下伊那農業高等学校

研 究 結 果 報 告 書
平成 24 年 1 月 16 日
財団法人 長野県学校科学奨励基金
理事長 田 幸 淳 男 様
学校名
長野県下伊那農業高等学校
学校長名
遠 山 善 治
1 研究テーマ
イネ『天竜乙女』における肥料の違いによる生育収量比較調査
2 研究グループ
アグリサービス科 2 年 17 名
3 指導者食氏名
教諭 矢野 良
教諭 北原淳子
4 研究の動機および目的
現在、農業においても環境に負荷がかからない栽培方法が注目されている。しかしながら稲作では、効率化
を求め、化学肥料による栽培が一般的である。そこで、飯田下伊那地方の奨励品種である『天竜乙女』の栽培
において、用いる肥料を化学肥料による標準栽培と堆肥だけによる比較栽培し、生育状況や収量などにどのよ
うな違いがあるか調べてみようと思いこの実験を行うことにした。堆肥栽培区では、除草剤や殺菌殺虫剤等の
使用も行なわず栽培してみた。なお、標準的施肥方法によるコシヒカリの栽培も行い、比較してみることとし
た。
5 試験方法
(1)試験場所・期間
下伊那農業高校水田(標高 458.6m)
平成 23 年 4 月~10 月
(2)供試品種
①天竜乙女
②コシヒカリ
(3)特性および栽培上の注意
①天竜乙女
晩生種で飯伊地方で栽培が行われている『秋晴』より耐病性に優れ、背丈も短く倒れにくく、食味も
よいとされる。
②コシヒカリ
味がよく粘りもあるので非常に人気が高いが、地域によって味のばらつきがある。倒伏しやすく、い
もち病にかかりやすいので栽培の際には注意が必要である。
6 栽培概要
(1)試験区設定
①コシヒカリ標準施肥区(1 号田)
②天竜乙女堆肥施肥区(2 号田)
③天竜乙女標準施肥区(4 号田)
(2)栽培の経過
①種もみの準備
ア 選種…4 月 7 日(水選)
イ 種子消毒…4 月 10 日
スポルタック 1000 培養液に 24 時間浸漬
ウ 浸種…4 月 11 日~17 日
15℃ 7 日間
エ 催芽…4 月 17 日
②播種…4 月 18 日
催芽機に入れ 30℃で 24 時間
2 日間ビニールハウスの中に育苗箱を積み、芽出しを行った。
③育苗…4 月 20 日~5 月 19 日
トンネル苗代方式による中苗育苗
④本田の準備
ア 耕うん…4 月 18 日~20 日
イ 代かき
1号田:荒代…5 月 11 日
本代…5 月 17 日
2号田:荒代…5 月 20 日
本代…5 月 25 日
4号田:荒代…5 月 12 日
⑤施肥
本代…5 月 19 日
1 号田
元肥はコシヒカリの標準施肥量とした。追肥も標準施肥量とした。
2 号田
元肥は豚糞堆肥 1t を施肥した。追肥は施肥しなかった。
4 号田
元肥は天竜乙女の標準施肥量を施肥した。追肥も標準施肥量を施肥した。
表 1 施肥量
1号田
(18.9a)
2号田
(11.3a)
4号田
(12.4a)
(単位:㎏)
稲の
基肥
40
基
肥
稲の
めぐみ
159
BM
重焼燐
26
堆肥 1t
50
124
⑥田植え
1 号田…5 月 23 日
2 号田…5 月 31 日
乗用田植機(4 条植)
手植え
4 号田…5 月 24 日
乗用田植機(4 条植)
⑦管理
ア 水管理
栄養成長期は一般的な管理を行った。
・中干し
天竜乙女:7月 15 日~7月 22 日
コシヒカリ:7月2日~7月 10 日
・落 水
12
追
BBNKC
201
38
肥
ケイ酸
加里
38
0
25
施肥量
栽培品種
通常
コシヒカリ
0
堆肥
天竜乙女
25
通常
天竜乙女
天竜乙女:9 月 21 日
コシヒカリ:9 月 6 日
イ 雑草防除(標準施肥区のみ)
・初期除草剤としてエリジャン乳剤を 10aあたり 500 mℓ 代かき後に散布した。
・初中期除草剤としてクサトリエース(ジャンボ剤)を 10aあたり 300gを田植え後に散布した。
・天竜乙女堆肥区は、除草機を用い 2 回除草作業を行った。
・畔草は適宜刈り取りを行った。
ウ 病虫害防除(標準施肥区のみ)
・7 月 25 日に殺虫・殺菌剤(いもち病、ウンカ・ヨコバイ類防除)としてダイアジノンオリゼメート粒
剤を 10aあたり 3 ㎏散布した。
エ 防鳥(全調査区)
7 月 27 日~29 日にかけて防鳥糸を各水田に設置した。
⑧収穫・調整
