(VNS)の適応

VNS Advancement for Epilepsy
Vol. 4
迷走神経刺激療法の適応と効果の検討
~小児難治てんかんへの応用~
榎 日出夫先生 聖隸浜松病院 てんかんセンター長 兼 小児神経科部長
1. 小児における迷走神経刺激療法(VNS)の適応
VNSの日本への導入に際し、小児への年齢条件が課されなかったことは幸いである。米国FDAはVNSの適応に
ついて12 歳以上としている。一方、
日本では年齢下限に制約がなく、小児の難治例にも応用可能である。
当院では、
小児におけるVNSの適応を表1のように考えている。まず薬剤抵抗性の難治てんかんであることが基本
である。その上で、開頭によるてんかん外科手術の適応とならない症例が対象となる。例えば左右両半球に皮質形成
異常を有するような多焦点の症例は、
VNSのよい適応である。一方、Lennox-Gastaut 症候群などの全般てんかん
で、脱力発作に伴う転倒で外傷を負うリスクが高い場合には脳梁離断が優先される。
しかし、患児が寝たきりの状態
で転倒リスクが低い場合には、
VNSを選択することもある。そのほか、開頭術後の残存発作や重症心身障害児への
対応については後述する。
表 1. 小児における VNS の適応
(1)薬剤抵抗性
(2)多焦点で1カ所に絞り込みが困難
(3)切除術により重大な機能喪失が予想される場合
(4)症候性全般てんかん
(5)開頭てんかん外科術後の残存発作
(6)重症心身障害児または全身状態が不良
2. 対象と有効性
当院では2011年1月に初めて小児にVNSを応用した。その後、2014年8月までに小児患者26例に植込み術を
施行した。対象の背景を表2に示す。てんかん症候群分類は、症候性全般てんかん13例、症候性局在関連性てんか
ん13例であった。発作型分類(重複あり)は、てんかん性スパズム10例、強直発作5例、非定型欠神発作2例、脱
力発作2例、ミオクロニー発作2例、単純部分発作1例、複雑部分発作12例、二次性全般化発作5例であった。植
込み時の年齢は1~ 15歳(平均8.0歳)
、最年少は1歳7カ月(体重7.8 kg)である。罹病期間は29~154カ月(平
均74.3カ月)
、過去に試した抗てんかん薬の数は4 ~ 14剤(平均7.5剤)であり、薬物治療を長く続けた難治例であ
ることがわかる。
自験例における発作改善効果を図1に示す。植込み前に比し発作頻度が50%以上減少した症例は42.1%、発作
頻度が90%以上減少した著効例は15.8%であり、両者を合わせたレスポンダーは6割近くに達した。もともと薬剤
抵抗性の難治例が対象であることを考慮すると、VNSの効果は十分満足できるレベルに達していると考えられる。
VNSは即効性を期待する治療法ではない。長期に経過を追うごとに効果が高まることが知られている。
「てんかん
に対する迷走神経刺激療法の実施ガイドライン」では「VNSの発作抑制率は治療継続によりおよそ2年間増大し、そ
の後安定して継続すると期待できる」と記載されている。自験例では比較的最近になって植え込んだ症例が多い。植
込み後の観察期間は平均500日に過ぎず、過半数の症例でまだ2年に達していない。今後、観察期間が2年を超え
る症例が増加するにつれ、有効率がさらに上昇すると期待している。
3. 刺激条件
刺激装置を植え込んだ後、2週間経過した時点で治療を開始する。刺激条件には種々のパラメーターがあり、一
見、複雑な印象を受けるかもしれない。実際の刺激コントロールにあたっては、まずOutput CurrentとDuty Cycle
を理解しておくとよい。刺激治療の進め方については各施設で独自に工夫されている。当院のプロトコル(山本、
2014)では初期段階において、まずOutput Currentを上げていく。0.25 mAで開始し、1カ月に1回の受診ごと
に0.25 mAずつ増量する。Output Currentが1.75 mAに達した後はDuty Cycleを上げる。その後は、Output
CurrentとDuty Cycleを交互に上げていく。当然ながら最適な刺激条件には個体差が認められるので、個々の症例
についてオーダーメイドで設定していく。発作改善効果に満足できれば低めの刺激設定で経過をみることも可能であ
るが、さらなる改善を期待して、患者自身が耐えられる範囲内で可及的に刺激条件を上げていく方針が重要と考えて
いる。自験例のレスポンダーにおける最終的な刺激条件は、Output Current1.25 ~ 2.75 mA(平均1.85 mA)
、
Duty Cycle10~35%(平均20.9%)であった。
さて、どの時点で効果が得られるのであろうか。図1では6カ月以上の観察期間について集計したが、実際には6
カ月以前に手応えを感じる症例が多い。当院の成人における集計(山本、2014)では、3カ月未満に効果を得た症例
が最も多かった。前述のようにVNSの効果は治療継続によりおよそ2年間増大するのであるが、初期効果の発現に
はそれほど時間がかからない。初期効果が得られても、その時点で刺激調整を完了するのではなく、さらなる改善を
目指してプログラミングを継続していく必要があるということを強調したい。
表2. VNS 小児自験例の背景
図 1. 小児における VNS 発作改善効果
複数の発作型
10 例
多葉性・発作焦点分類不能
10 例
開頭てんかん外科術後
重症心身障害児
7例
12 例
全 26 症例、重複あり
0
20
40
60
80
100
(%)
90%以上発作頻度減少
50%以上発作頻度減少
変化なし
観察期間6カ月以上の19例
4. 安全性
VNS植込みによる合併症として、創部感染と斜頸が各1例認められた(表3)
。感染の症例では刺激装置を抜去し
た。斜頸は一過性で、自然に回復した。刺激治療の副作用は5例で認められ、内訳は咳嗽、嗄声、刺激時疼痛、嚥
下障害であった(表3)
