高血圧で動脈硬化が起こる 機序lL・X−−あ関係 酸化LDL受容体であるLOX11の発現が高血圧性血管 病変の進展に果たす役割 長 瀬 美 樹 は進行し易い。高血圧はどのようにして動脈硬化 いが、そのような場合にはとくに動脈硬化性病変 硬化の他の危険因子が合併してみられることが多 者では、高脂血症、耐糖能異常、肥満など、動脈 の結果より周知のとおりである。また、高血圧患 は、従来の疫学調査、大規模臨床試験、動物実験 が多い。 しかし、その分子機序の詳細には今なお不明な点 因子などの関与、といった説が提唱されている。 る脂質代謝の変化、㈲アンジオテンシンHや増殖 ⑥交感神経系の充進や高インスリン血症などによ 小板の接着、脂質の沈着や血管平滑筋細胞の増殖、 を招く、⑭血管内皮機能異常による血管壁への血 カルシウム沈着、脂肪線条の形成、結合織の増生 を進展させるのであろうか? 一方、動脈硬化病変の形成には、酸化LDLも その治癒機転で内膜肥厚、血管平滑筋細胞の増殖、 高血圧が動脈硬化病変を来たす機序としては、 重要な役割を果たすと考えられている。酸化LD 高血圧と動脈硬化、酸化LDLと動脈硬化 ω血圧上昇により血管内皮細胞の受ける“ずり応 Lは、マクロファージの細胞膜表面に存在するス 高血圧が動脈硬化の主要な危険因子であること 力︵ωぼ費ω﹃8ωγが変化して機械的損傷が生じ、 特集・21世紀の高血圧治療 71CLINICIAN,99No.481 1ηレルo、iη曜〆oにおけるLox−1の遺伝子発現調節 A 4週齢4週齢 13週齢13週齢 WKY SHR−SP WKY SHR−SP ▽灘灘 LOX−1 GAPDH (mmHg) 200 SBP 100 蝋[焔 0 B flow 1 3 6 12 24 「一「 一 「一「 「一「 「一「 LOX−1 饗 GAPDHO●●●●●● 可⊥ 0 0乙 6 エOユくσ\丁×O﹂ 0 A:LOX−1の遺伝子発現は、高血圧を発症した13週齢のSHR−SPの大動 脈で著明に充進していた。 B LOX−1の遺伝子発現は、培養血管内皮細胞において“ずり応力”によ り著明に充進した。 (538) CLINICIAN,99No.48172 LOX 1 1 ︵ い Φ 9 ぎ − = ぎ O 図 こ 冒 a 一 U い お 8 ー における 受 容 体 は 長 い 間 不 明 で あ っ た 。 要であると考えられてい る が 、 酸 化 L D L の 内 皮 内皮作用は動脈硬化病変発症のトリガーとして重 依存性血管拡張反応を低下させる。酸化LDLの 現を誘導したり、一酸化窒素の減少を介して内皮 細胞にも作用して、接着 分 子 や 増 殖 因 子 な ど の 発 泡沫細胞を形成する。酸 化 L D L は ま た 血 管 内 皮 カベンジャー受容体を介して細胞内に取り込まれ ラット︵≦囚<\一Nヨ︶の大動脈におけるLOX11 ット︵ω国菊−ω℃\一N日︶とコントロールの正常血圧 4週齢と13週齢の脳卒中易発症高血圧自然発症ラ ている可能性があることを見い出した。図Aに、 ける動脈硬化性病変の進展に重要な役割を果たし により、酸化LDL/LOX−1系が高血圧にお 胞におけるLOX11の発現調節を解析すること われわれは、病態モデル動物や培養血管内皮細 高血圧とLOX11 讐○﹃︶とは、1997年 留 ≦ 餌 日 貫 m ら に よ り 同 定 解析した結果を示す。