ア 刈り取り…天竜乙女(4 号田):10 月 4 日 コンバインによる刈取り
(2 号田):10 月 12 日 手刈り
コシヒカリ(1号田):9 月 14 日 コンバインにより刈取り
各水田 6 ヶ所 3 株ずつ計 18 株
イ 乾燥…コシヒカリ:(1 号田)9 月 14 日 火力通風乾燥機による乾燥
天竜乙女:(4 号田)10 月 4 日 火力通風乾燥機による乾燥
(2 号田)10 月 12 日~10 月 25 日 はざ掛け乾燥
7 結果
(1) 生育調査
①草丈
草丈は図1のとおり、化学肥料を標準量施肥したコシヒカリの 1 号田が一番長く、天竜乙女の 4 号田、2
号田ではあまり差が見られなかったが、堆肥施肥区の 2 号田のほうがやや低かった。
図1
②茎数
茎数はどの調査区も 8 月 8 日頃が最高分けつ期となったと考えられる。コシヒカリ標準施肥区の 1 号田、
天竜乙女標準施肥区の 4 号田、天竜乙女堆肥施肥区の 2 号田の順に茎数は多かった。
図2
③穂数
コシヒカリの 1 号田は 8 月初めに出穂が見られ、8 月上旬にはほぼ穂が出そろった。天竜乙女は標準施肥
区の 4 号田では 8 月中旬、堆肥施肥区の 2 号田では 8 月下旬に穂が出そろった。
図 3 生育調査 穂数
(2)収量調査
①1 穂粒数
図4
各調査区の 1 穂粒数は図 4 のように、コシ
ヒカリ標準量施肥区の 1 号田、天竜乙女標準
施肥区の 4 号田、天竜乙女堆肥施肥区の 2 号
田の順となった。
②玄米千粒重
各調査区の玄米千粒重も図 5 のように、コ
シヒカリ標準量施肥区の 1 号田、天竜乙女標
図5
玄米千粒重
準施肥区の 4 号田、天竜乙女堆肥施肥区の 2
号田の順となった。
③玄米重
各調査区 10a当たりの収量(玄米重)も図 6
図6
のようにコシヒカリ標準量施肥区の 1 号田、
天竜乙女標準施肥区の 4 号田、天竜乙女堆肥
施肥区の 2 号田の順となった。
(3)食味試験
天竜乙女(4 号田)とコシヒカリとの食味検査を、米・食味鑑定士協会に依頼し以下のような結果を得た。
水 分
蛋 白
アミロース
脂肪酸
食味値(A) 味度値(B)
A+B
天竜乙女(4 号田)
13.3
6.2
18.9
10
88
78.0
166.0
コシヒカリ(1 号田)
13.3
7.5
19.8
8
77
76.7
153.7
8 考察
生育調査、収量調査ともコシヒカリ標準施肥区の1号田、天竜乙女標準施肥区の4号田、天竜乙女堆肥施肥区
2号田の順の結果となった。草丈の1号田と4号田・2号田との差は、品種の特性による差であると考えられる。
天竜乙女は草丈が短い特性を持っているが、倒伏をすることがほとんどなく、倒伏しやすいコシヒカリよりも
作りやすい品種であった。茎数は天竜乙女の分げつ数がコシヒカリより少なかったが、昨年度はコシヒカリよ
り多かった。今年は4号田が畦畔の欠損により漏水が激しく、養分が流失し初期成長期に分げつ数が確保でき
なかったと考えられる。しかし収穫量は1号田と4号田ではその差は僅かであった。2号田は堆肥だけの施肥で
あったので養分不足と考えられる。また、2号田は堆肥の散布の際、化学肥料と違って均一に散布できず、生
育にもむらが出てしまい、生育・収量ともあまり良い結果とはならなかった。しかし、均一に散布ができたと
ころでは化学肥料と比較しても生育にあまり差が出ず、均一に散布ができれば今後の施肥方法の一つとして考
えられる。
天竜乙女の栽培を行ってみて、収量はコシヒカリよりやや落ちるものの、倒伏がなく栽培しやすく、また、
食味の観点から考えると、飯田下伊那地方での栽培品種としてさらに研究をしていきたい。
9 今後への課題
以前の実験では、天竜乙女の分げつ数がコシヒカリよりかなり多かったが、今回天竜乙女はあまり分げつし
なかった。なぜそのような結果となったのか原因を考えていきたい。また、分げつ数が少なくても収量はやや
劣るくらいであったので、施肥量の違いも考えていきたい。さらに食味向上にはどのような方法があるのか探
求していきたい。植栽本数による違いについては調査不足のため、次回の実験課題としたい。
☆栽培の様子
▲堆肥施肥
▲播種
▲苗代つくり
▲田植え(2号田)
▲
田
植
え
▲
除
草
機
に
▲
稲
刈
り
▲
は
ざ
架
け
▲
稲
刈
り
▲
稲
刈
り
よ
る
除
草