになっている。 リカバリーの意味は「人が精神疾患からもたらされた破局的な状況を乗り越えて成長すると いう、その人の人生における新しい意味と目的を発展させることである」1)といわれる。した がって、病気自体は治っていないがリカバリーは出来る、という表現が可能である。Recovery (リカバリー)、は通常の意味では回復であり、精神疾患の回復(Recovery)と表現すると当然 の表現であると受け取られがちだが、そのような当然の考え方とは、むしろ距離をおく考えで あることに意義がある。 「リカバリーの具体例」 さらに、下記のような精神障害をもつ当事者の発言を理解することによってその意味がより はっきりする。 ・ 「私はリカバリーというと “復活”するっていうイメージがあって、病気だからこそ、その 経験を活かして楽しみながら、いろんなことに取り組んでいくということじゃないかな。それ と、仕事によって病気の経験がいい社会経験に変換できるような気がします。」2) ・「はじめは幻聴がなくなることがリカバリーだと思っていました。今は小さな丸をつけられ ることが幸せだと思っています。薬は今も飲んでいますけど、幻聴もあるけどそれがあって安 心しています。 」2) 「リカバリー推進のための支援体制を」 精神疾患の中には、一部の統合失調症に罹患した人のように、数十年と服薬を続ける必要が ある場合がある。そのような長期に及ぶ医学的な治療を続けながら生活を営む場、大きくは社 会が、このようなリカバリーを許さない環境である例が少なくない。たとえば、地域社会に必 要なサービスがあれば、退院できるはずなのに、それがないために数十年と精神科病院に入院 している人達が未だにいる。 リカバリーの理念は、具体的には、住む場所の提供や、必要とされる様々な地域サービスの 提供などの実現を推進させるため、また、精神障害者に接する関係者や一般市民の態度や行動 のあり方にあるべき方向を示すためにも理解される必要性がある。リカバリーという言葉がこ のようにキーワードとして浮上する以前からリカバリーの推進と言ってよい現実が存在して いたし、大事にされていた事実もあるであろう。しかし、この言葉によって、人権の保障をさ らに進め、当事者の気持ちにそった、支援体制、さらには我が国の文化を作っていくことが今 までにも増して求められている。 引用文献 1)田中英樹:リカバリー概念の歴史,精神科臨床サービス,10:431,2010. 2)浦河ベテルの家:弱さを絆に,精神科臨床サービス,10:462,2010. 埼玉県立大学ホームページ http://www.spu.ac.jp
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