VNS Advancement for Epilepsy

VNS Advancement for Epilepsy
Vol.1
難治性てんかんに対する迷走神経刺激療法
~使用成績調査 中間成績報告から~
川合 謙介先生 NTT 東日本関東病院 脳神経外科部長
1.
迷走神経刺激療法とは
迷走神経刺激療法(vagus nerve stimulation:VNS)は、抗てんかん薬
では十分抑制できないてんかん発作を緩和する治療である。 植込型デバイス
で左頸部迷走神経を電気刺激し、 大脳を安定化させて発作回数や発作症状を
軽減する。 開頭による脳切除手術のように根治的ではないが、 低侵襲性と調
節性が大きな利点である。また脳切除手術の適応とならない発作や脳切除手術
後に遺残した発作に対しても、有効性が期待できる。
VNS は動物モデルを用いた基礎研究に基づいて 1988 年に米国で臨床応
用が開始された。1990 年代前半に行われた RCTで有効性と安全性が確認
され、1994 年には欧州連合で、1997 年には米国で薬剤抵抗性てんかんに
対する治療機器として承認された。日本では 2010 年に保険収載されたばかりの新しい治療だが、 世界ではすでにの
べ 10 万件以上の装置植込術・交換術が行われており、 薬剤抵抗性てんかんに対する推獎治療のひとつとして確立
した治療である。
2.有効性
VNSのてんかん発作減少効果は、 複数の多施設共同 RCT や、 世界の多くのてんかん専門施設におけるシリー
ズ研究で実証されてきた。ほとんどの報告で1年間治療後の発作減少率が 30 〜 60%、レスポンダー率(50% 以
上発作減少した患者率)が 40 〜 60%、 治療継続により発作減少率やレスポンダー率が高まることなどが確認され
ている。
日本では、2010 年 1 月の薬事承認から3 年間の全例調査が行われ、症例登録が終了したところである。このうち、
2013 年 1 月 7 日までに植込手術が行われた 321 例についての中間解析の結果、 治療 12 ヵ月後の発作減少率
は、 全体で 58%(164 例の中央値、 平均値は 27+/-141%)、 部分発作で 60%(107 例の中央値、 平均値
は 27+/-135%)、 全般発作で 68%(127 例の中央値、 平均値は 36+/­­­­­-171%)であった(表 1)。 治療
12ヵ月後のレスポンダー率は、 全体で 60%、 部分発作で 60%、 全般発作で 65% であり、 欧米からの先行報告
よりもやや良好な結果であった(図 1)。
表 1 発作回数減少率
てんかん分類
全体
例数
平均値
(標準偏差)
刺激開始後
3ヵ月
中央値
(最小値~最大値)
例数
平均値
(標準偏差)
刺激開始後
6ヵ月
中央値
(最小値~最大値)
例数
平均値
(標準偏差)
刺激開始後
12ヵ月
中央値
(最小値~最大値)
部分発作型
全般発作型
318
199
233
2.81%
(179.41%)
- 3.19%
(167.84%)
- 3.95%
(228.90%)
- 20.00%
(- 100.0~1400.0%)
- 20.00%
(- 100.0~1400.0%)
- 37.50%
(- 100.0~2507.1%)
250
164
185
- 15.27%
(135.41%)
- 26.92%
(94.64%)
31.15%
(778.38%)
- 41.19%
(- 100.0~1400.0%)
- 50.00%
(- 100.0~650.0%)
- 56.25%
(- 100.0~10328.6%)
164
107
127
- 26.84%
(140.70%)
- 27.16%
(134.98%)
- 35.75%
(171.21%)
- 58.36%
(- 100.0~1400.0%)
- 60.00%
(- 100.0~842.9%)
- 67.75%
(- 100.0~1700.0%)
図1 レスポンダー率(50% 以上発作回数減少率) 70.0%
60.0%
50.0%
刺激開始後 3ヵ月 (n=318)
40.0%
刺激開始後 6ヵ月 (n=250)
30.0%
20.0%
刺激開始後12ヵ月(n=164)
10.0%
Elliott(NYU) 平均 4.94 年(n=436)
0%
1997.11~2008.04
全体
部分発作
全般発作
参考データ
* Robert E.Elliott(New York University), et a
l:Vagus nerve stimulation in 436 consecutive patients with treatment-resistant epilepsy:Long-term outcomes
and predictors of response.Epilepsy & Behavior 20 (2011) 57-63.
