6 鳥取県内の現地に見る水稲有機栽培の実践技術

鳥取県内の現地に見る水稲有機栽培の実践技術
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情報・成果の内容
(1)背景・目的
水稲有機栽培の技術開発は不十分な現状にあり、雑草対策等の多くの課題が残されたま
まである。また、現地の水稲有機栽培実践事例の収量性や事例が取り組む技術内容、有機
栽培ほ場の条件など、その実態や課題の把握も十分に行われていない状況である。
ここでは、県内の他の農業者等への情報提供と新たな技術確立に資するため、県内の有
機栽培実践事例から有用かつ有効な技術の把握を行ったので紹介する。
(2)情報・成果の要約
現地で水稲の有機栽培を実践する事例では、育苗、本田施肥、雑草対策及び病害虫対策
の様々な技術が実践されており、これらの技術内容は有機栽培を実践する上での参考とな
る情報である。
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試験成果の概要
(1)現地で水稲の有機栽培を実践する事例では、育苗、本田施肥、雑草対策及び病害虫対
策において様々な技術が行われており、これらの技術は有機栽培を実践する上での参考
となる情報である(表1)。
表1 現地の水稲有機栽培実践事例が活用する技術
区 分
育
苗
本 田 施 肥
雑 草 対 策
病害虫対策
主な技術内容
種子温湯浸漬法による病害発生軽減、有機液肥(商品名:エキタン有機など)による施肥
プール式育苗、ポット式成苗育苗
市販有機質肥料、自家製ボカシ肥料、米ぬかの施用、基肥の前年秋施用
(市販有機質肥料の具体例)
菜種油粕、配合肥料(商品名:バイオノ有機、つややか、ペレスターなど)
発酵鶏ふん(商品名:ズバリ有機、ペレット発酵鶏糞など)
機械除草機(乗用型水田除草機、歩行型除草機)、あいがも農法、複数回代かき
深水管理、米ぬか等の有機物施用、秋耕起(冬期乾田化)、チェーン除草
中苗あるいは成苗の活用、基肥の前年秋施用
種子温湯浸漬法による病害発生軽減、疎植び生育量抑制による病害虫発生軽減
耕種的防除(遅植え、畔波等の障壁設置、畦畔雑草の焼却)によるイネミズゾウムシ被害軽減
色彩選別機によるカメムシ斑点米除去
注) 2008年~2010年に実施した実践事例の栽培概要聞き取り調査結果。
(2)1ヘクタール以上の規模で有機栽培を実践する事例の中で、A事例は他の多くの事例
が課題を抱える雑草残存量を少なく抑え、収量は400kg/10a程度を確保している。
さらに、有機栽培継続年数も長く、有機栽培を安定的に実践する事例である(表2)。
表2 1ヘクタール以上の規模を有する水稲有機栽培実践事例の精玄米重及び残存雑草量(2008~2010年)
事例名
A事例
B事例
C事例
D事例
注)
有機栽 有機JAS認証
培規模 取得後年数
5~10ha 10年以上
1~5ha
5年未満
1~5ha
5~10年
5~10ha
5~10年
全事例平均
08年
442
372
252
250
358
精玄米重(kg/10a)
09年 10年 平均 同左指数
344
401
396
115
353
329
351
102
408
236
299
86
395
194
280
81
337
342
345
100
08年
6.3
22.4
150.0
50.0
39.1
残存雑草量(風乾重g/㎡)
09年 10年 平均 同左指数
1.7
36.7
14.9
25
41.8
32.2
32.1
55
14.3 147.4 103.9
178
119.9 275.5 148.5
254
54.1
82.2
58.5
100
1. 有機JAS認証を取得する事例の中から有機栽培規模1ヘクタール以上の事例を抽出。