高血圧発症前の4週齢のラ の遺伝子発現レベルを、ノーザンブロット法にて り された、 内 皮 細 胞 に 多 く 発 現 す る 新 規 酸 化 L D L ットではSHRISP、WKYともLOXi1の のの 充進︵約20倍︶を認めた。他の高血圧モデルラッ 受容体である。一回膜貫通型の受容体で、N端側 むこと、ヒトの動脈硬化巣に発現していることな トの大動脈においてもLOX−1の発現は充進し 発現は低かったのに対し、高血圧の見られた13週 どが報告されている。 ていたこと、高血圧発症前には発現レベルが低か が細胞内に位置し、細胞外にC型レクチン様領域 本稿では、このLOX 1 1 が 高 血 圧 か ら 動 脈 硬 ったこと、降圧薬投与により発現充進が抑制され 齢のSHRISPではWKYに比し著明な発現の 化にいたる過程において 果 た す 役 割 に つ い て 概 説 たことも考えあわせると、血圧の上昇がLOXI を有する。酸化LDLを特異的に細胞内に取り込 する。 (539) 73CLINICIAN,99No.481 果、内皮細胞をωσ馨な状態で培養してもLOX 法にて8身器ω\自、のずり応力を負荷した。その結 影響を検討した。培養大動脈内皮細胞に平行平板 次に、LOX11の発現に対する機械的刺激の れた。 1の発現充進に密接に関係していることが推察さ Dω蝉≦餌ヨ貫P↓←Φけ巴●“>口8αo跨Φ=巴お8讐R8同 文献 ︵東京大学 腎臓・内分泌内科学︶ つながるものと期待される。 明が高血圧性血管障害の分子機序の新たな理解に 流のカスケードは明らかにされておらず、その解 現在のところ、酸化LDL/LOX−1系の下 Φ一一巴○圏島N8一〇≦−Ugω一昌口℃○冥09冒力g88﹃ 幻Z帥閃90ωρ]≦こ雪巴﹄国昌げ餌Ra国図鷺Φωω一〇コo︷国oαo跨− ミ︵一〇零︶ o嵐&N巴一〇≦−αgω一蔓一首o蜜08冒。Z蝉巳同ρωO oρお∼ 11の発現は変化しなかったが、ずり応力により の 約9倍に上昇した︵図B︶。 おわりに ︵ぴ○図山︶ぎコ図OΦ耳8ω一<Φ菊餌けω。匪09①日・匪○℃ゴ惨. 帥Z餌ひQ鋤ωρ]≦こΦけ巴●”¢巳ρ仁①﹃8①江岳<①ω8器p8蝉pα 菊Φの曾Ooヨ日仁oこ88お①∼おOo︵一8刈︶ 前述したように、ずり 応 力 の 変 化 や 血 管 内 皮 機 能異常は、高血圧性血管病変のトリガーとして重 ︵一㊤。。。︶ お088﹃︵い○図−一︶﹂●田o一●OげΦヨ。るおる巽ON∼ωω刈O刈 轟辞一Φ9ヨー一篤Φ○×一島N8一〇≦−αΦ霧一昌一昼o虞09冒 のZ鋤磯◎ωρ]≦こΦ辞巴●“ω賃目εお◎ロαお閃三象一〇コo胤跨Φ ︵ぴ○図−一y田ooげΦ日﹂こωωρ置一刈∼置認︵一80。︶ Φ=巴お088﹃8﹃o蝕象Na︸o≦−αgの一蔓一一℃o鷺○け①ぎ 仁器図冨08αお閃乱讐一〇口o一Φ図蜜Φωω一〇口o脇︻簿8αo辞げ− 要と考えられている。酸化LDLが血管内皮にお いて接着分子や増殖因子などの発現誘導、一酸化 窒素産生の抑制により内皮機能異常を惹起するこ と、動脈硬化の重要な危険因子であることを考え あわせると、充進した酸化LDL/LOX11系 が高血圧から動脈硬化にいたる過程に重要な役割 を担っている可能性がある。 CLINICIAN,99No.481 74 (540)
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