。幸いにも、これらの症状は軽微であった。このような副作用では、Signal Frequencyまた
はPulse Widthを下げることにより症状を緩和できることが多い。筆者は主としてPulse Widthを下げている。嚥下
障害はOutput Currentを2.75 mAから3.0 mAに増量した症例で発生した。このケースではすでにPulse Width
を下げていたので、Output Currentを2.75 mAに戻したところ、嚥下障害は改善した。そのほかの副作用(咳嗽、
嗄声、刺激時疼痛)についても、刺激条件の調整により改善した。なお、表2のように自験例には重症心身障害児が
多く、もともと意思表示や発声が乏しい症例、経管栄養の症例が含まれている。このため嗄声、刺激時疼痛、嚥下障
害が少なかった可能性はあるだろう。
5. 開頭手術と VNS
開頭によるてんかん外科手術にもかかわらず発作の抑制が不十分な症例を経験することがある。この場合、VNS
の追加はひとつの選択肢となる。自験例では7例において開頭てんかん外科術後にVNSを追加した(表2)
。このう
ち5例は脳梁離断術後である。前述のようにLennox-Gastaut症候群などの症候性全般てんかんで、発作による転
倒で外傷を負うリスクが高い場合には、即効性を期待して脳梁離断を優先する。しかし、脳梁離断で満足な発作改善
が得られない場合にはVNSの追加を検討する。脳梁離断術後の5例に対するVNS追加の効果は、有効2例、無効2
例で、残る1例はVNS植込み後6カ月未満のため経過観察中である。図1のように全対象のうちレスポンダーは6割
弱であるが、脳梁離断後のVNSについてもほぼ同等の有効率が得られたことは興味深い。Elliottら
(2011)は、脳
梁離断などの開頭てんかん外科手術の既往の有無によってVNSの効果は変わらないと述べている。すなわち、開頭
術の効果が不十分な難治例であっても、その後のVNS追加が有効となる場合があるのである。自験例の結果から、
脳梁離断術後の残存発作に対してもVNSは有益な治療選択と考える。
6. 重複障害への対応
自験26例中12例(46%)は重症心身障害児(表2)で、寝たきり状態であった。12例中2例では脳梁離断による
発作改善効果が不十分であったので、VNSを追加した。12例中10例では本人の身体状況を考慮し、頭蓋内電極に
よる脳波モニタリングや開頭てんかん外科手術といった侵襲的介入がためらわれたので初回手術としてVNSを選択
した。なお12例中4例は気管切開術を受けていたが、VNSの導入に問題はなかった。また1例ではVPシャントが施
行されていた。この症例ではシャントチューブが右頸部を通っており、左側へのVNS植込みに支障はなかった。
表 3. VNS の合併症・副作用(自験 26 症例中)
植込み術の合併症
症例数
刺激治療の副作用
症例数
感 染
1
咳 嗽
1
斜 頸
1
嗄 声
2
刺激時疼痛
1
嚥下障害
1
7. 小児と成人のVNS
Englotら
(2011)の大規模なメタ解析によれば、VNSの発作改善効果は年齢に依存しており、小児において有効
率が高い。18歳以上の対象では発作頻度減少率が49.5%であったが、18歳未満では55.3%であった。特に6歳
未満の小児では62.0%と報告されており、成人に比し高い改善率が得られている。小児では発作が難治化すること
により発達への影響が危惧される。早期に発作改善を図る必要がある。治療戦略を立てる上で、VNSは選択肢のひ
とつとなり得る。
8. まとめ
2014 年 8 月時点で当院におけるVNS 植込み実績は全年齢で 96 例である。このうち15 歳以下の小児は 26 例
(27%)であった。 同時期の全国集計では、 826 例のうち 260例(31%)が小児であった。このように小児が全
体の約 3 割を占めている。 小児の難治てんかんの多くは、 小児科医・小児神経科医の管理下にあると思われる。
VNS を施行するかどうか、 その適応については、 ふだんの診療を担当している小児科医・小児神経科医の判断に
よるところが大きい。本稿で示したように、 VNSは小児の難治てんかんにも緩和効果が期待できる。重症心身障害
児に対しても比較的安全に施行できるメリットがあり、 積極的に考慮されるべきである。植込み後の刺激プログラミ
ングを含め、 小児科医・小児神経科医の関心が高まることを期待する。
■参考文献
山本貴道.神経内科 80: 223-230, 2014
てんかんに対する迷走神経刺激療法の実施ガイドライン.http://square.umin.ac.jp/jes/images/jes-image/VNSGL.pdf
Elliott RE, et al. Neurosurgery 69: 1210-1217, 2011
Englot DJ, et al. J Neurosurg 115: 1248-1255, 2011
【迷走神経刺激装置植込実績】
(2015 年 2 月末日時点)
【保険償還価格および診療報酬点数】
(2015 年 2 月現在)
60 施設 959 台
北海道地区
6施設 53台
50
信越地区
1施設 17台
東北地区
1施設 21台
関西地区
10施設 118台
中国地区
5施設 73台
50
50
100
100
東京地区
12施設 334台 100100 100
100
九州地区
10施設 132台
四国地区
1施設 1台
関東地区 10施設 85台
(東京除く)
東海・北陸地区
4施設 125台
<保険償還価格>
パルスジェネレータ 1,680,000 円 リード 184,000 円
<診療報酬点数>
K181-4 迷走神経刺激装置植込術 22,140 点
K181-5 迷走神経刺激装置交換術 4,000 点
C110-3 在宅迷走神経電気刺激治療指導管理料 810 点
(導入期加算 140 点) C167 疼痛等管理用送信器加算 600 点