2. 精玄米重及び残存雑草量は、調査実施ほ場2筆の平均値であり、残存雑草量は幼穂形成期頃の抜き取り調査結果。
3. 調査実施ほ場の作付品種は、A事例、C事例、D事例がコシヒカリ、B事例は2008~2009年が山田錦、2010年がコシヒカリ。
4. 全事例平均の数値は調査を実施したすべてのほ場の平均値であり、調査ほ場は2008年が16筆(コシヒカリ、山田錦、五百万石)、
2009年が30筆(コシヒカリ、山田錦、五百万石)、2010年が26筆(コシヒカリ、ひとめぼれ、きぬむすめ)。
5. 精玄米重はコシヒカリ、ひとめぼれが1.85mm、きぬむすめが1.9mm、酒造好適米が2.0mmふるい上の玄米重量。
(3)A事例が有機栽培を実践する地域は日照及び風通しに恵まれた立地条件であり、主要
病害であるいもち病の発生がきわめて少ない地域である。
また、A事例が実践する主な技術は、育苗では有機液肥を活用したプール方式の中苗
育苗、本田施肥では機械作業に対応可能なペレット状発酵鶏糞の活用、雑草対策では乗
用型水田除草機の活用に秋耕起(合わせて基肥前年秋施用)や複数回代かきを組み合わ
せた技術体系、病害虫対策ではイネミズゾウムシの被害軽減をねらいとした6月移植等で
ある(表3)。
表3 有機栽培を安定的に実践するA事例の立地条件と栽培技術
(立地条件)
地理条件 : 南北に開けた河岸段丘であり、平坦~中間地(標高60m程度)
気象条件 : 日照条件、通風条件とも良好 主な土壌統群 : 灰色低地土、下層黒ボク
主な病害虫の発生状況 : いもち病;ごく少、イネミズゾウムシ;多、ウンカ類;少~中
(栽培技術)
区 分
育
苗
本田施肥
雑草対策
病害虫対策
主な技術内容
・プール方式による中苗育苗(移植時の葉令は本葉4葉程度)
・種子は自家採種(3年間有機的管理)、種子消毒は温湯浸漬法、播種量は催芽籾95g/箱
・育苗施肥は有機液肥(商品名:エキタン有機、出芽時に35g/箱、追肥として20g/箱)
・基肥は前年秋施用(散布後、秋耕起)、追肥は生育を見ながら7月中旬頃に施用
・散布資材は市販発酵鶏糞(商品名:発酵鶏ふんペレット、基肥:225kg/10a、追肥:45kg/10a程度)
・前年秋耕起(基肥散布後、7~8cmの深さで浅く耕起)、春に2回程度の耕起を行い、稲わら分解を促進
・複数回代掻き(荒代かきは縦・横方向に2回、本代かきをやや深水で1回)
・乗用型水田除草機(K社製)による除草(移植後8日に1回目、その後、8日程度の間隔で計3回)
・ノビエが多発するほ場では深水管理(湛水深8~10cm)、少発生のほ場では浅水管理
(少発生ほ場で浅水管理を行う理由は、コナギの発生抑制、イネミズゾウムシの被害軽減)
・水管理の精度を上げるため、畦塗りを実施
・種子消毒として温湯浸漬法の活用
・育苗期の苗立枯病等の発生軽減をねらいとしてプール方式による育苗
・イネミズゾウムシの被害軽減をねらいとして6月移植(地域慣行は5月中下旬移植)
・色彩選別機によるカメムシ斑点米除去
注) 2008年~2010年に実施した実践事例の栽培概要聞き取り調査結果(栽培品種:コシヒカリ)。
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利用上の留意点
調査は有機JAS認証を取得する県内すべての事例(2008~2009年:7事例、2010年:8
事例)と特別栽培農産物(化学合成農薬及び化学肥料不使用)の県認証を取得する1事例を
対象として、2008年~2010年の3年間に実施したものである。
なお、実践事例から把握された技術は、すべてについて有効性を確認したものではない。
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試験担当者
有機・特別栽培研究室
※
現
中部総合事務所農林局
主任研究員
石田郁夫※