3.安全性
発作回数減少率の推移
80%
VNS
70%植込手術に関連する合併症はまれだが、 創部感染、 迷走神経損傷による一過性声帯麻痺、 植込手術中の
テスト刺激に伴う一過性心停止が報告されている。刺激治療の副作用は、
咳、 嗄声、 咽頭部不快感、 嚥下障害な
60%
どだが、これらは可逆的で治療継続とともに減少する。
50%
日本の市販後調査における有害事象も、
欧米からの先行報告と同様のものであった。担当医師により因果関係あ
40%
刺激開始3ヶ月
りと判断された
73 例 102 件のうち、101 件は迷走神経刺激に関連した軽度のものであり、刺激の調整により軽快、
30%
もしくは特に処置はせずに経過観察が続けられている。また、
重点調査項目であるリードインピーダンス
/ 感染
/副
20%
刺激開始
6 ヶ月
作用の発生状況については、
高インピーダンスの検出 5 件(1.3%)、 感染症 5 件(1.3%)、 死亡 4 件(1.0%)
10%
が報告されたが、いずれも
VNS との因果関係は認められなかった。
0%
全体
部分発作型
刺激開始 12 ヶ月
全般発作型
表2 不具合・有害事象の発現件数(本装置と因果関係ありと判断されたもの:全 385 症例中)
不具合・有害事象
発現件数(発現率%)
不具合・有害事象
発現件数(発現率%)
咳
35(9.1%)
テスト刺激中の一過性不整脈
3(0.8%)
変声
33(8.6%)
呼吸困難
2(0.5%)
疼痛
6(1.6%)
嚥下障害
5(1.3%)
テスト刺激中の一過性徐脈
2(0.5%)
嗄声
3(0.8%)
テスト刺激中の一過性心静止
1(0.3%)
知覚異常
3(0.8%)
その他
8(2.1%)
4.
他治療との比較
① 抗てんかん薬……てんかん治療の基本だが、約30%の患者の発作は薬剤抵抗性で、正しく選択した抗てんかん薬
でも完全には抑制できない。このような薬剤抵抗性発作に対して抗てんかん薬のみで治療を継続する場合、多剤併用
や高用量処方になりがちで、眠気やふらつきなど日常生活の支障となる副作用の発現率も高い。
VNSはこのような副作用の心配がなく、抗てんかん薬に付加的な発作緩和効果が期待できる。一方で、定期的な通
院で刺激条件調整を行う点において、VNSは抗てんかん薬治療と同等であり内科的治療に近い。実際、海外では、植
込後VNSは内科医によって管理・施行されている。
② 開頭手術……内側側頭葉てんかんの複雑部分発作、限局性MRI 病変に伴う部分発作、失立転倒発作は70% 以
上で完全消失が期待できるので、開頭手術が推獎される。特に前二者では、およそ1/3 の患者で薬剤終了、すなわち
根治も期待できる。ただし、開頭手術が有効な患者は薬剤抵抗性てんかん患者のごく一部であり、適応判断には多く
の術前検査を要する。また、開頭手術の数% で後遺症につながる重篤な合併症が発生しうる。
これに対して、VNS の効果は緩和的で発作の完全消失率は10% 未満だが、開頭術後の遺残発作を含めほとんど
すべての薬剤抵抗性発作が対象となる。また、植込手術の侵襲性や合併症のリスク、必要な入院期間がはるかに少な
い。さらに、不可逆的な脳切除手術に比べて、VNS は装置植込後も刺激条件が調節可能で、無効の場合には停止ま
たは抜去することができる。
5.その他の効果
てんかん発作の緩和以外にも、全般的な生活の質、日中の覚醒、記憶・意志決定能力、情動・気分の改善が得られる。
これらの効果はてんかん発作緩和とは独立して得られる可能性が示唆されている。このうち情動・気分の改善効果は、
VNS の難治性うつ病への臨床応用へと発展し、2005年にFDA の承認を受けた。
6.おわりに
VNS はてんかん症候群や発作型にかかわらず、ほぼ一様に緩和的効果を期待できるので、開頭による根治手術の
適応とならない発作や、開頭手術後の遺残発作に対して、試みる価値のある治療法である。
7.資料
資料1 使用目的・効能または効果
迷走神経刺激装置 VNS システム(Vagus Nerve Stimulation)とは薬剤抵抗性の難治てんかん発作を有するてんかん患者(開頭手術が奏功する症例を除く)
の発作の頻度や程度を軽減する補助療法として迷走神経を刺激する電気刺激装置である。
資料2 保険償還価格及び診療報酬点数 (2014 年 4 月現在)
<保険償還価格> パルスジェネレータ 1,680,000 円 リード 184,000 円
<診療報酬点数> K181-4 迷走神経刺激装置植込術 22,140 点
K181-5 迷走神経刺激装置交換術 4,000 点
C110-3 在宅迷走神経電気刺激治療指導管理料 810 点(導入期加算 140 点) C167 疼痛等管理用送信器加算 600 点 資料3 植込台数推移
資料4 地域別分布(2013年12 月末)
植込台数 (累計 627 台)
北海道地区
4施設 36台
植込実績
300
44 施設 627 台
246
250
203
200
信越地区
1施設 6台
143
150
関西地区
8施設 75台
中国地区
4施設 47台
100
50
50
50
35
50
東北地区
1施設 16台
関東地区 7施設 50台
(東京除く)
東京地区
8施設 216台
100100
50
0
2010 年
(7~12)
2011 年
(1~12)
2012 年
(1~12)
2013 年
(1~12)
九州地区
8施設 94台
東海・北陸地区
3施設 87台
四国地区 0台
資料5 薬事承認条件
てんかん治療に対する十分な知識・経験を有する医師が、 難治性てんかん発作に対する本品を用いた迷走神経刺激治療に関する講習の受講等により、 本品の有効
性及び安全性を十分に理解し、 手技及び当該治療に伴う合併症等に関する十分な知識・経験を得た上で、 適応を遵守して用いるように必要な措置を講じること。
使用成績調査により、登録症例(国内治験症例を含む。)及び全ての小児症例の長期予後について、経年解析結果を報告するとともに必要により適切な措置を講じること。
資料6 迷走神経刺激療法と刺激装置植込術に関する資格認定基準(2013年10月に見直し、現在改訂中)
<日本てんかん学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経外科学会の合同による>
1.本療法の適応判断と刺激装置植込術は、日本てんかん学会専門医ならびに日本脳神経外科学会専門医の両資格を有するてんかん外科治療を専門的に行ってい
る医師によって、 またはその指導の下に行われるべきものとする。
2.本療法の開始後の刺激条件の調整や、 治療効果および有害事象の追跡調査 は、日本てんかん学会専門医(すべての診療科を含む)またはその指導のもとに行
われるべきものとする。
3.本療法を行う医師(1項,2項に該当する医師)は、初回施行前に、 日本てんかん学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経外科学会の共催による講習会を受
講しなければならない。
4.刺激装置植込術を行う医師は、 受講資格として前年1年間のてんかん外科手術症例リストの申告を必要とする。
5.受講修了者は、3学会合同の認定委員会によって認定証が授与され、本療法の実施資格が認められる.なお、認定は認定委員会によって見直される場合がある。
*附則:本認定基準は、 施行開始後3年以内に見直すものとする。
資料7 使用成績調査(中間報告)の患者背景
人数(比率)
項目
対象集団
年齢
前治療
年齢分類
有効性評価対象集団
例数
平均値(標準偏差)
中央値(最小値~最大値)
安全性評価対象集団
321
385
25.1±14.6
24.0±14.8
24(0~67)
22(0~72)
有
177(55.1%)
217(56.4%)
無
144(44.9%)
168(43.6%)
12歳未満
60(18.7%)
12歳以上
261(81.3%)
*有効性評価対象集団:安全性評価対象集団から植込み3ヵ月未満や装置抜去等の有効性が評価できない症例を引いた集団数
■参考文献
Ben-Menachem E. Lancet Neuro1 1: 477-82, 2002
Elliott RE, et al. : Epilepsy Behav 20: 57-63, 2011
川合謙介. BRAIN and NERVE: 神経研究の進歩 63: 331-346, 2011
てんかんに対する迷走神経刺激療法の実施ガイドライン: http://square.umin.ac.jp/jes/images/jes-image/VNSGL.pdf
このカタログは、
「植物油インキ」
「水なし印刷」
を使用しています。
東京都新宿区西落合 1- 31- 4 〒 161- 8560
03 - 5996 - 8000(代表) Fax 03 - 5996 - 8091
http://www.nihonkohden.co.jp/